再会





「うっ・・・しんどい・・・」

駐屯地のトイレでマコトはトイレットペーパーをちぎると目に押付けた。

メンタルは強い方だが、レンジャー訓練がキツすぎるためキャパオーバーしたマコトは候補生以来ぶりにトイレでめそめそと泣いていた。

そしてネックレスを握ると

「リヴァイさん・・・会いたい・・・」

マコトも、リヴァイを忘れた事など一度もなかった。目を閉じればリヴァイとの思い出が蘇り、会いたい気持ちが一層強くなってしまう。


「マコト」


すると突然声が聞こえた。
顔を上げてマコトはトイレの個室を見渡す


「マコト、何で泣いてる」
「・・・訓練、きついの」
「そうか・・・お前はよくやってる」
「ありがとう・・・。ねぇ、リヴァイさん」
「何だ」

マコトは少しの沈黙の後


「・・・・・・会いたい」



.
.
.




「・・・ん」


目を開くと見覚えのある懐かしい天井が目の前に飛び込んできた。


「ここは・・・」

ゆっくりと首を動かすとマコトは涙が出そうになった。一人の男が腕を組み、俯いて眠っている。




見た事ある黒く艶やかなサラサラとした髪・・・骨ばった手・・・その左手薬指には指輪がはめられている。


夢だろうか、とマコトは手を伸ばしてその手に触れると男はすぐに目を覚まし顔を上げた。

「マコト」

一瞬こちらの言葉が分からなくて処理が出来なくなるが記憶を引っ張り出すとマコトは震える唇を開く。


「やっぱり・・・リヴァイさんだ・・・」


リヴァイはふらふらと椅子から立ち上がり、ベッドに片膝を乗せるとマコトを抱きしめた。

「・・・本物か?」
「そっちこそ、本物?」

お互い確認し合うよう抱きしめ合いながら背中や肩に触れる。マコトは思い切ってリヴァイの頬に手を伸ばすとムニッと強く引っ張った

「・・・・・・おい」
「痛い?」

そう聞くとリヴァイは眉を寄せ、マコトの頬をギュッと強めに引っ張った

「いっててて!」
「はっ、夢じゃないようだ」

そう言うとリヴァイは悪かったな、と優しくマコト頬を撫でる。 マコトは再びリヴァイの胸に飛び込むと背中に腕を回して

「リヴァイさっ・・・会いたかった・・・」
「・・・俺もだ。」

涙を流すマコトを見ると、こちらも目頭が熱くなる。 そして、どちらともなく顔が近づき唇が重なる。



触れるだけのキスにマコトは涙を流し、リヴァイの首に腕を回すとリヴァイはそのままベットに押し倒しすと指を絡ませシーツに押し付けた。

「ん・・・は、んんっ」
「マコト、もっとだ・・・」
「うん、リヴァイさ、もっと・・・」

触れるだけのキスから深いキスに替わり、口元から糸が引いてもお構い無しにまた唇を重ね、マコトの着ていた自衛隊の隊服であるファスナーをやや強引気味に掴んで降ろし、自身の首元にあるクラバットを緩めた瞬間─




バァン!



「リヴァーーーイ! マコトは起きt・・・・・・ぶはははは!盛ってるねェ!」
「ハンジ・・・てめぇ、ノックしろよ・・・」


マコトに覆いかぶさったままハンジを殺すのではと言う勢いで睨みつけ、マコトもハンジを見ると顔を真っ赤にさせた。

「は、ハンジさーーーん!!」
「マコトー!!すっごいツッコミどころ満載だけど、お帰りいいぃ!!」

ハンジは泣きながら部屋に入るとダッシュでこちらへやってきてマコトをリヴァイごと抱きしめるとベットに転がり込んだ。

「ぐ、おい!重てぇ!」
「失礼な!私はリヴァイより5キロ少なかったはず!」
「変わんねぇよ!」


マリア奪還後、疲弊しきった全員に見送られたがなんとか元気にやっているらしい。
あの時同様普段通りのリヴァイ、普段通りのハンジを見るとマコトはベットに寝転がったまま、笑いながらぽろりと涙が出た。

「2人とも・・・元気でよかった・・・」
「マコトこそ、元気でよかったよ。」

ハンジもニコッと笑うとリヴァイもコクリと頷いた。


.
.
.



何故マコトがまたここに来てしまったのか。

ソファーに座り、紅茶を飲みながらハンジとリヴァイ、マコトは経緯を説明した。

「まずは・・・私達からだね」

手を組みながらハンジはマリア奪還後の話をし始めた。ここ最近、事後処理が落ち着いてシガンシナ区へ戻り遺体を回収・・・そして慰霊碑が出来たこと。

そして巨人が淘汰されたという宣言を受け、調査兵団は壁外調査を再開させて海を見に行ったこと。

マコトは一通り話を聞くと

「海・・・どうでした?」
「いやぁ・・・なんていうか・・・ねぇ、リヴァイ」
「・・・広かったな」
「そっか・・・」

あの広大な海は、言葉では言い表せれないのだろう。ハンジはニッと笑うと

「マコトも今度、見に行こうよ」
「・・・いいんですか?」
「もっちろん!・・・じゃあ、今度はマコトのお話ね」
「私は特に・・・なんの変わり映えも・・・」
「どうせ筋トレしてたんだろ」

相変わらず変わった持ち方でリヴァイは紅茶を飲むとマコトはうんうん、と頷く。

「でも今度は変な登場の仕方だったよね?あの布は何?」
「あれはパラシュートと言って、空を飛ぶ道具です。私はそれを扱う特殊部隊の教育訓練を受けてて・・・降下訓練中にまた頭痛がして声が聞こえたんです」
「声?」

マコトは頷くと

「・・・恐らくですが、また壁に危機が迫っているのだと・・・」

そう言うとハンジとリヴァイは穏やかな顔から一変、険しい顔になると顎に手を当てて

「やはり・・・これは早い所敵からの襲撃に備えないと」
「・・・だな、さっそく会議か?」
「ああ。招集させようか」

そう言うと2人は立ち上がり、ハンジは申し訳なさそうに眉を下げると

「ごめんねマコト、せっかくリヴァイと再会出来たのに」
「い、いえ!今は壁内の安全が優先ですから・・・私も、また協力させてください」
「ありがとう。 まず、マコトの仕事はゆっくり休むこと!会議の内容はまた改めてリヴァイ経由で教えるから」

実を言うとマコトは度重なる訓練で身体が悲鳴をあげていたので助かった・・・マコトは頭を下げるとリヴァイを見る。

リヴァイも少し名残惜しそうにマコトの手を取り、手の甲を撫でると

「・・・すぐに戻る」
「うん。」

手を離すとリヴァイは軽く手を上げてゆっくりとドアを閉めた。





***






「ぷはー!3日ぶりの風呂最っ高ー!!」
「いや、毎日入りましょうよ」


せっかくの再会・・・マコトはあまり足を運ばなかったが女性用の共用浴場へやってきていた。

リヴァイにも伝えると「積もる話もあるだろう」と快く了承してくれたので今の浴場にはマコト、ハンジ、ミカサ、サシャが居る。

・・・と言っても調査兵団はあれから募集を掛けて居ないため女性はこの人数のみである。

事の流れを湯船に浸かりながらマコトは話すと、ミカサとサシャは微笑む。

「壁に危険があるのは不安ですが・・・またマコトさんに会えてよかった」
「ホントですよ・・・私なんてあの時負傷してたからロクに挨拶出来なかったですし、マコトさんが置いていったあのお肉の缶詰・・・勿体なくて食べれてないんですうぅー!!」
「えっ、むしろもう食べない方がいいよ!期限切れてると思うからお腹壊しちゃう!」
「分かりました・・・」

サシャの頭を撫でているとハンジはマコトを見て

「それにしてもマコト、痣だらけじゃない?」
「ほんとですね・・・痛くないです?」
「ああ、これ訓練でね・・・はは」

4キロの銃を背負いながらのスクワット、背嚢の重さで肩は赤く腫れ、夜間の演習で転んだり滑ったりするため痣は絶えない。
痣が出来たことなんて気にする暇がないほどマコトは訓練について行くのに必死だったので冷静になると確かに腕や脚など青あざが凄い。知らない人が見たらDVなのでは?と心配されるレベルだ。

「これから、巨人とじゃなくてまた人間と戦うことになる・・・またマコトには力を貸してもらいたいな」
「はい。もちろん!」

力強くマコトは頷くとハンジはよし!と何も纏わないまま湯船から立ち上がると

「マコト帰還記念・・・?として、皆で洗いっこしよう!」
「賛成です!」
「いいですね!ほらほらミカサも!」
「私はさっき洗った・・・」

そう言いながらもミカサは僅かに微笑みながら4人で背中を洗いっこしたのだった。






風呂から出て解散すると自室に戻り、久しぶりの部屋を見て息を着いた。

あの時同様片付いてしまっているのでまた身の回りの物を揃えなければな・・・と見渡していると、リヴァイの部屋に繋がるドアがバン!と開いた。

もちろん開けた本人はリヴァイだ。

「・・・リヴァイさん?」
「マコト、こっちこい」

そう言って手招きされマコトは頷くと部屋に通される。

久しぶりにきたリヴァイの部屋・・・付き合いたての頃お揃いの色をイメージし合いながら買った深緑のマグカップと、浅葱色のマグカップ。

残してくれていた・・・マコトは嬉しくなりマグカップに手を触れ、洗面所に未だある自分の歯ブラシを見て苦笑いした。

「ねえリヴァイさん、ちゃんとベットで寝てるよね?」
「・・・たまに」

リヴァイはマコトと恋仲になるまではあまりベットを使わなかったそうだ。睡眠時間も2〜3時間、寝るのも椅子に座りながら・・・それを聞いた時マコトは悲鳴をあげてリヴァイをベッドに押し込んだのを思い出す。

リヴァイは目を逸らしてぼそりと

「お前が・・・」
「ん?」
「・・・くなった時は・・・ベッドで寝るように・・・」
「え?何て?・・・・・・ぎゃっ!」

小さくぼそぼそと喋るリヴァイにマコトは耳を傾けると突然グイッと耳を引っ張られ耳元で

「俺だって寂しくなる時だってある、って言いたいんだ」

熱のある低い声を聞くとマコトは顔が熱くなり俯くと

「そう、ですか・・・」
「なんで敬語なんだよ・・・」
「はは・・・何となく・・・じゃあ、今日はこっちで寝る?」

マコトはベッドを指さすとリヴァイはこくりと頷いた。どうやら、一緒に寝たかったらしい。



ベットには未だに2つ枕が並べられておりマコトは冗談半分だが

「・・・他の女の人、連れ込んでないよね?」
「あ?んな事するわけねぇだろ」

ムッとしたリヴァイはマコトの両頬を片手でむにっと挟むと

「お前こそ他の男に手ェ出されてないよな?」
「もちろん」

自信を持ってそう言うとお互い吹き出して

「・・・寝るか」
「だね、寝よう寝よう」

日頃から張り詰めていたリヴァイにとって、マコトのこの緩い空気は癒しだった。それは1年経っても相変わらずでリヴァイは安心すると布団に潜りマコトと向かい合わせになる。
久しぶりのマコトにリヴァイは抱きたい・・・と思ったが飛ばされたばかりのマコト。疲れているだろうから無理をさせる訳にはいかない、と煩悩を捨て去ると

「・・・寝るのが勿体ねぇな」
「寝なきゃ明日がしんどいよ?」
「お前は構わず寝ろ。俺はお前を眺めてる」

それは寝にくいだろ・・・とマコトは苦笑いし、リヴァイの手を取ると

「手を繋いで寝ると同じ夢を見るみたいだよ」
「ほう」
「これならリヴァイさんも眠れるかも」

そう言うとリヴァイに近づいて額をこつんとくっつけると

「・・・どこにも行かないから」
「っ・・・」


先日夢で見たリヴァイの台詞と重なり、リヴァイは目を閉じると

「ああ、どこにも・・・行かないでくれ」
「うん。 おやすみ、リヴァイさん」
「おやすみ、マコト」

マコトは目を閉じながら微笑むとすぐに寝息を立て、リヴァイはそれを見守っていると段々と瞼が重くなって気づいたら眠ってしまっていた。



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