前髪
「ディオスさんのバッキャローーーーーーーーー!」
「わああああ楓!待ちなさい!私が悪かった!!」
ドタドタと聞こえる騒がしい足音。
ササライは動かしていた羽ペンを止めて顔を上げた。 また何かあったのだろうか、とササライはクスリと笑を漏らした。
時間を見ればもう午後3時、少し休憩しようかな。と伸びをして部屋を出る。
そろそろ楓が紅茶を運んでくれる時間だが・・・廊下を出て、右を向くと楓が走ってくるのが見えた。
彼女は貴族出身で、剣術に優れているのでササライの護衛に、と1年前に来た少女だ。
「楓、どうかしたのかい?」
「さっ、ササライ様!?み、見ちゃいけません!!」
額を抑える楓。
どこか怪我でもしたのだろうかササライは眉を寄せると
「見せてごらん」
「だ、だめです!」
「ダメ。いいから」
「わあ!」
細身のササライのどこからこんな力がでるのやら、楓の腕を左右に広げて壁に追い詰めた。
怪我をしたのではと心配したのだが、予想斜め上を行く結果にササライは口を開いた。
「これはこれは・・・」
「うううだから言ったじゃないですか・・・」
彼女の前髪が短くなっていたのだ。
短くなってるだけならいいのだが、斜めに切れている。
ササライは固まっているとまた足音が聞こえ、ディオスがやってきた。
「楓、どこに・・・ササライ様!(げげっ)」
「ディオス、楓はどうしたんだい?」
「は、そ、それが・・・」
楓が前髪を切ろうとしていて、心配になったディオスが私がやってやろうと言ったらしい。
その結果、切れた短い髪の毛がディオスの鼻に入ったらしくくしゃみをした勢いでザックリ切れたのだ。
「君って奴は・・・」
「楓、すまない」
楓は涙目になっていたが首をふると
「まあ、髪の毛なんてまた伸びますし!落ち着きました」
それを聞いてディオスは少し安心したがまだ罪悪感が残るだろう。ササライは相変わらず楓はポジティブだな、と笑うと楓の手を掴んで
「おいで、楓。整えてあげるから」
「えっ!?ササライ様にそのような事は・・・」
「いいから」
短くなった髪の毛に合わせて切ったのでだいぶ短くなってしまった。
「・・・どうですか?」
不安そうに見上げてくる楓。前髪が短いせいか幼く見えて可愛らしい。ササライはにこりと笑うとさらけ出された楓の額にキスを落とした。
突然のことに楓は驚いて魚のように口をパクパクさせる。
その姿にササライは微笑むと
「可愛いよ」
そう言うと楓の顔が真っ赤になった。