地下牢



「(それにしても夜はわがまま言い過ぎたなぁ・・・)」

人間、生命の危機を感じると子孫を残そうとする本能が出る。 大きな震災後に結婚ラッシュがあるのもその本能なのだが・・・リヴァイも疲れていただろうに無理をさせてしまったとマコトは心の中でどんよりとしていると

「悪いねマコト、私のサポートに回ってくれて。正直助かるよ・・・」

少しやつれ気味のハンジを見つめ、マコトは慌ててハンジを見つめると

「ハンジさん、眠れてます?」
「あはは・・・あんまり、かな。考え事が多すぎてね。眠れないんだ。」

それはストレスなのでは、とマコトは不安そうに眉を寄せると揺られる馬車の中でハンジのメガネを取り上げ、肩を支え寝かせようとする。

「え?え?マコト、何?見えないんだけど・・・」
「着くまでまだ時間はかかりますし、横になっててください。横になって目を閉じただけでもだいぶ違いますから。」

そう言ってハンジに膝枕をするとぽんぽんと肩を撫でてやる。するとハンジはフッと笑い

「もしかして、リヴァイにもこうしてるの?」
「ふふ、たまに」
「あのリヴァイが?想像したくないなぁ・・・しかも、これ見られたら怒られるじゃん」

ハンジはケタケタと笑うと、マコトの膝に頭を預けるとゆっくりと目を閉じた。







馬車に揺られること数十分、エレンが居る地下牢へとやってきた。
バシャン!という水の音が聞こえマコトとハンジは目を合わせて一直線に伸びる通路を歩く。

「戦え、戦え」

エレンの呟くような独り言が地下牢に響き、マコトは眉を寄せ一旦足を止めそうになるがハンジはカツカツとブーツの音を鳴らしながらエレンの牢の前に立つと

「何してるの? 鏡に向かって話しかけていたの?さっき君は戦え、戦えって言ったんだよね? 戦え、戦えって・・・ねぇ、何と戦うの? 戦え、戦えって2回言ったってことは、2回戦があるのかな?」

普通の人間ならば、鏡に向かって話しかけたりはしない。エレンの異様な行動にマコトは何も言えずハンジとエレンとのやりとりを見守る。

「私は鏡に映る自分に話しかけたりした事が無いからさ・・・ああ、エレン。その髪型、カッコイイと思うよ。私は。ちょっと乱れてる感じとか頑張って無造作に見えるような努力が伝わってくるし。ねぇマコト・・・」
「何しに来たんですか」

荒っぽくエレンがハンジの言葉を遮る。

「何って、君と話に来たんだよ。初めて会った時なんてひと晩中巨人について語り明かしたじゃないか。・・・私の一方的な話を、君は聞いてくれていた。私は確信していた。君がヒストリアを犠牲にする事は無いって。」

キヨミが初めてこの島に来てジークの秘策を聞いた日、あの日エレンは怒りを露わにしていた。
焦燥感を共にしたはずが、エレンは単独行動に出てパラディ島を危機に追い込んだ・・・その行動に周りは理解が出来なかった。

「ヒストリアはどうなっても良かったのかい?」
「・・・オレは戦鎚の巨人を食いました。」

質問に答えないエレンにハンジは思わず「へ?」と声が出てしまう。 エレンは水浸しになった洗面台のボウルを眺めながら

「戦鎚の巨人の能力は、地面から自在に硬質化を操り・・・武器でも何でも生み出せるんです。・・・つまり、どれだけ深く硬い地下にオレを幽閉しても、無駄だって事です」

やろうと思えば、好きな時にここから脱出が出来る。しかし始祖の力を持つエレンを殺す事も出来ない。

エレンはハンジに身体を向けるとハンジを見下ろした。

「ハンジさん。あなたに何ができるって言うんですか?教えてくださいよ」

するとエレンは牢越しから腕を伸ばすとハンジの胸ぐらを掴み引き寄せた。

「っぐ!」
「エレン!やめなさい!」

マコトは急いでハンジを掴むエレンを柵越しから殴ろうとするとその手も掌でパシン!と受け止められてしまいグッと物凄い握力で握られた。

食い込む指に眉をしかめるとエレンはハンジとマコトを見ると

「他のやり方があったら、教えてくださいよ!」

その瞬間、エレンから巨人化する光が現れ危機感を感じたハンジは身体を無理矢理離しマコトの腕を引っ張ると距離を取った。

「エ、エレンのエッチ!!未だに反抗期かよ、この・・・バカ!若者!!マコト、行くよ!」
「は、はい・・・」

スタスタと階段を上がっていくハンジ。
マコトは振り向くが、暗がりでエレンの表情は伺えない。

「(エレンが怖い・・・)」

怒っているから、巨人の能力があるからという次元ではなく何を考えているか分からないから怖いのだ。

マコトは先程受け止められてしまった拳をグッと握るとエレンの前に立ち見上げた。

あの日から成長しマコトの頭ひとつ分は大きくなってしまったエレン。あの頃のような幼さは消え失せ、ただ曇った目でマコトを見下ろしている。

「エレン、その力を使わないって事はここから出る気は無いって事だよね? 」

その質問にエレンは何も答えない。
マコトは背伸びをし、手を伸ばしてエレンの頬を撫でると

「お願いエレン。このままじっとしていて欲しい・・・。もう、あなたに人殺しなんてさせない」

その言葉にやっと、エレンが眉を寄せ唇を噛む。
少しは反応してくれた・・・とマコトは微笑むとエレンの肩にコツンと拳を当てて小さく手を振ると地下牢を後にした。




ジメジメとした地下牢を出て新鮮な空気を吸うと、ドア横の壁にハンジが座り込んでいた。

「ハンジさん!?大丈夫?」
「はは・・・ビックリしたよね。手は大丈夫かい?」
「大丈夫です。ハンジさんは?」
「私も大丈夫だよ。」

ハンジはハァ・・・と大きくため息を着くとゆっくりと立ち上がると兵士が慌てて走ってきた。

「ハンジ団長、兵団本部に記者と民間人が取り囲んでいて・・・」
「記者が?なんでまた・・・」
「エレン・イェーガーと義勇兵を拘束したという情報が漏洩したようです」
「はあぁ?!」

リベリオ襲撃は、エレンとその義勇兵により成功したと思っているようでその両者を兵団が拘束したのは納得行かない・・・ハンジは大きくため息をつくと

「犯人は?」
「既に拘束済み、兵団本部に待機させてあります」
「ご苦労。 すぐに向かうよ。・・・マコト、君も来るかい?」
「私は・・・」

地下牢で思い出したが、リベリオ襲撃で拘束された子供2人が気になる。

「少し野暮用を終えたらすぐに追いつきます。 すまない、馬の手配を」
「はっ!厩舎にてお待ちください」
「悪いね」

兵士は敬礼をすると駆け足で階段を上がっていった。


問題や疑問がどんどん重なっていく・・・ハンジは再び重いため息を着くとマコトはハンジの背中をさすった。



***



人里離れた使われていない別の建物の地下牢に幽閉されたガビとファルコ。

コツコツ、ブーツの音が聞こえてファルコはゆっくりと顔を上げると目を見開いた。

「あなたは・・・」

その言葉にガビも顔を上げる。
そこにはマコトが立っており2人を見るとニコッと微笑んだ。

「こんにちは」
「こん、にちは・・・」

後ろには兵士が2人控えておりマコトはアイコンタクトをとると牢を開かせた。

小さく開かれた扉の隙間を縫ってマコトは牢屋の中に入ってくるとさすがのファルコもガビも警戒してベッドから降りると身構えた。

「落ち着いて。何もしないから」

両手を上げてマコトは笑いかけると別の兵士が食事を持ってきた。

「子供をこんなジメジメした地下牢に閉じ込めたくはないんだけど。 君たち強そうだから、ごめんね」
「いえ・・・」

机は無いため床に料理を置く。
来た時に渡されたのは硬いパンのみだったのだが、マコトが用意したのは柔らかいパンにスープ、サラダだった。

「私が作ったの。2人とも育ち盛りなんだから、食べなさい」

2人は驚いた顔をしてマコトと料理を交互に見つめる。

「毒は入ってないよ。はい、いただきます」
「アンタも、ここで食べるの?」
「ん?」

パンをもぐもぐとさせたマコトは笑うと

「もちろん。2人じゃ寂しいでしょ?ほらほら冷めちゃうよ」

座りなさい、と食事を再開させたマコトを見てガビとファルコも恐る恐るだが座るとスープに口をつけた。

「美味い・・・」
「・・・・・・」

その反応にマコトは嬉しそうに「ほんと?」と喜ぶ。黙々と食べ始めた2人を見ると

「私はマコト・アッカーマン。君たちは?」
「ファルコ・グライスです」
「・・・悪魔に名乗る名前はない」
「おい!」

その割にちゃっかり食事を食べているためマコトは微笑む。

「ガビ・ブラウン、だよね」
「なっ・・・」
「ここに拘束される時名前聞かれたでしょう。書いてあった。」

じゃあ何故聞いた、とガビは悔しそうな顔をするがマコトは涼しい顔で水を飲むと

「あ、ねぇ2人はライナー・ブラウンって知ってる?」
「っ!」
「ライナー・・・?」

知っている名前に2人は顔を上げると

「あ、やっぱり知ってるんだ。」
「・・・ライナーが、どうしたのよ」
「私、訓練兵団の教官をやっていた時期があったの。その時に初めて受け持った訓練兵の中にライナーが居んだよ」
「ライナー・ブラウンは・・・私の親戚です」

親戚、そう聞くとマコトは目を見開いて「そうなの?!」と驚くと

「とっても優秀な兵士だったよ。常に成績上位で、皆のお兄さん的な立場だった。私も勉強になる部分が沢山あった」
「何で私にそんな事・・・」
「何でって、しばらく離れ離れだったでしょう?どんな風に過ごしていたから気になるでしょ?」

当たり前のように言うマコトにガビとファルコは混乱すると

「あなたは、私たちを殺さないの? アンタ達の仲間を殺したのよ」
「殺すか殺さないかは分からないなぁ。決定権は私には無いからね。でも、ここの人達はあなた達と同じ人間だから・・・頭ごなしに悪魔悪魔って言う前にここの人達の事を知ってもらえればいいなとは思ってる。」

最後のパンを口に放り込むとマコトは平らげてしまった。トレイを持ち上げてマコトは笑うと

「おかわりが欲しかったら兵士さんに言ってね。私は次の仕事があるから。またライナーの話をしに来るから、ここでじっとしててね」

またね、とマコトは微笑んで手を振ると地下牢を後にした。

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