ヒィズル国




852年・・・


リヴァイとマコトの婚礼を機にマーレ側も少しずつ心を開き始め、マーレ工兵の協力もあり港が完成した。

港の開港式が行われ、パラディ島に初めて外国の人間を招き入れることになった。それがヒィズル国という東洋の国だ。
特使として来島してきたのは他国との結び付きも強く、外交に多大な影響力を持つと言われる一族の頭首であるキヨミ・アズマビトと呼ばれる女性だ。

船から降りたキヨミはヒストリアと握手を交わし何かを話し合っている。


それを調査兵団であるマコト達も遠目で眺めているが、ミカサはキヨミの顔を見て驚いている。 イェレナはミカサの肩に手を置くと

「お母さんと似た顔立ちかな? あの人は、君の血縁者に当たる方だよ」

およそ100年以上前、ヒィズル国はエルディア帝国の同盟国だった。アズマビト家の将軍家子息はフリッツ王家と懇意にしており、パラディ島に逗留していた。 そして「巨人大戦」後、ヒィズル国は敗戦国として立場を追われその混乱の中・・・将軍家の忘れ形見はパラディ島に取り残されてしまった。

その証として右腕に刺青がされているのだが、今までミカサはそれをエレン以外に見せたことはなかった。もちろんマコトも見た事がなく、 マコトはその包帯はどうしたの?と訓練兵時代の頃に聞いたことがあったのだが小さい頃に怪我をしたと言っていたのだ。


「あなたは、我々が失った一国の主の末裔・・・ヒィズル国の希望なのです」


キヨミは涙を堪えながらミカサを抱きしめたのだった。




***



ヒィズル国との会談を終え、マコトとリヴァイは帰路についていた。

会談内容としてはジークの秘策についてだった。

ヒィズル国が介入しパラディ島の軍事力をアップさせる。しかし、掛かる年数は100年・・・掛からなくても50年。その間にも他国はパラディ島を狙ってくる。その襲撃からパラディ島を守るためには地鳴らしという抑止力が必要だ。それを実験的に行い他国に地鳴らしの破壊力を見せつけ牽制させる。

その代わり50年は地鳴らしが機能しなくてはならないので「始祖の巨人」の継承者と「王家の血を引く巨人」・・・その2組を継続させなければならない。



「そのためには、ヒストリアが出来るだけ子孫を残し血を絶やさないこと・・・かぁ。確かにこのパラディ島自体存続させる為にはヒストリアが結婚して子供をもうけなきゃダメだけど・・・継承してから13年しか生きれないんでしょ? なんか、嫌だな・・・」

その話に大反対したのはエレンのみで、ハンジやマコトたち104期のメンバーはもっといい方法があるのでは?と正直戸惑ってはいた。

「話し合う事が出来てるならマーレ側が何度も船を寄越してこないだろう。その度にあのデカ女が無線使って演技してんだ」


あの日から絶えずマーレからは、ほぼ月1回のペースで調査船や駆逐艦送り込まれておりもう何十隻もの船を撃沈させては敵を捕獲し続けている。

確かに・・・と頷くともやもやした感じの顔は晴れない。そんなマコトを見てリヴァイは小さくため息を着くと当たりをキョロキョロとしてからマコトと手を繋ぐ。

「もう仕事は終わったんだ。考えるのは明日にするんだな」
「あ、うん・・・ごめんね」

リヴァイは家庭に仕事を持ち込みたくないタイプらしく、マコトも頷くと

「何でさっきキョロキョロしてから手繋いだの?恥ずかしい?」
「・・・この間サシャにからかわれたろ」

先日、こうして手を繋いで帰っていたらたまたま買い食いをしていたサシャとコニーと鉢合わせしてしまい


『んああ!兵長とマコトさん手繋いじ帰っちょんラブラブじゃなあ〜!』


と興奮していたのだ。
それからは周りをチェックしてからマコトと手を繋ぐようにしているらしい。
マコトは笑うと手をぎゅっぎゅっと握りながら

「人目なんて気にしなくて良いじゃない。ラブラブなんだから」
「・・・ああ」

少し俯き僅かに口元を緩めるリヴァイ。
マコトは内心「乙女かよ・・・」と胸きゅんしてしまう。

「あ、そういえば新型立体機動のテストも始まるね」
「ああ。明日だったな」

オニャンコポンとハンジ、技術班のルークとアークが中央憲兵団が使っていた対人型立体機動装置を改良したのが新型立体機動装置だ。

腰についていた装置が背中に移動し、ブレードの位置が並行から垂直に。雷槍の装備はデフォルトになった。 武器も、これからは巨人から人になる・・・そのため散弾銃とワイヤーが結合したタイプの物が採用された。

「お前は明日、銃の訓練だったか」
「うん。」

自動小銃の訓練はマコトを中心に行われ、分解結合から手入れなどを教えている。

「そうそう。この間なんて分解中に部品無くした新兵がいてね・・・見つかるまで帰さず這いつくばって探させたよ・・・」
「ハッ、鬼だな」
「どれほど貴重かを教えないとね。」

簡単に命を奪えるものだからこそ慎重にならなければならない。マコトも入隊する前期と後期の訓練時代は同期がナイフの留め具を落とし全員草をかき分けながら探したものだ。

「ブレードもそうだけど・・・銃は距離が離れてても軽く引き金を引くだけで殺せちゃう。 あまり使わせるのは好きじゃないんだけど自衛のためだからね。」
「どうもあの銃は苦手だ・・・ブレードの方が扱いやすい」
「まあまあ、そう言わずに。念の為使えるようになっておいてよ。戦闘中私が近くにいたら良いけど・・・って、リヴァイさん。」
「何だ」
「私たち、結局仕事の話しちゃってる」
「・・・あ」

二人は立ち止まると静かに笑い、リヴァイは前を向くと

「・・・晩飯の話でもするか」
「いいね。何がいい?」
「お前が作るのなら何でもいいが・・・そうだな、この間作ってくれた魚料理が美味かった」
「バター醤油のやつ? じゃあお魚屋さん寄っていこ」

マーレとの交流で新しい調味料が増えてバリエーションも増えた。 またニコロに料理のバリエーションでも聞こうか・・・と決めたマコトはリヴァイと商店街の方へとのんびり歩いていった。





***




「・・・なあ、これ俺たちがやらなきゃいけない事か?」


季節は夏に移り変わり・・・炎天下の中、枕木を抱えながらコニーが太陽を睨んでそうボヤいた。その横でジャンは大きな木槌でゴンゴンと枕木を地面に埋め込み、帽子を脱いで汗を拭うと

「いいや・・・やらなくていい事だ。あのバカが「これなら身体が鍛えられて、島の開発が進みますから」って言い出さなけりゃあ」

じろり、とエレンの背中を睨みつけた。
あれからヒィズルを介して他国との交流を測っている最中だ。

友好国を増やし、国交を結べたら「地鳴らし」にも頼らなくていい可能性も増える。そのためにこの島で採掘される氷瀑石や資源を売ろうとしているのだが・・・正直他国との交流は望み薄だろうと言われた。



「みんな〜」



荷馬車に乗り、オーバーオールを着たマコトがのんびりと手を振ってきた。


傍らに馬を止めると、マコトは麦わら帽子を被り上まで留めていたスタンドカラーのワイシャツのボタンを外しながら


「いやぁ暑いね!みんなご苦労さま!!差し入れ持ってきたから」


差し入れ、その言葉に反応したのはサシャで一目散にマコトの持ってきた荷物を下ろすのを手伝うと樽ごと持ち上げて水を飲み始めた。

それをアルミンが追いかけてマコトは苦笑いすると樽に着いた蛇口を捻り全員に水を回していく。


「・・・前から思ってたんだけどさ。なんかみんな、大きくなってない?」


ジャンは元々高身長だったが、より大きくなっている気がする。コニーも小柄な部類だったのだがマコトと一気に身長を離してしまってた。

ミカサもサシャも170cmは超えているだろう。

マーレやヒィズルとの交流で食べれる種類が増えてきたおかげだろうか・・・全員一気に成長してしまった。 顔つきも訓練兵時代の頃のような幼い顔から大人になりマコトはタオルを取り出すと泣くふりをしながら

「みんな大きくなったね・・・」
「マコトさんとは訓練兵から俺達のこと知ってますからね」
「ジャンなんて190cmくらいあるんじゃない? 女の子にモテるでしょ?」

そう言うとジャンは顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。当時ツーブロックだったジャンの髪の毛は伸びて、髭も伸ばしている。

エレンからは色気づきやがって、と弄られていたが

「私は今のジャン、良いと思う。」
「へへ、ありがとうございます・・・」

そう言うとチラッチラッとミカサを見るがミカサはエレンの事を見ており、軌条を運ぶ運ばないで揉めているのを見て肩を落とした。



「オーイ!」

今度やってきたのは、馬に乗ったハンジとリヴァイだった。背の高いエレン達の中にマコトも紛れておりひょこっと顔を出して手を振った。

「マコト、ここに居たのか」
「うん。皆に差し入れを」

馬から降りてリヴァイは全員を見回すと

「チッ、お前ら・・・図体ばかりデカくなりやがって・・・」

それに比べてリヴァイの身長は相変わらずだ。
リヴァイの背が伸びたら・・・とマコトは想像したが直ぐに頭の中から揉み消した。

「たった今、アズマビトから返事が来たよ」
「! それで・・・」

ハンジは残念そうに眉を下げると首を振り「駄目だったよ」と呟いた。

途端全員がああ・・・と肩を落とす。

「やはり、ヒィズルはパラディ島の資源を独占取引したいのだから他国との貿易に協力などしない。エルディア人との人権擁護する団体は、あるにはあるんだ。 だけど、誰にも相手にされない変人集団だとみなされてて・・・それどころか、世界はパラディ島が災いの種であり続けることを望んでいる。」
「パラディ島の人達が悪者になって・・・それで国々が団結して世界が安定しているから、でしょうか。」

マコトがそう言うとハンジとリヴァイはこくりと頷いた。 その言葉でもっと全員の空気が重くなりエレンは目を閉じると

「じゃあ・・・オレちは「地鳴らし」に頼るしかなくって、ヒストリアの犠牲は避けられない・・・ってことですか?」
「・・・そうなる。ヒィズルは「地鳴らし」を頼りに軍事同盟を結ぶことを条約に入れているからな」
「そんな・・・世界は、100年前に先祖がやった悪行を僕らに求めているんですか?こちらの意図も測らず、勝手に悪魔だって決めつけて・・・どうして皆が平和になる道を考えられなんだろう・・・」
「それは、分からないからだと思う。私たちが何者か分からないから恐れている」

ミカサの言葉にハンジはそうだ、と頷く。

地鳴らし・・・壁の中に潜んでいる巨人を使う、アルミンはハッと顔を上げてマコトを見ると

「あの、待ってください。地鳴らしをするって事は壁が壊れる・・・ひょっとしてそうなったら、マコトさんは帰れなくなるんじゃ・・・」
「・・・あ!」

アルミンの考察にハンジは声を上げて、全員は焦った顔でマコトを見た。困惑するマコトを、リヴァイはマコトの肩を抱き寄せると

「マコト、まだ決まったわけじゃないだろ」
「そうだね・・・前回帰れたきっかけはエレンの硬質化で壁を塞ぎ壁内が安全になったから。 その壁そのものが壊れてしまったとなると・・・帰れるか分からなくなるね」
「やっぱり地鳴らしに頼らない方法を見つけるしか・・・」

このまま、アズマビトを頼りにしていても結果は変わらないだろう。
そもそも、100年以上も壁の中に引きこもっていた相手・・・世界からしても顔の見えない者達を秒で信用するのもおかしな話だ。


重くなった空気の中、ハンジはニッと笑うと

「だから、会いに行こう! わからないものがあれば、理解しに行けばいいんだ!・・・それが私達、調査兵団だろう?」

マリア奪還前の会議・・・エルヴィンが言った言葉にリヴァイは目を開くと

「・・・行くのか、マーレに」
「ああ!」
「久しぶりの壁外調査?ですね!」


調査兵団一行は、マーレ国へ調査しに行くことになった。



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