麻琴は坂木の見舞いに行こうと病院へやって来ていた。 坂木が居る病室へと繋がる廊下を歩いていると何やら看護師の声が聞こえ恐る恐る角を曲がると麻琴は「えっ!」と肩を震わせた。

「さ、坂木さん?!」
「・・・・・・っおう、真壁か」

痛みを堪えながら坂木は廊下の手すりに体重を預け、なんと歩いていた。後を着いてきた看護師が顔を青くさせあわあわしながら坂木の肩に手を置くと

「さ、坂木さん! まだリハビリは早いです!」
「いえ、オレはもう平気です!」

防大で見る鬼の形相で看護師を睨みつけると「ヒッ」と声を上げた。 初見であの顔を見たときの恐怖を知っている 麻琴は慌てて駆け寄ると看護師に頭を下げた。

「坂木さん、とりあえず今日はここまでに」
「もたもたしてらんねぇだろ、来週なんだからよ・・・・・・!」

ギリ、と歯を食いしばった坂木。
来週はついに卒業式、坂木は意地でも参加しようとしているのだ。それを知った麻琴は驚きに目を見開くと

「だ、だからっていきなり歩いたら良くなるものも良くなりませんから! リハビリ室行くなら車椅子でも、いや駄目だけど・・・・・・」


「龍也」



騒がしい中響く低い声に麻琴と坂木もピタッと静かになる。振り向くと黒いスーツにコート、白髪混じりのオールバックの男性が立っていた。

迫力のある顔は何処か見覚えはある。麻琴は驚いて目を瞬かせていると隣にいた坂木は面倒くさそうに眉を寄せると

「親父・・・・・・」
「おやじ? ・・・・・・ええっ!」

見覚えのある顔、坂木そっくりの顔だ。麻琴は慌てて坂木の父親に身体を向けると頭を下げた。
すると父親も頭を下げ、顔を上げた途端ギロリと坂木を見下ろした。その顔は坂木よりも迫力があり、麻琴も看護師も肩を震わせた。

「龍也、ここで何をしている?」
「何って、リハビリ・・・・・・」
「怪我もろくに治ってない奴がリハビリをしてどうする? 焦っても悪化するだけだぞ」
「・・・・・・」

声を荒らげるわけでもなく淡々とそう告げる父親に坂木も視線を逸らして悔しそうな顔をする。 あの鬼がねじ伏せられている。麻琴はそれにまた驚いていると今度は麻琴と看護師を見ると

「心配をしている者も居るんだ、まずは傷を治してそれからリハビリだろう」
「っでも」
「先程防衛大学校まで行き教官たちと話を付けてきた。 詳細を聞きたくないのか?」

その言葉を聞いた坂木は片目を見開くと

「・・・・・・分かったよ」

大人しく言うことを聞いた坂木に看護師も麻琴もホッと胸を撫で下ろす。
坂木は病室へと戻りベッドに座ると

「真壁、悪かった」
「いえ。 焦る気持ちは分かります。・・・・・・でも無理はしないでくださいね」
「・・・・・・ああ」

坂木は麻琴に向かって少し微笑むと、今度は父親を見上げた。 麻琴も坂木の父親の方に向くと頭を下げた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。 私、防衛大学校2学年の真壁 麻琴と申します! 坂木さんにはいつもお世話になっております!」
「坂木の父です。 龍也のお見舞いに来て下さりありがとうございます」
「いえ、とんでもないです! あの、では私はこれで・・・・・・」
「もう帰るのか」

坂木にそう言われ麻琴は笑みを浮かべると

「お父様もいらっしゃいましたし、お邪魔しては悪いので」
「いや、話はすぐに終わるから真壁さんは待ってなさい」

父親にもそう言われてしまい麻琴はそこまで言われては、と頷くと一旦席を外すため病室の廊下で待つことにした。


麻琴は頭を下げて病室を出たのを確認すると父親はバッと素早く坂木を見ると早口で

「あのお嬢さんは彼女か?」
「ちっげぇよ、大隊と校友会が同じなんだよ」
「嘘をつかなくてもいい」
「だーかーらー・・・・・・! チッ、傷が開くぜ」
「最近は小柄な女性隊員も入ってきて心配になるが、やはり防衛大にも居るんだな」
「アイツは・・・・・・」

ただ小さいだけじゃねぇ、と言いかけた所で父親を見ると期待をするような目でこちらを見ていた。

「なんだよ」
「いや。お前にも春が来たんだなと思うとな・・・・・・」
「・・・・・・で、防衛大行ったんだろ? どうだった?」

その質問に父親は椅子に座ると、進捗を話した。




背筋を伸ばして廊下で待つこと15分、ガラッとドアが開き「じゃあな」と声が聞こえた。

「真壁さん、待たせすまなかったね」
「いえ! もう宜しいのですか?」
「ああ」

父親は暫く麻琴を見つめ、麻琴も何故見られてるんだろう、と冷汗をかきながら父親を見上げると

「龍也が迷惑を掛けたね」
「い、いえそんな。 むしろ私はいつも坂木さんにご迷惑ばかり掛けておりますので」
「乙女の対番・・・・・・だったか、すまないね。防衛大の事は詳しくなくて、娘も世話になってるとか」
「おと・・・・・・岡上学生も、防大生活にも慣れてよても優秀な学生です。 今も卒業式に向けて儀仗隊の練習に励んでいますよ」
「ああ、私も卒業式を楽しみにしているよ」

父親が卒業式に来る、という事はと麻琴は驚いて目を見開くと父親は坂木そっくりな笑みを浮かべると

「話は龍也から聞くといい。 私はこれで失礼するよ」
「はい! お気をつけて!」

父親の背中を見送った後麻琴は坂木の病室に入ると、これまた不機嫌な坂木が ベッドから身体を起こしておりこちらを睨みつけていた。

「坂木さん?」
「親父に変なこと言われてねぇか?」
「いえ、乙女ちゃんのお話をさせて頂きましたよ」
「あぁ」

なら良かった、とベッドに凭れると麻琴は荷物を床に置いて丸椅子に座った。

「坂木さん、卒業式・・・・・・来ますよね?」
「当たり前だ。 それを話に行ってもらってたのと、まああとは今後についてだな」
「今後、ですか」
「卒業しても、こんな身体じゃ幹校に行けないだろ? その間どうするかって話をしに行ってくれたんだ」
「なるほど・・・・・・」

とは言っても、ここまで深く入り込んだ話を麻琴は聞いてもいいのだろうかと躊躇っていると

「詳細は決まってない。 教官たちも今度ここに来るってよ」
「あの、留年・・・・・・しないですよね?」
「してたまるかよ、あんな汗くせぇところ」
「あはは、確かに。 でも、卒業式出れるって聞いてほんと良かったです。全力でお見送りできます」
「おう、ありがとな」
「じゃあ無理せずに大人しくしててください」

骨折以外にも怪我をしている場所は沢山あるのだ。麻琴は眉を落としてそう言うと坂木は仕方がないと笑みを浮かべると麻琴の頭を撫でた。
頭を撫でられなが麻琴は顔が熱くなったが嫌では無いのでされるがままになっていると「あっ」と麻琴は声を上げた。

「坂木さんのお父様、初めてお会いしました」
「そういやそうだな。 行事事とかは顔出さないし」
「てっきりお父様も防衛大学校出身かと思っていました」
「ああ、親父は航空学校の方だよ・・・・・・おい、お前さっきから何人の顔ジロジロ見てんだ」

頭を撫でられながら坂木は麻琴を睨みつけると麻琴は

「あ、いや、めちゃくちゃそっくりだったなって思っ・・・・・・ぶふっ」
「おい・・・・・・テメェ頭割るぞ」

そう言うと怪我人とは思えない握力で麻琴の頭に力を入れれば、病室に悲鳴が起きた。


避雷針と鬼の父親



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