「ぐっ・・・う、うう・・・重てぇ・・・」

ずしりと身体が重く、目を覚ますと外は薄暗くハッと目を覚ます。

そういえば、麻琴が布団の中に潜り込んできて・・・・・・

「真壁、起き・・・・・・」

坂木は首だけ動かすが、目が合ったのはサスケ。
サスケは坂木の腹に顎を乗せてつぶらな瞳でこちらを見つめていた。

途端坂木は跳ね上がった心臓がみるみる落ち着いてくるのを感じると、ぼすんと後頭部を枕に沈み込ませた。

「はぁ、びびった・・・・・・夢か・・・だよな」

腹の上に乗ってきたのは麻琴ではなくサスケだった。むしろ夢でよかった、と坂木は思わずサスケの頭を撫でくりまわす。

案内された8畳ほどの広さがある和室、敷かれた敷布団の隣には千葉がまだ眠っており坂木はむくりと起き上がると

「(っていうか寛いじまっている・・・!!)」

時は流れ12月31日の大晦日。坂木は頭を抱えた。
ひょんな事から麻琴の実家で年末年始を過ごすことになってしまった坂木。最初は緊張したものの、麻琴の父と母は快く歓迎し、兄の琢己やかつて千葉の同期であり坂木が1学年の頃、同部屋のサブ長であった琢磨からも若干の牽制やシバきはあったものの何だかんだで歓迎してくれた。

来たのその日の夜から酒だ酒だのどんちゃん騒ぎで酔った勢いで父親が「麻雀するわよォ!」と麻雀セット一式を持ってきて家族全員で麻雀大会。麻雀は知らなかったが麻琴から説明を聞きよく分からないが勝ってしまったり、坂木家では無かった光景に戸惑いはしたが賑やかで居心地がいいのだ。千葉が休みの日に来たがる理由がわかった気がする。

「(それにしても、順序狂わせやがって・・・)」

サスケを撫でながら眠っている千葉を睨む。
本来なら卒業後麻琴に想いを伝え、そこから休みを利用して麻琴の実家へと挨拶をしたいと思っていた。

千葉によって見事に順序を狂わせられてしまったため坂木は千葉の耳元で

「千葉さん、ワッチです」

その瞬間千葉はバッと起き上がり、部屋を見渡すと

「・・・・・・なんでお前がそれ知ってんだ」
「岩崎と真壁から聞きました。仕返しです」
「ちっ、いごっそうのくせに」

俺はまだ寝る、と千葉は再び布団に潜り込むと再び夢の世界へと旅立ってしまい、坂木は時計を見る。
時刻は朝の6:00・・・普通ならもう起きている時間だがせっかくの休みなのだ、冬季休暇くらいもう少しゆっくりしてもバチは当たらないだろうと坂木も再び布団に潜り込むとサスケも坂木のお腹の上に再び顎を乗せて眠り始めた。





大晦日、夜の23時過ぎ
麻琴の兄達と千葉、坂木と麻琴は徒歩で10分ほどの位置にある小さな神社へやって来ていた。 もうすぐで日付が変わり新しい年に変わるタイミングで参拝しようとしている者も多く、境内は肩がぶつかり合う程度には賑わっていた。

「はぐれるなよー」
「特に麻琴な」
「大丈夫だもん」
「俺もはぐれちゃいそうー」
「周、お前はデカいから大丈夫だ」

そんな会話をしているとあっという間にカウントダウンが始まり、日付が変わった瞬間爆竹が鳴り響く。
お互い新年の挨拶をし、参拝をし終えると

「はい、坂木さん!」
「悪ぃな」
「・・・あれ? お兄ちゃん達は?」
「え?」

年明け後はお酒や豚汁が振る舞われ麻琴は兄達と坂木の分を用意したのだが気づけば3人が消えていた。
こんな人混みなのだからはぐれるのは予想していたのだが・・・ポケットに入れていた携帯が震えメッセージを読むとため息をついた。

内容は千葉からで「俺様たちが気を使って二人きりにしてやる」という内容。ため息を着く坂木に麻琴は首を傾げると

「はぐれたらしい」
「もー自分達が気をつけろって言ってたくせに」

頬を膨らませた麻琴だったが、坂木と肩を並べるとちょうどよく空いたベンチに腰をかけて二人で豚汁を食べる。

「坂木さん本当に今日帰っちゃうんですか?」
「長居しても申し訳ないからな。十分リフレッシュさせてもらったよ。合間に論文も作れたし」
「サスケも坂木さんにベッタリで安心しました」

元々人懐っこいのだがサスケは坂木が相当気に入ったらしく隙あれば坂木の所へ向かうほどだ。

「サスケと離れるのは寂しいな」
「ふふふ、分かります」

得意の早食いで二人は豚汁を平らげると辺りを見渡すが、先程より参拝客が多くなってきている。

「こりゃ先に帰った方が良さそうだな」
「ですね、参拝も終わったし、おみくじもやりましたし! 先に帰りましょう」
「千葉さんに連絡しとく」

坂木は素早くスマホを操作し「真壁連れて先帰ってます」と送信すると麻琴と人混みの中を歩き神社の外へと向かう。
人が多い境内の中、坂木は時折振り向いては麻琴が付いてきているか確認したが

「ほら」
「えっ」

手を差し出され麻琴は坂木の手と顔を交互に見つめる。痺れを切らしたのか坂木は麻琴の手首を掴んだ。

坂木の大きな手に麻琴は頬を赤くさせると

「お前もはぐれたら大変だろ」
「は、はひ・・・」
「せっかくの新年だ。コンビニ寄って祝い酒しようぜ」
「いいですね」

時間も経っているせいかすれ違う人は疎らで麻琴の家から近いコンビニに行けば、新年のせいか店内も無人だった。

店内のお正月BGMが流れる中、坂木と麻琴は買い物カゴを手に取ると奥のお酒コーナーへと向かう。

坂木は自分がよく飲むビールや、恐らく千葉達も飲むであろう缶ビールの6缶パックを手に取りカゴに入れていく。ふと坂木は疑問に思い麻琴を見ると

「お前、酒飲めたか?」
「はい!飲みます」
「好きなの選べよ、チューハイか?」

女子が好きそうなアルコール度数が少なそうな果物のお酒。麻琴の事だ、あまりお酒は強くないのだろうと思っていたのだが

「私、これがいいです」

麻琴はくるりと背中を向けたのは、ボトルのコーナー。そちらにも割るタイプのお酒や女性向けのお酒、ワインが置いてあるため坂木はその後を追いかけると

「は?」

麻琴が笑顔で持ってきたのはワンカップとパックタイプの清洲城信長鬼ころしだった。

「いやいやお前それ、オッサンかよ」
「そうなんですか? これとかレンチンすると美味しいって岡田さんが」
「お前いつの間に岡田とそんな話してたんだよ」
「えーっと・・・この前図書館で会った時、『お前成人したのか? ワンカップをレンチンすると美味いぞ』と聞きまして」
「(確かに鍋パした時飲んでたな)はぁ・・・お前、酒強いのな」

まあいいか、と坂木はカゴを差し出すと麻琴は嬉しそうにありがとうございます!と笑顔でワンカップと鬼ころしをカゴに入れたのだった。



***



「あてぃしぃ、坂木しゃんが卒業するなんていやれす!」
「酔ってんなお前」
「酔ってまへんよ!」

家に帰り麻琴と坂木はリビングのこたつで肩を並べて酒を飲んでいた。麻琴は強いには強いのだが、飲むペースが早かった。おかげさまで目は座っており、顔をも真っ赤だ。

「もうやめとけ、起きたらきついぞ」
「坂木さん飲んでます?!」
「あー飲んでる飲んでる」

これ以上飲ませるのは危険だ、と麻琴の手からワンカップを奪い取りそれを代わりに飲んでやれば喉がカッと熱くなる。
こいつに水でも飲ませるか、と坂木は立ち上がり台所から水を持ってくると麻琴は机に突っ伏していた。

「おい、コラ寝るな」
「寝てません・・・」
「寝そうだ」
「だって、寝たら坂木さん帰っちゃう」
「べつに防大でも会えるだろ」
「防大ではこうやってゆっくり出来ないです」

そう言って麻琴は目を赤くさせながら坂木をじとりと見上げると、坂木も再びこたつに潜り込んだ。

「・・・まあ、それもそうだな」
「それに、私もう三学年になっちゃいます・・・大丈夫でしょうか」
「不安か?」

突っ伏したままこくりと頷く麻琴に坂木はふっと笑うと

「お前なら大丈夫だよ」
「ほんとれすか?」
「オレはずっとお前の事を見て来たんだ。もう何も教えることはねぇよ」

笑いかけてくる坂木に麻琴も笑い返す。
テレビを見ながらしばらく他愛もない話をしていると、睡魔がきたのか麻琴は目を擦った。

「眠くなってきたか?」
「ふぁい・・・」

そう言うと麻琴はクッションを取り出し枕にするとモゾモゾとこたつの中に入り込んだ。

「おいコラ、部屋で寝ろ」
「ちょっとだけですよ」
「ぜってー嘘だ」

案の定横になった瞬間すやすやと寝息を立て始めた麻琴。 寝つきが良すぎるだろ、と坂木はズレたこたつ布団を肩まで掛けてやり傍にあった自身の上着を引っ張るとその上から被せてやる。

「1時間したら起こすからな」

そう言うと坂木は缶ビールを片手にテレビの新年お笑い番組に視線をやった。


***


「起床!」

腹の底から出された声に坂木はガバッと身体を起こすと未だにこたつの中。あれから自身も酔って寝てしまったらしくそのまま机に突っ伏していたせいか全身が痛く顔を顰めた。

「おはよう、坂木くん」
「ひっ・・・」

休めの姿勢で仁王立ちしていたのは兄である琢磨、そして千葉。元部屋長とサブ長の組み合わせに坂木は慌てて立ち上がると背筋を伸ばした。

その足元では麻琴が未だにすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。

「坂木くん、ウチの妹に酒を盛ってあわよくば襲ってないだろうね?」
「してません!」

坂木龍也、防衛大最後の冬休みの出来事である。


***


「じゃあ、また防大でな」
「はい! お気をつけて!」


千葉はもう少しゆっくりするらしく、帰るのは坂木のみ。麻琴の危うい運転でたどり着いた御殿場駅には人がまばらで麻琴改札口まで着いてきた。

「お前、帰り気をつけろよ?」
「もちろん! 安全運転で帰ります!」

えっへんと麻琴は微笑むと坂木も笑い返しじゃあな、と背中を向ける。

「あ、あの、坂木さんっ」
「ん?」

麻琴は小型のショルダーバッグから何かを取り出すとおずおずと小さな箱を差し出してきた。

「・・・・・・何だ?」
「坂木さん、明後日・・・・・・誕生日、だから」

そういえば。
坂木はああ、と頷くと箱を受け取りカバンの中に仕舞うと

「ありがとな」
「いえ、何がいいかなってすごい悩んだんですけど気に入ってくだされば」
「開けてからのお楽しみにしておくよ」

じゃあな、と坂木は麻琴の頭をポンポンと撫でると改札をくぐった。


アナウンスの音を聞きながら新幹線に乗り込み、発車までの間に麻琴がくれたプレゼントを開けてみた。
箱に入っていたのはとあるブランドの無地でシンプルなジッポライターだった。
色はガンメタルの色で落ち着いており、坂木はポケットからスマホを取り出すと

坂木:ジッポありがとな

そうメッセージを送ると、坂木は今まで使っていたジッポライターを手に取る。 サブとしてこれを使うのもありたが、坂木は何かを思いつくと

「古いのは近藤にでもやるか」

そう言ってポケットに入れると同時にベルが鳴り、新幹線はゆっくりと前へ進み始めた。

避雷針の冬季休暇・後編



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