麻琴と坂木が武道場でセルフ卒ダンをした次の週・・・風呂から出た麻琴はPXへ行こうと財布を持って外に出ると坂木が外出から帰ってきた所だった。
「坂木さん、おかえりなさい」
「おう」
灯りがある所まで坂木が近づいてきて分かったが、酒を飲んだのか顔が赤くなっていた。校友会で飲み会が開かれる時も坂木は自分の許容量までしか酒を嗜まないのだが、今日は珍しく酔っていた。
ふわりと香るお酒とタバコの匂いに麻琴は驚くと
「・・・坂木さん、飲みすぎですよ」
「そうか?」
「何かありました?」
校友会の集まりなどでお酒を飲む所は見ているが、ここまで酔っている姿を見るのは初めてだ。
「私丁度PX行くところなので、お水買ってきます」
「いやいい・・・いや、オレも行く」
「えぇ? 歩けますか?」
「ナメんな。まだ飲めるくらいだ」
「いやいや、明日に響きますからこの辺にしときましょう」
ふらつく坂木を横目にPXへ向かいカゴを手に取るとお使いで頼まれた物や、切らしていたペンの替芯をカゴに入れていく。
「真壁」
坂木にの呼ばれて振り向くと、手にいっぱいのたべっこすいぞくかんを持っていた。
それを麻琴のカゴにドバドバと流し込むとそのカゴを強奪し店の中を歩き回る。
「ちょ、坂木さん!?」
「お前が好きなもんなんでも買ってやるから、足りなくなったらカゴ持ってこい」
「えええ、いや充分です!」
「お前これ好きだったろ」
そう言うと片っ端からどんどんカゴに入れていく。
酔っ払っいとは恐ろしい、と麻琴は顔を青ざめさせたがふとカゴの中の物を見ると目を見開いた。
「(坂木さん、ホントに私がいつも買ってるやつ入れてる)」
ただ闇雲にカゴに入れているのではなく、麻琴が美味しいと言っていたものを覚えており選んで入れていたのだ。
坂木は自分をよく見てくれている、そう思うと嬉しくなり頬が緩むと麻琴もカゴを手に取り坂木がよく買っているものを入れた。
「まだあったのか、すみませんこれも・・・」
「あー! いいです! これは私が! メロペイで!」
坂木が財布を出すより前に麻琴はスマホのバーコード決済で先手を打つと、坂木は財布を開いたまま舌打ちをした。
「ハイテク機能使いやがって」
「もう充分買って頂きましたから」
麻琴は袋を受け取ると、それを坂木に差し出した。
「なんだよ」
「これは坂木さんセットです」
「なんだよ坂木さんセットって・・・」
坂木は受け取って袋の中を見ると、よく自分が飲んでいたエナジードリンクやプロテイン入りの飲み物、お菓子が入ったりしていた。
「・・・よく覚えてんな、お前」
「伊達に2年間過ごしてませんから」
「ハッ、それは同じ台詞だ」
そう言って坂木が奢ってくれた袋を受け取ると案の定麻琴が美味しいと言っていたものばかり。
その中から麻琴はたべっこすいぞくかんを取り出すと坂木に手渡した。
「覚えてないですか?」
「ん?」
「私が初めて坂木さんとPX行った時の事です」
鬼の坂木と出くわしてしまい、震えながら買い物をしたがその帰りに坂木がたべっこすいぞくかんをひとつくれたのだ。立場は逆だが麻琴がそれを差し出すと坂木は受け取る。
「もちろん覚えてるよ、お前ブルブルしてたもんな」
顔を合わせるだけで引き攣らせていた麻琴の顔を思い出して坂木は笑う。
「ほんと、あっという間です」
外に出れば冷たい空気が頬を刺激し、坂木も段々と酔いが冷めてきたのか赤かった顔は少し引いてきていた。
「坂木さん、1人で飲んだんですか?」
「いや、近藤と一緒にだよ。 アイツ未成年だから飲ませてねぇけど」
「いいなー」
坂木と2人で外に出るなど、この防衛大の敷地か夏休みの釣り、春休みに2人で行ったオカピーと、正月実家に来ただけだ。
麻琴がぽつりと呟く姿に坂木は見下ろすと
「・・・幹校に行くっつっても、すぐには奈良に行かねぇから・・・どっか連れてってやる」
「ホントですか?」
「おう」
照れ隠しにそっぽを向く坂木。麻琴そんな坂木を見て頬が緩ませるとその背中を追いかけた。