逃亡:3



ラッパの音が鳴り響き、マコトは反射的に起き上がった。

「・・・夢?」

一体なんの夢を見ていたのか。ラッパ起床の合図を聴きながら首を傾げるがそんな場合ではない。
マコトは相部屋の隊員と挨拶をしながら着替え点呼をとりスケジュール確認すると、清掃、訓練、昼食、訓練。いつもと変わらない自衛隊でのルーティーンが始まる。

今度始まる行軍訓練の準備をしなければ・・・とマコトは廊下を走っているとスラリと背の高い男性が立っていた。

民間人だろうか?しかし、今日の見学予定はなかったはずだ。

「あの・・・道に迷われましたか?」
「ここに居たんですね、マコトさん」
「え?」

近づいてくるとマコトの頭ひとつ以上の長身で整った顔。伸びた髪の毛は後ろでひとつに結ばれている。
こんな顔がいい知り合いなら忘れるはずは無いがマコトは眉を下げて首を傾げると、

「あの、なぜ私の名前を?」
「貴方を探していたんです」

そう言って男は突然マコトの頭を掴んだ瞬間、ビリビリと電気が流れ込むような痺れを感じ、目を見開くと頭の中へ早送りされるように今までの記憶が流れ込んできた。

脳が振動するような感覚に意識を飛ばしかけた瞬間、手が離れ足元がふらついて膝をついた。

「っ、エレン・・・?」

目の前にいるのは、エレンだ。
何故こんなところにエレンが居るのだろう。それより、なぜ自分は駐屯地に居るのか?

先程までの記憶と同時に一気にやってきた疑問と同時に、マコトの身体から幽体離脱のように自身が飛び出した。

「な、なにこれ」
「マコトさん、こちらの時代に飛ばされた日の出来事を覚えていませんか?」
「飛ばされた日・・・行軍訓練の事?」
「はい。これは、その日の記憶です」

何故そんなものを見せるのか、マコトは眉を寄せて歩き始めた自身を追いかける。
朧気な記憶だが当時のマコトは来る行軍訓練の準備をし、後輩の装備品を一緒に確認するなど面倒を見ている。いつもの風景だ。

場面は切り替わり、行軍訓練当日。マコトは自分の隊に居る後輩や時間を気にしながら山道を歩き続ける。その後をエレンとマコトは着いていくのは不思議な光景だがマコトはまだ何故エレンがこの記憶を見せてくるのか理解が出来なかった。

「この日は、天気が悪かったんですよね」
「どうしてエレンがそれを・・・」

あの日は雨の中の行軍だった。
遠くでは雷が唸るような音を響かせ時折フラッシュのような光が視界を遮る。

とある人物が後ろからマコトの首を掴んだ瞬間、一瞬だがマコトの身体が発光した。

「松山・・・?」

雷と思った衝撃だったそれは、マコトの隊である松山一士によるものだった。
高卒から入った新人の隊員だが根性がありマコトの班でも最年少もあるが素直さもあったため全員で可愛がっていた人物。

「マコトさん、あの松山に見覚えありませんか」
「え・・・」

何故思い出さなかったのか。いや、気づくはずもないだろう。

「うそ、そんな松山

松山の顔は、日本人の顔をしているがどことなくエレンにそっくりなのだ。

雷に打たれたマコトを松山は立ち上がり、マコトを山から突き落とす。その落とした姿は誰も見ておらず、松山がわざとらしく叫んだ。

「マカベさんっ!」
「松山、どうした!?」
「マカベさんが、雷の衝撃で下に落ちて・・・っ」
「訓練中止! 全員捜索に向かうぞ!」
「駐屯地に連絡、救急車を呼べ!」

マコトが落ちた後の出来事・・・全員がバタバタと走り回る中、松山だけがこちらを見ており見えていないはずのマコトとエレンを見つめて来る。


目が合ったマコトは背筋がゾワッとし、後ろへあとずさりしてしまう。

「そんな、松山が・・・」
「マコトさんだけが生まれ変わりじゃない。オレは、エヴァンスの能力を手に入れるためにあなたの時代までやってきたんです」
「エヴァンスの力? どうするっていうの・・・」
「オレは、巨人を一匹残らず駆逐します」

その言葉は昔から言っていたエレンの決意。
マコトは小さく頷くと

「それは、昔から言ってたよね?」
「はい。 なのでオレは、巨人の力をこの世から消し去ろうとしています」

巨人の能力をこの世から消し去る、マコトはえっと眉を寄せると

「そんな事出来るの?! だったらなんで、それを皆に
「アイツらには自由になって長生きして欲しいんです。 それには、マコトさんの力も

だからあの時自分を連れてこいとフロックに命令したのだろう。

「全てはミカサの選択に委ねられています」
「ミカサ? なぜミカサなの?」
「・・・・・・すみません、もう時間です。 ここでの記憶は消えますが、きっと時が来れば思い出す時が来ます」
「エレン、待って。 待ちなさい!」

霞んで行く視界の中、エレンが森の中へと消えていく。
目の前が真っ暗になったその瞬間、マコトは目が覚めて起き上がった。

突然起き上がったハンジは「うわぁ!」と大きな声を上げて尻もちを着くと

「マコト、よ、よかったどこか異常は?」
「いえ、どこも

こんな時に呑気に夢を見ていた気がするのだがそれが思い出せない。汗で滲んだ額を拭うと

「マコト」

聞き覚えのある声がして隣を見ると、そこには身体を起こしたリヴァイがこちらを見つめていた。

「リヴァイ、さん?」
「リヴァイもちょっと前に目が覚めたんだ」
「なんだ、人を幽霊みたいなツラで見やがって」

掠れた声で苦しそうにそう悪態をつくと、マコトは涙を零してリヴァイの肩に触れた。
青白い顔は幾分か良くなっており、肌に触れれば暖かい。その手をリヴァイは取り握ると

「・・・すまなかった」
「なんで謝るの?」
「お前を、守れなかった」

マコトは首を振ると、リヴァイの傷口に触らない程度に優しく抱きしめた。

「そんな事ないよ」

2人がとにかく無事だった。と、ハンジは安堵の息を吐くと、リヴァイに今の状況を説明した。ジークはイェーガー派と共にシガンシナ区へと向かい、半日が経過している。

「一体、何があったの?」

リヴァイは右手を見つめると

「ヘマをした・・・・・・奴に・・・死を選ぶ覚悟がある事を、見抜けず、また逃がした・・・」
「無念でたまらないだろう。でも今は・・・」
「ハンジ、このまま・・・逃げて、隠れて、何が残る?」
「はは、なんだよ。聞こえてたのか」
「蚊帳の外でお前が大人しくできる、はずがねぇ」

か細い声でリヴァイがそう言うと、ハンジはマコトと全く同じ事と言われてしまい俯くと

「あぁ・・・そうなんだよ。できない」
「俺はジークを殺す。それだけだ・・・」
「そうだね、約束したもんね」

壁内人類のために命を散らした仲間と、エルヴィンとの約束を果たすためリヴァイは右手を強く握る。
マコトは内心、リヴァイにはもう動いて欲しくはなかったが、あの日の光景を思い出せばリヴァイを止める事は出来ない。

きっとリヴァイは自分の命を引き換えにしても、エルヴィンとの約束を果たすつもりだ。マコトは2人が見ていない所で小さく俯いた。

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