君のいない日々





「っ!マコト・・・?」


朝になり、リヴァイは目が覚めると抱き締めて眠っていたはずのマコトの姿がなかった。

枕はあの日のように2つ並べられており、10月のひやりとした朝の空気がリヴァイの素肌を刺激した。

「マコト、マコト!どこだ!」

下着のみのリヴァイは自室を歩き回ると隣の繋がっているドアから声が聞こえた

「リヴァイさ〜ん、こっち!」

ぶちぬきで作られたマコトの執務室兼自室・・・リヴァイはそのままバン!とドアを強めに開くとマコトは呑気に執務机の芍薬の花を花瓶にさしていた。

「おはよう。リヴァイさん」

朝の太陽に負けないくらいニコッと微笑むマコト。 リヴァイはマコトに駆け寄るとそのまま抱きしめた。

「うわわ・・・もうリヴァイさん、服着なきゃ!風邪ひくよ・・・」
「・・・うるせぇ。」

マコトは笑いながらリヴァイの首に腕を回して抱きつくと頬を擦り寄せる。

「どうしたの?」
「・・・どこにも行かないでくれ」

その温もりにリヴァイは目を閉じるとマコトの肩に額を埋めた。



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「・・・・・・はぁ」


夢か


リヴァイはムクリと起き上がり、隣を見る。

2つ並べられた枕。

棚に置かれたお揃いのマグカップ。

洗面所にある色違いの歯ブラシ。

朝起きると寝癖のすごい自分を見て「リヴァイの寝癖展ができそうだねぇ」と笑いながら寝癖をスケッチするマコトの姿・・・ウォールマリア奪還を引き換えにマコトは元の時代に帰ることが出来たがあの日のように、幸せな日常は無くなった。

どんなに月日が経っても、リヴァイはマコトの残していったものが捨てれずそのまになっている。


彼女を忘れた日は一時もない。しかし、思い出す度にマコトに会いたい気持ちが募る。
普段は椅子で寝ていても、たまらなくマコトに会いたくなった時はこのベッドで寝ると不思議とマコトが出てきてくれる。そして起きるとマコトの居ない現実を見せつけられ苦しくなる。

リヴァイは息を吐くと枕元にあるドックタグを掴んで首に掛けて、誕生日に・・・とマコトがサプライズで用意してくれた懐中時計のボタンを押すとふた裏に隠されたマコトの肖像画を見つめて目を細めた。

同じ時を過ごせないが、ここにマコトが居る。

「・・・マコト、おはよう」

パチンと閉じるとリヴァイは薬指の指輪に唇を落とし、ベッドから降りた。










マリア奪還後は、王都へ向かい勲章授与をされた。その後は戦後処理として調査兵団が駆け回っていたが応援として駐屯兵団も手を貸してくれた。

仲間の遺体は、あの数は連れて帰ることが出来ずエルヴィンもあのままだ。時間が経ってしまえば腐敗が進み、骨となってしまう・・・



結局、仲間を迎えに行けたのはほぼ1年後だった。



ハンジはあの日モブリットを建物に避難させておいたのでモブリットの回収、リヴァイはエルヴィンの元へとやって来ていた。
あの建物で寝かせたきりのエルヴィン・・・供えてあった花はもちろん枯れてしまいエルヴィンも白骨化してしまっていた。

リヴァイはまず換気をしようと目の前の窓を静かに開き、家中のドアを開けて埃っぽい空気を外に出す。

布当てで口元を覆ったままリヴァイはエルヴィンの傍らに膝を着くと

「・・・悪いなエルヴィン。迎えに来るのが遅くなっちまった。この部屋・・・埃っぽくてたまんねぇだろ」

目を細めてそう言うと遺骨用の壺を傍らに置き手袋をすると骨を丁寧に詰め始めながら


「マコトは無事に帰れた。」


誰もいない空間だがリヴァイはそう呟いた。


「・・・俺は、あいつが居なくなって前を向けたはずだが・・・女々しい男だ。だせえな。」


そう呟きカラン、と骨が壺とぶつかり音が鳴る。


「兵長」


顔を上げると、口元を覆ったエレンが入り口に立っていた。

「何だ」
「お手伝い、しようかと・・・」
「・・・そうか、頼む」

短くそう返すとエレンは小さく頷いてエルヴィンの骨を集め始めた。


「兵長・・・元気ないですね」
「あ?俺が笑顔で兵舎を走り回るところが見てぇのか」

それはそれで怖い・・・エレンは慌てて首を振ると

「マコトさんが帰って1年・・・寂しいですよね。」
「ああ、忘れた事なんて1度もねぇ。死んだ訳じゃないのにな」

普段仮面のように表情を変えないリヴァイだがその瞬間だけ瞳が揺れ眉が寄せられる。

そんな姿を見たエレンは小さく息を呑むと

「マコトさん・・・元気ですかね」
「どうだかな。筋トレしたり、また変な技思いついて暴れ回ってんだろ」
「ぷっ!ははっ、ですね」

エレンの笑い声が埃っぽい部屋に響いた。


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ウォール・マリア奪還作戦
調査兵団 戦没者慰霊碑

850年


復興しつつあるウォール・マリア シガンシナ区に建てられた慰霊碑。

そこには当時奪還作戦に出陣した兵士全員の名が刻まれている。そのてっぺんには団長のエルヴィン・スミスの名が刻まれ、今日は除幕式が行われた。

ヒストリア女王、各兵団代表者、総統、残された調査兵団9名、戦没者の遺族などの各関係者が参列している。


眼帯生活に慣れてきた調査兵団 団長のハンジとヒストリアが2人で大きな花輪を飾り黙祷をした後、静かに除幕式は終わった。





「・・・とりあえず、ひと段落って感じだね」

除幕式後、残された調査兵団。
ハンジが腰に手を当てると少し吹っ切れた表情をしている。 壁を塞ぎ復興がはじまり、資材を詰んだ荷馬車が行き交うようになった。

リヴァイは腕を組んでハンジを見つめると

「・・・で、これからだが」
「うん。巨人は全て淘汰されたと駐屯兵団からの報告を受けてね。壁外調査を再開しようと思う。」

南から来るとされている巨人・・・まずは南へ行ってみようと言う話になりハンジはアルミンと話し合いながら厩舎へと向かう。


リヴァイはと言うと1番後ろをのろのろと歩きながらあの日マコトと別れた壁上を見上げていた。





***





「やっぱり、ここにいた」

グラスに注がれたお酒を眺めていると、ハンジがドアを開けてそう声を掛けた。

ランプだけ照らされた薄暗くなったマコトの部屋。 リヴァイが部屋に居ないとなると、大体この部屋のソファでお酒を飲むかぼーっとしている。

そのテーブルには決まって芍薬の花が一輪花瓶にさしてあるのだ。

「クソ・・・」
「いやいや、そこまできたらメガネまで言ってくれよ」

飲む気満々だったのか、ハンジはワイングラスとボトルをドン、とテーブルに置いて向かい側の席に座る。


「マコトロスはまだまだ続くって感じだね」
「・・・当たり前だ。」

相当ダメージがあるらしくリヴァイはグラスに口を付けたまま眉を寄せた。別れる覚悟は出来ていたはずだ・・・しかしいざ現実となるとズルズルと引きずってしまっている自分がいた。

「私も寂しいよ・・・会いたい」

ワインの入ったグラスを眺め、ハンジは片目を細めてリヴァイを見つめた。

「切り替えられたはずなのにな・・・」
「思い出が多すぎるから。でも、無理に切り替える事なんて無いと思うよ」


ハンジは残りのワインを一気に飲み干すと、リヴァイも残りのお酒を喉に流し込んだ。




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