交渉




「とにかく・・・地鳴らしが始まってしまった訳だし、私達も移動しよう。マコトはリヴァイの看病してて」

そう言ってハンジは木槌を持ってこの場を去ると、マコトもリヴァイを仰向けに寝かせる。
まだ身体が辛いのだろう、リヴァイは呻きながら仰向けになると

「マコト、俺の上着はあるか?」
「? うん、あるよ」
「上着の・・・内ポケット」
「内ポケットね、了解」

乾かしていた兵団ジャケットの内ポケットに手を入れれば金属の物が手にあたりそれを掴んで出すとそこには懐中時計が入っていた。

マコトが帰る前にリヴァイに贈った誕生日プレゼント・・・それを見たリヴァイは安心したように息を吐く。

「・・・良かった」

掠れた声でそう呟き、懐中時計を渡せば左手で大切そうに胸元で握りしめる。そして左の薬指も見つめると

「指輪も無事だな」
「リヴァイさん・・・」
「あの時お前と、これを守るので必死だった・・・お前の顔に傷を残しちまったのが悔やまれるが、生きてくれてて良かった」

その言葉にマコトは再び涙を零すと左手でリヴァイの手を重ねる。

「リヴァイさんも、生きててよかった」
「こんな事でくたばったら、仲間やアイツに顔向けできねぇ」
「うん・・・そうだね」

マコトは俯きながら頷く。少し元気の無いマコトにリヴァイも気づき重ねられた手を握ると

「マコト、話してくれ」
「へ・・・」
「不安に思う事があるなら話して欲しい。我慢するな」

見つめられながらそう言われるとマコトは口を開いたり噤んだりを繰り返し、再び俯く。
リヴァイはきっと、仲間やエルヴィンとの約束を果たすためなら死ぬ気で挑みに行くだろう。だからこそそんな彼を止められず、死なないで欲しいと言う言葉が喉で引っかかりゴクリと唾を飲み込む。

「・・・私を、置いてかないで」

やっと口を開き、絞り出されるようにそう呟くと、俯いた拍子にリヴァイとマコトの重ねられた手に涙が落ちる。

「ごめんなさ、」
「マコト」

怪我をした手で涙を拭われ顔を上げると胸元へ引き寄せられる。 胸に耳を当てればリヴァイの鼓動の音が聞こえ、マコトは目を閉じる。

そんなマコトの頭を優しく撫でながら

「保証はできねぇ」
「うん・・・」
「だが、死ぬ気はない」

地鳴らしを開始した巨人を眺めながらハンジとマコトは馬に乗りリヴァイを荷台に繋げて歩き始める。

「ん、あれは・・・」
「どうしました?」

ひょこっとマコトはハンジの後ろから顔を出すと、そこには車力の巨人と1人のマーレ人が居た。

「どうします・・・?」
「話をしよう。マコト、ここに居て」

ハンジは馬からおりると「あのー」と声を掛ける。
その瞬間車力の巨人は戦闘態勢に入り、マーレ人もハンジに向かって銃口を向けた。

「ちょっと待って! とりあえず食べないで!!こちらには何の武器もありません!」

車力の巨人とマーレ人はハンジの後ろにいるマコトとリヴァイを見つめると

「え? あっちに誰かいる? ご安心ください。あれは・・・か弱い女の子と人畜無害の死に損ないですから」
『貴方は調査兵団の団長、その後ろにいるのはマコトって人と・・・あとリヴァイ・アッカーマン』
「なに・・・?」
「あちゃーバレてる・・・いや、武器がないのは本当ですしあなた達と戦う気なんてサラサラ無いんです!ほんと!」

慌ててハンジは両手を上げ直すとマコトも馬から降りてハンジの隣に立つと

「私の名前はマコト・アッカーマン。調査兵団特別作戦班の副班長です。初めまして」

マコトも自己紹介をすると巨人の項から黒髪の女性が現れた。まさか女性だとは思わずマコトは驚き、ハンジは「おお・・・」と少し興奮している。

「私の名前はピーク・フィンガー。こちらは・・・」
「テオ・マガトだ」

そう自己紹介されピークはマコトを見ると

「昔・・・貴方に一発食らったの忘れてませんから」
「ま、まさか女の子だったなんて・・・」
「我々に何の用だ?」
「・・・ハンジ、マコト」

遠くからリヴァイの声が聞こえ、荷台に移動させると身体を起こしたリヴァイはマガトを見上げると

「俺の目的は・・・ジークを殺す事だ。あんた達とは利害が一致する」
「リヴァイ・アッカーマン『九つの巨人』に引け取らない強さを持つらしいが・・・そのザマでどうやって俺の弾を避けるつもりだ?」
「弾は避けられない。だがこのザマを敵にみすみす晒した。撃つか、聞くか、アンタ達次第だ」

リヴァイとマガトはしばらく見つめ合う。

「ジークを殺すと言ったが、奴は今どこにいる?」
「恐らくは・・・王家の血を利用するためエレンに取り込まれている。いや、始祖の巨人に」
「巨人博士のハンジさんなら何でも分かるようですね。我々マーレよりも・・・その始祖の巨人はご覧になられましたか?」
「とてつもなくデカくてどうにもならなさそうな事は分かってる・・・だから、我々はやるしかないんだよ。みんなで力を合わせよう≠チてヤツを」

ハンジは拳を握りながら力説すると

「で、我々だけで何とかなると?」
「あー・・・それはー・・・壁内に戻って協力者を募ろうかな、と」
「なるほど・・・条件がひとつ」
「ん?」
「イェレナを連れてこい」

その言葉にハンジとマコトは目を見開き、目を合わせると

「分かった。連れてこよう」
「交渉成立だ。ピーク、着いてってやれ」
「了解」
「え? え? の、乗っていいの?」

興奮し始めたハンジにピークは嫌そうに眉を寄せ、マコトは苦笑いをする。

「ハンジさん、私も着いていきます」
「でもマコトは怪我をしてるから・・・」
「中は危険です。仲間は多い方がいいでしょう?」
「いいのか? その間にお前の旦那を撃ち殺すかもしれんぞ」

マガトがそう言うとマコトは微笑んで

「これから協力し合うんですから、信用してますよ。マガトさん」
「・・・フッ、仕方ない。 子守りは任せろ」

そう笑うとマガトは銃をホルスターに収めた。



***


夜になりハンジとマコト、ピークは再び壁内へと足を踏み入れた。
予想通り兵士の大半は巨人化し建物は倒壊、銃弾の跡やまだ処理しきれない遺体などが転がっている。

建物の中で待機していると、コンコンとノックが聞こえ開けるとミカサが立っていた。

「よく来てくれたね、ミカサ」
「ハンジさんも無事で・・・マコトさん、その怪我」
「ああ、ちょっと派手に転んでね」

マコトは笑いながらそう言うとミカサから状況を聞いているとしばらくしてジャンもやってきた。

「現場に居なくて申し訳ない。 過酷な状況下で良くやってくれたよ。 リヴァイは・・・無事ではないけど生きてるよ。しばらくは・・・戦えないけど」
「私達は、車力の巨人らマーレ残党と手を組んだの」
「えっ!?」
「エレンを止めるためだ。皆殺しは間違ってる」
「・・・どうやって、止めるんですか?」
「従来の兵団組織は壊滅して・・・もう私は君たちの上官ではない。その上で聞くけど・・・」
「やります」

ミカサは聞く前に賛同し、隣にいたジャンは目を見開いた。

「これ以上エレンに無差別攻撃をして欲しくありません。それが私達や島を守るためでも、エレンを止めたいんです」
「ミカサ・・・」
「エレンが始祖の力を維持出来たとしてもあと4年・・・その後の島はどうなりますか?その後何十年後の未来もずっと、世界から向けられる憎悪が消えないのなら・・・エレンを止めるとこはこの島を滅ぼす事になります」
「私が思うに、マーレからすれば島に奇襲をかけた途端地鳴らし発動だ。少なくとも今後・・・しばらくはこの島に手は出せないと思う」
「完全に島を滅ぼさないと、いつ世界が滅ぼさないか分からないと・・・ビリー・タイバーの演説以上に世界を焚きつけることになります!」

ジャンの言うことももっともだ。
いずれにせよ、このような状況になればあちらも年単位で島には手を出すことはできない。

ジャンは拳を握り歯を食いしばると

「でも、そうやって可能性を探しているうちに時間が過ぎて何一つ解決できなかった!だからエレンは世界を消そうと・・・」
「だからって!虐殺はダメだ!!これを肯定する理由が、あってたまるか!!」

ハンジは声を荒らげ、ドンッ!と机に拳を叩きつけた。
普段冷静なハンジの声を荒らげた姿にジャンも押し黙ると「ごめん・・・」とハンジは小さく謝る。

「エレンがこうなったのは・・・私の不甲斐ない理想論のせいだ。それに・・・こんな事吠えておいて逃げようとしていたんだよ、私は全てを捨てて、全て忘れて生きようとしていた。でも・・・私はまだ、調査兵団14代団長だ。人類の自由のために心臓を捧げた仲間が見ている気がする。大半は壁の外に人類が居るなんて知らずに死んで行った・・・だけど、この島だけに自由をもたらせばいい。そんなケチな事を言う仲間は居ないだろう」

虐殺を止めるのは、今しかないのだ。
ジャンも思う事があったのかその話を聞くと目を伏せ頭を下げた。

「ハンジさん・・・俺はまだ、調査兵団です。こんなんじゃ・・・骨の燃えカスが俺を許してくません」

グッと血が滲むほど握りしめた拳。
マコトはハンジと顔を見合せて2人を見ると

「・・・よし、作戦を伝えるよ」

3人は頷くと椅子に座り、ハンジは手帳を取りだして図を描き出した。

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