これから



「どうせなら一緒に住めばいいのに」

ハンジは書類業務を放棄しリヴァイの部屋へ転がり込んでいた。モブリット居ない今・・・今頃、アルミンかジャンが必死に探している頃だろう。

カリカリと書類にサインをしながらリヴァイは「あ?」と顔を上げると

「・・・まあ、悪くないかもな」
「そう言えばだけど、あなた達は夫婦なんだから。式は挙げないの?」

ヒストリアが女王に即位した日・・・リヴァイはマコトに残りの時間を共に過したい、と結婚を申し込んだ。 夫婦生活は僅か数ヶ月、マリア奪還の準備もあり結婚式どころではなかった。

いつまたマコトが戻ってしまうか分からないが、前回同様年単位になる可能性もある。かと言って現在も壁の防衛やら来たる敵に備えての準備に追われている。

ペンを止め、リヴァイは顎に手を当てると


「・・・無理矢理にでも挙げるべきか」
「んー私は挙げた方がいいなぁ。マコトの花嫁姿も見たいし・・・それに、女としては憧れじゃない?」


一緒に暮らす家、結婚式・・・スケジュールの隙間にやってみるか、とリヴァイは頷くと

「・・・俺もアイツにはドレスを着せてやりたかった。」
「うんうん。 マコトとも相談しながらね」

普段飄々としてふざけているハンジ、罵るリヴァイだがこういう真面目な話をする時もある。



急いで書類を片付けてしまおうとリヴァイは再びペンを掴むとハンジはニッと笑い

「んふふー!楽しみにしてるからね〜!」
「ああ」

そう言ってハンジはドアをパタン、と閉めると

「・・・ここ最近暗い話ばっかりだからね、少しは明るい話題もなきゃ」

方目を細めて小さく微笑み廊下を歩いていると曲がり角から息を切らしたアルミンと鉢合わせした。

「っとと・・・ああー!ハンジさん!」
「うわっ」
「アルミン!居たか!」
「うん!ハンジさん、この書類!今日までです!」
「はいはい、すぐ戻りますよ〜」

アルミンとジャンに挟まれながらハンジは執務室へ連行されたのだった。




***



一方マコトはというと、花を持って兵団の集団墓地へやって来ていた。

リヴァイ班のメンバー、ミケ、ナナバ・・・当時お世話になった調査兵団の仲間たち。そしてマコトの前世であったノアの墓・・・最後にエルヴィンの墓の前に立つと花束をそっと置いた。

「エルヴィンさん、お久しぶりです」

マコトは胸に当てて敬礼をして黙祷をする。
暗くなってきたためもう帰ろうか・・・と身体を反転しようとした所、見覚えのある人物がこちらに向かってきていた。

「え・・・!」
「あ、アンナさん!!」

エルヴィンと密かに恋仲だった・・・マコトと同じ境遇で飛ばされてしまったアンナ。
彼女は飛行機事故で飛ばされたのだが肉体はあちらの世界にないのでここに留まることが出来る・・・という推測だったが当たりだったようだ。

そして腕に抱きしめたものを見てマコトはえっ!と声を上げてから口を抑えるとそっと近づいた。
その腕には金髪の男の子がすやすやと眠っていたからだ。

マコトは目をパチパチと瞬きをして赤ん坊とアンナを交互に見て、最後にエルヴィンのお墓を見ると

「え? エルヴィンさんとの?」
「ふふ、そうなの。 あの人には内緒にしてたの。本当はね・・・彼が帰ってきたら話そうと思ってたんだけど・・・」

アンナは悲しそうに微笑むと、マコトは何故またここに来てしまったのか・・・そして、あの日シガンシナ区でのエルヴィンの最期を話す。
それを黙ってアンナは時折頷きながら最後まで聞いてくれた。


以上です。 ・・・と、マコトは深く頭を下げた。

「アンナさん・・・ごめんなさい」
「どうしてマコトさんが謝るのよ。調査兵団は遺体が帰ってこないのが大半なのに・・・五体満足で帰ってきてくれただけ私は嬉しいの」

アンナは微笑むと赤ん坊をマコトに近づけると


「大人しい子よ。抱っこしてみる?」
「え・・・良いんですか?」
「もちろん。」


そっとアンナから受け取れば小さな命がマコトと腕の中にすっぽりと収まった。

ふああ・・・とマコトは驚いたが心地よい体温にマコトは目を細める。

「あ、ちょっと太眉がエルヴィンさんっぽいですね」
「ふふ、そうでしょ」

お互いの遺伝をいいとこ取りしたような金髪と白い肌・・・

「名前はファウストって言うの。ドイツ語で幸運って意味。久しぶりに日本で使ってたドイツ語の辞書引っ張り出してきちゃった」
「ファウストくんか・・・ふふ、可愛い〜」

ファウストは目を覚まして抱っこしているのがマコトだと分かっても大人しくマコトの顔を見つめている。大体の子供が母親じゃないと泣くのだが・・・マコトは頬をつつくとキャッキャと笑い始めたのでまた頬を緩めた。




***




「マコト」


墓地に居るのは分かっていたのでリヴァイはマコトを迎えに行くと振り向いたマコトは赤子を抱いていておりアンナも居た。

抱きしめた赤子を見て息を呑むとアンナを見て

「・・・アイツの?」
「はい。」
「そうか・・・」

エルヴィンと同じ金髪・・・リヴァイは目を細めると

「・・・博打好きになるぞ」
「ふふっ、やめてよリヴァイさんってば!」

クスクス笑うアンナは2人を見ると

「久しぶりに2人並んだ所が見れて私も嬉しい。また、お店に来てね」
「もちろん!」

ファウストをゆっくりとアンナにバトンタッチすると手を振りながら墓地を出ていった。



残されたリヴァイとマコト。エルヴィンの墓石を見下ろすと

「話はできたか?」
「うん。もう帰らないとね」

夕日に照らされたマコトを眺め、手を差し出されたのでその手を握る。

2人で出口へと続く道を歩きながらリヴァイはぽつりと

「マコト」
「ん?」
「・・・今更だが、結婚式挙げないか?」

立ち止まったマコトは驚いて少し背の高いリヴァイを見上げると

「いいの?」
「ああ。むしろ俺が挙げたい。まあ、この状況だからいつ挙げれるか分からんが・・・1年以内には。」
「あっ・・・挙げよう!」

リヴァイの手をぎゅっと握りキラキラした目でOKの返事を貰うとスキップしそうな勢いでマコトはルンルンだ。

そんなマコトを見て僅かに微笑むとチラッと墓石たちを見つめて

「(また来るからな)」

そう心の中で呟くと、未だにテンションの高いマコトに転ぶぞと声を掛けながら歩くのだった。



***



それから1ヶ月後ー
調査兵団が活動再開を宣言し、希望者を募った。

攻めてくるであろう敵に備え、集まった調査兵団は現在・・・海にいる。


「・・・わあ」

こちらの世界の海を初めて見たマコト。
心地よい風が吹いて波の音が規則正しく押したり引いたりしている・・・何の変哲もない波だ。


海を眺めているマコトを見つけ、リヴァイは砂に足を取られイライラとしながら歩み寄ると

「見たかっただろ、海」
「うん・・・なんか、すっごい綺麗」
「お前の所と同じだろ?」
「うん。でも、めっちゃ特別って感じ!!」

そう言うと突然マコトは調査兵団の支給品であるブーツをポイポイと投げズボンを限界まで持ち上げると海に向かって駆け出した。



「おい、マコト!!」
「うわっ冷たい!ねぇ、リヴァイさんもおいでよ!」
「・・・俺はいい」

俺はまだこいつを信用してねぇ・・・とでも言うかのように波を睨み付けるとマコトはサブサブと戻ってくると

「とうっ!」
「ぐっ!」

不意打ちでマコトが突然リヴァイをすっ転ばせた。地面は砂なので衝撃は少なかったが目に見えない早業だったのでリヴァイは混乱する。

気づけば太陽を背にマコトが腰に手を当てて笑うと

「ほらほら、脱いで!」
「お、おいマコト!」

ブーツを脱いで雑だがリヴァイのズボンの裾を捲りあげると両肘を掴んで立ち上がらせる。
あれよあれよとリヴァイはされるがままになり手を握られるとマコトはまた海に向かって駆け出した。

「リヴァイさんも一緒に遊ぼうよ!」
「・・・・・・」

楽しそうに笑うマコトとキラキラと青く光る海。一瞬だがリヴァイはそれに見とれているとマコトは波に足を取られ身体が傾いた。


「うわっ!」
「おい!」

バシャン!と2人同時に浅瀬に転び、シャツに潮水が一気に染み込んでいく。
マコトが怪我をしないようにとリヴァイが庇い尻もちを着いた状態。マコトも結局は膝を着いてびしょ濡れ・・・マコトはリヴァイを見ると思わず吹き出した。

「ほら、冷たくて気持ちいいでしょ!」
「・・・悪くねえが、これ身体も洗わねぇと大変だぞ」
「うん。森まで行って川で身体洗わないとね。ふふっ」

そういうとマコトは両手でリヴァイの頬を挟むと唇を重ねてきた。そのキスは少ししょっぱくキスをしながらマコトはんふふ、と笑っている。



不意打ちすぎてリヴァイは硬直したが

「はっ、しょっぺぇな」
「うん。途中笑えてきちゃった」

そんなマコトの頭を撫で、リヴァイはマコトを横抱きにすると

「仕返しだ」
「へ?・・・ぎゃあああ!」

そういうとそのままマコトを海へぶん投げたのだった。







マコトの笑い声が聞こえ、ハンジは顔を上げた。

浜辺ではマコトとリヴァイがじゃれておりキスしたと思いきやリヴァイがマコトを横抱きにして海へ投げたのだ。

「あーあーあの2人・・・あんなびしょ濡れになって・・・」

ハンジが苦笑いする。
隣で打ち合わせをしていたアルミンも顔を上げてその光景を眺める。

マコトと遊ぶリヴァイの顔は、優しく穏やかにマコトを見つめている。・・・ような気がしたアルミンは微笑むと

「・・・でも、リヴァイ兵長のあんな顔久しぶりじゃないですか? マコトさんが居なくなったあと正直」
「抜け殻みたいだったもんね。」
「はい」
「・・・まあ、マコトにとってこっちでは初めての海だ。 気が済むまで遊ばせてあげよう!」

そう言うとハンジとアルミンはテントへと戻って行った。



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