前夜祭も終わり開校祭当日・・・麻琴の幼なじみである麻友は初めての防衛大に足を踏み入れてわあ、と声が出た。

「ここが噂の・・・うわぁ、でかいなぁ」

入口の学生にチラシを受け取り人の流れに逆らわず歩いていると、一般客の他にシワひとつない紺青の制服に身を包んだ学生が背筋を伸ばし歩いている。その光景は非日常的で無駄な動きのない敬礼に見とれているといけないいけない、と麻琴の居るであろう一大隊を目指すことにした。


「えっと、一大隊・・・一大隊・・・ここ?」


並んでいる建物は全て同じだが、赤色の旗がはためく建物の前に到着した。麻琴は一大隊なのだが・・・しかし思ったより人が多いため麻琴を見つけられそうもない。しかも女子率が低いので見かける制服姿はほぼ男子なのだ。

中に入ると広いホールとなっており、名札を見るとそこには麻琴の名前もあった。
麻友は嬉しくなり麻琴の名前を写真に写し、廊下を歩いていると学生勤務目標が書かれた「おぼえよう 中隊みんなの顔」のという場所へたどり着いた。

「えーっと・・・あった!」

紺青の制服をカッチリと着た麻琴が笑顔で写っており、勤務目標は「大きくなる」と書かれている。自虐ネタなのか、それを読んだ麻友は笑いそうになるが普段連絡を取ってもなかなか返事が返ってこないほど忙しい防衛大生活・・・大変そうだが楽しく頑張っているようだ。

「それにしても、本人どこにも居ないんですけど」

麻友は唇を尖らせ辺りを見渡していると

「何かお困りですか?」

そう声を掛けられ振り向くと、大柄な男子学生が立っていた。

「あ、えと・・・知人が一大隊なのですが見当たらなくて」
「なるほど。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「真壁麻琴なんですけど・・・」

そう言うと男子学生はあぁ!とパッと顔を綻ばせると

「真壁学生のご友人でしたか。彼女なら今模擬店に居ますよ」
「えっ!やだ通り過ぎてた!」
「ご案内しますね。」
「ありがとうございます。 ・・・あの、普段の麻琴ってどんな感じですか?」

どこかしこも大柄な人間が多いこの世界、ついていけているのか心配になった麻友はそんな質問をしてしまった。
男子学生は微笑みながら麻琴の勤務目標を眺めると

「真壁学生はとても優秀な学生です。下の学年にも慕われ、上の学生からも一目置かれており真壁学生をよく知る者は彼女を小さいが大きい≠ニ表現してます」
「小さいが大きい・・・」
「真壁学生はほかの女学に比べて確かに小柄で、体力的にも体格的にも不利な状況ですが弱音を吐いたことはありません。そんな真壁学生を見て負けてられないと周りも奮起させられているのです。」

運動はするが、基本的にインドアだった麻琴がそのような成長をしているとは・・・麻友は驚くと男子学生は

「この間私の同部屋の1学年が真壁学生に手料理を振舞ってましたよ」
「そうなんですね・・・なんか安心しました。無理してるんじゃないかって心配してたので」
「ははは。よく見ている方がいるので、それは大丈夫だと思いますよ。」

そう意味深に言う学生に麻友はありがとうございます、と頭を下げると麻琴の所まで案内してもらった。




「いかがでしょうかー!」

麻琴はニコニコしながら声掛けをすれば、一般客で来た男性2人組がこちらにやってきた。

「すみません、ケバブ2つください」
「かしこまりました!ありがとうございます!ケバブ2つでーす!」

そんな声に全員が返事をすれば、麻琴は

「ご一緒にフランクフルトもいかがですか?焼きたてですよ!」

首を傾げながらそう聞くと男性2人も頬を赤らめて

「じゃあそれも買おうかな」
「ありがとうございます!フランクフルト2本追加でーす!」
「「「ありがとうございまーす!」」」
「お次でお待ちの方どうぞー!」


模擬店・・・麻友は案内してくれた学生の背中を追いかけると確かに麻琴がおり笑顔で接客をしていた。

「ちょうど交代の時間ですね。 真壁学生」
「はい!・・・あ!麻友!」
「麻琴、来たよ!」

麻琴はニコッと笑うと

「芹澤さん、ご案内ありがとうございます」
「せっかくご友人が来たんだ。近藤達もそろそろ来るだろう」
「はい!」

駆け足でやってきた近藤達とバトンタッチをし、麻琴はバンダナを外していると少し小柄な男子学生が近づいてきた。

「真壁、ここはいい。早く着替えてこい」
「はい、ありがとうございます!ごめん麻友、ちょっと待っててね」
「うん」

麻琴は学生服に着替えるため一大隊の建物に入っていき、残されたのは麻琴と隣にいた男子学生。沈黙が流れ、麻友は恐る恐るその男子学生を見つめる。

決して背は高くなく、しかし背筋が伸びておりタレ目だがその目は鋭い。

「(ひょっとしてこの人が坂木さん・・・?)」

麻琴が写真で見せてくれていた例の坂木・・・怖いと聞いていたが確かにビジュアルも、麻琴から話を聞いた時はその触覚を引っこ抜くと言っていた威勢はどこへやら。

実際本人を目の前にすると小柄ながらガタイが良く迫力がある。

麻友は恐る恐る近づくと

「あの・・・もしかして、坂木さんです?」
「? はい、そうですが・・・」
「麻琴の友人です。お世話になってます」

そう頭を下げると坂木も微笑みいえ、と頭を下げる。

「麻琴から写真を見せて貰ったり、色々お話は伺っています」
「はは、どうも(アイツ変な事喋ってねぇだろうな)」

引きつった笑いが出てしまい坂木は頬をかくと、麻友は坂木にずいっと近づくと

「単刀直入に伺わせて頂きます。」
「・・・はい?」
「麻琴の事、好きなんですか?」
「・・・・・・は?」

突然の質問に流石の坂木も目を見開き、キョロキョロと周りを気にするがこの賑わいで誰も聞かれて居ない・・・坂木は安堵すると頭に巻いていたバンダナを外す。

「すみません。いきなり」
「いえ、ちょっと驚いただけです。ここでは誰が聞いてるか分からないものですから」

バンダナで口元を隠しながら坂木は苦笑いすると真面目な顔になり麻友を見つめ返す。その真剣な顔に麻友も気が引き締まり思わず背筋を伸ばすと

「私はこの防衛大の中にいる誰よりも、真壁学生の事をよく見ていますし、頼りにしています」
「・・・つまり?」

ふわっとした回答しかしない坂木に麻友も身を乗り出すと坂木はフッと微笑み

「お察しください。」
「・・・なるほど、その言葉は麻琴にしか言わないと?」
「そういう事です。」

意地でも絶対に答えない、そんな雰囲気がひしひしと伝わってきたため麻友は仕方ないと退くと

「分かりました。結果、麻琴から聞くの楽しみにしてますので」

意味深にニヤリと微笑むと、坂木もまたニヤリと歯を見せて笑っていると

「お待たせ麻友!ごめんねー!」

タイミングよくパタパタと駆け足でやってきた麻琴。しかしニヤニヤ笑い合っている2人をみて麻琴は交互に見ると

「え、と・・・麻友と坂木さん?どうしましたか?」
「ううん、何でも!坂木さん、色々とお話聞けて楽しかったです」
「それはよかったです。 ・・・真壁学生」
「はい!」

麻琴は背筋を伸ばすと坂木は麻琴の制服をチェックし、フッと優しく笑うと

「不備なし、行っていぞ」
「ありがとうございます!」
「では麻友さん。開校祭楽しんでください」
「はい。失礼致します。」

お互いニヤニヤしながら別れ、麻琴は首を傾げながら麻友の隣を歩いたのだった。



***



1日目の開校祭が終わった日の夜・・・
一般客が来ていた防衛大は静まり返り、棒倒しの最終ミーティングも終わった。

近藤はなにか飲み物を買おうかと廊下を歩いているとばったり乙女と出くわした。

「あっ、近藤学生」
「岡上さんも自販機に行くの?」
「はい! 近藤学生もですか?仕方ないですねぇ、明日の棒倒し勝ってもらうために私がなにか奢ってあげますよ!」

奢り、その言葉に近藤は反応すると「ご馳走様です!」と即答する。

そんな乙女と雑談しながら談話室にある自販機へ向かってると話し声が聞こえ乙女は曲がり角の壁からこっそり顔を出すとギョッとした顔になり、近藤に向かって「シーッ」と人差し指を立てた。

「(えっなに?)」
「(ちょっと待ってください!)」

近藤も覗き込むと、長椅子のソファに座る坂木と麻琴の後ろ姿があった。

「すみません坂木さん。呼び出してしまって」
「構わねぇよ。どうした?」

普段声を張り上げている坂木が柔らかい口調で麻琴を見下ろし、麻琴は俯いて作業着から何かを取りだした。

「あの、これを渡したくて・・・」

そう言って手渡したのはピンク色のハンカチ・・・坂木はそれを見て驚いた顔をして麻琴を見つめるが麻琴は恥ずかしいのか俯いたまま作業帽を深くかぶると

「えっと、その・・・こっ、今年も!怪我しないで下さいね!」

耳まで赤くなっている麻琴を見て坂木も釣られて顔が熱くなりそっぽを向くと

「・・・そうか、ありがとな」

しかし坂木はそのハンカチを握ると

「去年はあんな事になっちまったが、今年はちゃんと返す」
「はい、待ってます。 明日は絶対勝ってくださいね!」
「おう!」

四学年最後の開校祭、棒倒し。
麻琴はあっと何かを思い出すと

「お父さん明日来るみたいなんですけど、坂木さんに会いたがってました」
「そうか・・・面白い人だったからな。俺も会ってみたい」
「ふふ、了解です。あとで返事しておきます」
「頼むよ」


のんびりとした会話が続いてる中、乙女と近藤は顔を赤くさせると

「(兄さん・・・もうご家族の顔合わせまで・・・!?)」
「(ど、どういう事だ・・・2人は付き合ってないんじゃ)」
「(そうなんですよ、あれで付き合ってないみたいなんです・・・おかしいですよね・・・兄のあんな溶けた顔は見た事ありません!)」
「(え?!ちょ、ちょっと待って岡上さん!状況整理したい!)」
「(落ち着いてください近藤学生!私も冷静さを失いそうなんですから!!!!)」




「おい、お前ら」



しゃがみながらそんな会話をしていると、頭上から聞こえてきた声に恐る恐る顔を上げる。

目の前には仁王立ちで鬼の顔をした坂木と、その後ろにニコニコと笑った麻琴が立っていた。

「テメェら、何そんなところでコソコソしてんだ」
「あ、いや、その・・・私たちは・・・!」
「わわわわ、私と近藤学生は!ジューじゃんしてました!」
「そうなんです!」

咄嗟にでた嘘に近藤も合わせ、坂木はへぇーと頷くと拳を作り麻琴を顔を見合わせ

「楽しそうじゃねぇか。じゃあ4人でやるか」
「おっ、いいですねー」
「「えっ」」
「「じゃーんけーん」」



・・・結果、近藤が負けジュースを奢る羽目となったのだった。

避雷針と開校祭:前編



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