記録と記憶






 

・・・はて、何か忘れているような。


楓は何故かわからないが部屋の床に倒れていた。

起き上がり部屋を見渡す。



なんだか長い夢を見ていたような?
果たしてあれは夢だったのだろうか。

記憶が曖昧で、それよりも何故自分が床で寝ているのかというのが先に疑問に出た。


時計を見ればまだ夕方の6時。

ふと自分の顔に手を当てれば涙が流れていた。

「え、なんで泣いてんだろう・・・」

ゴシゴシと手元にあった布で涙を拭ってふと見る。


「ん?なにこれ」


涙を拭いていたのはオリーブ色のバンダナ。
こんなものいつ手に入れたんだろうか・・・買った記憶も無い。


でも何故か懐かしい気持ちになる。


「まあ、いっか」


楓はそれを机の上に置くとそれと同時に母親の声が聞こえた。

どうやら、晩御飯ができたらしい。


「はーい、今行くよ!」


楓は携帯を充電するとドアノブに手を伸ばす。しかしドアに手を伸ばしたとき、また疑問が生まれた。


「髪留め、ない」

いつも付けていたお気に入りの髪留めが無くなっているのだ。落としたのか、と再び床にへばりついてもそれらしきものが見当たらない。


「どっか落としたのかな。風呂場かも」


そう解釈すると楓は半開きだったドアを開き、部屋を後にした。







次の日、いつものように学校へ登校する楓。 何故だか懐かしく感じたが、仲のいい友人と挨拶を交わし席につく。


「楓さん、おはよう」
「あ・・・おはよう、高木くん」

楓が密かに想いを寄せる高木という生徒。
しかし何故だか、彼を見てもときめきを感じなくなったのだ。

なんでだ?と胸に手を当てるが友人に話しかけられたので思考を切り替えた。



話といってもテレビの話や、ゲームや漫画の話。授業の内容についてだ。

友人は楓の携帯を触っており、写真をみてプッと吹いた。


「ちょっと楓!このイケメン誰!?ってかなにこれアンタ自撮り?」
「えっ?何?」
「ほらこれ!」

そう言って携帯を受け取ると横にスライドしていく。イケメンなんて、自分の携帯は好きな俳優しかいないのだが・・・もちろん知名度のある。

どうやら自分の盗撮写真のようだ。
もちろん、撮った記憶もない。


「ひいぃ・・・なにこれ・・・」
「自分の携帯なのに知らないの?」
「知らない知らない!気味悪・・・」
「あれじゃない?最近流行ってる遠隔操作ってやつ?」
「こわっ!」

ふと、友人の言っていたイケメンと言われている人物の所まで来た。黒い髪の毛のバンダナをした少年で、赤い服を着ている。

今時こんな格好をするのならばコスプレしかいないだろう。

次の出てきたのは緑の法衣を着た顔の綺麗な少年。


そして一番最新の写真に戻るとなにやら大勢で撮った写真がある。

大柄の男性や、青い男性、気の強そうな女性、頬に傷をつけた男性など、エルフのように耳が尖っている種族もいるではないか。コスプレの併せか?しかし楓はコスプレイヤーでもない。


そして先ほどの法衣の美少年と、そして先ほどのバンダナの少年。

その少年は楓の肩に手を置いていて笑顔だ。楓も笑顔でピースをしている。



「(なんだろ、これ・・・覚えてるんだけど・・・思い出せない)」

汗が出る。

そんな楓の様子に友人たちはおろおろとし

「ちょっと楓、どうしたの?」
「顔真っ青・・・保健室いく?」
「そう、だね・・・いや私、早退する!」
「え!早退!?」
「無遅刻無欠席の楓が?!」
「信じらんない!」
「ごめん、さよなら!」



そう言うと教室を出て行くが担任とぶつかりかける。


「おい、HR始まるぞ!」
「ごめんなさい先生!気分悪いので早退します!」
「はあ!?元気に走ってるじゃないか!」
「マジで気分悪いんです今にも吐きそう!」


そう言って楓はんじゃ!と言うと廊下を走った。

遠くから担任の声が聞こえるが、立ち止まる訳にはいかない。





「(思い出した・・・)」


なんてことをしているんだろう。
なんでこんな大事な思い出を忘れてしまっていたのだろう。


「最悪じゃん私!」


あのバンダナは彼が、ティルがくれたもの。

そのお礼に髪留めをあけた。


写真は、彼が勝手に盗撮してそしてあとは楓が「記念に」と撮らせてもらったもの。


1つを思い出すと一気に記憶が蘇る。
どれも楽しい思い出ばかりで、どれを思い出そうか迷うくらい。


そして高木にもときめかない原因は


「ティルさんが好きなせいだ。まだ、ちゃんと好きって言ってないよ・・・!」



楓は自転車に飛び乗ると猛スピードで家へ帰った。





家に着くと自転車を無造作に置きキーを外す。
そしてやや乱暴気味に玄関を開けた。


「ただいま!」
「あら、楓?学校は?」
「爆発した!」
「はぁ?!」


そう言いながら楓は階段を駆け上がる。
部屋のドアを開けて鍵を閉めて簡単に荷物をまとめる。

その間母親が「ちょっとどういうことなの開けなさい!」とドアをドンドンと叩いてドアノブをガチャガチャひねる音が聞こえる。


準備が終わり、最後に机の上に畳まれたバンダナを掴むとそれを握って額に宛てた。

ティルよ世界にあるものがここにあるのなら僅かながらに繋がっているのではないか?そして、ティルも髪留めを持っているなら・・・

楓はギュッと目を閉じる。


「お願い、ティルさんに会わせて・・・会いたいの!」


すると、バンダナから光り出した。
やった!と楓はバンダナを抱きしめる。


「お願い」


そう言った頃には、楓の姿がなくなっていた。 それと同時に部屋の存在が無くなり物置に変化した。


「あら、やだわ私ったら物置のドア叩いてるなんて・・・疲れてるのかしら。」


楓の母親『だった』女性はこめかみを抑えると休憩しましょ、と階段を下りていった。



この世界から楓の存在が無くなった。




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