近藤勇美の誕生日




防衛大学校・・・略して防大、防衛大とも呼ばれ、在校生からは「小原台刑務所」という名で恐れられている。

神奈川県横須賀市に構え、日本の省庁大学校。海抜約85mの小原台にある防衛大学校の敷地は65万平米の広さだ。

1952年に設立され、1954年に現校名になった。

ここでは自衛隊の幹部自衛官を育成する教育・訓練の場である。学生でありながら給与が発生する特別職国家公務員だ。


4月に入れば2学年はカッター訓練に全てを捧げる事になる。朝から練習、課業後にも練習・・・土方の天下状態で進められているこの地獄の特訓を全員は文句を言いながらも食らいついていく。

なまえはレギュラーに選ばれなかったがレギュラー勢のサポートに回っている。


カッターの訓練で全員課業中もヘトヘトで授業を聞いていないのが殆どなのだが、近藤勇美だけは違った。勉強が大好きなので、逆にこの時間は目をキラキラさせながらペンを持ち1人だけ顔を上げている状態だ。

「(変わってるよなぁ・・・)」

そんな姿を斜め後ろで聞いているなまえは頬杖をついて眺める。


1学年の頃はヘルウィークを収めたが、中期以降はあの坂木が指名して小付きを務め、なんやかんやあり「合コン小付き」「15又小付き」・・・最近では後輩に慕われていることから「近藤リーダー」というあだ名で呼ばれがちだ。

「(顔は悪くないのに)」

超がつくほどのドケチなのだ。







4月12日・・・
課業後、この後カッターの訓練だが空き時間にプレスをしてしまおうと駆け足で一大隊内のフロアを走っていると見覚えのある人物が立っており目が合った。

「原田くん」
「あっみょうじ!良かった!」

1学年は1大隊、2学年からは2大隊になった原田。まだ2学年に上がったばかりだが久しぶりに見る顔だ。
そんな原田にこっちこっち!と手招きされなまえは学生舎前に連れてこられると

「なあ悪いんだけど、近藤にこれ渡してくれないか?」

渡されたのはラッピングされた柔らかい物体。それをなまえは受け取ると

「うん、いいよ」

服を借りていたのだろうか?それにしてもラッピングまでするまで律儀だなと頷くと

「近藤、今日誕生日なんだよ。ここで待ってたら会えるかなぁって思ったんだけど」
「へぇ・・・」

誕生日か・・・なまえはプレゼントを大事そうに抱えると敬礼をし

「この荷物は必ず近藤学生に!」
「はっ!よろしくお願いいたします!」

原田も敬礼を返し、お互い吹き出して笑うとじゃあな!と手を振って2大隊へ戻っていってしまった。

そんな背中を見送りながらなまえは立ち止まる。

「誕生日、かぁ」

近藤は頭が良く勉強が出来る。
なまえも分からない所があれば時折近藤に聞いたり勉強会を開いて貰っていた。

悔しいがとても分かりやすく、2学年になんとか上がれたのも近藤のお陰だ。


なまえの足はそのまま一大隊ではなく、PXへと向かっていた。





PXから一大隊へと戻ってくると、なまえは近藤の居る部屋へとやってきた。

「すみません、近藤学生に用事が」
「えっ、俺?」

相変わらず勉強をしていた近藤は驚いてこちらを見ると帽子を被り外へ出た。

「珍しいよね、みょうじさんが俺に用事だなんて」
「確かに・・・あ、ちょっと人目がない方がいいかな」

近藤は首を傾げたがうん、と頷くと上の喫煙所へと繋がる階段へと向かった。



「はい、これ」

そ言って差し出したのは原田から受け取ったプレゼント。なんだ?と近藤は目をパチパチさせながら受け取ると

「今日、誕生日なんでしょ?」
「えっ!?」

すると近藤は顔を赤くさせて狼狽えてしまいなまえも慌てると

「あ、いやこれは原田くんから!ごめん大事な事抜けてた・・・」

なまえは作業着に入れられたもうひとつのプレゼントをポケットの中で握りしめる。緊張しているのだろうか・・・なまえも熱くなる顔を俯かせると、近藤は少し気が抜けたように「あぁ・・・」と声を漏らした。

「びっくりした・・・みょうじさんからのプレゼントかと思って」
「あ、あはは!ごめんごめん・・・ここで開けてみたら?そのまま持っていくと勘違いされちゃいそうだし」

噂話に飢えた防大生だ。
近藤がラッピングされたプレゼントを持ってきたら「近藤が女学からプレゼント貰っている」と一瞬にして噂が広まってしまうだろう。

それもそうだ、と近藤となまえは階段に座り込み、ラッピングを開くとそこには黒いTシャツが畳まれていた。

「Tシャツ・・・?」

近藤はそれを広げるとそこには「焼肉」と書かれたTシャツだった。

「ぷっ、面白いね」
「ああ・・・原田のやつ、誕生日覚えててくれたんだなぁ」

近藤は特に原田と仲が良かったので大隊が別れてしまって寂しいだろう。それに、大隊が変わってもこのようなやり取りをする・・・そんな光景になまえは少し羨ましいと感じてしまった。

なまえはTシャツの裏を見るとまた吹き出した

「ぶはっ、原田くん近藤くんの事よく分かってるね」
「え? ・・・うわっ、はははは!」

その背中には「奢られたい」という文字。
思わず笑ってしまい目にたまった涙を拭うと

「はー・・・笑わせてもらったよ。 原田くんセンスあるわぁ」
「後でお礼のメール送っておかなきゃ。 みょうじさんも、ありがとう」

普段目の輝き不備、目つきが悪いと言われがちの近藤だがニコッと笑いかける優しい目。
その目を見たなまえはドキッと心臓がはねると俯いてポケットに手を入れると

「べ、別に私は渡しただけですし・・・」

なまえはポケットから何かを取り出すとそれを近藤の手に置いた。

「これは?」
「・・・と、とにかく、開封始め!」

その掛け声に近藤は反射的にバッと開くと

「・・・・・・財布?」

アウトドア向けの特殊な布で作られた2つ折りの小さな財布だ。 なまえは目線を逸らしながら

「普段勉強とか教えて貰ってるし、そのお礼。 一応・・・財布の色って大事みたいで黒は浪費を防ぐ、黄色はお金が貯まるんだって。なんか金に対する執着心が凄いからそれにしてみた」

外側は黒だが中を開くとカラシ色のデザインだ。
近藤は財布を開いたまま驚くと

「みょうじさん、ありがとう・・・丁度財布買い換えようかなって思ってた所で探してたんだよ」
「そ、そうなの? 前に持ってた財布に近い感じにしたんだけど・・・使いづらかったら全然辞めていいから」
「そんな事するわけないだろ!みょうじさんから貰ったものだし!」

思わず声を荒らげた近藤。なまえは驚いて顔を上げると「あっ」と近藤は口をパクパクさせ目線を逸らしてぶわっと顔を赤くした。

それにつられてなまえもまた顔を赤くさせると畳んでいた膝に顔を埋める。

「そう? 気に入ったんなら、良かったよ」
「う、うん・・・そこまで考えてくれて、俺も嬉しいし・・・その、俺・・・実家に金入れてるんだよね」

ポツリと近藤は、家のことを話し始めた。
実家は定食屋というのは知っていたが家庭の経済的状況からこの防衛大に来たそうだ。

一部始終を聞いたなまえは驚くと

「じゃあ・・・手当てとか全部家に?」
「うん。ここで使うもの以外は残して、あとは全部」
「そうなんだ・・・ごめん、なんか近藤くんの事誤解してたかも」
「誤解?」
「だだのドケチな守銭奴って」

そう言うと近藤はずっこけそうになるが

「まあ周りに言うことでもないし・・・そう見られてもおかしくないよな」
「それにしても偉いよ近藤くん。家族想いなんだね!私も見習わなきゃ」
「あ、ありがとう・・・みょうじさんだってこうやって人の事考えられる人だから俺はいいなって思うよ」
「(近藤くんがモテてる理由が分かったかも・・・)」

さらっとそう言いなまえは照れくさくなり立ち上がると「よっ」と声を上げて脚に力を入れ、3段目から踊り場まで飛んで着地した。

「近藤くん、色々話してくれてありがとう。 あと・・・」

なまえはズレた帽子を直すふりをして火照ってしまった顔を隠すと

「・・・誕生日おめでとう!」

じゃね!と言うとなまえは駆け足で階段をかけ降りていった。



残された近藤はTシャツを眺めてふふっと笑い、なまえから貰った財布を見るとドキドキしてしまい頬が緩み、にやけてしまう。





「・・・お前何やってんだ?」
「うわあああっ!!!!」


上の踊り場で千葉が壁に凭れて立っていた。
近藤はあたふたし、まずは敬礼!とピッと敬礼をすると千葉も敬礼を返すと手に持っているものを見て首を傾げた。

「なんだそれ」
「あっえっと!俺、誕生日なので!プレゼント貰っちゃって」
「ふーん、良かったじゃん」
「な、なぜ千葉教官が・・・」
「あ?ここ以外じゃヤニ吸えないからな」

そう言えばこの上は喫煙所・・・近藤は納得し頷くと千葉は階段を降りながら近藤の肩をポンッと叩くと

「誕生日なんだろ、ジュースくらい奢ってやるよ」

奢り、それに反応した近藤は目付きを変えると背筋を伸ばし「はい!ごちそうさまです!」と声を張り上げると

「近藤。みょうじから貰った財布、大事にしろよ?」
「んなっ?!?どこから見てたんですか!?」
「んー?さあな」

千葉はニヤッと意地悪そうに歯を見せて笑うと近藤はまた顔を赤くして悲鳴をあげたのだった。





近藤学生お誕生日おめでとう!
2021.4.12

2021.4.15







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