コンコン


「坂木、悪いね。ちょっと」
「三島?どうした」

坂木の居室にやったきたのは4学年の三島と3学年の永井。永井は敬礼をすると坂木は立ち上がり廊下に出た。

「・・・どうした?うちの小隊がなんかやらかしたか?」
「やらかしたって言うかね・・・」
「なんだよ」
「真壁がですね」
「真壁?アイツがやらかした・・・」

すると、バタバタと走る音が聞こえて顔を上げると物凄い形相の武井が坂木の所へダッシュでやってきては3人に敬礼をしハァ、ハァと膝を着いて息を整えた。

「何だよ。今度は武井か。」
「っはぁ、お話中にすみま、せ・・・げほっ。あの、これ・・・」

そう言って武井は持っていたスマホからフォルダを開くととある写真を坂木達に見せた。

「「「・・・はぁ?」」」

と思わず声が出た。
その写真には、近藤が女学に覆い被さるように抱き締め合う姿・・・その相手の顔を見るとそれは麻琴だと分かり、坂木は頭を殴られる衝撃ではあったがまずは落ち着け・・・と深呼吸をし武井を見つめる。

「・・・武井、これは他の奴らに回してないか?」
「は、はい。近藤本人に見せようとしましたが、まずは坂木さんに報告をと・・・」
「分かった。・・・ちょうどこの時間なら会議室が空いてるな。武井は近藤を呼んで、永井は真壁を呼んでくれないか?」

坂木の指示に2人は頷くと駆け足で各自の部屋へと向かった。残された三島と坂木・・・手の中にある武井のスマホの写真を見て舌打ちをすると

「ねえ、近藤学生と麻琴って付き合ってるの?」
「んな訳ねーだろ」
「・・・随分な自信ね」
「あぁ? それは・・・」
「はぁー・・・これだからシスコンは。妹が2人いると大変ねぇ」
「うっせ! とっとと会議室行くぞ!」

坂木は話をぶった斬るかのように声を荒らげると会議室へと向かった。






呼び出された近藤と麻琴は椅子に座り緊張した面持ちだ。一方坂木は腕を組んでおり目を閉じて、こちらを見ようとはしない。

「あの、坂木小長?」

一体どうしたと言うのだと麻琴は首を傾げるとギロリとこちらを睨み、スマホの画面を2人にみせた。

「おいテメェら、これに身に覚えは?」

低い声でそう言われ、近藤と麻琴はそれを覗き込むと「えっ!?」と同じリアクションをした。

「これ、あの時の・・・!」
「坂木さん!これは私のせいです!」
「近藤、説明してみろ」

寝不足で脚をもつれさせた近藤はそのまま転び、それを目撃した麻琴が近藤を介抱した。 このような体勢になってしまった近藤を麻琴が無理やり抱きかかえたせい・・・それを聞くと坂木はなるほどな、と頷いた。

「・・・まあ、だろうとは思った。」
「ごめんね。近藤学生」
「え?! 何言ってるんですか!元は私が悪いんですから、真壁さんは悪くありません!」

近藤は俯いた麻琴にそう声をかける。このやり取りを一部始終を見ていればこれは内恋では無いと分かるはずだ。ゴシップ好きの防大生だとしても、このタイミングで撮るのは悪意がある。

「坂木さん、一体誰がこんな写真・・・」
「それは分からん。・・・武井、この画像は誰から見せてもらったんだ?」
「私が風呂から出て1大隊へと戻る途中に女学の方に・・・ただ、見たことがない方でしたので他大隊の方かと」
「ソイツの名札は見たか?」
「それが、暗くて名札は見れず・・・学年も分からないんです」

すみません、と頭を下げる武井に大丈夫だ。と坂木は肩を叩く。


するとアナウンスのベルが鳴り全員が顔を上げた。


《113小隊 真壁学生、近藤学生。至急教官室へ》


教官室、このタイミングで・・・麻琴と近藤は恐る恐る顔を見合わせると坂木は眉を寄せた。

「嫌な予感しかしねぇな・・・。 おい、オレもついて行く」
「は、はい・・・」
「一旦解散だ。各自部屋に戻れ」

そう言うと武井、三島、永井、知念は了解と頷くと麻琴達は教官室へと向かった。








「え、じゃあこれは内恋じゃないって事?」
「もちろんです」
「真壁さんは、具合を悪くした私を介抱してくださったんです!」

やはり内容はこの写真についてだった。
防大の内恋は昔ほど緩くはなったが、顰蹙を買うため大っぴらにする学生は居ないに等しい。 あくまで指導するのは学生間だが、行き過ぎた内恋は指導教官が呼び出し注意をする時もある。誤解とはいえ、その指導に今回引っかかってしまったのだ。

事情を聞くために呼び出した教官の高杉は坂木や麻琴、近藤の話を聞き相変わらずのんびりとした口調で「そういう事ねぇ〜」と頷き、隣にいた久坂は

「近藤も小付きは大変だとは思うが、体調管理には十分気をつけろよ」
「はい! 気をつけます!」
「お騒がせして申し訳ありません」
「私も監督不足でした。以後このようがないように気をつけます。」

そう言って2人で頭を下げると坂木も頭を下げた。
まさか教官にまで画像が行くとは・・・一体誰が。と麻琴は頭を下げ、しかも坂木にまで頭を下げさせてしまった事にじわりと目に涙が浮かぶ。

「あ、3人ともコーシー飲んでく? ちょっと落ち着きなさい」
「「「いただきます!」」」

高杉のコーヒーを飲んだ後3人はフロアに戻ると廊下に居た学生全員がこちらを見て、沖田と原田が血相を変えて駆け寄ってきた。

「近藤!お前!」
「近藤クーン!!」
「な、なんだよ」
「これ!」

突きつけられたスマホの画面には例の写真・・・それを見た近藤は顔を真っ青にさせると

「1学年の小付きのくせに余裕こいてんなぁ、って先輩たちが話してたぞ!」
「先輩に手を出した小付きって!」
「はあぁ!?」
「麻琴、大変だよ!」

今度は知念がやってきて肩を掴むと

「アンタ、1学年をたぶらかした先輩って変な噂回ってる!」
「・・・うぅ」

以前千葉が言った通りネタに飢えた防衛大学校・・・噂が回るスピードがマッハレベルだ。麻琴頭痛がしてきた・・・と頭を抱え、坂木はふらつく麻琴の肩を支えてやると

「・・・ちょっと待ってろ」
「へ?」

坂木はそのままどこかへ消えるとしばらくして天井に付けられたスピーカーから乱暴にマイクを取るガコンッと音がすると

《1大隊の学生隊全員舎前に集合!!5分以内だ!とっととしやがれ!!!》

怒鳴るようなそのアナウンスが聞こえた瞬間、全員がバン!とドアを開けて全力で部屋を飛び出すと宣言通り5分以内に舎前に集まった1大隊は何事だと顔を見合わせると坂木は朝礼台に立った。

「テメェら、真壁と近藤の件は聞いたか」

その問に全員が頷くと坂木はハァ、とため息をつくと

「その件についてはオレが直接本人達と話をつけた。 体調を崩した近藤を真壁が介抱した。ただそれだけで2人は内恋をしているわけじゃねぇ。まあ、オレの話を信用するかどうかはお前ら次第だけどな」

クワッと鬼の顔をして全員を睨みつける坂木。その顔に全員が肩を震わせると信じます!とコクコク頷いた。

よし、と坂木は腕を組むと

「・・・で、例の写真を撮った奴を探してるんだが。この中にはいないのか?」

辺りを見渡すとシーンと静まり返る。
ここで手を上げる人間など居ないと言うのも坂木は分かっていたので頷くと

「とりあえず流出したルートを知りたいからグループ作れ」

その言葉に全員は頷くと、誰から誰経由で写真が流れてきたのかグループを作り始める。しばらくして何個かのグループが出来上がると岩崎達がホワイトボードを持って来た。

「坂木!これを使え」
「岩崎、サンキュな」

まずはグループごとにどの学生から写真が来たのか発信元を辿る。それをホワイトボードに書いていくと、大久保は首を傾げた。

「坂木、おかしいですね」
「ああ。おかしい」
「何故出処が1大隊じゃないんだ?」
「普通だったら1大隊の学生が撮るもんじゃないのか?」

ホワイトボードに敷き詰められるように書かれた出処は1大隊以外なのだ。
坂木は隣に立っている近藤と麻琴に顔を向けると

「やっぱり狙いは、近藤じゃねぇな」
「え・・・」
「近藤は1学年で、校友会にしかまだ他大隊との交流が無い。そんな狭いコミュニティの中で陥れるなんてのは無いし、お前の活動は儀仗隊の隊長から聞いてるからトラブルは有り得ねぇ。 真壁に関しても恐らくは剣道部絡みではないだろう。部長のオレが保証する・・・要員で他の大隊との交流があるからそっちが怪しいな。まあお前の主観じゃ分からないだろうから・・・2学年の海上要員前へ!」

そう言うと知念と数名の海上要員の学生ががはい!と手を挙げた。 麻琴は前期の艦艇訓練で班長を勤めたが特に問題なく人間トラブルも無かったとの事。
それを聞いた岩崎はむぅ、と眉を寄せると

「では一体誰が? 真壁に個人的な恨みがある学生が居るのか?」
「・・・あの、坂木さん」
「どうした知念」

知念はおずおずと手を上げ、緊張した面持ちで坂木を見ると

「実は真壁学生、浴場での整頓不良を3回も立て続けに食らってるんです」
「整頓不良だと?」
「はい。私はいつも真壁学生と行動をしているので彼女がちゃんと作業着を綺麗に収納しているのを見ています。 それに、2回目以降は私もダブルチェックをしました。 今回の近藤学生との画像・・・もしかして、犯人は同じ人なのでは?と思って」
「ってことは・・・女学か」
「おそらくそうなります」
「それはいつからだ?」
「今週の月曜日からだよね、麻琴」
「う、うん・・・」

月曜日・・・今日は金曜日だ。
毎日ではなく一日おきに整頓不良・・・坂木は顔を上げると

「全員解散だ。 急に呼び出してすまなかった」

そう言うと全員はぞろぞろと学生舎へと入っていき取り残されたのは麻琴達のみとなった。

坂木は麻琴を見るとペンを差し出し

「犯人はやっぱり他大隊だな。大隊が同時に一緒になるのは浴場か食堂。食堂は人目が多いから手は出せねぇが、浴場だったら一瞬だが人が居なくなる時はある。そこを狙われてるんだろう・・・ 真壁、月曜日から今日まで会話をした女学をピックアップしろ」
「はい!」

ひっくり返された真っ白になったホワイトボードに、麻琴は会話をした女学の名前を下級生から上級生まで覚えている限り書いていく。

しかし1大隊の女学ばかりで、後会話をしたのは同じ海上要員の他大隊の女学のみ・・・しかし麻琴は誰かを忘れている、とうーーーんと唸った。

「誰かを忘れているような・・・」
「真壁、思い出せ」

麻琴は再び月曜日から振り出しに戻った。
月曜日、朝起きたら挨拶をして乾布摩擦・・・乙女と挨拶をして、知念達と朝食を食べて課業行進。

課業後はPXへ行こうとした所を坂木と鉢合わせし一緒に買い物へ・・・たべっこすいぞくかんのホワイトチョコ味が出たためPX店員の佐藤さんと会話。そして坂木がたべっこすいぞくかんを1ロット丸々買ってくれて部屋っ子と分け合って食べた。その後は自習して睡眠・・・

「ん?」

この間、誰かと会話をしている。
PXまで記憶を巻き戻すと、坂木と会話をしている女学を思い出した。

いやまさか、あの短時間で?

麻琴は目を見開くと、坂木は顔をのぞきこんだ。

「真壁、思い出したか」
「あの、これは全然関係ないと思うんですが月曜日のPXでの出来事覚えてます?」
「月曜日? ・・・ああ、たべっこのホワイトが入荷された日か」
「はい。 その時に坂木さんとお話していた方も、カウントすべきでしょうか?」

坂木も記憶を辿りハッと目を見開いたがまさか、と首を振った。

「新島?」
「はい・・・いやでも、挨拶しただけですし。あれが初めましてなのでカウントは・・・」
「新島は・・・」

ホワイトボードをひっくり返し、主な出処を見ると坂木は

「集中している大隊は第3大隊・・・か。」
「新島って、あの新島優陽?」
「ああ、そうだ。三島・・・どうした?」

新島という名前を聞いた三島は深刻な顔をして腕を組むと「なるほど」と呟く。そして坂木と麻琴を見ると

「嫉妬だわ」
「嫉妬?真壁にか?」

そう言うと坂木は首をかしげ、それを見ていた岩崎は何かを察したのか「あぁ!」と手を叩くと

「なるほど、嫉妬か!」
「だから何だよ。新島と真壁はあの日初対面だろ?そんな奴を出会い頭に嫉妬するなんて新島がやるわけ・・・ってか、そもそも何に嫉妬してんだ。」
「・・・坂木、そういうの鈍いわよね」
「ああ。鈍いな」

三島と岩崎は哀れみの目を向け、坂木は意味不明だと眉を寄せると麻琴を見た。

「真壁、お前は分かるのか?」
「えっ! そ、そりゃぁ・・・多分、ですけど」

麻琴はチラッと坂木を見ると

「おそらく、新島さんは・・・」






***





「今度の休養日空いてるか?」


新島優陽は突然送られてきた坂木からのLINEに驚き、少し頬を赤くさせると「いいよ」と返事をした。

待ち合わせの指定されたファミレスに行けば窓際の席に坂木は座ってお冷を飲んでいる所だった。

「坂木、ごめん。お待たせ」
「いや・・・オレもさっき来たところだ。」

そう言うと坂木は窓際に置かれたメニュー表を手に取ると「オレが奢るから好きなもん頼め」と言うと新島は小さく頷きメニュー表を手に取った。



他愛もない近況の話をしていれば頼んだアイスコーヒーがやって来て坂木は一口飲むと新島を見つめた。 坂木とこうして二人きりになる機会など、今までなく新島は少し俯いて髪の毛を耳にかけると

「いきなり呼び出したからビックリしたよ。何かあった?」
「・・・いや。少し聞きたいことがあってな」
「なに?」
「どうも、ウチの大隊のヤツに手ェ出してる奴がいてな。」

その言葉に新島は目を見開くが、坂木は表情を変えず淡々とあった出来事を話した。

「色々探ったら出処は第3大隊って絞り込めたから、新島。お前なら何か知ってると思ってな」
「うーん・・・ウチの大隊は特に変化はない、かな?」
「そうか・・・尚更休みの日に呼び出して悪ぃな」

そう聞くと坂木は目を伏せてコーヒーを飲み、新島もアイスティーを口に含めると坂木を見つめた。

「・・・なんか、坂木変わった?」
「そうか?」
「雰囲気っていうか・・・?後輩にそんな気を掛けるなんて。まあ、4学年にもなればそうなるよね。」

新島がそう言うと、坂木は目付きを変えて新島を睨みつけた。

「・・・おい新島、オレは後輩って一言も言ってねぇけどな」
「っ!」
「何で知ってるんだ?」

黙り込んでしまった新島に、坂木は悲しそうに眉を寄せると

「・・・本当にお前なのか?」
「っそれは」
「お前が、脱衣場にあった真壁の作業着荒らしたり、近藤を介抱してる所を内恋と見せかけるタイミングで撮って写真をバラ撒いたのか?」
「・・・・・・」

暫く沈黙は続いたが、新島は何も答えず俯いたままだ。 坂木ははぁ、と息を吐くと

「真壁からは大事にしないでくれと頼まれている。だからオレも、今日お前を呼び出して面と向かって注意しに来た。本当にお前じゃなけりゃ良かったんだが・・・残念だ」

残念だ、その言葉に新島はスカートを強く握る。

「坂木は、内恋してんの?反対派だったくせに」
「ああ、もちろん反対派だよ。風紀を乱すだけだからな。」
「でもそうやってあの子のために動くって事は、好き・・・だからなんじゃないの?」
「ウチの大隊・・・しかもオレの下のもんがそういう目に遭ってたら男だろうが女だろうが惚れてようが惚れてなくても、助けるのがオレの仕事だと思ってる。」
「じゃあ、好意はないの?」

好意はないか、その質問に坂木は窓の景色を見ると

「オレには妹が居るから、最初はそれと重なってな。入校当初は妹みたいに可愛がってた。でも段々成長していくアイツを・・・見ていたら飽きなくてな。」

麻琴の事を話す坂木の顔は穏やかで、新島は「あの日と同じ顔だ」とその顔を眺めていた。

「好きなら告白しないの?」
「ここまで来たらオレは内恋しねぇよ。仮に内恋してバレてアイツが好奇な目で見られるのも気に食わねぇ。 でもここを卒業したらちゃんと気持ちは伝えるつもりだ。オレの我儘に、アイツは付き合ってくれてんだ。」
「・・・なにそれ、両思いじゃん」
「そうなるな・・・その間によそ見されねぇかこっちはヒヤヒヤなんだよ」

少し顔を赤くさせた坂木の顔を見ながら、私は惚気を聞きに来たのだろうか?と新島は心の中で首をかしげた。 新島は先程から痛む胸を癒すように冷たいアイスティーを流し込むが、その痛みはどうもこれだけでは消えそうにない。

「オレもここまで話したんだ。お前も本音話せよ。何でこんなことしたのか」
「・・・その話聞いたあとそれ話させる?」

ジト目で睨みつけ、新島はストローから唇を離すと

「ずっと、1学年の頃から坂木を見てた。 一番仲がいい男は坂木って、思ってたの。」
「おう。」
「私の方が坂木と一緒にいる時間は長いと思ってた。でも、時間なんて関係ないんだよね。我ながらら何でこんな事したのか。完全に嫉妬だよ。・・・私、坂木の事が好きだよ」

真っ直ぐそう伝えると坂木もそれを受け止め、坂木は目を伏せると

「・・・悪いな、新島。気づいてやれなくて」
「何で怒らないの?アンタの好きな子虐めたんだよ?」

確かに。と、坂木は髪の毛をガシガシと弄り目を逸らすと

「怒りてぇが、アイツが怒ってないからオレも怒らねぇだけだよ。」
「・・・そっか」
「オレは新島の気持ちに答えられない」
「アンタのふやけた顔見れば分かるよ」
「あ?ふやけてるか?」

そんな馬鹿な、と坂木はペタペタと自分の顔を触りスマホの画面で自分の顔を見つめる。そんな姿に新島は吹き出すと

「坂木、いい顔するようになったね」
「そうか?」
「うん。1学年の時から仏頂面でだいたい怒ってるし・・・真壁学生の話する時のアンタはいい顔してるよ。」
「ああ、そうだな。・・・新島、オレは1学年の頃お前に何度も助けられた。ありがとう」
「何いきなり。 私も坂木のおかげでここまで来れたんだよ。・・・ありがとね」

お互い暫く沈黙だったが、それを破るように新島はメニュー表を取り出すと

「・・・で、坂木。奢るって言ったよね?」
「ん、ああ」
「私オムライス食べたいな。ここの美味しいんだよね
「ったく、仕方ねぇ」
「あとデザートはこの4000円のパフェにしようかな」
「あぁ?! お前奢られるのも遠慮ってヤツあんだろうが」

普段通りのやり取りに戻った2人、新島は成長した想い人だった$lを見つめるとニッ歯を見せて笑った。








その日の夜。コンコン、と実習室のドアをノックをされ返事をして顔をあげれば坂木だったため挨拶をすると

「真壁、今いいか」
「はい」

帽子を手に取って廊下に出ると坂木は

「第3大隊の新島がお前を呼んでる」
「っえ・・・」
「大丈夫だ、行ってこい」

その言葉に麻琴は恐る恐る頷くと第3大隊へと足を運んだ。




同じ建物でも見た目の空気感や入った時の纏っている匂いが違う・・・ほかの大隊に呼び出しをくらって指導は受ける事はあったがもうそれは随分と前の話。

麻琴は恐る恐る第3大隊へと足を踏み入れ、新島の部屋を探すために名札を眺めていると建物に入ってくる学生たちに誰だ?とチラチラと見られ居心地を悪くしていると

「キミ、誰かに用事かい?」

顔を上げるとそこには男子学生が立っており、胸を見ると3学年で「清川」と書かれている。麻琴は上の学年と分かると慌てて敬礼をした。

「第1大隊113小隊の真壁と申します! 4学年の新島さんに用事があって参りました。」
「新島さん? 良かったら俺が案内するよ」
「ありがとうございます!」

清川の案内によりやってきた部屋。ありがとうございます、と頭を下げて清川と別れるとコンコンとノックをした。

どうぞ、という声にドアを開けると学生達は「誰?」という顔をしとっさに麻琴は最高学年を見つけて頭を下げると

「失礼致します!私、第1大隊113小隊真壁学生は新島さんにご用があって参りました!」
「ああ、真壁学生」

奥の自習机に座っていた新島は手を上げると立ち上がり帽子を手に取ると「ちょっと出てくる」と言い麻琴と廊下に出た。






「ごめんね、わざわざ来てもらって」
「いえ!」

談話室の自販機でジュースを買うと麻琴に渡し2人でソファに座る。

「本当は私から行こうと思ったんだけど、坂木がこっちに来させるって聞かないもんだから」
「あの、新島さん・・・お話って」
「謝りたくて」

新島は苦笑いすると

「我ながらダサい事をしたわ。 嫉妬って人をおかしくねぇさせるね・・・今思うとやった事が幼稚すぎて恥ずかしいわ。」
「えっと・・・?」
「作業服も写真も、犯人は私よ」

麻琴はあの日全員で推理した犯人が合っており目を見開くとそうですか、とペットボトルに口をつけた。

「坂木もだったけど、あなたも怒らないの?」
「それは・・・」

麻琴は以前あった、坂木が乙女を見続けている件を思い出して俯いた。確かにあの時、麻琴も不安だったのだ。 一歩間違えていたら麻琴も新島と同じ事をしていたのでは?と胸元を握りしめる。

「私の事は、どうでもいいんです」

震えながら出た言葉、麻琴は唇を噛むと

「それより、犯人が新島さんなのではという憶測が出た時、坂木さんは凄く傷ついていました。 そんなことをする人じゃないって、坂木さんは新島さんを庇っていました。 坂木さんを傷つけてしまったこと・・・私はそれに関しては怒ってます。」
「うん」
「でも新島さんは、坂木さんの事・・・大好きだからした事なんですよね?」

ストレートにそう言われ新島は驚いたがフッと笑うと

「そうだね、1学年の頃からアイツを見てたから。私が入校当初挫けてた時も「ここまで来たがやき、頑張りや」って声掛けてくれたの。だから私はここまで来れた。 アイツは、周りと違って身体は小さいから人一倍努力してるヤツだった。それで気づいたら目で追ってて・・・って感じだね。これが恋なのか憧れだったのか今では分かんないや」

新島は麻琴を見ると

「真壁学生は坂木の事どう思ってんの?」
「坂木さんは尊敬する方ですし、あの人みたいになりたいです。」
「それだけ?」
「えっ?」
「それだけじゃないでしょ?」
「えっと・・・す、すき、です」

顔を茹でダコのように真っ赤にさせた麻琴。新島は笑うと麻琴の背中を軽く叩き

「そっかそっか」
「でも、新島さんも・・・」
「私?今日振られたよ」

サラッと言った言葉に麻琴は驚くとそんな顔を見た新島はまた笑う。

「こんな事しておいてこれでOK出したら坂木の品性を疑うよ。 まあ坂木も色々とアンタの事を考えてるし、心配してるみたいだよ」
「はい・・・」
「他の女が寄ってきてもアイツは誠実な男だから安心しな」

新島は立ち上がると持っていた缶をゴミ箱に捨て、麻琴も立ち上がる。

「ってなわけで、話は以上!」
「はい!ありがとうございました!」
「うん。坂木によろしく」

吹っ切れたように笑う新島に麻琴も頷くと1大隊へと戻った。




***




「新島さんは・・・坂木さんが、す、すすす好きなのでは」


どもりながら麻琴は俯いて言うと、坂木は目を見開いて三島も岩崎もうんうんと頷いた。

「新島が?」
「お前は内恋反対派だからな・・・そりゃ言えんだろう」
「あなた達大隊違うけど仲良いものね」

そうなのか、麻琴は坂木を見上げると坂木も戸惑う。 坂木も確かに新島は4学年の中では特に交流のある学生だった。性別は違えど気も合い、1学年の頃はあの飄々とした性格に救われた時もあった。

あの新島が・・・坂木は俯いているとポン、と岩崎が肩に手を置く。


「新島に話を付けるのは坂木、お前が適任だ」
「・・・だな。」

そう言うと坂木は麻琴を見下ろすと、真壁も不安そうに坂木を見上げた。







「(今日、坂木さんが居なかったのは・・・新島さんに会ってたから。)」


でなければ今日呼び出されるはずがない。
麻琴は駆け足で1大隊へと戻っていると外に見覚えのある人物が腕を組んで立っていた。

「坂木さん!」
「おう、終わったか」
「はい」

麻琴の顔を見て特に異常は無さそうだと確認した坂木はほっとした顔をすると

「中入るぞ」
「はい。 あのっ、坂木さん!」

呼ばれて振り向けば麻琴は最敬礼で頭を下げた。

「色々と・・・ご迷惑お掛けしてすみませんでした。」
「あぁ?なんだよいきなり」
「ごめ、なさい・・・」

そう言うと麻琴の目からはボロボロと涙がこぼれ落ち、床に涙が落ちる。突然泣き始めた麻琴に坂木は驚くと駆け寄った。

「おい、何で泣くんだよ」
「私が気を緩めているせいで坂木さんや、周りの方に迷惑を掛けました。」
「あのなぁ、そういうケアをするのもケツ拭ったりするのもオレたち4学年の仕事なんだよ。」
「は、い・・・でも、他にも坂木さんの事そのように思っている方がいるかもしれません」

坂木と居るのは楽しい。しかし、今回のような事を招いてしまうようならば少し距離を開けた方がいいんじゃないか・・・涙を拭っていると坂木は溜息をつきポケットから取り出したタオルハンカチで麻琴の顔を拭いてやった。

「突然モテ期が来ても困るんだよ」

苦笑いしながら坂木はそうツッコミを入れると

「おいテメェ、今回の件でオレから距離取った方が良いんじゃねぇかって思っただろ。」
「うぐ」
「図星だな・・・良いんだよ、幸いにもオレらは兄妹みたいだって言われてんだから。利用しない手は無いだろ」
「はい・・・」
「何かあっても、何度でも助けてやっから」

頭の上から降ってくる優しい声色に再び麻琴の目からは涙が溢れこくこくと頷くと

「私もっ・・・坂木さんに何かあったら直ぐにすっ飛んで行きます!」
「頼もしいな」
「絶対です!助けに行きます!」
「おう。そんときはよろしくな」

少し躊躇ったが、小さい頭に手を乗せて撫でてやると小指を出てきたので首を傾げる。

「指きりげんまんです」
「ああ」

坂木は差し出された小指を絡ませるとキュッと小さく力を入れた。


避雷針に嫉妬:後編



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