おかえり





 

あれから3年、彼女は元気だろうか。
もらった髪留めを見てはそう思う。

この3年間、彼女の事を忘れたことなんて一時も、一度たりとも無かった。






のんびりとティルはバナーの村で釣りをしていたが、あるきっかけでビクトールやルックと再会した。

それを率いるのは同盟軍のリーダーリオウだ。


「ティル・・・ティルじゃねぇか!久しぶりだな!」
「ビクトール・・・ルックも・・・」
「相変わらずだね。そこの死に損ないも」
「うう、ルックくんひどいです・・・」

盗賊に誘拐された少年はモンスターの毒を吸ってしまい、瀕死の状態だった。

グレミオはそれをみて


「ここから近くのお医者様と言えば・・・グレッグミンスターにいる、リュウカン先生なら・・・あるいは・・・」
「リュウカン先生・・・行こう!この子を助けなきゃ!」


リオウはそう言うと姉であるナナミはそうだね!と頷くがビクトールやルックはティルを見た。
グレッグミンスターは彼の故郷であり、ここ何年かは帰っていない。


ティルは眉をしかめるとグレミオが「坊っちゃん」と優しく声をかけた。


「大丈夫ですよ、久しぶりにクレオさんやパーンさんにも顔を出さないと」
「う、ん・・・そうだね」
「ティルさん」


リオウの言葉にティルは顔を上げた。

その目は澄んでいてまっすぐにティルを見つめる。



「グレッグミンスターまで、案内してもらえませんか?」
「リオウ・・・分かった、急ごう」


そう言うとリオウはニッと笑い子供を背負う。


目指すはグレッグミンスターだ。







急いでリュウカンに見せたおかげか、少年の顔色は随分と良くなった。 しばらく休ませれば大丈夫でしょう。の言葉を聞いて全員は安堵の息をもらした。


「今日はグレッグミンスターでお休みください」
「わかりました。 じゃあ、宿取らないとね」
「その必要はないよ。僕の屋敷に行こう」

ティルはにっこりと微笑むとグレミオも両手をパンと叩いて

「そうですね、久しぶりに帰りましょう! みなさんにもご馳走作りますよー!」
「グレミオのシチューか?久しぶりに食べるなぁ」
「シチュー!?私大好き!ね、ね、リオウ!お腹すいてきたね!」
「そうだね、お言葉に甘えてお邪魔しようか」

その言葉を聞くとティルはこっちだよ、と先頭を歩いた。





屋敷の前に着いて、ティルは息を吸い込む。

ビクトールたちは屋敷を見上げると


「にしてもでっけー家だなー」
「ほんと・・・びっくりだよ・・・」
「あはは、これでも将軍の家だからね」


ティルはドアノブに手を伸ばしたとき


「・・・どなた様ですか?」


緊張するような、高い声。
しかし聞き覚えのある声だった。


「あんた・・・!」

振り向いたルックが思わず声を上げた。

リオウはルックを見ると


「ルック、知り合いなの?」
「えっ、ルック?」


長い黒い髪の毛に、淡い青色でワンピースにエプロンを着た女性。ポニーテールにされた長い髪はオリーブ色のバンダナで結われており、その手には紙袋が抱かれている。


ルックという言葉に少女は驚くと


「うそ、ルックくん?!背伸びてる!」
「な、なんで君がここに居るのさ・・・」

ポーカーフェイスを貫くルックでも流石に驚いて目を見開いている。

ビクトールは驚いて声も出ないらしい。


そして、ティルはドアノブを掴む動作のまま固まっていた。

しかしグレミオはティルの肩をバシバシと叩きながら


「ぼぼぼぼぼぼぼっちゃん!!あああああれああれあれりるれろ!」


驚いて意味のわからない事をしゃべっている。


「ぼっちゃん・・・?」


楓のそう呼ぶ声が聞こえてティルは恐る恐る顔を上げた。そして目線を声のしたほうへ向けると懐かしい顔が見えた。

3年前より、少し大人びている綺麗になった彼女。

彼女はティルを見るなり泣きそうな顔になる。


「ティルさんだよね? 覚えてる・・・?」
「なんで、どうして?あの時君は・・・」

帰ったはずだ

楓はそれを聞いてくしゃりと顔を無理やり笑わせると


「会いたくなっちゃって、来ちゃったの」


それを聞くとティルはあの日の様に駆け寄り楓を抱きしめた。

驚いた拍子に買った食材がドサリと落ちる。


「ティ、ティルさん・・・?」
「ほんっと君って子は・・・馬鹿だなぁ」
「は、はぁ!?馬鹿ってなによこの変態軍主!」

離してよ!と言ってもティルの腕が緩められることはない。


それを見てグレミオは微笑むと食材を拾って


「さあ皆さん、上がってください」
「はーい!」


そのグレミオの掛け声にナナミとリオウが入っていく。 ルックはというと固まったままのビクトールをズルズルと屋敷の中へと入れている。


ドアを閉める寸前、ルックは2人をみて


「一応そこ、住宅街だから」


そういい残すとバタンと扉を閉めた。



「あの、そろそろ・・・」
「嫌だ」
「ルックくんも言ったとおり、ここ住宅街だから」
「・・・仕方ない」


ティルはしぶしぶと言った様子だが、手は離さない。

そんな様子に楓は笑う。


「会いたくなって来ちゃったとか大丈夫なの?」
「うん、ていうか私2年半くらいティルさんの帰り待ってたんだよ?」
「・・・え?」

ティルは驚いて、そして前髪をクシャリと握ると


「・・・もっと早く帰ってくるべきだったな」
「ホントですよ、言いたいことも言えなくて帰っちゃって、心残りがあったんですよ」
「言いたいこと?」


何だ?とティルは首を傾げる。
楓は顔を赤くして、目をそらすと

「その、3年前ティルが私に・・・す、好きって」
「うん、言ったね」
「それで、私も返事・・・私ちょっと照れが残ってて・・・」
「・・・ああー、あの時時間なかったもんね」



あっはっはとのんびり笑うティルに楓は呆れてため息をこぼすが

背筋をまっすぐにすると


「私も、ティルさんの事・・・好きです」
「え?」
「え、って何」

ティルは驚いて口をパクパクさせた。
やがてその顔は耳まで、首まで真っ赤になる。

その反応に楓も驚いて釣られて真っ赤になる。

「な、なんでそんな真っ赤になるの!」
「だ、だって僕の一方的だって・・・い、いつ!?いつから!?」
「言わない!」
「僕も言うから!」
「嫌だ恥ずかしい!」

顔を真っ赤にして手で顔を隠す楓。
その姿を見てティルは楓をまた抱きしめた。

「ああもう、可愛い!」
「ぎゃースイッチ入った!変態!ここ住宅街!住宅街!」
「そんなん知ったこっちゃないやい!」
「なにその口調!」

ティルは楓の肩に顔を埋めると

「はあ、幸せだよ。僕」
「ん、私も・・・」
「待たせてごめんね、楓」
「いいよ、別に」
「楓、大好きだよ。 あ、いや・・・それだけじゃ足りないな・・・」

ティルは身体を離して楓の額と自分の額をぶつけると


「愛してるよ」


その言葉に楓の顔はまた真っ赤になる。
そんな姿にティルは笑って楓の額に唇を落した。

楓はティルを見上げると


「ずっと一緒?」
「うん、一緒だよ」
「そっか、うん。おかえりなさい」
「ただいま、楓」

今度は唇に、ティルは頬に手を添えて顔を近づけると楓も目を閉じる。


吐息が触れる距離まで近づく。


その瞬間、ドォンと玄関の扉が開いた。
雪崩出てくるのはクレオ、パーン、グレミオ、リオウ、ナナミだ。


「わっ・・・何してるの?」
「ねぇ。言ったよね、そこ住宅街だって」


ルックは一番後ろで傍観していたらしく離れたところで腕を組んで立っていた。


ティルはそうだったね、と楓を見ると


「さあ楓、帰ろうか」
「うん」
「あぁ、足元気をつけて」



ティルは構わずビクトールを踏んづけている。
それ大丈夫なのか、と楓は疑問に思ったがティルの差し出す手を握った。






夜中、ティルと楓は2人リビングで紅茶を飲んでいた。リオウたちは客間でもう眠りについている。

ふとティルが疑問に思って「ねえ」、と隣にいる楓に話しかけた。

「楓はどうやってこの世界に帰ってきたの?」
「実は、元の世界に戻ったとき時間は来たときの時間だったみたいで、えーと・・・」
「落ち着いて。時間はいっぱいあるから」

その言葉に楓はそうだね、と微笑んで思い出すように話していった。


「記憶がなかったんだけど、ティルさんがくれたバンダナやあげた髪留め、写真を見て思い出したの。それでティルさんに会いたいってバンダナに念を込めて握ってたら会えたの」
「そうだったんだ・・・お互い自分の世界の物を持っていたから繋がってたのか?」
「私もそう思う」

楓は微笑むが、ふあ・・・とあくびをする。

時刻はすでに深夜の1時だ。


そんな姿をみてティルは笑うと


「もう寝よっか」
「うん・・・そだね・・・」

ティルは楓の手を引くと部屋に戻る、が楓は止まった。


「どうしたの?」
「私の部屋、あっち」
「一緒に寝ようよ」
「えっ!?あ、うんー・・・分かった」

ちょっと恥ずかしかったが、楓も実はティルとは離れたくなった。ティルのベッドは広くてふかふかで、楓はすぐに睡魔がやってきた。

そんな姿を見てティルは楓の頭を撫でると



「おやすみ、楓」
「おやすみなさい、ティルさん」


楓はすぐに夢の世界へと行った。
ティルも楓を抱きしめると一気に睡魔が訪れる。

あれから眠りが浅かったのだがティルは久しぶりに深い眠りについた。







・・・それから2年後

楓は写真をみてにこりと笑うとそれを鏡台の上に置いた。その左手の薬指にはキラリと、指輪が日の光に反射した。

するとコンコン、とノックがしてどうぞ、と言うとティルが入ってきた。

ティルの左手薬指にも同じ指輪がつけられている。

楓を見るとティルは微笑んで


「楓、そろそろ行くよ。魔術師の島に星見の結果もらいに行かなきゃ」
「あ、ごめんなさい。もう行けるよ」


そう言ってティルの手を取って部屋を後にした。


鏡台に置かれた写真はつい最近撮られたものだ。
真っ白なウェディングドレスを着た楓を横抱きにする、タキシードを着たティル。

その周りをかつての仲間が囲んで笑っている写真。



竜騎士に乗せてもらった魔術師の島。
ティルは懐かしいなーと楓と手を繋いで塔へと歩いていく。


そしてその先にはまた久しぶりに会う仲間が腕を組んで仁王立ちしていた。


「やあ久しぶりだねルック」
「また背伸びたんじゃない?」

のんびりな2人を見てルックは相変わらずだな、といつものように毒舌を吐いた。




「いらっしゃい。・・・馬鹿夫婦」




しかしその表情は嬉しそうだ。





おしまい


作:2012.6.10
修正:2021.2.12


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