防大の後期は30秒とも言われるほどの目まぐるしさ。
そんな中行われるのは

「節分?」
「うん、節分」

朝の食堂で豆の入った袋を手でつまみながら坂木龍也の妹である岡上乙女は首を傾げた。

「その豆はまだ使うから食べちゃダメだよ」
「? みんなで集まって食べるんですか?」

向かいに座った麻琴はニヤリと笑うと

「夜は男子のフロアに近づかないように」
「へ・・・?」


***


「鬼は外ー!!!」
「えーい!」
「オラァ! お前ら本気でやれ! 全力で投げなきゃ意味が無いだろうが!」

その日の夜、毎年恒例の自習時間を使っての豆まきが始まった。
男子側は今頃戦場となり1学年はほぼ全滅しているだろう。女学はというと、久坂教官が鬼のお面をつけお遊び感覚で訪れたのだが同じく鬼役の永井の勢いが凄すぎて久坂教官はちょっと負けそうになっていた。

「今年は永井さんが鬼なんですね・・・」
「久坂教官が空気になりつつあります」
「う、うおおー!鬼は外!」
「そんなもんか! 足らんぞ! もっとだ!」

と言いつつも女学のフロアはキャッキャウフフと豆まきを楽しんでいると、突然黒い全身タイツにガムテープで「豆」と貼られた男がこちらにやってきた。

突然の登場に全員が投げるモーションで固まり、全身タイツ男の顔を見ると

「千葉教官!?」
「なんだ千葉、お前も参戦か」
「いえ、少し真壁学生をお借りしてもよろしいでしょうか」
「え、私ですか?」

豆と一緒に投げていたお菓子を片手に麻琴は首を傾げると突然腕を掴まれた。

「え、え、何ですか?」
「こちら側の鬼退治では真壁学生の力が必要でな」

混乱する中千葉は失礼、と一言声を掛けると突然麻琴を小脇に抱えて駆け足で走り出した。

「千葉教官どこに?!」
「男子側が押されててな、厄介な鬼がいるんだ。アイツの弱点は真壁学生だ」
「アイツとは・・・」
「行けばわかるよ。そしてお前は今から豆だ」

廊下に倒れる屍を掻い潜りながら到着したのは第1大隊の玄関フロア。そこにも沢山の学生が倒れており女学とは違う死地に麻琴は震えていると

「テメェら!官品だから傷つけんなよ!」
「ぎゃー!」

そんな声が聞こえ近づくとそこには鬼の角をつけた坂木が豆と書かれたソファを山並達に目掛けて投げつけており、不気味な動きをする大久保と鬼の顔になった坂木は近藤を挟み撃ちにすると撃退した。

「あらかた片付いたか?」
「ええ。静かになりましたね」
「ったく、根性見せろよ。オレたち鬼が勝ってどーすんだ」
「世も末ですね」
「それはどうかな」
「うおっ」

千葉の声に2人は振り向くとそこには震えた麻琴も居た。 全身タイツに豆と書かれた千葉が坂木をヒョイッと持ち上げると鬼は外ーといいながら外へ2人を投げ捨てた。

「指導教官が参加しないとは言ってないからな。トドメにこの豆もやるよ」

そう言うと千葉は隣に立っていた麻琴の額にペタっと付箋で何かを貼ると横抱きに抱き上げた。

「坂木、キャッチしろよ」
「は?」
「ほーら豆だ」
「うぎゃああ!」

千葉は遠心力を使って麻琴を坂木目掛けて投げつけた。突然の事に坂木も驚いたが立ち上がると麻琴を受け止める動作に入る。

「ぐぇっ」
「ぎゃっ」
「ぐはっ」

軽い麻琴とて飛んでくれば物凄い重さになる。坂木は無事に麻琴をキャッチ出来たがそのまま一緒に倒れ込み西脇をクッションにして倒れ込んだ。
麻琴の額には「豆」と書かれた付箋が貼られており、本人は完全に伸びている。

「そう来ましたか、坂木・・・その豆には勝てませんね・・・」
「・・・ったく千葉さんのやつ」
「あなたが絶対キャッチするって分かってて投げましたね」
「あたたた・・・」
「真壁、大丈夫ですか?」
「大久保さんと坂木さん? そうだ! 私投げられたんでした!」

千葉の方を見ると千葉は「片付けとけよ」と手を振りながらクールに去るが、全身タイツでただの変質者だ。

「あの、坂木。そろそろ西脇から退いた方がいいです」

大久保の言葉に麻琴は状況を確認する。
投げ飛ばされた麻琴はそのまま

「あ、あのさささ、坂木さん、重いですから降ります

投げ飛ばされキャッチしたまま、麻琴は坂木に乗っかっている状況のため麻琴は顔を真っ赤にさせ目をぎゅっと閉じたままそう呟いた。
坂木も状況に気づき慌てて麻琴の身体を離すとすぐに立ち上がらせた。

無言で制服のホコリをパタパタと落とす2人に、大久保は面白そうに眺める。
気まずい空気の中、麻琴は話題を作ろうと頭をフル回転させると

「まさか、私が豆になるとは思いませんでした」
「オレらだってお前が投げられるとは思わねぇよ」

坂木は麻琴の額に貼られた付箋をペリっと剥がしてやり、大久保は腕時計を見ると

「おやもうこんな時間。ほらほら、私達も片付けしますよ」
「はい! あ、坂木さん大久保さん。これお菓子です」
「女学んとこは平和だな」
「いただきます」

2人に個装のクッキーを渡すと3人は建物内に入り、散らばった豆を拾う作業に移る。

今年も豆まきは平和に(?)終わったのであった。

避雷針と豆まき



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