「真壁さん! 先日はありがとうございました!」

あれから数日後・・・近藤が麻琴を見つけると笑顔で駆け寄ってきた。

「あれから真壁さんがくださったヒントを元に、なんとかまとまることが出来ました」
「そっかそっか、良かった!」

そう笑いかけ、近藤は背筋を正すと

「先日お話した通り、御礼をさせて欲しいのですが!」
「えっ」

すると隣にいた沖田と原田が顔を青くさせると

「近藤クンがお礼!?」
「奢るのか、お前が・・・!」
「な、なんだよ」
「そんな珍しい事なの?」
「そりゃもう!近藤クンは何かあればすぐに100円だ500円だとお金を請求してむぐっ」
「沖田!」

慌てて口を塞ぐ近藤を見て麻琴は驚くと

「そんな。気にしなくていいのに。」
「いえ、私も真壁さんにご迷惑掛けてしまったので・・・駄目ですか?」

悲しそうに首を傾げる近藤に麻琴はグッと胸を抑えると

「・・・では、よろしくお願いします」
「はい! 真壁さん、何か食べたいものとかありますか?」
「食べたいもの・・・」

近藤が奢りと大騒ぎする中麻琴はうーんと腕を組む。 確か近藤の実家は定食屋さんと乙女から聞いたことがある。

「近藤学生のご実家は定食屋さんだったっけ?」
「はい!」
「近藤学生もお料理できるの?」
「そうですね、親父が居ない時は私が代わりに店番とかしてたので・・・」
「じゃあ、近藤学生の得意な料理をよろしくお願いします!」

近藤は驚いたが、料理は得意分野だと笑顔になるともちろん!と頷いた。








「しかし、得意な料理って言ってもな・・・」

近藤は自習室の椅子に座り、ペンを回しながら唸った。同室の土方が迷惑そうにこちらをチラッとみたが無視し、腕を組むと隣にいたシンチャイが近藤の席を覗き込んだ。

「どうしたの近藤? 珍しく分からないところがあるの?」
「いえ、勉強ではなく・・・真壁さんの好きな物を考えてまして」

途端、部屋のメンバー全員がバッと振り向いて近藤を見たので近藤はへ?と首を傾げた。

「夏季休暇は合コンしていたと噂で聞いたが近藤・・・お前、真壁狙いなのか?」
「え?」
「無理は言わん、諦めろ。真壁のバックには怖い鬼ぃちゃんがいる。」
「お、鬼ぃちゃん?」
「先日の件があったのにお前はまだ懲りんのか」
「いえ、あの」
「少し小付の仕事が慣れてきたからって浮かれすぎなんじゃないか?」
「なんだよ土方まで・・・!ち、違いますよ!その件でご迷惑掛けたのと、相談乗ってもらったのでその御礼をしようと思って!そしたら料理がいいと言われたものですから・・・真壁さんは何が好きなんだろうって」

そう言うと岩崎はフッと笑い、シュシュシュとポーズを決める。

「真壁の好きな食べ物か。その件は真壁に詳しい奴に話を聞いた方がいいだろう」
「詳しい・・・対番の岡上さんとか同期の知念さんですか?」
「まあ確かに対番でも同期も良いだろう。 もっと詳しいやつ、それは・・・!」


岩崎は焦らすように無駄な動きをし床を蹴ると、華麗に海老反りジャンプをした。









「真壁の好きな物ォ?」

岩崎に言われたのは「真壁の事なら坂木が詳しい」との情報だった。 確かに前期の頃、西脇は坂木と麻琴は仲が良く兄妹みたいだといじられているほどだと聞いた。

ギッと回転椅子を回し近藤に向き直った坂木はクワッと顔を鬼モードに切り替えると

「なんだテメェ、真壁が気になんのか?まさかあの写真、実は下心剥き出しで真壁に抱きついたんじゃ・・・」
「い、いえ!あれは本当に事故です! あの時相談に乗ってくれたお礼をしたくて!そしたら真壁さんが私の得意な料理でいいって言ってくださったんです! いっそ作るなら、真壁さんの好きな食べ物がいいと思いまして!岩崎部屋長に聞いたら坂木さんが1番真壁さんに詳しいと!!!!」

息継ぎなしのマシンガントークで必死にそう弁明すると

「・・・そうか」

麻琴に一番詳しいのは坂木・・・そのフレーズに気を良くしたのか坂木からの怒りオーラは収まり椅子にドカッと座り直したので近藤は胸を撫で下ろす。1歩間違えてたら殺されるところだった・・・と心の中で震えていると坂木もそうだな、と顎に手をやると

「アイツの好きなものか・・・たべっこすいぞくかんだな」
「たべっこ・・・?」
「お菓子だ。ギ●ビスの。たべっこどうぶつ知ってるか?」
「は、はい」
「あれの海の生き物バージョンで、しみチョコローンのコラボ商品だ。 ビスケットにチョコが染み込んでて歯ごたえもよくて、ついつい食べる手が止まらねぇ」
「そう、なんですね・・・(めちゃくちゃ語ってるってことはこの人も大好物なのでは?)」
「この間そのホワイトチョコが出てな。 冷やして食うと美味いって聞いたから冷やしてみたが、ありゃ最高・・・ってたべっこすいぞくかんの話はいいんだよ!」

突然坂木はダンッ!と机を叩くと近藤はこくこくと頷く。そうだ、たべっこすいぞくかんの話はいいのだ。

話が逸れた、と坂木は再び腕を組むと

「甘いものは好きだし、アイツ自体は嫌いなもんは無かったはずだ。そうだな・・・確か校友会のメンバーで飯食いに行った時はだいたいチーズ系を選んでるな」
「チーズ、ですか・・・」
「ああ。チーズが好きって言ってた。あと肉」
「肉・・・」
「チーズインハンバーグとかどうだ?最高の組み合わせだと思うぜ。アイツ発狂するだろ」
「真壁さんが?」

近藤のイメージでの真壁は常に笑顔でほわほわしており、物腰は柔らかだ。発狂する姿なんてあるのだろうか・・・?

「好きなモン目にするとアイツはテンションぶち上がるからな。頑張れよ」
「はい!ありがとうございました!あの、坂木さん」
「何だ?」
「坂木さんも・・・宜しければご一緒に食べませんか?」
「オレ?オレは別にいいだろ」
「いえ! 真壁さん、坂木さんとならもっと楽しいだろう、な・・・ってあはは(俺と2人きりだとまた変な噂流れるし)色々とご迷惑を掛けてしまいましたし」

坂木が一緒なら麻琴も喜ぶ・・・坂木は驚いた顔をしたが照れ隠しなのかそっぽを向くと

「そ、そうか?・・・まあ、お前がそう言うなら仕方ねぇな。付き合ってやるよ。」
「はい!(た、助かった!!!!)」

失礼します!と近藤は笑顔で頭を下げると部屋を後にした。











そして土曜日の休養日、昼時。
調理室に呼ばれた麻琴はTシャツにジャージ姿で現れた。

「こんにちは!」
「こんにちは。近藤学生、今日はお休みなのにありがとね」
「いえ!」

背筋を伸ばした近藤は頭を下げると麻琴も頭を下げると

「今日はお願い致します」
「こちらこそ!全力で作らせていただきます!」

そう言うと近藤はさっそく、と用意した具材に手をつけた。






「近藤くんは何で防大に?」

近藤の背中を眺め、机で頬杖をつきながら麻琴はそう尋ねた。 玉ねぎを切りながら近藤は一瞬手を止めたが再び包丁を下ろす。

「うち、定食屋ですが家計は火の車で・・・進学も出来なかった所、幼なじみや先生が防衛大を紹介してくれて。ここならお金を貰いながら勉強も出来ますし・・・って、こんな事言ったら真剣に幹部自衛官を目指してる人に失礼かなって思うんですが」
「じゃあ・・・お給料とかは全部ご実家に?」
「はい」

そう返事をすると、麻琴は驚いた顔をする。

「近藤くん、偉いって言う言い方が合ってるのか分からないけど・・・家族想いなんだね」
「あ、あはは。そんな、私は・・・」
「休みだからフランクでいいよ。近藤くん」

麻琴も学生からくん付に変え、ね?と笑いかけると近藤は分かりましたと頷く。

「あの・・・真壁さんはどうして防大に?」
「私? 照れくさくて本人には言えなかったけど兄に憧れてかな」
「お兄さんも自衛官なんです?」
「うん。ここの卒業生。陸上だよ」
「そうだったんですね・・・」

刻んだ玉ねぎをフライパンで炒めていると麻琴が隣にやってきた。

「ハンバーグ?」
「はい。チーズインハンバーグを作ろうと思いまして」

近藤はチラッと麻琴を見ると、麻琴はキラキラとした目で近藤を見上げていたので「えっ」と驚いた。麻琴は拳を握ると

「ほんと!?大好物だよ!!」
「よ、良かった・・・!リサーチした甲斐がありました」
「リサーチ?」
「はい。坂木さんから真壁さんの大好物を教えてもらったんです。そしたらチーズとお肉だと聞きましたので・・・」
「坂木さんが・・・」

坂木の名前を聞くと麻琴は頬を赤くしてへへ、と嬉しそうにはにかむ。 そんな表情をした麻琴を近藤は目を見開いて見つめているとドアが開いた。

「入るぞ」
「あ、坂木さん!こんにちは!」
「おう、悪ぃ。遅くなったな」

そんな会話をしていると坂木も遅れてやって来て、近藤の隣で料理を見ている麻琴を見るとフッと口元を緩める。

「何だ真壁。待てなくて隣で見てんのか?」
「そ、そんな食いしん坊じゃないです」
「あぁ?この間剣道部でメシ行った時沖田並に食ってただろうが」
「えっ!?」

あの沖田と張り合う食欲・・・近藤は驚いて麻琴を見つめると麻琴は顔を真っ赤にさせ「言わないでくださいよー!」と怒り、そんな麻琴を見て坂木は笑っている。

「(坂木さんが笑ってる・・・それにしてもあんな顔珍しい・・・)」

そんな坂木と麻琴のやりとりを挟まれて聞いていた近藤は

「なんか、兄妹っていうか恋人同士のような感じですね」
「えっ!?」
「あぁ?」

その言葉に麻琴は驚いた顔をし、坂木も突然の事に絶句してしまう。 固まった2人見て近藤はへ?と首を傾げるとハッと何かを察した顔をする。

「ま、まままままさかお二人、内・・・」
「違うよ!」「違ぇよ!」

息の合った言葉に近藤は押されてしまう。

「おいテメェ近藤ォ・・・」
「すすすすみませんお二人共とっても仲が宜しいので!!あ、あははは!」
「・・・た、大変!近藤くんハンバーグ焦げちゃう!」
「あっ!しまった!!」

慌てて蓋を開けてハンバーグをひっくり返す近藤の背中を眺め、坂木と麻琴はこっそり目を合わせるとハンバーグに助けられた・・・と安堵の息をつくのであった。



***



近藤の作ったチーズインハンバーグは大好評で、今までに見たことが無いほどテンションが上がった麻琴を見ることが出来た。

「(それにしても、あんな優しい顔した坂木さん初めて見たな)」

麻琴が美味しそうに食べているのは作った側の近藤も喜ばしく思う。その隣に居た坂木も麻琴を微笑ましく見ていたのだ。

「(お似合いだと思うんだけどなぁ・・・)」
「近藤、どうだった?」
「わっ、い、岩崎さん! はい。喜んで頂けました!」

そう言うと岩崎はそうかそうか、と嬉しそうに頷くと土方の椅子に座る。

「あの、岩崎さん・・・ここだけの話なんですが」
「どうした?」
「坂木さんと真壁さんって、つつつ・・・つ、付き合ってたりとか・・・しないんです?」

その言葉に岩崎は僅かに目を見開くとフッと目を閉じてポーズを決める。

「・・・そうだな、まあ確かに中にはそう思う学生もいるだろう。だが近藤、この狭い防衛大内でそんなことがバレたらこの間お前があったような事になる。」
「はい・・・」
「仮に坂木と真壁がそのような関係だったらいくら隠していてもバレるだろう。防衛大の学生は遠出も出来ないし行動範囲には常に私服を着た防衛大生が居る。」
「確かに。すぐにバレますよね」
「坂木と真壁を怪しんだ同じ大隊の学生が張り込んだ時もあった。しかし、そのようなスキャンダルはゼロだ」

つまり、2人は本当に付き合ってはいない。近藤はへぇ・・・と頷くと

「じゃあ本当に・・・お二人はとても仲がいいので、てっきり」
「ははは。しかも坂木は内恋反対派だからな。アイツは色恋沙汰で風紀が乱れるのは嫌がる」

確かに・・・と近藤は納得すると岩崎はニコッと笑い昔話をしよう、と椅子に座り直した。

「・・・まだ真壁が1学年の頃か。ある日真壁にアタックした男がいてな、玉砕したんだ」
「ええっ」
「その男はデートに誘ったりアタックをした。そしてクリダンで告白したが断られてしまったそうだ」
「そんな事が・・・」
「他に好きな男が居る。そう言われたらしい」
「それって」

そのタイミングで同室の望月が入っきたため岩崎は顔を上げて挨拶をし、近藤を見て「内緒だぞ」と小声でウインクすると席に戻ってしまった。

「(真壁さんの好きな人かぁ。どんな人なんだろう。 ひょっとしたら・・・)」

近藤は昼の出来事を思い出す。坂木の名前を出した時麻琴は頬を赤く染めてはにかみ、嬉しそうな顔をした・・・

「(ひょっとして坂木さんは妹みたいに見えてるけど、真壁さんはそうじゃない・・・? 好きな人がいるってもしかして・・・・・・理絵が読んでた少女漫画みたいな展開じゃないか。 真壁さん、頑張れ・・・!!)」

妹の理絵が読んでいた血の繋がらない兄に恋をしてしまう主人公を描いた漫画を突如思い出し、近藤は麻琴にエールを送るようにグッと拳を握ると自習を再開したのだった。

避雷針にお礼



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