今年のコント大会は去年のような事故は起こらず、坂木の監視下のもと麻琴は知念と強制的にペアを組み和やかに終えることが出来た。 (もちろん坂木は乙女や麻琴のペアには満点をつけた)



それから数日後・・・坂木は喫煙所で煙草を吸いっているがその顔は普段より眉が寄せられふぅ、と煙を一気に吐き出した。

1学年にいる妹の乙女、最近注意することが多いのだ。こちらとて好きでやっている訳では無いのだが妹故なのかつい目についてしまい事ある毎に指導をしてしまっている。

スマホの時間を見れば、そろそろ風呂にも行かなければならない。

「ったく・・・」
「失礼します。 坂木さん、やっぱりこちらでしたね」

扉をノックされ振り向くと麻琴が敬礼をしたので坂木もすぐに敬礼を返すと

「おう、どうした」
「校友会の食事会の件で・・・って、ごめんなさい。お取り込み中でしたか?」
「いや。何でもねぇよ」

スマホをポケットに突っ込み、吸い終えた吸殻をポイッと灰皿に入れるとソフトパックのタバコの中にライターを押し込む。

いつも麻琴が見ている光景だが、少し眉を寄せた坂木の表情は浮かない顔だ。

「坂木さん、なんか元気ないですね?」
「・・・そうか?」

そんな風に見えるだろうか、首を傾げると麻琴は「何かありました?」とニコッと笑う。そんな顔を見ると坂木はあー・・・と後頭部に手をやると

「ちょっと聞きてぇことがある」
「?はい」

喫煙所から出た廊下の椅子に座ると坂木は腕を組み小声で

「・・・どうも最近、アイツの様子がおかしくてな」
「アイツ?・・・乙女ちゃんです?」
「ああ。 最近オレに指導されまくっててな、気が緩んでるんだ。」
「気の緩み・・・」

確かに近頃、乙女の表情は浮かない顔で同期と気晴らしに遊びに行ったがそれでもため息を着いていることが多い。

「しかも近藤から乙女が最近メンブレ気味だって聞いててな。」
「メンブレ、ですか・・・確かに乙女ちゃん最近元気無いですね」
「っ! そうなのか・・・」

坂木は驚いた顔をして麻琴を見る。麻琴はうーんと唸ると

「私も上級生の方から指導されている時、ちょっとホームシックになりましたね。その時は同部屋の方たちや対番の渥美さんに話を聞いてもらったり。・・・あと坂木さんにも」
「・・・おう」

頼られていた、そんな何だかムズムズしてしまい坂木はそっぽを向いて素っ気なく返事をすると麻琴はそうですねぇ・・・と腕を組んで

「うーん、お2人は暫く離れ離れでしたし・・・乙女ちゃんも坂木さんにん甘えちゃいけない!って遠慮しちゃってるのかもしれません。こういう時は坂木さんの方から声を掛けるといいかもしれません」
「・・・なるほどな」

それを聞くと坂木は思うところがあったのか納得し、スマホを見つめるとロックを解除した。開いたのは乙女へのメッセージ画面・・・麻琴は邪魔はしてはいけないな、と椅子から立ち上がると

「では校友会の食事会、後ほどLINEで送りますね!」
「ああ、了解だ。・・・ 真壁」
「はい」
「ありがとな」

悩みが解決したのか坂木の眉間のシワは無くなっており、麻琴も頷くと喫煙所を後にした。




***




・・・防衛大学校では毎年開校祭というものが開かれ、見学以外の一般客が防衛大内に入れるイベントがある。期間は2日間、その2日目となるのが開校祭名物「棒倒し」。この日になるとこの棒倒しを見物しようと何万人もの民間人が足を運ぶ。

そして麻琴が入校して2回目の開校記念祭が開かれようとしていた。




棒倒しはスポーツではなく「死合」「合戦」・・・棒倒しのために防衛大に入校する程棒倒しに全てを捧げる「棒倒しガチ勢」と呼ばれたとち狂った学生もちらほらと混ざっている。

麻琴は今年も偵察部隊として任命され会議室に呼び出されていた。岩崎の一筆入魂された「棒倒し優勝」を背景に進められるミーティング・・・その中には儀仗隊の近藤もおり、麻琴はこっそりと偵察部隊の先輩に

「(あの、近藤学生も参加するんです?)」
「(ええ・・・体力テストの幅跳びの成績が良かったから、岩崎が隊長の勝田くんに頭を下げまくったみたいだよ)」
「(岩崎さん)」

去年ももちろん、一大隊は本気で棒倒しに打ち込んだが優勝は出来なかった。今年は岩崎が総長となり、4学年最後の棒倒し・・・その執念は凄まじいものだろう。



偵察部隊の他にも各大隊による模擬店の準備がある。そこにも近藤が居り、出店料理の味付けやフランクフルトの焼き方などを周りの学生にレクチャーしているのだ。
どこに居ても近藤と居合わせて居る気がする・・・しかも、儀仗隊は自衛隊音楽祭の準備もあったはずだ。

麻琴は冷蔵庫に保管していたたべっこすいぞくかん(小袋サイズ)を手に取ると、レシピノートに加筆をしている近藤に近づいた。

「近藤学生」
「わっ、真壁さん。お疲れ様です」
「近藤学生こそお疲れ様。引っ張りだこだね」

棒倒し、模擬店、儀仗隊・・・ただでさえ忙しい防衛大学校生活なのに近藤はその3つを掛け持ちしている状態だ。手はテーピングで巻かれ、棒倒しの時の怪我なのか腕にも絆創膏を貼っている状態。ポジションは特攻という相手の棒を倒しに行く役という大役だ。

坂木を相手大隊の敵として模擬戦をしており、練習でも容赦ない坂木に満身創痍の近藤はあははと笑うと

「大変ですけど、すっごく充実してます!」

目を輝かせる近藤を見て麻琴も頷くとジャケットのポケットからたべっこすいぞくかんを取り出すとぽん、と近藤と手に置いた。

「糖分は大切だからね!こっそり食べなよ」
「あっ、ありがとうございます・・・!あの、真壁さん」
「ん?なぁに?」

麻琴は笑顔で首を傾げると近藤は笑顔で

「先日のコント大会ですが、実は去年の真壁さんの動画を見る機会がありまして・・・」
「えっ」
「私と土方学生はとても爆笑させて頂きました!あの坂木小長が乱入してくる所でもう腹筋持っていかれそうで・・・!」
「あ、あぁー・・・あれね!あはは!(ちょっと大久保さん!)」

麻琴は震える声で笑いながら誤魔化す。
あの時の坂木は本気で怖かったのだ、今年も鬼の形相で「テメェ卒業するまで知念と組め」と念を押されたほどだ。

「あ、あはは!あ!私偵察部隊のミーティングだったなぁ!近藤学生、休める時は休むように!」
「はい! ありがとうございます!」

麻琴はこれ以上居るのは危険だと察知するとそそくさとその場を後にし、静かになった空間で近藤はひとりきり・・・たべっこすいぞくかんのパッケージを見つめる。

「頑張らなきゃ・・・」

コンコン

「失礼。おい近藤」
「うわっ!こんにちは!」

すると突然ドアが開かれ、振り向くと今度は坂木が立っていたため慌てて敬礼をした。

「んだよ。情けねぇ声出すんじゃねぇよ。」
「すす、すみません!」

坂木は近藤の手に持っているパッケージを見ると首を傾げ

「どうしたそれ」
「あ、えっと、こっ、これは!先程真壁さんに頂きました!」
「・・・ふーん」
「(え、何でそんな不服そうな顔なの・・・?!)」

唇を尖らせ明らかに不機嫌になった坂木に近藤はダラダラと汗を流すが、ぽんと肩に手を置かれる。

「ま、それほどお前を応援してる奴は居るってこった。こっそり食え。30分後にミーティング始めっからな、遅れんなよ」

怒りオーラを消した坂木は少し嬉しそうに笑うと後でな、と手を振って模擬店用の会議室から出ていく。

パタン、とドアが静かに締められると残された近藤はたべっこすいぞくかんを抱きしめながら

「怒ってない・・・?と、とにかく食べよう!」

これが噂のたべっこすいぞくかん・・・近藤はパッケージを開いてぱくりと口に含めると目を見開き

「う、美味い・・・!!」

そう呟いたのだった。

避雷針からの差し入れ



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