幸せな夢
「ママ〜!」
「ただいま!」
双子の少年と少女が家のドアを笑顔で開けると、入り口の玄関マットで靴に着いた泥を慣れた足さばきで落とすと家の中に足を踏み入れる。
そのママと呼ばれた人物はテーブルに頬杖をついてすやすやと眠っていた。
2人はそんな姿を見ると顔を見合わせてシーッと指を立てて振り向くと小声で
「パパ、ママおねんねしてる」
「俺たちが帰ってくるのが遅いからくたびれちまったか?」
パパと呼ばれた男性は優しく微笑みながら釣竿を片手に、バケツを片手に持っている。同じく男性も入り口のマットで靴の砂を落とすと釣竿を玄関に置いてバケツを男の子に渡すと
「エルウィン、これを台所に持って行ってくれ」
「はーい!」
「パパ、ハンネ毛布持ってきたよ。ママ風邪ひいちゃうよね」
エルウィンと呼ばれた少年は台所へ、ハンネと呼ばれた少女は薄い毛布を持ってくると男性は頭を撫でてやった。
「ハンネは優しいな。 ママに掛けてやるといい。」
「うん!」
そう言うと毛布を広げママの肩に掛けてやると
「ん・・・?」
「あ、ママ起きた? おはよう!」
女性は少女を見ると優しく微笑んで頭を撫でると額にキスをする。
「ごめんごめん、私ったら寝ちゃってたんだね」
「ママ〜僕も!」
エルウィンは女性に駆け寄ると、女性は「はいはい」と嬉しそうに笑い同じように額にキスをしてやる。
「パパといっぱいお魚とったよ!」
「ハンネもね、山菜採り頑張ったの!」
「わぁ、凄いね!ありがとう。今日の晩御飯は豪華にしよっかな!」
「やったー!」
「ハンネも手伝う!」
女性は2人の頭を撫で、椅子から立ち上がると男性の背中に腕を回し抱き合った。
「おかえりなさい、リヴァイさん」
「ああ、ただいま。マコト」
2人は顔を見合わせ軽く唇を重ねると幸せそうに微笑みあった。
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「マコト」
頬を撫でられマコトは目を開いた。
どうやら仮眠室で眠っていたらしく、顔を上げると膝を着いたリヴァイの顔が視界いっぱいに飛び込んできた。
「リヴァイさん・・・?あれ、ここは・・・」
「まだ飛行艇だ。寝ぼけるくらいには眠れたって事だな」
良かった、とリヴァイは安心したように息を吐くと隣に座りマコトの手を握った。
マコトはその手を握り返すと
「何か・・・凄く幸せな夢見てたの」
「どんなだ?」
優しく問いかけるとマコトは苦笑いし
「ん〜それが、覚えてなくって」
「はっ、まあ夢なんてそんなもんだろ。」
「はは・・・私ったら現実逃避してたのかも」
無理やり笑うマコトにリヴァイは眉を寄せると赤く腫れたマコトの目を優しく撫でてやる。
するとドアが開き、ハンジはマコトを見ると
「・・・パラディ島が見えてきたよ。 ・・・マコト、大丈夫?」
「はい。ありがとうございます、ハンジさん」
小窓から少し薄明るくなった外を見れば、そこには小さな島がポツンと見え始めてきた。
「・・・帰ってこれたな」
「うん・・・ねぇリヴァイさん、何でこんなことになったんだろう。 どこでどうしてたらこんな風にならなかったんだろう」
そんなマコトの横顔を見つめリヴァイは悲痛に顔をゆがめ俯くと
「・・・分からねぇな。」
「どうしたら・・・」
マコトは傍らに置いてあった、血だらけのハンカチにそっと手を触れる。
「いっその事、外の世界を知らない方が良かったのかもしれないね・・・」
その呟きは、飛行艇のエンジン音に掻き消された。