ロウソクに込めた願い【エルヴィン誕生日番外】
エルヴィン団長お誕生日おめでとう記念番外編。
時系列は飛ばされてから3ヶ月程だった辺りのお話。
まだ言葉が不自由でカタコト部分が多い麻琴さんです。
カチッ、カチッ
ふりふり
カチッ、カチッ
『・・・まいったな』
麻琴はむぅ、と唸った。
− ロウソクに込めた願い −
この世界に来て3ヶ月半・・・この世界は電気というものが無いので基本的にロウソクを使う生活様式だ。
もちろん、ライターなんていう画期的な道具はまだ普及されておらず火をつける手段はマッチだ。
・・・しかし、麻琴はマッチが大の苦手であった。
学生時代でマッチを使ったが指を火傷してしまったせいで軽いトラウマになっただけなのだが・・・それから極力マッチを避けてライターを使う生活をしていた。
もちろん、自衛官の訓練で火起こしの技術は叩き込まれているが正直やるのも面倒だ。鏡で反射させて火をつけようにも、今は夕方で太陽は沈みかけている。
『腹を括るしかないか・・・』
この世界で生きていくには、克服しなければ・・・
麻琴はマッチを引き出しから出すと「いざ!」・・・と、マッチ棒を取り出した。
麻琴の監視が続く中、エルヴィンは今日は自分の当番だった・・・と部下に軽く挨拶をして麻琴のいる部屋へ向かった。
コンコン
「麻琴。入るよ」
「はい!」
ドアノブを捻って開ければそこは真っ暗な部屋でエルヴィンは驚いた。
「どうした麻琴、灯りもつけずに」
「えるびんさん・・・」
まだカタコトの麻琴は、半泣きでエルヴィンを見上げた。 ロウソクが無くなったのか?と思ったがロウソクは目の前に置かれている。
エルヴィンは首を傾げると
「・・・何かあったのかい?ロウソクはあるだろう。」
そう優しく問いかけると麻琴はマッチ棒を持ち
「マッチ、使う、にがて」
そう呟くとエルヴィンは驚き、ははは!と笑った。
顔を赤くして俯く麻琴の頭を撫でると近くに寄り
「ほら、貸してごらん」
「はい・・・」
そう言ってマッチを擦るとロウソクに火を点けた。たちまち部屋が薄明るくなり、麻琴はホッと息を吐くとエルヴィンを見上げ
「えるびんさん、ありがとう」
「いいんだよ。そうか、麻琴はマッチが苦手だったか」
「私のとこも、マッチあった。でもやけどしてから、怖くなった」
エルヴィンはなるほどと頷き
「そうだな・・・消える前に他のロウソクに火を分ければ極力マッチを使わずに済むかもしれない。」
肩をぽん、と撫でると麻琴は言われてみればそうだ、と納得するとありがとうございますと頭を下げた。
麻琴はロウソクを見つめる。
麻琴の時代はロウソクと言えばアロマキャンドルや仏壇、災害時、クリスマスや誕生日に使うものとして認識しているのでロウソクの生活には不安だったがこうしてゆらゆらしている火を眺めるのも嫌いではないなと最近思い始めた。
誕生日・・・ふと麻琴はエルヴィンを見て
「えるびんさんは、誕生日、いつ?」
「俺の誕生日? 10月14日だよ」
「10月・・・いま、10月・・・10日だ・・・えっ、あと4日だ!」
「ははは、そうだね。もうこの歳になると仕事に追われて忘れてしまうよ」
そう苦笑いし、麻琴の頭を軽く撫でると
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。」
「あ・・・はい・・・ありがとうございました」
頭を下げるとエルヴィンはにっこり微笑んでドアをそっと閉めた。
*
そして次の日・・・
今度はリヴァイが顔を出す当番だったため合間を縫って麻琴の部屋へと訪れた。
麻琴はリヴァイの顔を見た瞬間バッと立ち上がると駆け寄ってきて思わずリヴァイはたじろいだ。
「・・・どうした、クソでも漏れるか?」
「くそ、もれない!りばいさん、えるびんさんって、いくつ?」
「・・・は?」
エルヴィンの年齢?どうしたんだいきなり・・・とリヴァイは視線を上にやる。
年齢は確か・・・
「35、だったか・・・」
「35・・・わたしより10個も上・・・」
ふむふむと麻琴は顎に手を当てるとリヴァイは何故か胸の辺りがもやっとして眉を寄せると
「・・・なんだ、エルヴィンが気になるのか?」
「ん?きになる?」
「いや、何でもねぇ。歳なんて聞いてどうした」
「あのね、えるびんさん、14日誕生日なんだって!」
そう言えば、もうそんな時期か。
エルヴィンは自身の誕生日の日は1人で行きつけのバーへ飲みに行く。あの歌手の顔を見に行くのだろう。
麻琴はリヴァイの手を取ると胸の前でぎゅっと握った。 自分より小さくほっそりとした白い両手がリヴァイの冷たい手を温めていく。
一瞬心臓が大きく鳴ったが平常心と言い聞かせリヴァイは麻琴を見つめる。
「りばいさん、お願いあるの! ・・・マッチの付け方、教えて!」
「・・・・・・は?」
***
そして14日の誕生日。
エルヴィンは毎年のように行きつけのバーへ行き、お気に入りの歌手の歌を聴いて兵舎へともどってくる。
今年も、普段通りの誕生日だ・・・今年もそれを迎えられる奇跡に感謝しながらほろ酔い気分で歩いていると
「おーーーい!エルヴィン〜!!」
暗闇の中、両手を上げて奇行種のような走り方をするハンジがこちらにやってきて思わず逃げかけたが
「・・・ハンジか。どうした」
「んふふー!ちょっと目隠してさせてね!」
「は?おい・・・まったく」
「はいはい。お説教はあとで聞くから!」
ハンジに誘導されて少し歩くと
「エルヴィン、外していいぞ」
「リヴァイか?お前まで・・・」
巻かれていた布を外すと、どうやら中庭らしくもちろん薄暗い。・・・一体何なんだ、とエルヴィンは首を傾げると
「エルヴィン、後ろだ」
リヴァイの声に振り向くと目を見開いた。
そこには36本のロウソクが並べられており、ハンジ、リヴァイの間に挟まれて麻琴はにこにこと笑っていた。
「えるびんさん!お誕生日おめでたい!」
「ハッ!」
「ぶっ、麻琴っ、それを言うならおめでとう、だよ!」
肝心な所で言い間違えた麻琴にリヴァイは思わず笑い、ハンジも吹き出した。
呆気に取られていたエルヴィンははは!と笑うと
「驚いたな・・・ケーキまで用意してくれたなんて・・・」
「それだけじゃない。このロウソク・・・」
「ロウソク?」
リヴァイが顎で指した36本並べられたロウソク・・・自分の年齢分だが何かあるのか?とエルヴィンは首を傾げると
「麻琴の奴が必死こいてマッチ擦りまくって火をつけたんだ」
「手伝うって言ったんだけど、嫌がってね。」
「麻琴・・・」
確か4日前・・・麻琴はマッチが怖いと言っていたはずだが、苦手なマッチを使い36本もロウソクに火を点けたのだ。
「りばいさんに、コツ教えてもらった」
「・・・コツも何も擦るだけだろうが。」
怖がる麻琴の手を取って後ろから抱きつく感じで教えたので、リヴァイ的にも・・・とは口が裂けても言えず照れ隠しにそんな事を呟いた。
エルヴィンは灯されたロウソクを眺める。
ここに来たばかりの麻琴は何も喋れなかったが今はこうして会話ができて、苦手だったマッチを克服した。
麻琴は我が子ではないが年の離れた妹のようだ。そんな妹みたいな存在になりつつある麻琴の成長が純粋に嬉しい。と同時にあの怯えた麻琴が見れないのかと思うも少し寂しいが・・・今思う感情は嬉しい=Bその一言に限る。
「麻琴・・・リヴァイ、ハンジ。 ありがとう。今年はいい誕生日になったよ」
そう笑うと麻琴は喜び、リヴァイもハンジもそんな麻琴を見て嬉しそうだ。
ケーキは後で4人で食べようと話していると麻琴はエルヴィンをロウソクの前に誘導した。
「えるびんさん、ふーして!」
「ふー?」
「そう!消すの!」
「・・・せっかく点けたのにか?」
驚いていると麻琴はうーんと、と言葉を探しながら
「私の世界ね、誕生日になると歳の数だけロウソクを立てて、お願い事を込めながら、火、消すの。」
身振り手振りを加えながら麻琴はエルヴィンに説明した。
「そうすると、叶うって」
そう微笑むとエルヴィンはなるほど・・・と頷くと1本ずつ火を消して行った。
段々と中庭が暗くなっていき、最後の1本が吹き消された。
「ねえねえエルヴィン、何お願いしたの?」
「ふふ、それは内緒だ」
「えー!気になるなぁ・・・まあエルヴィンの事だから壁外調査関連かな?」
そう言うハンジにエルヴィンはふふ、と意味深な笑いで誤魔化しリヴァイとロウソクを片付ける麻琴の横顔を見つめた。
どうか、麻琴が元の世界へ帰れますように。
エルヴィンはそんな願いを込めて火を吹き消したのだった。
Happy Birthday!Erwin Smith!
2020.10.14
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