イェーガー派




新兵がエレンの情報を外部に漏洩させたため、ハンジとマコトはその新兵たちに話を聞こうと兵団本部へ向かった。

しかし兵団本部の門の前にはリーブス商会や報道陣が義勇兵拘束についてハンジに問い詰めようと集まってきていた。それをマコトはハンジを守りながら掻い潜りなんとか拘束した新兵とフロック、ミカサやアルミン達と合流した。


新兵達の主張はエレンを解放するべき。パラディ島国民全員の生存権を守れるのは、エレン・イェーガーである・・・というもの。

「形はどうであれ、私はジークの作戦を完遂するとの決断を下した。・・・全ては私の責任だ。だから、これ以上勝手な真似は許されない。君たちはエレンの情報を外に漏らした罪で裁かれる。 この4人を懲罰房へ」

淡々とハンジがそう言い放つと、ミカサ達は4人を拘束し部屋を出ていった。

マコトと2人きりになった部屋、ハンジはポツリと

「こういう役には、多分順番がある。役を降りても誰かがすぐに代わりを演じ始める」
「ハンジさん?」
「昔、拷問した中央憲兵のサネスって奴を覚えてるかい?」
「はい。覚えてます」
「そいつに言われたのさ。・・・はああぁー」

ハンジは大きくため息をつき歯を食いしばると

「・・・疲れた。 いやでも、まだ調べることがある」

椅子から立ち上がるとスタスタと部屋を出ていくハンジ。
その沢山の葛藤や悩みを抱える細い背中をマコトは見つめ、なんと声を掛けたらいいか戸惑っていたがマコトは慌てて背中を追いかけるとくるりとハンジはマコトと向き合う。

突然の事に急ブレーキを掛けたマコトだったが、突然ハンジは両手を広げてガバリとマコトを抱きしめた。
その強さは段々と増し、思わず背中に手を回してポンポンと叩くと、

「は、ハンジさん?」
「抱擁するとストレス値が下がるという研究があったみたいでね。はぁー落ち着く。・・・あのね、マコトが居てくれて良かったよ」
「いえ、そんな・・・私、何も助けれなくて歯がゆいんです」
「いいんだよ!キミが一緒に居てくれるだけで心強い! さあマコト、一緒に付いてきて!」


そう言って手を引かれてやってきたのは、オニャンコポンが隔離されてる民家・・・オニャンコポン、ハンジ、マコトは3人でトランプをしながら

「まったく、この期に及んで我々を疑うだなんて! 失望しましたよ! 俺たちは仲間でしょう?!この3年間、共に汗を流して培った鉄道も、貿易も、この島を豊かにしたはずです。 俺たちはエルディアに尽くしたのに!」

オニャンコポンはそう怒りを露わにするとはぁ、と悲しそうにため息を吐きトランプを切り続ける。
オニャンコポンは特に、エルディアの技術発展に貢献してくれた人物でもあるし特にハンジ達とは近い存在だった。

マコトとハンジは肩を落として視線を下ろすと

「ごめんなさいオニャンコポン・・・」
「すまない・・・10ヶ月前の鉄道開通式から、こんな事になるとは・・・」
「全くですよ、皆でエルディアの未来を誓い合ったのに・・・って、何ですかその顔!?」

ハンジは身を乗り出し物凄い形相でオニャンコポンに迫り、マコトは慌ててハンジを座らせる。

「オニャンコポンに聞きたい事があってね」
「はぁ・・・」
「イェレナが、エレンと密会した事を認めたんだよ」
「えぇ?!」

見張りの駐屯兵に聞こえないように小声でそう話すと、オニャンコポンは驚きに目を見開きその反応を見たハンジは

「・・・え、本当に知らなかった?」
「し、知りませんでしたよ。本当に」
「うん、本当に知らなかったと見える。 私にはね」
「イェレナが・・・」
「『イェレナがそんなことする訳ない』とは言わないんだね?彼女ならやりかねないと思っているから?」
「そんな事は」
「順序は正しくないが、君たちを拘束しなくてはならない理由が出来た」
「お願い、イェレナに知っている事を全て話して欲しいの。私達との、今後のためにも。ね?」

マコトもハンジに続いてそう懇願すると、オニャンコポンは視線を落とした。

元々義勇兵を率先的に組織したのはイェレナ。最初はお互いに疑心暗鬼になり上手くまとまらなかったがその度にイェレナは自らの手を汚すことでジークや組織への忠義を示してきたそうだ。

それがいくら寝食を共にした友であっても、こちらを疑ったマーレ人は全て手にかけ事故死として葬り去りオニャンコポン達も、その行為はマーレに奪われた祖国のためだ・・・と言い聞かせ乗り切ってきた。

一部始終を聞き終えたハンジは眉をしかめると、

「変だな」
「え?」
「彼女は、兵政権に反発してまでマーレ兵の人権を譲らなかった・・・そこまでマーレ人に容赦がなかった彼女が、この島では・・・よし、私についてきてくれ、オニャンコポン」
「えぇ?」
「マコト、行こう!」


***


調査兵団本部へ行くと、民衆が何かを叫んでおり近づいてみると口々に「心臓を捧げよ」と叫んでいた。

「これは、一体何が・・・」
「ハンジさん、あそこ! 火事でしょうか?!」

建物から炎と黒煙が立ち上り、消火活動をしている様子が伺える。

「どきなさい!」
「道を開けろ!」

門が開かれ担架を担いだ兵士がこちらに向かってきたためマコトは兵士に何事かと声をかけた。

「ザックレー総統が、爆発で亡くなった」
「は?」

担架に運ばれた人物は兵団のコートで覆われているがその頭部は見覚えのある白髪がチラリと覗き、黒煙が立ち上る建物を2度見した。

「そんな、なんでいきなり?!」
「俺達も分からねぇよ! いきなり総統の部屋が爆発して、爆風で外に放り出されたんだ」
「各兵団幹部は緊急招集が掛かってるから、アンタらも早く中に入りな!」

そう言うと兵士はザックレーの遺体を速やかに運び出して行く。そんな後ろ姿を眺めてハンジはまた深くため息をついたのだった。


調査の結果、ザックレーの特注で作った椅子が爆発の原因だった。ザックレー含む4名の兵士が死亡し、犯人も目的も不明だそうだ。

しかし、オニャンコポンはハンジとマコトと共に行動をしておりほかの義勇兵は軟禁中・・・新たな勢力説が浮かび上がったところでアルミンは何かを思い出すと

「あの椅子は、新兵に運ばせたと総統は申しておりました」
「どこの新兵だ?」
「総統は、新兵とだけしか・・・しかし、僕とミカサは総統の部屋を訪れる前に本部から立ち去る新兵を見かけました。・・・調査兵団です」

そう言い終えた途端、アルミンはハッと目を見開き全員は青ざめた顔でマコトたち調査兵団を見つめる。

「調査兵団といえば、エレンの情報を外に漏らして懲罰を受けた者共がいると聞いたが?まさか・・・」

バンッ!

扉を乱暴に開く音で制止された。

「緊急事態です!!エレン・イェーガーが、地下牢から脱走しました!」
「兵を総動員して捜索するんだ!」

全員が頷くと部屋を後にし、残されたハンジ、マコト、ミカサ、アルミンは呆然と立ち尽くすしか無かった。


懲罰房に入れられていたフロックたちも、それを見ていた看守もエレン・イェーガーの脱走と同時に姿を眩ませた。ザックレーの殺害も彼らと見なし、反兵団破壊工作組織 イェーガー派≠ニ呼称される事となった。

脱走したイェーガー派の今後の目的はジークとエレンの接触を果たすことが目的だろう。ジークの居場所を知るのは、現地で監視に当たるリヴァイと30名の兵士。

「他に居場所を知るものは補給を受け持つ3名。その中には、リヴァイの妻であるマコトもいます。後は、私だけです」

調査兵団が疑われる中、仲裁に入ってきたピクシスにそう伝えると

「よろしい、ならばその2名をここへ。ナイル、女王の住処は安全か?」
「限られた者しか知りませんが・・・今一度確認します!」
「エレンがまず狙うは、ジークとの接触。そしてヒストリア女王。まずはこのふたつの守りを万全のものとせよ!」
「ピクシス司令! 総統を失った今、我々を束ね統率する事が出来るのは、あなただけです。何か、今後の展望はございますか?」

アルミンの言葉にピクシスはうーーーむ、と長い時間唸ると

「これはもう、ワシらの負けじゃ。エレンに降参しよう」

まさかの白旗発言にその場に居た全員が呆気に取られる。兵団内部に、敵であるイェーガー派を抱えていてはどうにもならない。敵を炙り出すにしても、無駄な血を流すだけ・・・そんな愚行に費やす時間は今無いというのがピクシスの意見だ。

「多くの兵に、兵団を見限る決断をさせた・・・我々の敗因はこれに尽きる」
「そんな、総統らを殺した連中に頭を下げるおつもりですか?!」
「ザックレーとの付き合いは長い。革命に生き革命に敗れるのなら、ヤツも本望じゃろう。何より、4名の死者はその弔いの代償にエルディア国の崩壊を望んではいないだろう」
「それでは、イェーガー兄弟に服従するおつもりですか?」
「服従ではない。イェーガー派に、ジークの居場所を教える事を条件に交渉を図る。我々は従来通り地鳴らしの実験を見守り、これにエルディアの存続を委ねる。ただし、我々の親玉を殺された件をここに不問とする。これで、数百、数千の同士が殺し合わずに済むのなら・・・安かろう」

歯を食いしばりながらそう言い切ったピクシスに全員が拳を握りしめた。



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