マーレ大陸:前編



船に揺られながら、調査兵団は見え始めたマーレの街を見つめていた。


「本当に壁の外にも町があって・・・人が住んでるんだな」
「おい、「壁の外」とか他人の前で言うなよ?」
「分かってるって」

ジャンやコニーが小声でそんな会話をしながら隣に立っていたサシャはごくりと生唾を飲み込みながら

「いよいよですね、私達が壁外の地を踏む最初の壁内人類・・・」
「だから言うなって。お前らマジで馬鹿だな」
「まあこれこそが、元より我々に課せられた仕事といえる。」

風で飛ばされないようにハンジは帽子を抑えながらキラキラした目を向けると

「調査開始だ」





***





マーレの地に降り立った調査兵団は、その街並みや人の活気に圧倒され全員口が半開きになってしまった。

「ここが、マーレ・・・」
「人が多いな・・・」

すると、おーい!と声が聞こえ人混みから見覚えのある人物がやってきた。オニャンコポンだ。

帽子をとって恭しく一礼すると

「皆さん、マーレ大陸へようこそ!アズマビト様のお屋敷までご案内致します!」

オニャンコポンを先頭に歩いていると、そこには車がありコニーはええっ!?と叫んだ。

「あれ・・・馬か!?」
「牛じゃないんですか?!そういう牛ですよ!」
「違うよ2人とも、車だよ!来る前に話は聞いてただろ? オーイ!車ァ〜!」

コニーとサシャ、ハンジは車をを見て大騒ぎし、明らかに目立っている。それを見たジャンは顔を赤くして帽子を深く被る。

アルミンは顔を青白くさせながら

「マズいよ・・・見られてる・・・!」
「ああ・・・俺達、完全に田舎者だと思われてんな。 他人のフリしとこうぜ・・・」

キャッキャウフフとはしゃぐメンバーに、オニャンコポンは微笑ましく見守っていたがリヴァイは

「おい、奴らを止めねぇと鉄の塊にニンジン食わせようとするぞ」
「ははは!そんなまさか・・・・・・ってニンジン買ってる!!待ってくださーい!!」


ニンジンを買う事を無事に阻止できたが、道行く道に露天が並んでおり壁内では見たことがないものばかりだ。


「そこのボクとお嬢ちゃん」

リヴァイとマコトはその声かけに気づかずにサシャやコニーを見張りつつ露店をを眺めていると

「甘いキャンディはいかが?」

自分達に話しかけられている訳では無いと思っていたのだが

「キミらだよ」

振り向くとそこにはピエロが立っておりマコトは声を上げて驚き、リヴァイは目を見開くとマコトを守るように前に立った。

ピエロは絶えずニコニコしておりリヴァイを見ると

「チビッ子ギャングかな?カッコイイね!」

するとリヴァイの胸ポケットに棒キャンディをグサッと挿しこみ、マコトの手にも棒キャンディを手渡すと手を振って人混みに紛れてしまった。

突然の事にマコトは開いた口が塞がらない状態、リヴァイは眉を寄せると

「なんだアイツ、気配がなかった」
「び、びっくりしたね・・・」
「なあマコトよ、俺はそんなにガキ臭く見えるか?」

ズーンという効果が出そうなリヴァイの顔を見てマコトは慌てると

「東洋人って若く見られるから!いい事だよ!」
「飴貰うほどガキに見えたのか、俺は・・・」
「リヴァイさん・・・!」

どうしよう、マコトは焦ってハンジを見つめるとハンジは頭をフル回転させると

「わ、わあ!いいなぁ飴貰えて!あはは!」
「よせハンジ、慰めの言葉はいらねぇ・・・」

ハンジのフォローも虚しく終わり、若干傷つきながらもオニャンコポンの背中を追いかけた。




このままでははぐれてしまいそうだな、とマコトはふぅ、と息を吐くと手を握られた。

相手はリヴァイでマコトを見ると

「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫!はぐれそうだなって思って」
「こうすればはぐれないだろ」

手をギュッと握られマコトはうん、と笑う。
オニャンコポンは何かを見つけると

「あれ食べてみませんか?」

そう指をさしたのはアイス屋だった。

.
.
.

「ん美味い!」

冷たく甘いバニラの味が口の中に広がりマコトはリヴァイに差し出すと

「リヴァイさんも、ほらっ!」
「どうやって食えばいいんだ」
「かぶりつけばいいよ」

そう言うとリヴァイは恐る恐るとアイスに口を含めると冷たいのと甘いのが同時に襲ってきたのか驚いた顔をすると

「・・・奇天烈な物作りやがって」
「でも美味しいでしょ」
「ああ、悪くない」

リヴァイも僅かに頬を緩めるとマコトの腰に小さな少年がぶつかってきたのでマコトはごめんね、と謝る。

その瞬間リヴァイは眉を寄せて目を細めると

「・・・おい、それはお前のじゃねぇだろうが」

その少年が持っていたのは、マコトの財布だ。


マコトはいつの間に・・・!と驚いていると

「スリだ!」
「また敵国の移民か・・・」

それを見た途端、露天の店主や周りの住民が少年を取り囲み始めた。

「どうやってここに来た?」
「船に紛れ込んでいたんだろ・・・」
「海に放り投げるってのはどうだ?」
「いや、右腕をへし折ってやろうぜ。」
「通りの目立つところにしばらく吊るしておこう。そうすりゃこそドロも減るだろ」

さらりと残酷な事を言い放ちはじめる大人に被害者であるマコトは慌てて肩を掴むと

「そっ、そんな!やり過ぎです!私の財布は無事だったんですから!」
「これは姉ちゃんの問題じゃねぇ。しっかり罰を与え、示しをつけねぇと。ここで商売して生きてる俺たちの問題だ」

すると商人の1人が指を指すと

「それに・・・国を追われた移民なら「ユミルの民」かもしれねぇ。ここ数年どの国も血液検査に躍起になっているからな・・・悪魔の血がその辺に紛れてちゃ夜も眠れたもんじゃねぇよ」

冷たい目線を浴び、震える少年にリヴァイは目を細めると突然少年を小脇に抱えて歩き始めた。

「おいアンタ、何してんだ」
「誰がスリだと言った?俺は自分の息子に「これはお前のじゃねぇ」と言っただけだ。 ・・・これは、俺の嫁さんの財布だ」

チラッとリヴァイはマコトを見つめ、マコトは慌てているとハンジがあはは〜!と笑い

「いやぁ!複雑な家庭事情があってね!この子この夫婦の養子なの!ね、ママ!」
「そ、そうなんです!! すみません、うちの息子がお騒がせ致しました!」

そう言って頭を下げながら距離をとると全員一気に走り始めた。



リヴァイの片手には少年、片手にはマコトの手・・・

「ま、撒けたみたいですぅ!」

ゼェハァとサシャが息苦しそうにそう叫ぶと、全員は徐々にスピードを緩めていった。

全員で切れた息を整えていると、リヴァイが抱えていた少年の姿はいつの間にやら腕からすり抜けて居なくなっていた。

「・・・あ?あのガキ、どこいった?」
「リヴァイさん、あそこ・・・」

指さした先に居る少年は、両手で袋を持って泣きながら喜んでいた。

まさか・・・とリヴァイは両手でジャケットを広げた。あの財布はどうやらリヴァイのものらしくやられた・・・と舌打ちをすると溜息をつき目を閉じる。

「まぁ・・・アズマビトから貰ったこずかいだしな・・・」

その顔は怒っているわけでもなく、マコトはそんなリヴァイの顔を見上げるとパチッと目が合った。


「なんだ?」
「いや、ううん。・・・ふふ」
「おいマコト。なにニヤニヤしてやがる・・・あのアイスってのを食ったせいでおかしくなったか?」

マコトは少し背伸びをしてリヴァイの耳元でこそこそと

「リヴァイさんのそういう優しい所、大好きだなって」
「は・・・?」

なんの事だ・・・?とリヴァイは小さく首を傾げる。そんな姿にまたマコトはんふふ、と笑うとマコトはかぶっていた帽子を外しリヴァイとマコトの顔を全員から見えないように隠すと触れるだけだが唇を合わせてみた。

幸いにも全員下を向いて息を整えており、2人の姿は見られていない。

まだ少し残る甘いバニラの味。珍しくマコトからのキスにリヴァイは棒立ちになり口を抑えて目をそらすと

「奇天烈な事しやがって。・・・マコト」
「はーい」

リヴァイは耳元でぼそりと

「夜、めちゃくちゃにしてやるからな」
「な・・・んなっ!」

いつものように分かるか分からないかの笑みを浮かべマコトの帽子をひょいっと取り上げると、ぼふっと被らせてグリグリと頭を撫でた。




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