逃亡:2



ハンジが姿を消してから2時間が経過した。
マコトとリヴァイは生い茂る草で身を隠していると、ハンジ兵団備品の救急セットや携帯食料も小脇に抱えて戻ってきた。

「はーい! お待たせ」
「ハンジさん、それ」
「ははは、キミらのためなら火の中水の中だよ。大丈夫、追っ手はは居なくなったよ」

肩に掛けられているのは当時持っていたはずもない銃。恐らく兵士を奇襲して奪ったのだろう。よく見ればハンジの目は僅かだが赤く腫れており、泣いた形跡が伺えた。
それを察したマコトは立ち上がるとハンジを抱きしめた。

「おわっ! こらこらマコト、リヴァイの前で駄目だよ」
「ハンジさん、ありがとう」

きっと仲間に手を掛けるのは辛かっただろう。ハンジをギュッと抱き締めれば何も言わずハンジは抱きしめ返すと、

「さっ、まずはリヴァイの治療するから手伝って」
「はい!」

救急セットを開くとリヴァイの手を止血する。紐で強く締めた後、顔の傷口を消毒し縫合糸と針、ピンセットを取り出す。マコトもそれを手伝いながらそういえば、とハンジを見ると

「そういえばハンジさん、いつの間に日本語・・・」
「ん? ああ、何かあった時に使えるんじゃないかなって復習しておいたんだよ」
「凄い・・・さすがです。びっくりしました」
「あれは一か八かだった。 とにかく、通じてよかったよ」

そんな会話をしながらマコトは針をリヴァイの顔に向けるが、その途端手の震えが止まらなくなった。
大切な人故、傷口を縫うのは妻であるマコトが良いと思っていたのだが手を震わせる彼女にハンジは首を傾げる。

「・・・マコト?」
「ごめ、なさ・・・」
「あはは、そりゃそうか。うん、じゃあ一緒にやろうか。 はーいリヴァイ、チクッとするよ」

ハンジはそう声を掛けながら針をリヴァイの皮膚に針を通す。段々と傷口が塞がれていく様子を見て、マコトも針を手に取るとリヴァイの頬に出来た裂傷に針を刺した。

落ち着いた頃にハンジとマコトはお互い何があったのか状況確認をした。

地下に閉じ込めていたエレンが懲罰房にいたフロックたちを解放し、ハンジたちが調査しに来ていたレストランを包囲され連行。その後ミカサ達とは離れ離れで安否が分からないそうだ。

「そうそう、脱走したマーレの子供二人は発見されたよ」
「えっ!?」
「ブラウスさんの所で保護されてたんだ。偽名を使ってね」
「そうだったんですね・・・良かった・・・」
「ただ、男の子の方はワインを口にしてしまってね」
「ワイン?」

マコトは首を傾げているとハンジはああ、と目伏せると

「マーレから輸入されたワインがあっただろう? 上層部にしか飲めないってアレ・・・ジークの脊髄液が混ぜられているんだ」
「っ! それじゃあ、森の中で皆が巨人化したのは・・・」
「ああ。 きっとそのワインを飲んで、ジークの叫びで巨人化したんだ」

飲み物にまで混入することが出来る・・・その汎用性の高さにマコトはゾッとした。

「じゃあ壁内にいる兵士の大半は・・・もし、ジークが叫んだら」
「ああ、壁内は巨人で溢れ返る。そうなれば昔みたいな地獄絵図だ」

しかしこの状況の自分達にはそれを止める術が見つからぬまま沈黙の中、響くのはハンジが糸を切るハサミの音だけ。

しばらくしてハンジは

「きっとリヴァイもワインを口にしたと思う。でもみんな巨人にされたけどリヴァイだけは生き残った。この怪我でまだ生きてるのも同じ理由だろうね・・・彼はアッカーマンだから。そして彼はそれを分かってて君を守るために盾になったんだろう」
「 リヴァイさん・・・」

マコトは切断されてしまったリヴァイの手を縫合しハサミで糸を切り終えるとその手に包帯を巻く。
ハンジの方も縫合を終えると顔に包帯を巻き、今度はマコトの頬に走った顔に出来た傷口と火傷を治療し始める。

消毒液がマコトの傷口に触れた途端

「いってぇ!」
「こらマコト、動かない」
「う、あう・・・痛い・・・」
「ちゃんと消毒しないと化膿してあなたの可愛い顔がもっと台無しになるんだから」

化膿だけは避けたい。マコトは兵服を握りながら痛みに耐えていると

「それにしても・・・どうしたもんか。私達じゃジークは止められないだろうし、アルミンやピクシス司令に託すしか・・・例えばエレンがジークを裏切ったとしてもイェーガー派が脊髄液でこの島を支配するなら私たちは一生このお尋ね者。・・・多分、順番が来たんだ。自分じゃ正しい事をやってきたつもりでも、」

そう言いかけてハンジはマコトの頬を縫合する手を止めてため息を着くと

「・・・ねえマコト。いっそ、3人でここで暮らそうか」
「ハンジ、さん?」
「大丈夫だよ。キミらに子供が出来ても私が面倒見てあげるからさ! 2人の子なんだ、絶対可愛いに決まって・・・」
「ハンジさん」

マコトは縫合をするハンジの手を掴んで止めると

「ハンジさんが、大人しく出来るわけないじゃないですか」
「マコト・・・」

震える手でそう言うとハンジは目を見開き苦笑いすると

「はは・・・ありがとう、マコト。 やっぱり、君がいてくれて良かった」



***



移動するとしてもリヴァイを運ぶのは一苦労だ。荷馬車の残骸を回収してハンジと共に木の板を掻き集め荷台を作っていると、

カランッ

「マコト・・・?」

突然、マコトが持っていた木材を全て落とすと

「あ、がっ・・・ああああっ!」
「えっマコト!?」

マコトが頭を抑えて叫び始めたのでハンジは作業を止めると慌てて駆け寄った。
爆発事故の後だ、時間が経てば出てくる症状がある。それを危惧したハンジは顔を青ざめさせるとマコトを座らせる。

「マコト、しっかり!苦しいの?」
「頭が・・・あと、首が・・・」
「首?」
「あの跡が・・・突然っ・・・うっ」

それを聞くとハンジはそっとマコトの首裏を見るが異常はない。

「特に何ともないけど・・・痛いの?」
「は、い・・・あと熱くて・・・」

その瞬間、

「っ!」

突然頭の中でエレンの声が響いた。

「え? 壁の・・・硬質化が解ける?」

ハンジがマコトの隣でそう呟くと、マコトも頭を抑えながら土だらけだった地面から突然変わった砂に触れる。

すると頭の中でエレンの声が響いた。

オレの目的は、オレが生まれ育ったパラディ島の人々を守ることにある。

しかし世界はパラディ島の人々が死滅する事を望み永い時間をかけ膨れ上がった憎悪は、この島をのみならず全てのユミルの民が殺され尽くすまで止めないだろう。

壁の巨人はこの島の外にある命を駆逐するまで地表を踏み鳴らす。


エレンがそう言い終えると現実に戻り、ハンジは我に返るとドサッと倒れる音。

「え・・・マコト・・・? マコト、しっかり!!」

マコトはそのまま意識を手放した。



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