別れ



数時間前ー

マーレと中東連合との4年に渡る戦争が幕を閉じた。各国の要人が集まり、街もお祭り騒ぎだ。

戦鎚の巨人を保有するタイバー家がパラディ島へ宣戦布告をした瞬間、調査兵団を抜け出し姿を眩ませていたエレン・イェーガーがレベリオ区を急襲し始めた。

エレンからの手紙を受け取ったマコトたち調査兵団はその合図で動き始め、エレンを取り戻すためミカサが最前線へ向かった。

エレンの持つ進撃の巨人、戦鎚の巨人、獣の巨人・・・そして作戦では出てこないはずの車力の巨人と顎の巨人が現れ、レベリオ区は地獄絵図となった。

マーレの市民は突然現れた巨人に家や家族を奪われ、ただひたすら呆然とするしか無かった。







リヴァイは飛行艇にアンカーを打つとワイヤーを巻き取り上に上がろうとすると、先に到着していたマコトが慌てて顔を出しリヴァイの顔を見るとホッとした顔になり、すぐに手を差し出した。

「リヴァイさん!」
「マコト、怪我は?」

マコトの手を取り飛行艇の中に入る。その問にマコトはふるふると首を振ると

「無事だよ。リヴァイさんは?」
「俺も無事だ。・・・こいつも回収出来たことだ、とっととずらかるぞ。これ以上死人は増やせねぇ」

他の兵士が引き上げている人物。 リヴァイが顎でやる先には煙を立てて意識が朦朧としている男性・・・ジーク・イェーガーだ。

ジークはマコトを見ると

「あんたは・・・あの時の、おっかないお嬢さん」
「多分貴方と歳は変わらないのでお嬢さんって呼ばれるほどの歳ではありませんが、お久しぶりですね。ジーク・イェーガーさん。」
「あの日みたいに呑気にお茶しましょうって出来る雰囲気ではないね」

はは・・・と力なく笑うと腰の当たりをゲシッと衝撃が走る。

「イタッ!?ちょ、痛いなぁリヴァイ。 もうちょっと優しくしてくれよ」
「あ? 人の嫁さんにちょっかい出してんじゃねぇぞ」
「嫁・・・?え、アンタ達夫婦なの?」
「自己紹介がまだでしたね。マコト・アッカーマンと申します」
「あの日からずっと俺とマコトは夫婦だ」

そう言うとジークは「嘘だろぉ」と驚き

「お前ら鬼夫婦じゃん・・・あ、鬼って分かる?東洋の・・・」
「リヴァイ兵長、マコト副官!」

駆け寄ってきたアルミンは敬礼をすると

「ご無事で何よりです」
「うん。・・・アルミンも、辛い役を任せてごめんね」
「・・・いえ。この作戦を思いついたのは僕でもありますし」

悲しそうに目を伏せるとカンッ!と再びアンカーが当たる音がし、そちらに視線を向けるとミカサだった。マコトは急いで駆け寄りミカサの手を引いて飛行船の中に引き入れる。その傍らにはエレンも居りマコトは悲しそうにエレンを見ると

「エレン・・・久しぶりだね」
「・・・お久しぶりです」

あの日と変わり髪や髭は伸び放題のエレン。
アルミンも悲しそうな顔をしてエレンを引き上げると

「何て汚ぇナリだ。糞溜めに落ちたようだな・・・」

汚物を見るような、軽蔑をする目でリヴァイはエレンを見下ろすといつしかの如くエレンの顔を蹴った。
エレンは壁に身体をぶつけ床に転がり、ミカサは止めに入ろうとするがアルミンがそうはさせなかった。

マコトは後ろに控えていた兵士を指でクイッと指示すると自身も新型立体機動装置の腿に着けたホルスターから自動小銃を取り出しエレンに突きつけた。

リヴァイはマコトの横に立つと

「懐かしいなエレン、相変わらずお前は蹴りやすい。・・・まずはお前を拘束する。話はそれからだ」
「構いませんが・・・全ては手紙に書いた通りです。ご理解頂けたはずでは?」

ジークに全てを委ねる・・・同意したからこそ、ここに来たのではというエレンの変わり果てた顔つきにリヴァイは虫唾が走り眉を寄せると

「その面、地下街で腐るほど見てきたクソ野郎共と一緒だ・・・まさかエレン、お前が・・・・・・」

言いかけてリヴァイはグッと拳を握ると

「喜べ、全てお前らの思い通りだ」

連れて行け、そのリヴァイの指示に兵士は返事をするとエレンを拘束しジークも奥へと連れていかれた。
リヴァイとマコトもその後に続いて長い廊下を歩くが途中でリヴァイは立ち止まると、爪がくい込むほど拳を握る。

その手をマコトは自身の手を重ねれば力が抜け、ギュッと握りしめた。

「リヴァイさん・・・あなたが無事でよかった」

その言葉にリヴァイはマコトの顔を見ると、泣きそうな顔で笑っている。そんなマコトを引き寄せると唇を重ね、額をこつんとぶつけると

「ああ、お前も無事でよかった」
「ん・・・早く帰りたいね・・・」
「ああ、全くだ」

2人は肩を並べると、ハンジのいる操縦室へと向かった。



ジークとエレンを拘束し、操縦室前にはイェレナ、エレン、ミカサ、アルミン、リヴァイ、マコトのみとなった。廊下の向こうから聞こえるどんちゃん騒ぎにリヴァイは眉を寄せるとそれを見たマコトは

「私、ちょっと行ってくる」
「いい。ほっておけ」

そう言うがマコトはふるふると首を振ると

「まだここは敵陣の中・・・油断はできないよ。 ここ、お願いしますね」

リヴァイに微笑みかけるとマコトは廊下を出て、ドアノブに手を掛け開いた瞬間だ。

バァン!

突然の銃声にマコトは反射的にしゃがみこんでしまった。

狭い空間での銃声に耳鳴りがし、マコトは何が起こったんだとゆっくりと立ち上がるとドアを開いた。

それと同時にドサッと誰かが倒れる音。
呆気にとられ全員が固まる中マコトは倒れた人物を見ると目を見開いた。

「サ、シャ・・・?」

仰向けに倒れたサシャの腹からはみるみる血が広がり床を血に染めていく。

一瞬何が起きたのか分からずジャンもコニーも固まっていたが周りの兵士は我に返るとすぐさま撃ったと思われる人物を拘束に掛かった。

マコトは床を蹴ると縺れるように床に這いつくばりサシャに近づくと

「サシャ!サシャ!!!」
「おい嘘だろ!」
「マコトさん、どうすれば・・・」
「っとにかく、止血!」

周りに指示を飛ばし、マコトはハンカチを取り出すとサシャの腹に押し当てた。

「サシャ!」
「サシャ!!オイ!」
「島まで耐えろよ!!」

持ってきた止血帯をマコトは手早くぐるぐると巻き他の兵士に抑えてもらいながら血を止める。
ジャンとコニーは声を掛け続けていると意識が朦朧としたサシャは

「うるさいなぁ・・・もう・・・ご飯は・・・まだですか・・・?」
「サシャ、帰ったらご飯あるから・・・ニコロさんが、作って待っててくれてるんだから、お願い耐えて!」
「・・・肉」
「肉も買ってあげるから!お願い!」

震える手に力を込めてマコトはそう叫ぶ。

フロックはボコボコに殴られた2人の少年と少女の首根っこを掴むとマコト達の元に連れてきた。

「コイツら、ロボフさんの立体機動装置を使って飛び乗ってきやがったんだ・・・今からコイツらを外に投げる。マコトさん・・・良いですよね?」

マコトは目を見開いて2人の少年少女を見つめた。まだ12歳ほどの、まだ小さな子供だ。

「・・・本当にこの子達が、サシャを?」
「はい。これが、その銃です」

そう言って突きつけられたライフル・・・マコトはライフルと子供を交互に見つめると

「この銃は、君の?」

そう問いかけると少年は目を伏せ、少女は噛み付くように唸ると

「黙れッ!この悪魔!」

その言葉にマコトは息を詰まらせていると

「このっ・・・外から放り投げます、良いですね!?」

フロックが舌打ちをして襟首を掴み直すと、ジャンは力任せにガンッ!と壁を殴った。

「その子供を空から投げ捨てれば、この殺し合いが終わるのかよ・・・?」
「・・・ジャン、落ち着いて。 皆、サシャの止血を。」

マコトは手を離し、血にまみれてしまった手のまま2人を見つめると

「あなた達は、戦闘経験があるの?」
「私達は、マーレの戦士だ!」
「そう。・・・そっちの君も?」

少年を見つめると小さく頷いた。
こんな子供が兵士になり人を殺す・・・その現実にマコトは動揺していると、突然少女がマコトの顔に向かって蹴りを入れようとした。

咄嗟にマコトはそれを腕で防御すると、脚を掴み少女を床に叩きつけた。素早い動きに少女も驚いて混乱しており何が起きたか分からない状態だ。

「・・・とにかく、団長に報告。私が連れていこう」
「マコトさん俺も同行します」
「ありがとうジャン。 じゃあこの気性の荒いお嬢さんを頼もうかな」

そう言うとマコトは拘束した腕のロープを掴むとジャンに渡しもう1人の少年を見ると

「・・・君は状況が把握出来てるみたいだね。」

そう言って肩をポン、と優しく押すとハンジの居る操縦室へと向かおうとする。

しかし少女は暴れるとジャンを睨みつけ

「触るな悪魔!!私達は負けてない!ジーク戦士長が遺した意思は私たち同胞が引き継ぐ!お前らを呪い殺すのは真のエルディア人だ!私を殺した後、首謀者にそう伝えろ!」

少女は唾を飛ばしながら怒り狂い、血走った目でそう叫ぶとジャンはハァ、と溜息をつき

「・・・今から会わせてやる。 そいつに同じ事言ってやれよ。 マコトさん、行きましょう」

そう言うとジャンは少女を引きずりながら進みドアを開いた。





「失礼します」

マコトとジャンは部屋に入ると全員がこちらを見て、2人の子供を見ると首を傾げた。

ジークは目を見開くと

「カビ、ファルコ・・・?何故ここにいる」
「なぜって・・・ジークさんが、なぜ?」
「生きてたんだね?!でも、こいつらに捕まっていたなんて・・・!」

その会話を聞きながらリヴァイはマコトを見ると

「このガキはどうした?」
「ロボフさんの立体機動装置を使って侵入した模様です。」
「・・・そして、この子にサシャが撃たれて・・・もう、助かりそうにありません」

その言葉にミカサ、アルミン、リヴァイは目を見開くと2人は慌てて部屋を飛び出して行った。
よく見ればマコトの手は血だらけで、リヴァイは肩に手を置くと

「・・・最善は尽くしたのか」
「は、い・・・」
「マコト、ここはいい。ジャンに任せてお前はサシャの所へ」

いいな、と言い聞かせるように伝えるとマコトは頷きジャンにロープを渡すとフラフラとした足取りで出ていった。


リヴァイはそんな後ろ姿を見送っていると、操縦室の扉が開きハンジが出てきた。

「それじゃあ、後は頼んだよ。オニャンコポン」
「了解です、ハンジさん!」

中からオニャンコポンの声が聞こえ、ハンジはドアを閉めるとジークを見下ろす。

「・・・それで? 全て計画通り、ってわけですか。ジーク・イェーガー」
「・・・大筋は良かったが、多少の誤算はあった」

誤算・・・ハンジは視線をこちらにやるとガビとファルコと呼ばれた少女と少年を見て目を見開く

「えっと、なに?この子達?」
「・・・誤算だ」
「ジークさん・・・?」

ジャンはイェレナを睨みつけると

「おい!イェレナ!顎と車力はお前が拘束するんじゃなかったのかよ?!仲間が余計に死んだぞ!!」
「悪かった・・・確かに二人を穴に落としたんだけど・・・脱出されてしまった。私の誤算だ。」
「その余波で獣が予定より多めの石つぶてを俺達にくれてやったってワケか。道化にしては大した即興劇だった。なぁ髭面ァ・・・」
「そう睨みつけるなよリヴァイ、小便チビったらどうしてくれんだ?お前こそ大した役者じゃないか、俺を殺したくて殺したくて仕方なかっただろうになぁ」

煽るようにそう放つとリヴァイは眉を寄せて目を細めると

「・・・俺は、一番食いてぇモンを最後まで取っておくタイプだ。よぉく味わって食いてぇからな」
「お前・・・嫁さんと上手く行ってる?大丈夫?」
「あぁ?そりゃどう言う意味だ。こう見えて俺は愛妻家だ」

睨み合う二人にエレンは

「・・・マーレ軍幹部を殺し、主力戦艦は壊滅させた。これで時間は稼げるはずです」
「それは、世界がパラディ島に総攻撃を仕掛けてくる時間を・・・ってことかい?私たちはキミが敵に捕まる度に命懸けでキミを取り戻した。どれだけ仲間が死のうとね。それを分かっていて自ら人質になる強硬策に出るなんて、お望み通りこちらは選択の余地ナシだよ。」

ハンジも眉を寄せてエレンを軽蔑するように見下ろすと

「・・・キミは我々を信頼しての行動だと思うけど、我々はキミへの信頼を失った。」
「だがこうして始祖の巨人と王家の血を引く巨人が揃った。全ての尊い犠牲がエルディアに自由をもたらし、必ず救われる」

その言葉にハンジもリヴァイも黙り込むと、コニーとマコトが入ってきた。

「サシャが、死んだ・・・」

唇を震わせながらコニーは絞り出すようにそう呟いた。 その言葉にジャンは目を見開き、ハンジも「え?」と状況を掴めないでいる。

マコトはフラフラと床に座り込むと、ポタポタと涙がこぼれ落ちる。リヴァイが駆け寄ると、マコト縋るように声を出して泣き始めた。

遠くではミカサとアルミンの泣き声が聞こえ、この部屋ではマコトが声を出して泣く声だけが響く。

「コニー、サシャは最後・・・何か言ってたか?」
「・・・肉、って言ってた」

その言葉にエレンは突然ククッと笑い始めた。
肩を震わせて笑う姿に全員は唖然とするがジャンはギリ、と歯を食いしばると

「エレン・・・お前が調査兵団を巻き込んだから、サシャは死んだんだぞ・・・」
「・・・リヴァイ、マコトを落ち着かせてあげて」
「了解だ」

リヴァイは涙を流すマコトを横抱きに抱え、部屋を出ていった。



prev | next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -