俺たちのペース
長編移動記念番外編
付き合ったばかりのふたりのおはなし
麻琴とリヴァイが交際を始めて、2週間ほど経過した。
最初は顔を見合わせると麻琴は頬を赤くさせて「おはよう」と挨拶してきて、その初々しさやクソ可愛さにリヴァイは語彙力を失いどうしたらいいのか分からず「おはよう」と応えるだけだった。
部屋で2人きりになっても正直どうしたらいいのか・・・告白した時に勢い余ってキスをしてしまったがそれ以外のスキンシップは分からない。
いい年こいて異性との交際は麻琴が初めて・・・部下でもないのでどう扱っていいのかも分からず、果たして男女の交際はこれでいいのだろうか?とリヴァイは首を傾げた。
かと言って2人の交際は公言していないので相談する相手・・・エルヴィンとハンジ、ミケ・・・・・・却下だ。
自力で頭を回転させて行き着いた答えは、
「・・・食事か?」
ペンを持ちながらリヴァイは顎に手を添える。
麻琴とはハンジの助言で以前食事に誘ったことがある・・・デートと言うやつだ。恋人同士ならデートをするもんじゃないのか。
よし、とリヴァイはノルマの書類にサインをすると麻琴が訓練から帰ってくるのを待つことにした。
夕方になり、訓練から帰ってきた麻琴。
リヴァイは麻琴の部屋を訪れると食事に行かないかと提案した。
「食事!?」
「ああ。お前が良かったら・・・だg「う、うん!行く!」
麻琴は興奮気味にリヴァイがいい切る前にびょうでOKを出した。
その迫力にリヴァイは圧倒されながらも小さく頷く。
「・・・じゃあ明日、外で待ち合わせでいいか?」
麻琴は頬を赤くさせてこくこくと頷くと突然クローゼットを開けて明日の服を探し始めた。
「うーん、リヴァイさん。どっちがいい?」
「(どっちも似合う)そうだな、みg「あっ!」
何なんだ、とまた返答を遮られると麻琴は意地悪そうな顔をリヴァイに向けると
「どんな服かは、明日のお楽しみって事で!」
「ハッ、なるほど。楽しみにしておこう」
ご飯を食べに行くだけなのだが、麻琴はとても嬉しそうだ。誘ってよかった・・・とリヴァイは僅かに口元に笑みを浮かべると
「俺はまだ書類仕事が残ってる。 先に寝てていい」
「あ、はい。 頑張ってね」
「おやすみ」
「うん。おやすみなさい」
リヴァイは頷くと繋がっているドアをゆっくりと閉じた。
***
次の日、訓練後急いで帰ってきた麻琴はシャワーを浴びてから薄緑のシャツワンピースを着て化粧をする。
「(リヴァイさんと、デート!)」
付き合ってからは初めての外食に麻琴は可愛く思われたいと張り切っていた。以前の自分だったらこんな服装に気を遣うなどありえない。
アップにしていた髪の毛を下ろしてクリスタに教えてもらったハーフアップのアレンジをすると、急いで待ち合わせの噴水広場へ向かった。
日が傾き始めた頃、麻琴はパンプスのヒールを鳴らしながら小走りで噴水広場にたどり着いた。
早く来すぎただろうか・・・麻琴は息を整えると噴水の縁に座って鳩を眺めている男性が目に入った。
黒のセットアップにクラバット・・・あれは間違えなくリヴァイだ。
「リヴァイさんっ」
名前を呼ぶとリヴァイは鳩から目を離して顔を上げ、僅かに目を見開いた。
薄い鶯色のシャツワンピースの裾を揺らしながら麻琴は目が合うと手を振った。
「お待たせ」
「・・・ああ、いや。俺も今来たところだ」
「そっか、良かった!」
麻琴は行きましょうか!とにこにこしながらリヴァイの隣を歩いた。
「美味しかった〜」
「ああ、悪くなかったな」
お店を出た麻琴とリヴァイは夜の街を歩いていた。この時間だとカップルも多く、リヴァイは自然とそちらに目がいってしまう。
リヴァイはこの隙を見て、世の男性がやっている女性の扱い方を盗もうとしていた。
中には腰に手を添えて寄り添いながら歩くカップル、腕を組むカップル、手を繋いでいるカップル。
リヴァイと麻琴はと言うと・・・手すら繋いでいなかった。
手を繋いでみようか・・・とリヴァイはこっそりと麻琴を盗み見ると満腹なのかニコニコしながらあれが美味しかったとかあれもまた食べたいなどと感想を言いながら歩いている。
「(タイミング・・・)」
掴めない、リヴァイの手は無駄にブラブラと動くだけだった。
一方麻琴も、ドキドキを隠すため饒舌になってしまう。そしてチラリと街を歩くカップルを見ていた。
どのカップルも寄り添いながら歩いてるにも関わらず、自分たちは手すら繋いでいない・・・
「(う、腕にしがみつくなんて・・・)」
もしそんな事をしてリヴァイが「暑苦しい」「歩きづらい」と言われたらショックで立ち直れないかもしれない。
「(手、繋ぎたいな・・・)」
付き合う前の初デートの時はリヴァイから手を繋いでくれた。
麻琴の手は先程からグーやらパーにしたりなど挙動不審だ。それにリヴァイは潔癖症だ・・・手を繋ぎたくないのかもしれない。
諦めようか、と手の力を抜いた瞬間リヴァイが麻琴の手を取りぎこちなくだが掴むと指を絡ませてきた。
「へ!」
「・・・なんだ、嫌か」
目を逸らしながらそう言われ、麻琴はギュッと握り返すとブンブンと首を振る。
「い、嫌じゃない!・・・そのっ私も手、繋ぎたかったから嬉しい」
「そうか・・・・・・」
「・・・手汗、ごめんね」
「・・・そりゃこっちのセリフだ」
そもそもお互い異性とこんな手の繋ぎ方なぞしたことがない。
慣れない不思議な感覚のまま、2人は夜の街を歩いた。
***
待ち合わせの噴水広場まで戻ってくると少し休憩しよう、とベンチに座った。夕方とは違い同じ考えのカップルがベンチに座って談笑している。
話しながら手を繋ぎ肩に頭を預けていたり、男が腕を回して抱き寄せたり。 なるほど、とリヴァイは観察するとこれまたぎこちなくだが麻琴の肩に腕を回すと
「・・・もっとこっち来い」
「う、うん」
横にずれれば、服越しからでも分かるほどの体温。
麻琴はドキドキでガチガチになりながらも
「(ちょっとくらい、いいかな・・・)」
こてん、とリヴァイの肩に軽く頭を預けてみる。
「・・・・・・(クソ可愛い)」
そんな仕草にリヴァイは思わず口から出そうになりグッと耐えると目頭を抑えた。
暫くそうしているとリヴァイは「あー・・・」と話題を出すと
「麻琴、正直俺は女の扱いに慣れてねぇ。なにか不満はないか?」
そう言われると麻琴は驚いて肩に預けていた頭をあげると慌ててブンブンと首を振った。
「そ、そんな!ないよ! リヴァイさんこそ、私・・・どうかな?」
「いや・・・問題ない・・・」
お互い沈黙し麻琴はリヴァイを見ると
「リヴァイさんの私服って、なんか新鮮。似合ってるね」
確かに、今日はデートだからと自分なりに服装には気を使ってみたつもりだ。褒められると嬉しくなりリヴァイは頷くと
「麻琴もその服似合う。色もいい。」
・・・絶望的な語彙力と口下手過ぎて上手く伝わらない。しかし麻琴はそれだけで十分だったのか嬉しそうに笑うと
「ほんと?こっちのワンピにして良かった!」
リヴァイはほっとすると、ふと疑問をぶつけてみた。
「恋人同士って、何するんだろうな」
「恋人同士・・・うーーーん」
麻琴は友人たちの話を思い出す。
いろんな所へドライブ、買い物、お泊まり、そして・・・そこまで行くと麻琴の顔は赤くなりリヴァイはどうした?と怪訝な顔をする。
そしてある事を思い出すと麻琴は両手を合わせる。
「何か、お揃いの物とか?」
「お揃い・・・」
「はい。 私の友人たちは彼氏とかとお揃いの物身につけたり、持ってたりするの。」
「なるほどな」
お揃いの物・・・リヴァイは何がいいだろうかと思案すると
「いざとなると思いつかねぇもんだな」
「だね・・・あ、コップとか?リヴァイさん、よく紅茶飲むし」
「コップ・・・悪くないな」
時間はまだ遅くはない・・・雑貨屋さんならやっているだろうか。麻琴はパッと笑顔になると
「じゃあ、今から買いに行こう!」
「そうだな。了解だ」
リヴァイも僅かに笑みを浮かべると麻琴と手を繋ぎベンチから立ち上がる。
道中の恋人たちを眺めながらリヴァイはポツリと
「恋人らしさなんて俺達には分からねぇ。俺たちのペースで俺らなりに探そう・・・悪くねぇだろ?」
キュッと手を握ると麻琴は驚き、また笑顔になると
「うん。悪くない!私たちのペースで!・・・ねえリヴァイさん、ひとつお願いしてもいい?」
「何だ」
「腕に抱きついてもいいかな・・・?」
可愛らしいお願いにリヴァイは再び目頭を抑えかけるが
「ああ、いいぞ」
「やった!」
麻琴は失礼します、と言いながら手を繋いだままリヴァイの腕に抱きついた。しかし腕に柔らかいものが押し充てられたリヴァイは「これはまずい」と理性との戦いが始まったのは麻琴は気づかない。
***
「兵長、どうぞ」
「悪いな」
そう言ってコトリと置かれた深緑のマグカップ。
リヴァイはそれを取っ手を持たず覆うように持つと紅茶の香りを楽しんだ後、口に含めた。
そんな姿をペトラは見つめると
「そのマグカップ、いい色ですね」
リヴァイはゴクリと紅茶を飲むとマグカップを眺める。あの時雑貨屋へ行き、お互いのイメージした色にしよう。と麻琴が選んだのはこの深緑の色だ。
目を細めてコップを眺めると
「・・・ああ、好きな色だ」
若干だが柔らかい表情になったリヴァイをみたペトラは一瞬驚いたが、コップを見て思い出している相手はあの子だろうな・・・勘づき微笑むと、失礼致します!と敬礼をして部屋を後にした。
-END-
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