2人の幸せを

第57回壁外調査後のお話。






コンコン


「はい」


麻琴の執務室。



ノックが聞こえ、ドアを開けるとそこには二ファが立っていた。

「二ファさん・・・?」
「麻琴いきなりごめんね。今、いいかな?」
「はい!大丈夫です。何かありましたか?」
「亡くなった兵士の遺品なんだけど、一応上官が届けに行くことになっててね。・・・こんな状況だったから周りの手が空いてる兵士で挨拶に行って、最後がペトラなの」


ペトラ


麻琴は目を見開くと二ファの足元には大きめの箱が置かれていた。

ペトラの私物だろう。

「・・・分かりました。ペトラの遺品は、私が届けに向かいます。」

今の特別作戦班はいきなり副官という辞令を出された麻琴のみ。リヴァイも足を負傷しているのであまり歩き回らせたくない。

「それとこれ、あの子遺書を遺していたみたいでね。ご両親とか兵長とか私宛とか・・・あとあなたにも」
「私?」

そう言って、薄いピンクの封筒には蝋封がされており「麻琴へ」と書かれていた。
無意識に出そうになる涙を瞬きで誤魔化すと、二ファに頭を下げた。

「二ファさん、ありがとうございます。」
「うん、よろしくね」

そう言って1人になった部屋。
机にはペトラの私物が入れられた箱を置くとソファに座った。

少し戸惑いながら手紙を開くと、女性らしい綺麗な字が並んでいた。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
麻琴へ
これを読んでいるということは、もう私は死んでいるんだよね。
麻琴と初めて会った時、最初はすごく警戒した。でもあなたが言葉を覚えて私たちと会話をしていくうちにそんな警戒はすぐに無くなりました。

もし私が貴方の立場でこんな世界に放り込まれたらきっと、初陣のように失禁してたかもしれない。

その上あなたは1人で壁の外に出て調査兵団の所まで来た時は、本当に正気の沙汰じゃないと思った。色んな意味で、麻琴は凄い子だなと驚かされました。

訓練兵達があなたと楽しそうに話しているのを見てとても慕われていて・・・私が訓練兵の頃に来てくれてたらもっとたくさんの時間を共有出来たかもしれないね。でもお尻を蹴れるのは勘弁かなぁ。

買い物したり、兵長にドッキリ仕掛けたり、怖い話をしたり沢山の思い出をありがとう。すごく楽しかったよ。

兵長を支える側にもなりたかったけど、私にはそんな器は無いしそれを受け止めきれる精神力もありません。でもあなたならそれが出来ると思う。
兵長の背負ってきた苦しみや苦労を知っているからこそ、私達リヴァイ班全員が兵長の幸せと、麻琴との幸せを願ってる。

そのために、全てを捧げれたのなら私は本望です。

麻琴、リヴァイ兵長をよろしくね。
これからも空の上から2人の幸せを願っています。

ペトラ・ラル

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-


「っ・・・」

手紙に涙が落ちそうになったので麻琴は咄嗟に上を向いた。が、しかし涙がおちて、頬を伝い鼻をすする。

「はぁ・・・」


麻琴は手紙を閉じて封筒に戻すと静かに泣いた。







***







「リヴァイ兵長、二ファです」
「入れ」


二ファは敬礼をしてリヴァイの執務室に入ると、リヴァイは書類を読んでいた。


「兵長、これを」


そう差し出されたのは薄い緑の封筒。
宛名を見てリヴァイは目を少し開いた。

「ペトラか」
「はい。遺品整理をしていたら、兵長宛のお手紙を見つけたので。・・・先程麻琴の部屋にも行って遺品と手紙を届けに行きました」
「そうか・・・遺品整理、悪かったな。」
「いえ」


二ファとペトラは同期だった。
食堂で一緒に食事をしていたのを見かけた事がある。

敬礼をすると、二ファはそのまま静かに部屋を後にした。


薄い緑の封筒には蝋封がされており、見慣れたペトラの字で「リヴァイ兵長へ」と書かれている。

このように遺書を貰うのは初めてではない、が・・・開くのが怖かった。


リヴァイは少し躊躇ったがペトラからの手紙を開いた。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

リヴァイ兵長へ

兵長、私を特別作戦班に指名して下さりありがとうございました。まさか自分が兵長の下で働けるだなんて、思いもしませんでした。

私は、自分の持てる力で兵長に全てを捧げる覚悟であなたの背中を追ってきました。
あなたの力にはなれましたか?なれたのなら、私はもうこの上ない幸せ者です。

もう兵長に紅茶を淹れられないのは寂しいですが、私の技は全て麻琴に託してあるので紅茶を飲んだ時、たまには私の事思い出してくださいね。

麻琴といえば、兵長。女心は秋の空並に変化致します。
麻琴の事なので大丈夫だとは思いますが、口数の少ない兵長です。小さな事でも細かく褒めると女性は喜びます。
・・・でも麻琴の好みは「自分より強い男」と言ってましたので、兵長以上に強い男性はこの人類には居ませんね。なので安心してください。

そろそろ時間になってきました。
リヴァイ兵長、お身体には充分気をつけて。
こちら側に来るのはお爺さんになってからでいいです。みんなどのタイミングでこちらに来るか分かりませんが、リヴァイ班みんなで兵長のお世話をさせて頂きます。

その時はまた、私の紅茶を飲んでくださいね。
とびきりの紅茶をご用意します。


そして私たちリヴァイ班は、リヴァイ兵長の幸せを心から願ってます。

ペトラ・ラル

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-


「・・・・・・」


リヴァイはゆっくりと瞬きをする。

そして丁寧に手紙を封筒に入れると、麻琴の部屋と繋いであるドアを開けた。




「麻琴」
「わっ!」

ソファでなにかしていたのか、麻琴は肩を跳ね上げて慌てて顔を擦ると振り向いた。

「リヴァイさん!びっくりしたー」

リヴァイは何も言わずソファに座ると、手を出してまだ少し残る麻琴の涙を親指で拭いた。

「泣いてたのか?」
「はい・・・あの、ペトラからの手紙を」

そう言って麻琴は薄いピンクの封筒を撫でる。

リヴァイは小さく頷くと


「遺品を届けるんだろう?俺も行こう」
「でも、脚・・・」
「部下に対する最後の仕事だ。・・・ついてきてくれ」
「・・・はい」









箱を持ちやってきたのは住宅街。
ペトラの家だ。


ノックをするとしばらくしてあの時に会った男性・・・ペトラの父が出て来た。その顔はやややつれてしまっていて、あの時より痩せてしまっている。

愛娘を失った衝撃は、計り知れないだろう。

「リヴァイ兵士長殿・・・」

驚いた顔をしたペトラの父にリヴァイと麻琴は頭を深く下げる。

「ペトラ・ラル一等兵の遺品を、届けに来ました」
「あ・・・どうぞ、上がってください」

通されたリビングにはペトラの母もおり頭を深く下げる。母もまた、寝不足なのか目の下にクマができており麻琴は目を伏せ、リビングを見渡すと棚にはペトラの幼少期の肖像画や調査兵団に入った時の記念なのか、家族での肖像画が飾られている。

それだけで、ペトラは愛されていたのだと伝わってくるものばかりだ。

「わざわざ御足労を、ありがとうございます」
「いえ、先日は手短に終わらせてしまい申し訳ありませんでした」

リヴァイはそう言うと、麻琴は持っていた箱をテーブルの上に置いた。



「こちらが、ペトラさんの遺品になります」

そう言うと、ペトラの父親と母親は震える手でそれを受け取ると箱を抱きしめた。
麻琴は涙をこらえるとリヴァイの代わりに説明をした

「・・・先日の、ストヘス区で起きた巨人の事はご存知でしょうか?」
「はい・・・こちらでも避難民を受け入れてますので」
「あの女型の巨人は先日の壁外調査でも現れ、リヴァイ兵長と別行動していたペトラさん達・・・特別作戦班と鉢合わせしました。」
「あの巨人と・・・」

麻琴は頷くと

「ペトラさん達は、最後まであの巨人を追い詰めて・・・あと1歩の所で巨人は想定外の動きをしました。ペトラさんは体勢を直せず、そのまま」
「潰された・・・わけですね」

それを聞いて麻琴とリヴァイは罵られる覚悟だった。

「・・・やはり、ペトラは自慢の娘です。なぁ?」
「はい。あんな巨人を追い詰めるなんて、あの子凄いわ」

泣きながら、ペトラを褒めた。
想定外の返答に麻琴とリヴァイは驚く。

ペトラの父と母はリヴァイを見て深々と頭を下げると

「私たちは、あなた方を責めません。娘が選んだ道・・・そして尊敬していたリヴァイ兵士長殿の役に立てたのならあの子はとても嬉しいと思います」
「私たちは、娘を誇りに思います。」

そう言うとリヴァイは

「・・・ペトラさん達の意思が、俺を強くします。必ず、巨人を絶滅させます」

膝に置いた手は、強く握られておりリヴァイの目は真っ直ぐと両親を見つめていた。











ペトラの実家から出ると、麻琴とリヴァイはふぅ・・・と一息つく。

「・・・帰るか」
「はい。帰りましょう」

2人は兵舎への道をお互い無言で歩く。
ふとリヴァイはペトラからの手紙の内容を思い出した。


小さな事でも褒める


麻琴に変化はあるだろうか。
思わずじーっと見つめると麻琴は視線にき気づき首を傾げた。

「リヴァイさん、どうしました?」
「・・・いや。」

今日の麻琴特に変化はない。
リヴァイはどうしたものか・・・とふと花屋が目についた。

確か麻琴は、執務室の机に花を生けていたはずだ。芍薬が好きだと言ったがリヴァイは麻琴を見ると

「麻琴、寄り道するぞ」
「え?はい!」

リヴァイは麻琴の手を取り花屋へ入った。


「いらっしゃいませ・・・あら、麻琴さん」
「こんにちは」

顔見知りの麻琴が入ってきて店員はにっこり笑うと隣にいるリヴァイを見て

「あら、もしかして例の恋人さん?」
「は、はい・・・」
「まさかリヴァイ兵士長様に会えるなんて。麻琴さんやりますね!」

真剣に花を選んでいるリヴァイに麻琴は頬を赤くする。

「リヴァイ兵士長様は何を?」
「いえ・・・よく分からなくて。いきなりここに来たので」

なるほど・・・と店員は笑うと任せてください。と麻琴に言うとリヴァイの所へ向かった。


店員はリヴァイの隣に立つとこそっと

「麻琴さんへの贈り物ですか?」

リヴァイは驚いたがぎこちなく頷いた。

「・・・花は詳しくなくてな。麻琴がいつも飾ってる芍薬しか分からん」
「ふふ。お手伝いしますよ」
「助かる」

店員は小さな冊子をリヴァイに手渡すとパラと開く。そこには花の名前と、花言葉が書かれていた。

「花の名前と花の一致はしないと思うので・・・まずはリヴァイ兵士長様が麻琴さんに対してピンとくる言葉を選んでください。」

そう言うと、リヴァイは目を通すと

「これにしよう」

そう指を指すと、店員は頷いて花を用意し始めた。




店を出てリヴァイと麻琴は兵舎へ戻ってきた。

「麻琴」
「はい」
「・・・ん」

照れくさそうに目を逸らし差し出した花束。
麻琴は驚いてそれを受け取ると

「えっ私にだったの?」
「お前以外にやるかよ」

確かに自分以外だったら凹む。
自分に贈るために真剣に選んでくれていたのだと思うと、胸がぽかぽかして頬が赤くなる。

「・・・どうしようリヴァイさん、嬉しい」
「そうか」
「ありがとう、リヴァイさん」
「ああ」

照れているのか一言返事しかしてくれない。

「あ、お花の名前書いてあるね。 ラナンキュラスだって。へぇ・・・可愛いなぁ」
「・・・後ろに、花言葉ってやつが書いてある」
「そうなの?どれどれ」

麻琴は一緒に付けられたカードを見て、ひっくり返すと麻琴はまた顔を赤くした。

「り、リヴァイさん・・・ありがとう・・・もっと頑張るね」
「いや、それ以上は困る・・・」
「だ、だって・・・」

ラナンキュラスの花言葉はとても魅力的=Aあなたの魅力に目を奪われる=B


「(・・・すまんペトラ、俺は他の男みたいにまだ女を褒める技はない。)」


そう心の中で謝りながら、顔を赤くして微笑む麻琴の顔を見て少しだけ口角を上げた。





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