「真壁」
「ん、どうしたの?松原くん」

急に呼び出しをされた麻琴は首を傾げる。
松原は腕を組んで麻琴を見つめると

「真壁、お前は挺指揮としてよく頑張っているのは分かっているし、先輩方もお前を評価して・・・おかげで俺たちのクルーもいい記録が出始めている。」
「私なんてまだまだだよ。 松原くんもみんなも、それ以上に頑張ってると思う。でも、選ばれた以上は全力を尽くそうと思ってる。」

麻琴の話を聞き松原は頷くと

「そうだな。 でもな真壁、俺や先輩方の言う事をはい、はいと聞く・・・それは確かに間違えではないが俺たちは2年後この防衛大のトップに立って下の後輩達を見なければならない。 そしてその先、俺たちが各部隊に配属されればもっと多くの部下を抱える事になる」

途方もない未来の話だが、麻琴は話が見えず戸惑いながら頷く。

「このクルーでは俺が上の立場だが俺はそれでいて平等な立場でいたい。だから真壁、お前の意見を聞きたい。このクルーを良くするために、士気をもっと上げるためには、どうしたらいい?」
「どう・・・って?」
「お前がリーダーとして、お前はどうしたい?」

その言葉に、麻琴は戸惑い俯いてしまった。




***




残り1週間を切ってしまったカッター競技会。
ヘトヘトになったレギュラークルー達は足に鞭を打ちやっとこさ1大隊へと戻ってくることが出来た。

「き、きつ・・・」
「もうヘトヘトだよー!」
「この後プレスもしなきゃいけねぇし、あと対番の様子も見に行かなきゃ・・・」

やるべき事と体力が追いつかない。
今この場で横になっていいと言われれば目を閉じて直ぐに眠れるのではというほど疲弊していた。

それでもこの廊下は非武装地帯。シンチャイ達は疲れた身体を無理やり動かし走っているとクルーの麻琴と松原が居ないことに気づいた。

「そういえば松原と真壁は?」
「ん?あいつらならちょっと用事があるって先に戻ったみたいだけど。先輩の呼び出しじゃないか?」
「だから居なかったんだ」

すると突然11クルーの呼び出しBGMが流れ、シンチャイと松平は驚いてスピーカーに目をやると

11クルー、会議室集合

坂木の声が流れ、そのままの足で会議室へ向かうとそこには4年生と麻琴と松原が待っていた。
作戦会議だろうか・・・と集まったメンバーは背筋を伸ばして整列をすると

「各自、作業着及び制服を受け取り今日はしっかり休むように」
「・・・・・・へ?」

全員は首を傾げると麻琴と松原が全員の作業着を持ってやってきた。一体なんだ?と戸惑っていると松原は照れくさそうに頬をかくと

「皆の負担をどう軽減しようか真壁と相談した結果、これから競技会までの間身の回りの作業をする事にしたんだ」
「みんな、お疲れ様です!」
「ついでにプロテインも用意したからな!飲んでいけ!」

西脇の言葉に全員ははい!と頷くとレギュラー陣は麻琴と松原に駆け寄ると制服を受け取った。
正直、この過酷な状況で作業をするのはキツいと思っていた。自分たちでやる以上にパリッとした作業着と制服を受け取り驚いていると松原がああ、と頷き

「真壁はアイロン糊愛用者だからな。クリーニング屋以上の仕上がりだぞ」
「すげぇ、ありがとう2人とも!」
「めちゃくちゃ助かるよ・・・!」
「松原〜!真壁〜!!“ありがとう〜!”」

シンチャイはタイ語を叫び、半泣きで松原と麻琴に抱きつくと麻琴は

「シンチャイくん何喋ってんのか分からないよ!」
「ごめーん!テンション上がってつい」

疲れ切っていたレギュラー陣だが麻琴と松原の支援、シンチャイとのやり取りに空気が和んだ。 ワイワイと作業着達を受け取る姿を眺めながら4年生はそれを微笑ましく眺める。

「真壁と松原が言い出した時は驚きましたが・・・士気はまた上がって、いい空気です」
「ああ。真壁が考えて、松原を連れてオレに相談してきたんだ。」
「なるほど。インクルーシブリーダーシップをとる松原と、サーバントリーダーシップをとる真壁。いや、松原がその能力を引き出させたんでしょうか。2人を挺長と挺指揮にさせたのは間違えではありませんでしたね。」
「ああ。松原も色々と勉強したみたいでな。見違えたぞ」

目標や意見など常に平等な立場になりクルーメンバーとこまめなコミュニケーションをとり続けている松原。

インクルードとは「巻き込む」という意味で、一般的に考えられるリーダー像は「トップに立ち、下の者を引っ張る」というイメージになりがちだ。 インクルーシブリーダーシップタイプのやり方は、リーダーの指示通りやるのではなく、どうしたら勝てるのか?どう対応していくのかを「考える力」をメンバーにも身につけさせる。

松原は麻琴にもターゲットを絞り、意見を聞くことにより今回の後方支援をする事になった。 元々視野が広く、自分だけではなく周りにも気を使えている麻琴・・・先日考えている事を全て話せ。と意見を本人から聞き、その特性を生かした結果がサーバントリーダーだ。


「各自にこれを配っておく」


松原と麻琴が袋から取り出した箱をクルーメンバーに渡していく。それを受け取り松平達は首を傾げるリアクションをし、シンチャイはわぁー!と笑顔になった。

「タイ〇ーバームだね!」
「なんだそれ?」
「シンガポールの会社が作ってる薬で、虫刺され、ヤケド、鼻づまり、肩こり、筋肉疲労何でも治してくれる万能薬だよ! 日本にもあるんだね〜」

タイの実家にもあるよ〜とシンチャイは喜び、松原は全員を見渡すと

「各自風呂上がりに塗るように!マッサージのやり方は真壁がプリント作ってくれたから、それ参考に少しでも疲れを取るんだ」

その言葉に全員が返事をすると、松原はお前もなにか言えと麻琴を肘で小突いた。

「残り1週間、できるだけ皆を支援するので一緒に頑張ろう!」
「「「おぉー!!」」」





***





そしていよいよ始まったカッター競技会当日。走水訓練場前までやってきたクルーは整列をし坂木に注目すると

「オレたちが入れるのはここまでだ。・・・お前たち、この3週間よく訓練に耐え、全員がお互い励ましあってここまで来れたな。松原、真壁。お前らも支援ご苦労だった」
「「ありがとうございます!」」

坂木は全員を見渡すと

「お前たちなら金クルーが獲れる!周りのカッター全部ぶっ飛ばしてこい! 今日は全力を出し切り・・・思いっきり楽しんでこい!」

その言葉に全員は返事をすると、横で待機していた岩崎、西脇、大久保や他の4学年がやってくると

「全員、ハチマキ回収しますよ〜」
「えっ」
「ほらほら、早くろ!」

ハチマキを回収し、代わりに手渡されたのは「勝てる」「金クルー」「気合いだ」などなど、隙間なく励ましのメッセージが書かれたハチマキだ。

「1大隊の念が込められているぞ」
「ありがとうございます!」
「時間がねぇ、円陣組むぞ!」

11クルーと坂木達は肩を組んで円陣を組むと

「「「掴もう頂点!!圧倒的撃破他大隊!!一大隊、いただきます!!!」」」

全員駆け足で門をくぐると

「真壁!」
「ふぁいっ!」

坂木に呼び止められ、慌てて振り向くと指でこっち来いとジェスチャーされ近づいた。
何だ?と首を傾げると岩崎は麻琴にウインクをして

「坂木、ほら!」

ポイッと何かを投げ、坂木はそれをキャッチする。岩崎はニッと笑うと

「坂木、先行ってるぞ」
「おう」

西脇はよく分かっていないようだがそれを察した大久保は岩崎と肩を組み西脇を連れて門を後にする。
残された坂木と麻琴。坂木はその3人の背中を見送ると周りを確認し、麻琴の帽子をポイッと外した。

「帽子持ってろ」
「? はい」

すると突然、坂木は麻琴の肩を押すと門の壁に押し付けた。いきなりの事で混乱していると、坂木の顔が近づき麻琴を睨みつけると

「真壁、動くなよ」

坂木の顔が近づいてきて、麻琴はその状況に混乱して動く事など出来なかった。

避雷針の後方支援



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