その日の夜、坂木は近藤達と楽しく(?)ジューじゃんをし終わり部屋に戻ると


「そう言えば明日、コントのステージで大久保さんと真壁が出るみたいですね!」


3学年の部屋っ子が坂木に話しかけると坂木は肩をピクリと震わせ

「なにィ・・・?」
「ヒッ」

鬼の形相をしながら大久保の居る部屋へと向かった。



「大久保ォ」
「坂木、どうしました?」
「お前コントに出るのか」
「はい。出演要請が来たものですから」
「真壁とやるってか」
「・・・おや、言いませんでしたか?」
「聞いてねぇ」

大久保の部屋に殴り込みに行くと部屋っ子の下学年は震え上がり部屋の隅に団子になって縮んでいる中、大久保は涼しい顔でニコニコと微笑みながら坂木を見上げると

「2学年は1学年で培ったキャパを応用するため様々な物を掛け持ちしひっぱりだこになるのは坂木だってご存知でしょう」
「だからってなぁ・・・アイツじゃなくたっていいだろ」
「安心してください、あの時のような格好になるのは私だけで真壁は普通の制服のままですよ。」

そう聞くと坂木は安心して怒りオーラを消すと少しだが眉間のシワを緩めた。そんな坂木の顔を見て大久保は失笑すると

「貴方は過保護ですねぇ」
「あん?」
「いえ何でも。 少しパワーアップして岡田にも参加要請を出したら快く引き受けてくれました。腹がよじれるほど笑わせる自信はあります。真壁も頑張るんですから、見に来てくださいよ」
「・・・嫌な予感しかしねぇな」

今更どうこう言ったって仕方がない。坂木は大久保の部屋から出て自分の部屋へ戻る途中、風呂から出てほくほくした麻琴が小走りで走ってきていた。

「真壁」
「わ!坂木さん、さきほどぶりです!」

そう言ってすぐさま敬礼をすると

「おい真壁、お前・・・」

コントに出るんだってな、そう言いかけたのだが一直線に伸びた廊下の奥から、アカシア会部長の池田が眼鏡を光らせてこちらへ猛突進してきた。

「坂木!真壁!ここに居たか!!!!」
「池田さん、こんばんは!」

麻琴は敬礼をすると池田も敬礼し・・・ガッと麻琴と坂木の肩を掴んできた。

「頼む、助けてくれ!」


池田のお願い事に坂木は「今年最後の開校祭は波乱の予感だな」とこめかみを抑え、麻琴は「今年の防衛大学校開校祭は、忙しくなりそうだ」と白目を剥いた。




***




防衛大学校開校祭2日目、リアルグ〇ップラー刃牙が現れたと噂が広まった。

190cm近くある大男で顔に傷があり、入場の地点で学生や警備の者が身分証明書を求めたのだが慌ててやって来た1人の学生によって止められた。


「すみません!その人私の父です!」


リアルグ〇ップラー刃牙と呼ばれた男性は麻琴の父親だった。







「真壁学生!」
「4学年の岡田さん!こんばんは!」
「指導が甘い!鞭はこうやって使うものだ!」

パァン!

「ありがとうございますゥ!」

ステージ上で鞭を振り回すコントは爆笑と痛そう、という悲鳴に包まれる中・・・坂木は引き攣った顔で見守っていた。

ステージ横の学生は「※フィクションです」という書かれた大きな紙を持たされ、同じ釜の飯を食った同期がSM嬢となり・・・坂木は考えるのをやめた。むしろ隣にいる麻琴は岡田の迫力に負けて震えているではないか。


無事に終えたステージ、拍手の中はけて行く3人を坂木はステージ横から出迎えると麻琴は「ヒッ」と声を上げた。

「さ、ささささ坂木さん?!!」
「なんだ真壁、坂木に言ってなかったのか」

岡田がのんびりとそう言うと麻琴は岡田の後ろに隠れようとするので

「おい真壁。上級生盾に使ってんじゃねぇぞ」
「すみませんー!すっかりお伝えするの忘れててー!」
「真壁も頑張ったんだ。そう怒るな坂木よ」
「私がお願いして出てもらったんですから」
「おいテメェら、真壁に甘すぎるだろ!」
「「(いやお前もだろ・・・)」」

そんなやり取りをしていると、1人の大男と小柄な女性がこちらにやってきた。

「デカイな」
「190近くありますよね」
「ん?」

坂木は背にしていたため振り向くと確かに背が高い。そして鋼のような筋肉、顔に傷があり強面の顔・・・一見ヤ≠フつくあちらの方と勘違いされそうだが、隣にいる小柄で可愛らしい女性を見て坂木は「どっかで見た顔だな」と首を傾げると岡田の背中から顔を出した麻琴は笑顔で

「あ!私の父と母です!」
「「「は?」」」

突然の発言に坂木達は麻琴と男性を交互に見てしまい麻琴はおーい!と手を振ると

「麻琴ちゃーーーん!ここに居たのねぇ!」

母親のセリフではなく父親がそう叫びながら笑顔でドスドスと女の子走りで駆け寄ってくると麻琴を持ち上げた。

「コント良かったわよォパパ沢山写真撮っちゃったから!後でお兄ちゃん達にも送るわね!」
「ぐぇ・・・あ、ありがとう・・・降ろして・・・」
「嫌よォー!夏ぶりの再会よ?!愛娘を吸わせてちょうだい!」
「あはは!やだわパパったら猫吸いじゃないんだから!!!」

そう言って麻琴を抱きしめと言う名の締め上げている男性を見て女性は坂木達を見ると

「真壁麻琴の父と母です。娘がいつもお世話になっております」
「初めまして!」

坂木、大久保、岡田は頭を下げると父親も頭を下げ笑顔になると名札を見て

「あらぁ、貴方が坂木龍也くんね!他の子達もいい男じゃなーい!」
「は、初めまして・・・」
「大久保みたいな人だな(小声)」
「・・・いえいえ、あっちの方がうわてですよ(小声)」

それからは麻琴の防衛大での生活や雑談をし、記念写真を撮ると麻琴の父親は

「麻琴ちゃんお仕事あるんでしょ?パパとママは2人で開校祭デートするから、頑張ってね!」
「えっ、案内いいの?」
「大丈夫よ、お兄ちゃんの時にも来た事あるし。ね、ママ」
「うん。じゃあ麻琴、皆さん。失礼します」

そう言って麻琴の両親は仲良く腕を組みながら人混みへと消えていった。





校友会の出し物の時間になった岡田と大久保と別れ、麻琴と坂木は一大隊へと向かっていた。

「話では聞いてたが・・・」
「すみません、癖が強すぎて」

麻琴は頭を下げながら歩くと坂木はフッ笑い

「羨ましいな」
「へ?」
「いや・・・ウチは親が離婚してるからな。家族団欒ってのは遠い話だったし、ああやって両親が行事に顔を出すってのも母親だけだったな。」
「そうなんですね・・・」
「オヤジが忙しいから仕方ないけどな。それにしてもお前ん家は賑やかそうだ」


そう言って坂木は腕時計を見ると穏やかな顔から厳しい顔つきに変わり麻琴を見下ろすと

「真壁、そろそろ時間だ」

そう言うと麻琴の顔にも緊張が走り頷くと2人はとある場所へと向かった。




***




「すまないな坂木、真壁」
「棒倒しは午後からだし構わねぇよ」

坂木はスーツに着替え、鏡でネクタイを整えながらそう呟いたが内心めちゃくちゃ焦っていた。
昨晩池田が頼んできた内容・・・それは、アカシア会の出し物である社交ダンスに出てくれという物だった。

昨晩自主練習中に1組のペアが転倒。それを庇った男子学生も手首を捻ってしまったそうだ。

代わりのメンバーを・・・と言いたいところだったのだが全員当番や他の出し物で出払ってしまい、去年のクリスマスダンスパーティーで優勝した坂木と麻琴なら・・・と池田は2人を探すために防大中を走り回ったそうだ。

「それに、こういう緊急事態に対応すんのも自衛官の仕事だろ」
「坂木・・・助かるよ」

涙目の池田を励ましていると女子部屋のドアが開き2人はそちらに顔を向けた。

「お、おまたせしました・・・」

麻琴は顔を真っ赤にさせてドアの隙間から顔だけを出すと池田は

「どうした真壁、サイズが合わないか?」
「い、いえ!恥ずかしくて・・・!」

仕方ない、と池田はため息をついてドアの隙間から顔を入れると

「あら、似合ってるじゃない。ほらほら!メイクと髪の毛やるから背中向けて」
「ひぃ・・・背中スースーします」
「そういうものよ」

どういう状況か分からない坂木は少しそわそわ待つこと数十分・・・お待たせーと池田がドアを開くとそこには青いドレスを着て、髪の毛をセットされ化粧もされた麻琴が出て来て坂木は固まった。

「どうよ坂木」
「・・・・・・スカートの丈が短ぇんじゃねぇか」
「お前は生徒指導の教師か」
「うっせぇ、それにスカート切れてるじゃねぇか」
「これはスリットな。真壁のスカートばっか見てお前は変態か」
「なっ・・・あぁ?!」

そんなツッコミをされながらもダンスに参加する他のペアを呼び、マンツーマンで最後のダンス特訓が始まった。


***



「やはりお前達に頼んでよかったよ。2人でアレンジを加えてもいいから無事に乗り切って欲しい」

池田は感動の涙を拭いながら、昨晩急遽行った練習とプラスしてラストスパートだと短時間で叩き込まれたスパルタ練習にげっそりとした2人にそう伝える。

麻琴と坂木はスローフォックストロットという今までやったことが無い種目の演技の上麻琴に関しては慣れないヒール、服装に戸惑っておりまだ表情も強ばっている。

そんな麻琴を見て坂木は仕方ないと、自分もセットされた髪の毛を崩さない程度に触れると

「真壁、やれる事はやったんだ。やるしかねぇ」
「はい!」
「気張れよ」

パシン、と軽く背中を叩けば出番になり麻琴と坂木は手を繋ぐと前のペアに続いて入場した。

スローフォックストロットとはゆったりとした音楽に合わせて流れるように踊る種目だ。激しいタンゴよりかは難しくないと思ったが、ステップが難しく男性が後ろに下がる際女性が置いてけぼりになってしまったり女性側は体重の掛け方や上体の使い所が難しい。

しかし音楽が始まれば麻琴もスイッチが入ったのか3歩進みリバースターンで2人が入れ替わりながら入る。この際男性が後ろに下がりながらステップを踏むためお互いの身体が離れてしまうミスが多いのだが麻琴は練習通り坂木の脚の間にステップを入れ最初の鬼門を突破した。

男性の脚の間でステップするリバースウェーブと、外側にステップするバックフェザーを交互にやり徐々にカーブを描きながらフロアを回る。今の所大きなミスはなく麻琴と坂木は突貫ではあったが踊る事が出来ていた。


「(ってかなんで初心者にこんなガチなもん踊らせてんだよ、池田のやつ・・・こちとらタンゴやらワルツしか出来ねぇっつーの)」


今年から披露のプログラムを一新し、チャレンジしてみようと新しく取り入れたスローフォックストロット。特に密着する踊りで脚が絡まり転倒することが多いため2人の息が合わないと成り立たない・・・他の種目をやるペアをこちらに回せばいいだろう、と今更心の中でそんな悪態を着いているとあっという間に音演技が終わり麻琴と頭を下げれば拍手が響く。

そのまま震えた麻琴の手を引き退場すれば、麻琴はへなへなと床に座り込んだ。

「お、おい。大丈夫かよ」
「はひ・・・なんか緊張が解けたら脚に力入んなくって」
「真壁、坂木、ありがとう!」
「2人とも上手だったよ!」
「このままアカシア会に入って欲しいくらいだ!」

感動のあまり池田はまた泣き、踊っていた他のペアも拍手を送り着替えるために駆け足で学生舎へと戻る。

「ねぇ坂木さん」

後ろを歩いていた麻琴が声を掛け、振り向くと

「すっごい緊張したけど、坂木さんとまた踊れて楽しかったです」

顔を赤くしてはにかみながら笑う麻琴に坂木も釣られて悪うと

「あんなダンス柄じゃねぇが、まあ・・・たまにはいいな」

あー苦しい、とネクタイを緩めながら坂木は麻琴を見ると

「とにかくテメェはとっとと着替えやがれ!その格好露出が激しいんだよ!んで次は棒倒しだからな!見てろよ!」

そう言い放つと坂木は早足で部屋に入り棒倒しの準備に取り掛かった。






午後に行われた今年の棒倒しは念願の一大隊優勝・・・この日をずっと夢に見ていた岩崎は嬉しさのあまり涙をこぼし、一直線に伸びるウィニングロードを全員で肩を組み練り歩く一大隊。

岩崎の後ろには猿をやった坂木も嬉しそうに仲間たちと歩いておりその二の腕にはピンクのハンカチが絶対に解けないよう、強く巻かれていた。


避雷針と開校祭:後編



prev | next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -