新年を迎え、坂木は同期の新年会が始める前に誕生日を迎えた乙女に電話を掛けた。

軽い雑談をしたあと、乙女は

『兄さんは年末何をしてたんです?』
「オレか? オレは・・・・・・あー」
『ん??』

坂木は突然起きた年末年始の出来事に言葉を濁し、苦し紛れに

「・・・・・・論文だ」

絞り出すように出た嘘。

乙女に電話する数日前の出来事の話である。





クリスマスが終われば中期の生活は後わずか。約一週間の冬季休暇に近づくため学生たちは少し浮き足立つ。
少し浮ついた学生たちを千葉は屋上の喫煙所で煙草を吹かせながら見下ろし、ふぅと空に向かって煙を吐き出しているとガチャっとドアが開かれた。

「よう坂木」
「・・・ざっす(めんどくせぇのが居た)」

坂木は一瞬固まったが、綺麗な敬礼を見せると千葉も返し隣に立つと坂木も煙草に火をつけた。

「お前休みなにすんの?」
「論文の準備ですかね」
「実家帰んねぇのか」
「今年は下宿ですよ」
「防大生最後の冬休みなのにな」
「論文落としたらシャレになりませんからね」

そんな話をしながら坂木もふぅ、と大きく煙を吐き出せば冬の寒い風が煙をさらっていく。春は幹校でバタバタするため、実家に帰れるのはGW辺りであろう。
この流れでは形だけでも千葉のスケジュールを聞いた方が良いだろうとチラリと千葉を見上げると

「千葉さんは?」

待ってましたと言わんばかりに千葉は煙草を指で挟みながらニヤリと笑うと

「俺は今年も=A麻琴の実家に転がり込む」
「・・・・・・あぁ?」

思わず素が出てしまった。イラッとした坂木は持っていたソフトパックの煙草を握りつぶしかけたが、この間買ったばかりだ。潰す訳には行かないとドスの効いた声で千葉を睨みあげると

「あっ、いいこと思いついた」

千葉は楽しそうにポケットからスマホを取り出した。






冬季休暇に入り、麻琴は久しぶりの実家に飼い犬のセントバーナードであるサスケとじゃれながら床にゴロゴロと寝転ぶ。

テレビの内容はもう年末の番組宣伝をしていたり、今年の出来事ダイジェストが流れている。
麻琴はそれをぼーっと見ているとテーブルの上に置いてあったスマホから着信音が鳴った。

「周くんかな」

起き上がりスマホを見れば予想どおりの千葉で「着いた」という内容だった。
一緒に実家へ来ると思いきや、少し野暮用があるから着くのは明日の夕方になると言ってきた千葉。防大の教官になったのだから仕事が立て込んでいるのだろうと、麻琴は起き上がりサスケと玄関へ向かっているとピンポーンとチャイムが鳴った。

「はーい」

解錠してからのドアを開けた瞬間、

玄関に立っていたのは大きなボストンバッグを肩に引っ掛けた坂木だった。

「へ・・・・・・」

ドアを開けたモーションのまま固まった麻琴と、少し気まずそうな坂木は目を逸らし

「・・・・・・よう」
「あ・・・・・・いらっしゃい、ませ・・・? え?」
「ワン!」
「ええぇ!坂木さん!何で!?」
「そりゃオレが聞きてぇよ」
「ワン!」

誰だお前は、とサスケは麻琴の横からすり抜けて坂木の周りをグルグルと走り坂木の匂いを嗅ぐ。突進してきた巨大な犬に坂木は驚きながらもされるがままになっていると

「ドッキリ、だーいせーこーう」
「うわっ!」

ドアの死角から現れた千葉に麻琴は肩を震わせる。
やはり犯人はこの男だった・・・麻琴は顔を青ざめさせていると

「麻琴、お前寝てたろ」
「な、なんで・・・?」
「髪ボサボサ」
「えっ!?」

慌てて玄関の姿見を見れば確かに後ろが跳ねている。
麻琴は叫びながら髪の毛を抑えると

「ちょっと待ってよ周くん、坂木さん来るなら連絡のひとつでも・・・!」
「琢磨達とかママさんパパさんには伝えてあるぜ?」
「私! 私は!?」
「ドッキリするから言うなって」
「・・・だからいつもより早めに大掃除してたんだ」

前倒しの大掃除に全然疑問に思わなかった麻琴は頭を抱え、坂木はサスケと視線を合わせて挨拶をしていると

「悪ぃな真壁。オレは断ったんだが」
「い、いえ! むしろ来てくれてありがとうございます!」
「どうせ遅かれ早かれ麻琴の実家には行く予定だっただろ。早くなっただけだ」
「なっ」
「あぁ?!」

顔を赤くさせた二人に千葉は口笛を吹きそっぽを向いていると

「あら周くん! おかえりなさい!」
「ただいま、ママさん。これリクエストのカレーとお土産」
「まぁ、ありがとう!いくらだったかしら?」
「いえいえ安いんですから俺からのプレゼントって事で」

突然現れた麻琴の母親に千葉は顔をよそ行きの顔にチェンジさせ爽やかな笑顔でお土産を手渡す。母は坂木を見て微笑むと、

「坂木くんもいらっしゃい。開校祭ぶりね」
「ご無沙汰しております! 年末のお忙しい中、突然押しかけてしまい申し訳ありません!」

坂木は背筋を伸ばして最敬礼をするといいのよ、と麻琴の母は笑う。

「寝床は全然余ってるし、せっかくの年末なんだからゆっくり休んでちょうだい」
「お世話になります! こちら、よかったら食べてください」
「あらやだ!そんな気を使わなくていいのにー!ありがとうね」

麻琴に似た笑顔で微笑みかけられると、寒いでしょーお茶でも飲むー?と千葉と話しながら家の中に入っていく母を見送る。

取り残された麻琴と坂木とサスケ。

気まずい沈黙を破ったのはサスケでワン!と吠えると坂木に再び擦り寄ってきた。

「この子が噂のサスケか?」
「はい、そうです」

まだ実家の玄関に坂木が居る違和感が拭えずふわふわした気持ちでサスケを撫でる坂木を見つめる。

「坂木さん、論文とか大丈夫なんです・・・?」
「ん? 少しずつ進めてたからな、問題はねぇよ。一応パソコンも持ってきたし」
「あのっ、何日まで居れるんですか?」
「年明けたらすぐに帰る」
「えー」
「はっ、何だよ」

笑いながら麻琴を見れば麻琴は顔を赤くさせ一緒にしゃがみこむ。サスケは早くも坂木に慣れたのかもっと撫でろと強要し、坂木もよしよしと首周りを撫でてやる。

「にしてもデケェな」
「体重は60キロ以上ありますよ」
「オレより重いな」
「あまりに懐きすぎると飛びついてくるので気をつけてくださいね」

既に坂木の肩に手を掛け始めているため麻琴は駄目だよ、と声を掛ける。

「坂木さん、寒くなってきましたし上がってください」
「ああ。邪魔する」

おじゃまします、と坂木は玄関に入ると廊下には小さい頃の真壁兄妹の写真やサスケの写真が並べられている。

入ってすぐに2階へと続く階段とリビングや浴室に繋がる広い廊下があり、リビングへ案内されると既に千葉がこたつに脚をはみ出させながら仰向けに寝転がっていた。

「いや、くつろぎすぎでしょアンタ」
「毎年はこんな感じだ」
「坂木くんもくつろいでねー」

母親の言葉にありがとうございます、と坂木は礼を言うと千葉の横に座り麻琴はキッチンへ向いお茶の用意を手伝う。
リビングも麻琴の写真があったり、飾られている中の最新の写真には開校祭での写真もあった。

「(ってか、なんでこうなったんだ・・・)」

未だに麻琴の家にいる実感がわかず坂木はテレビに流れる年末番組を見たが、全く内容が入らないのであった。


***


「坂木さん」
「・・・・・・ん?」

夜、通された客間に敷布団を敷き坂木と千葉は眠っていると麻琴の小さな声が聞こえた。
重たい瞼を開くと、麻琴が坂木の傍らに座っていた。

「真壁? どうした」
「寂しくなっちゃって・・・一緒に寝てもいいですか?」

突然の爆弾発言に坂木は働かない頭で理解すると段々と目が覚めてきた。

「おい、馬鹿言うな。千葉さんも居るだろ・・・それに、お前の家族が起きたら大騒ぎだ」

というかオレが殺される、と坂木は慌てて麻琴を帰そうとするが麻琴は嫌だと首を振ると坂木に覆い被さり胸元に顔を埋めてきた。

「ば、真壁っ・・・」

惚れている女にそんな事をされては理性も保てない。坂木はぐっと歯を食いしばるが誘惑に負けそうになる。

「坂木さん、皆が起きる前には出ていきますから」

自分たちはまだ明確な関係性ではないじゃないか、理性を保てと頭の中でそう言い聞かせるのだが薄暗い中頬を染めた麻琴を見て坂木は仕方ないとため息を着くと麻琴を布団の中に招いてしまった。

麻琴は嬉しそうに布団に潜り込み坂木に擦り寄ると腕を身体にまわし眠りにつく。

「坂木さん、あったかいです」
「・・・早く寝ろ」

坂木も照れ隠しに頭を撫でてやると、夢でありますようにと目を閉じた。




避雷針の冬季休暇・前編



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