近藤は廊下を走っていると、課業を終えた麻琴と出くわしたため慌てて敬礼をした。

「こんにちは近藤くん、寒くなってきたね」
「はい! ほんと朝が寒くて。・・・って、真壁さん。熱を出したと聞きましたが、大丈夫ですか?」
「ありがとう、 完全復活だよ。クリスマス近いし、へばってられないよ! 近藤くんはプレゼント決まった?」
「いえ、それがなかなか決まらなくて」
「だよねぇ。私も今度の休養日に買い出しに行くつもり。お互い良いのが決まるといいね!」
「はい! あ、そうだ」

近藤は何かを思い出すと麻琴と小声で

「あ、あの・・・千葉教官なんですけど」
「千葉教官? どうしたの?」
「真壁さんとは、ご兄妹では・・・?」

深刻な顔をする近藤を見上げ、麻琴は目を数回瞬きさせたがプッと吹き出して課業用の鞄で顔を隠す。肩を震わせて笑う麻琴に近藤は頭に「?」を飛ばすと

「ごめんごめん、そういう事ね! 千葉教官はね、私の兄と同期で昔からの付き合いなの。 確かにお兄ちゃんみたいな存在だけど・・・」
「ご、ご兄妹では無かったんですね! もちろんお二人のご関係は内密にしておきます! 広まると、凄い大変ですし・・・」

広まる速さの恐ろしさを知っている近藤は顔を青ざめさせながら震え、麻琴も苦笑いして頷く。

「うん、そうしてくれると助かるな。 気を使わせちゃったね。ありがとう、近藤くん!」
「いえ! では、失礼致します!」

走り去っていく近藤を見送っていると突然後ろから圧を感じ、振り向くと千葉が立っていた。
気配を消されていたため麻琴は慌てて距離を取り敬礼をすれば、千葉も無駄のない素早さで敬礼を返した。

「ビックリした・・・」
「指導してると思いきや違った」
「世間話くらいする・・・しますよ。それに、近藤学生には見られてるんですから」
「確かに」

千葉に対して敬語というのも慣れないものである、せっかく近藤が気を利かせてくれたのだからバレないようにしなければならない。
廊下のど真ん中ではいけない、と麻琴は辺りを見渡して千葉と廊下の隅に移動をすると

「お前、最近いごっそうと話したか?」
「いごっそう?」
「坂木だ」
「いごっそうさんって、坂木さんの事だったんですね。 いえ、話してません」

麻琴が熱を出して復活した後、あれから坂木とは口をきいていない。 避けられているのか、たまたまなのか。麻琴がそう感じているだけなのか、千葉との関係や自分との兄の事で距離を置かれてしまったのではないかと麻琴は重いため息が出そうになるのを飲み込む。

坂木に声を掛けようにも、坂木は他の学生と話をしていたり校友会でも沖田に付きっきりで話す機会もない。 PXでばったり会うことも無くなりここまで話が出来ないとなると避けられている気さえしてしまう。

「なんか避けられている気がする・・・ねぇ千葉教官とお兄ちゃん、学生時代坂木さんのことイジメてないですよね?」
「・・・・・・ああ」
「その間は何ですか」
「アイツも四学年で忙しいだけさ、気にするな」

そう言って肩をポンポンと叩くと千葉はじゃあな、と手振って去っていく。取り残された麻琴はまた小さくため息を着くと、自身も居室へと向かった。






防衛大は通常通りの忙しさだが行事に関してはとことん全力でやるのも防衛大式、もちろんこの時期になるとクリスマス会もある。

今年は4つの大隊がミックスされたクリスマスプレゼント交換会をするらしく、その予算は500円と低めの設定だ。

「(500円って結構難しいよね・・・男女混合だから両方からウケるもの考えなきゃいけないし)」

休養日、麻琴は知念と共にプレゼントの買い物へ来ていたのだがイマイチピンと来るものがなく麻琴は商品の前でうーんと腕を組む。

「ねー麻琴決まった?」
「決まらない・・・」
「だよね」
「ロ○トとか行く?」
「うーん。だね、行こっか」

そう言って東○ハンズから出ようとした所、麻琴は立ち止まりセール中の商品に手を伸ばすと


「こ、これだ・・・!」
「え?いいのあっ・・・えぇ、それ大丈夫? めちゃくちゃ大変そうだよ?」
「楽しそうじゃない?! 私こういうの好き!」
「うーん面白そうだけど、間に合う? 時間ないよ?」
「休養日、全てこいつに掛ける!」

麻琴はとある箱を見て目を輝かせた。



***



「開封!」

和やかなBGMと共にワイワイとしていた中、第4大隊の岡田の掛け声と共に全員はプレゼントを開封をすると「おおー」と笑顔になる。

バナナ、戦車の模型、グラビアアイドルの切り抜きなど様々なプレゼントが開かれる中、麻琴の手のひらにちょこんと乗るのは

「かわいい・・・・・・」

何故か分からないが、ネコにウツボが巻きついた謎のぬいぐるみキーホルダーが手のひらの上でころころ転がる。それを見た知念も

「麻琴の可愛いね! 当たりじゃん!」
「うん!でもよプレゼント誰のだろう。女学の子かな?」

ロッカーの鍵にでも付けようかと思案していると、通りすがった岡田が手に持っていたものを見て麻琴は声を上げた。

「お、岡田さんっ、それ!」
「ん? おう、俺のはこれだ」

そう言って見せたのは10式戦車と敬礼している隊員のスノードーム。麻琴はそれを見て嬉しそうに岡田を見上げると

「そのスノードーム、私のプレゼントです!」
「真壁の? よく見つけたな」
「ふふふ、それ作ったんです!」

たまたま安くなっていた型落ちのスノードームキットがワンコインだったため、ミニチュアコーナーで買った戦車と隊員と草を購入し作ったもの。やや予算オーバーをしたが、麻琴にとってはなかなかの力作だったためプレゼントにするのを渋ったほどだ。

「張り切りすぎちゃって・・・・・・でも、陸要員の岡田さんの手に渡って良かったです」
「凄いな、手作りか。ああ、大当たりを引いた。真壁は器用だな」

大事にするよ、と岡田が微笑むと麻琴の持っていたマスコットを見て

「それは・・・・・・おい、坂木!」
「ん?」

呼ばれた坂木がこちらにやってくる。あれからまともに会話が出来ていないせいか、久しぶりに坂木が近くに来たので麻琴は緊張してしまいいつもより背筋を伸ばして敬礼をした。

岡田は麻琴の持っているマスコットを指さすと、

「なあこれ、お前のだろ」
「ん? おう、それオレのだ」
「えっ!?」

てっきり女学の趣味かと思ったのだが、坂木のチョイスしたプレゼントだったらしい。こんな大人数の中想い人のものを引き当てる・・・麻琴は心の中でガッツポーズをしていると

「俺は真壁のが当たった」
「スノードームか、よく見つけたな」
「真壁の手作りだそうだ」
「マジか。お前器用だな・・・」

坂木はと言うと、特に変化はなく普段通りのテンションで麻琴と接しておりスノードームをまじまじと見つめる。 気のせいだったのだろうか? スノードームに釘付けな坂木を見て麻琴は心の中でホッと安堵の息をついた。

「坂木は手袋か」
「おう、当たりだ」
「暖かそうですね!」

麻琴も普段通りだ、と意識して坂木に声をかける。すると、目の前に白いふわふわした物が舞い、空を見上げると雪が降り始めた。

「雪か」
「どうりで寒いと思いました」

3人で空を見上げていたが、岡田は他の学生に呼ばれじゃあな、とその場を後にすると坂木と麻琴の2人だけになる。

お互い無言で降ってくる雪を眺めていると

「・・・なあ」
「はい」
「オレとお前、昔会ってんだよ」
「・・・・・・えぇ?」

突然呟かれた発言に麻琴は雪から視線を逸らして坂木を見上げる。
会ったことがある?いつの話だ?麻琴は頭の中で昔の記憶を思い出すがそこには坂木の姿は見当たらない。

「オレが1学年の頃の開校祭。お前、来てただろ」
「あ・・・はい! その年は、兄が最後の開校祭だったので遊びに」
「まあオレの事なんざ覚えてないさ。 ただ、あの日一瞬だけ会ったお前とこうやって一緒に生活してると思うとなんかな・・・なんつーんだ」

なんと表現したらいいか腕を組んで悩む坂木。その隣で麻琴も同じポーズをしてうーんと唸ると

「エモいってやつですかね」
「えもい・・・?」
「なんかそう言いません?」
「どういう意味だ」
「emotionalから取ったらしいですけど」
「ほー、シャバの言葉は相変わらず分かんねぇな」
「ふふ、私たち浦島太郎ですものね」

違いない、と坂木は笑い麻琴も釣られて笑う。

「なんか坂木さんと話したの久しぶりな気がします」
「あぁ、論文の準備とかあったからな。割と自習室に閉じこもる時間が多かった気がする」

避けられている訳ではなかった、麻琴は心の中でホッと一安心すると坂木は伸びをしてこちらを見下ろすと

「ってなわけで論文で疲れてんだ、何か甘いもん食いてぇからPXいくぞ」
「え? 晩御飯でクリスマスケーキ食べたじゃないですか」
「あんなんじゃ足りねーよ。まだクリスマス限定ケーキ残ってるかもしれねぇし・・・今年はバタバタして買ってやれなかったろ」
「坂木さん・・・!」

ほら付き合えよ、と耳を赤くさせた坂木はそう言ってPXのある方向へと歩き始めたので麻琴もキーホルダーを大切にポケットへと入れると、その背中を追いかけた。


避雷針とプレゼント交換



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