もうひとつのエンディング






 「んー・・・あ、あれ?」

ふかふかのカーペットに、懐かしい部屋の匂い。


楓は起き上がると部屋を見渡して


「そっか、帰ってきちゃったんだな」



心残りがあるかと言われれば、ある。
どこか心のどこかで残りたいとは思っていた。

しかし、自分にとってこの世界が一番過ごしやすい。

やりたいこともいっぱいある。


手にはティルがくれたバンダナ。
それを楓は大事に畳むと通学カバンの内ポケットに入れた。




あれから数ヶ月後、夏休みが終わり新学期になった。

部活のせいで日焼けをしている人もいれば、文化部の子は肌が白く・・・楓は帰宅部だったので夏休みは夏期講習ばかりだった。



「楓ーおっはよー!」
「おはよ」

友人と挨拶をして夏休みの話をする。
その話を聞いて楓は笑い、自分の話などもする。

約1ヶ月ぶりの再会(とはいっても時折遊んでいたりはする)なのだが、楓にとっては1年以上ぶりである。

全校集会があり新任の先生やその他もろもろを紹介していく。楓にとっては特に興味もなかったので時計を見てボーッとしていた。


その帰り、友人たちと帰っていると友人があ、そうだ!と言った

「ねぇねぇ転校生来るの知ってる?」
「え、まじ?男?女?」
「男だってー!しかも海外から!」
「うっそまじ!イケメン!ていうか外人なら皆イケメンか!」

楓はその話を聞いて転校生かぁと笑う。

「こんな時期に来るんだね」
「両親?の仕事の関係らしいよ。」
「どこでそんな情報貰ってくるんだよ」

そんなことを言いながら教室に戻り、ホームルームが始まった。
今日は半日授業だが、明日からは通常時間だ。

ガラ、と教室のドアが開いて担任が入ってくる。
起立、礼と号令をかけ、担任が「えーっと」と話を切り出す。この担任の癖だ。


「今日はこのクラスに転校生が来るぞ」

その言葉にざわざわとなり

「男の子だ」

その言葉に落胆する男子と、喜ぶ女子。
楓は頬杖をついてその姿を見ていると担任が入っていいぞーと言う。

その瞬間、女子の悲鳴に楓は視線を転校生へ向けると



「は・・・?」


担任は黒板にチョークで名前を書いていく。
その名前はカタカナで、見覚えのある名前だ。

「えー両親の仕事の関係でこちらに来た。日本人とのハーフらしいぞ」
「ティル・マクドールです。 まだ慣れないことがありますので、教えてくれると嬉しいです。よろしくおねがいします」

綺麗な日本語が口から出てきて全員は驚く。
そしてにっこりと笑えば女子の頬が赤くなった。男子でも赤くなっている者がいるが見なかったことにする。

挨拶と同時に拍手が湧き、ティルもえへへ、と照れる。

楓はというと呆気にとられている状態だ。


「席はもう決まってるぞ。九条の隣だ」
「え゛っ!」

そんな声が出た。
確かに、隣の席は空席だ。こんな席は確か1学期には無かったはず。ティルは驚いて楓を見るが、平然を装ってにっこりと笑いながら席に着いた。壊れたロボットのようにガチガチと首を動かして楓はティルを見た。

ティルは頬杖をついて楓を見ながらにっこりと微笑んで


「これからよろしくね、九条さん」





こんなエンディングもありか、と楓は微笑んだ。




おしまい



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