雷槍
マコトはピクシスの命令の下、一旦ハンジと別れジークの居場所を知る兵士2人を引き連れてリヴァイがいる巨大樹の森へとやってきた。
「リヴァイ兵長」
「マコト・・・? どうした」
昨日来たばかりのマコトが来たことにリヴァイは僅かにだが目を見開いた。
しかし、深刻な面持ちで来た3人に異変を感じ取り、一瞬ジークを見ると「上へ行くぞ」と立体機動を使い巨大樹の高い部分へと移動した。
「何だと?! ・・・冗談じゃねぇ、巨人を食わせるべきクソ野郎は他にいる」
「どういう事です・・・?」
「ジークの獣を他のヤツに移す。イェーガー派とかいう馬鹿どもの1人でも捕らえて巨人にして、ジークを食わせてやれ。 エレンが本当にジークに操られてるのか知らんが、ジークさえ失っちまえば連中はおしまいだ。 マコト、ピクシスにそう伝えろ」
「分かりました、そのように」
マコトは頷くが、後ろに居た兵士2人は不安そうに顔を見合せ
「ほ、本気ですか?」
「ヤツの手足でももいでおけば、じいさんも腹くくるだろ」
そう言うとリヴァイはワイヤーを出し樹から降りるとジークの元へと行ってしまった。
残されたマコトは兵士の肩を叩くと、
「ピクシス司令に伝えましょう、ほらほら行くよ」
「は、はい・・・」
自身たちも樹から降りようと立体機動を構えた瞬間
「うおおおおおお!」
突然ジークの雄叫びが森の中に響く。
一体何事だ、とマコトは慌てて振り向くと、後ろにいた兵士2人がふらりと身体を倒し落ちていく姿だった。
「ちょっ・・・どうし」
その瞬間、目の前が強く光り森の中が一気に明るくなる。
マコトは眩しさに目を細めていると、遠くからリヴァイの叫ぶ声が聞こえた。
「マコト!!!! 逃げろ!!」
「リヴァイさん!」
マコトの叫びはリヴァイの真上から落ちてくる巨人の音でかき消され砂煙が立ち込める。
「げほっ、はっ・・・リヴァイさん!リヴァイさん!」
そう叫んだ瞬間、砂煙を掻き分けて巨人の口がマコトを襲いかかる。
マコトは咄嗟にワイヤーを出して上へと上がるが、今までの巨人と違いこの巨大樹にしがみつきながら上へと駆け上がる。その姿にマコトは背筋を凍らせると違う樹に移る。
「速い! それに皆、なんでいきなり巨人に・・・!?」
巨人の手を掻い潜っているとマコトを掴もうとしていた巨人の手が目の前で切り刻まれ、リヴァイが現れた。
「リヴァイさん!」
「マコト、お前は離れてろ」
「この数じゃ危険すぎる!それに・・・」
これは普通の巨人ではなく、ずっと過ごしていた仲間達を殺す事になるのだ。
リヴァイは苦しそうに眉を寄せると、
「・・・大丈夫だ、俺がやる」
「ううん、私もついてく。もう貴方だけには背負わせないよ」
視線が絡み、リヴァイは少し俯くと小さく頷く。
「了解だ」
行くぞ、その声にマコトも頷くとリヴァイの背中を追いかけようとした、が。
マコトがこちらに向かってくる瞬間、背後から樹によじ登ってきた巨人がマコトを見つめこちらに飛びかかってきた。
リヴァイは顔を強ばらせると手を伸ばした。
「マコトッ! 後ろだ!」
「へっ?」
再び叫ぶように名前を呼ばれた瞬間、突然身体を掴まれ一体の巨人がマコトを抱えて走り出した。
その先にはジークを連れた巨人達が待機しておりマコトを捕獲したのを確認すると走り始めた。
一体何が起きたのか、リヴァイの伸ばされた手は掠め呆気に取られていたが、
「待て! くそっ、何でマコトを連れていく?! ・・・まさか」
マコトの前世はリヴァイの上司であったノア・エヴァンス。その彼女の家系はエヴァンス家という救世主と呼ばれる家だったがそれは表の顔で、初代のアダム・エヴァンスは始祖ユミルを愛し守りたいがために悪魔と契約。
戦争に参加し周囲から勝手に救世主と呼ばれるようになったのがきっかけだ。
ユミルの死後はフリッツ王に「壁に災いが起きる時いかなる方法でも助けに行く」と言い残した後姿を消したが845年、リヴァイの上司であったノア・エヴァンスの死を最後にエヴァンス家の血は途絶えた。
壁が超大型巨人と鎧の巨人に破壊された3年後にマコトがこの時代へ飛ばされたのだが、クリスタの父ロッドは巨人化させてマコトを取り入れようとした。
「(まさか、マコトをあの時みたいに・・・)」
エレン、ジークのどちらかがマコトを取り入れエヴァンスの能力を手に入れるとしたら、何が起きるか分からない。
リヴァイは襲いかかってくる面影の残る部下たちの顔を見て目を伏せるとブレードを構え巨人を斬っていく。
リヴァイはすぐに雷槍を装備するとブレードをブーメランのように投げつけ、マコトを捕まえている巨人のうなじを狙って切りつけた。
途端崩れ落ちた巨人を見てジークは舌打ちをすると腕を噛み巨人化。その隙にマコトとリヴァイは距離をとると
「マコト、行けるか!」
「大丈夫!」
ジークは連れ添っていた巨人の頭部を握りつぶすとリヴァイに向かって振りかぶる。肉片は木々の隙間から銃弾のようにリヴァイを襲うがそれを阻止したのはマコトで、ブレードを構えると的確に狙いそれを切り落としていく。
「死ねよォ!!」
叫ぶようにジークは再び肉片を投げ、リヴァイは囮のように木の枝をジークの頭上に落としていく。
「お前の可愛い部下達はどうした!? まさか殺したのか!?可哀想に!!」
「必死だな、髭面野郎。お前は大人しく読書する意外無かったのに・・・なんで勘違いしちまったんだ。俺から逃げられるって。 部下を巨人にしたからって、俺が仲間を殺せないとでも思ったか?俺たちがどれだけ仲間達を殺してきたかなんて、知らねぇだろうに」
リヴァイは枝に紛れて雷槍を構えると振りかぶりジークの項の部分に全て撃ち込むとピンを抜く。
大きな爆発音と共に獣の巨人は膝から崩れ落ち、爆発の衝撃でジークも地面に叩きつけられた。リヴァイはそのまま煙を出しながら気絶しているジークの頭を掴んでズルズルと引きずると雷槍を装備してして待機していたマコトがリヴァイに駆け寄った。
「リヴァイさん!」
「マコト、怪我は?」
「何とも。リヴァイさんは?」
「俺も大丈夫だ。マコト、馬を用意しろ。すぐに移動する」
そう言うとリヴァイは悲しそうに目を伏せて森の方へと視線を向ける。森の奥では何体も巨人が倒れており、蒸発の煙をもくもくと立てていた。
そんな姿にマコトはリヴァイの手を握るとリヴァイも弱々しくだが握り返すと、
「マコト、お前は狙われている」
「え?」
「ジークとエレンの接触も危険だが、お前の持つノア・・・エヴァンスの能力も狙われている。ロッド・レイスの時もお前は危険な目にあっただろう」
「うん・・・」
不安そうにこちらを見上げてるマコトの頭にフードをかぶせてやると手を引く。先程から弱くだがポツポツと小雨が降ってきた。
「・・・とにかく、ピクシスの所へ向かう」
気絶したジークを顎で示すと、リヴァイは荷馬車にジークを放り投げ、腕を拘束するとマコトが持っていた雷槍を腹に突き刺すと、そのままワイヤーをジークの首に巻き付けた。
マコトが馬の準備をしているとジークが目を覚ました。
「う、ううっ・・・ぐ・・・!」
「目が覚めたか?オイ待て、動くんじゃない。雷槍の信管を繋ぐワイヤーをお前の首にくくってある。ヘタに動いたらお前は腹から爆発して少なくとも二つになるだろう」
「が、ごほっ!ごほっ!」
ジークはそのまま咳き込むと嘔吐し、その姿にリヴァイは眉を寄せると
「こうなると死なねぇってのも難儀だな・・・同情なんかしねぇが・・・お前は俺の部下の命を踏みにじった。お前の計画通り、ゲロクソまみれで泣きわめくのも全て計画通りか?」
リヴァイはブレードを構えると素早くジークの脚をつま先から膝まで一気に切り刻んだ。
「うああああっ、ああああ!!」
「うるせぇな。こうやって切っておかねぇとてめぇが巨人になっちまうだろうが」
痛みに絶叫するジーク、動きたくても動けば雷槍の栓が抜け爆発してしまう。そうなれば、いくらジークでも助かる確率は低い・・・地獄絵図のような光景にマコトは目を逸らしたくなったが苦しそうに息をするジークを見つめる。
「お、俺の・・・眼鏡は、どこ、だ?」
「あ?知るかよ。もうお前は眼鏡なんか必要ねぇよ」
リヴァイの愛馬に荷馬車を繋げるとマコトはリヴァイの隣に座りゆっくりと馬車は動き出す。雲行きは怪しくなり小雨だった雨が段々と強くなり、嵐のような天気となった。
左手にある川は大きな音を立てながら激しく流れ、ジークが呻くのを背中で聞きながらマコトは弱々しくリヴァイとの沈黙を破った。
「何で皆、巨人化したの・・・? 注射なんてされてないよね?」
「分からねぇ。その件もハンジと合流したら話すしか無いな。アイツなら何か分かるかもしれん」
そんな会話をしているとジークが咳き込みながら
「唯一の・・・救い、エルディアの・・・安楽死」
ブツブツとそんな言葉が聞こえたためリヴァイはマコトに馬車を止めるように指示すると荷台に移動した。
「安楽死だと? お前はこれから臭ぇ巨人の口の中で自分が咀嚼される音を聞きながら死ぬわけだが、お前にしちゃぁ随分楽な死に方だろ?お前が奪った仲間達の命に比べてみれば」
「奪ってないよ・・・俺は救ってやったんだ。そいつらから生まれてくる子供の命を、この残酷な世界から・・・」
「・・・また足が伸びてきたみてぇだな」
リヴァイは苛立ちに眉をしかめ、ブレードを抜いてジークの足を再びきり刻もうと構えた瞬間、
「クサヴァーさん! 見ててくれよ!!」
ジークは腹部に刺された雷槍の栓を抜くとピンッと金属の音が聞こえリヴァイは目を見開く。
後ろに居たマコトも驚き
「リヴァイさーー」
「マコト、にーー」
言い切るまでに雷が落ちるような衝撃音が響きリヴァイの身体が爆風で吹き飛ばされる。
一緒に居たマコトも目の前が炎に包まれ身体が吹き飛ばされた。それと同時に身体中に刺すような痛みが襲い痛みと地面に叩きつけられた衝撃で意識が朦朧とする。
顔に雨が当たる感触と、爆発の衝撃音のせいか耳鳴りが激しく何も聞こえない。雨の中視線を動かしリヴァイを探す。
視界の中、火が燃え移り暴れるリヴァイの愛馬と衝撃で脚が折れ動けないマコトの愛馬が目に飛び込んだ。
そのまま視線を地面にやると、そこにはブレードと指が見えリヴァイだ、と力を振り絞り首を動かした。が、
そこにはブレードと、トリガーに添えられた「指のみ」が落ちているだけだった。
この指は誰の指だ?
自分のでは無い、しかしこの指は見覚えがある。
いつも自分に触れていてくれたものでは無いのか?
マコトは耳鳴りがする中うつ伏せのまま匍匐前進していくと見覚えのある緑の外套が視界に飛び込んできた。
「り・・・」
声が出ずマコトはうつ伏せに倒れているリヴァイに近づく寸前で、意識が無くなった。