某ボクシング映画のテーマソングが流れた後

『2学年集合!』

坂木のアナウンス・・・カッター訓練の始まりの合図だ。全員はこのボクシング映画のテーマソングがトラウマになりつつある。

実習時間を使ってのミーティング。
ホワイトボードを背景に坂木は腕を組むと

「そろそろレギュラーを決めていく」

その言葉に全員が顔を強ばらせた。
レギュラーには草間、シンチャイ、松平達が呼ばれ坂木は

「艇長は松原」
「はい!」
「艇指揮だが・・・なるべく船は軽くして行きてぇ。」

軽く・・・そう言うと全員は迷いなく麻琴を見た。
後ろの方に居た麻琴は「えっ」と全員を見ると坂木はニッと笑い

「オレも同じ事を考えてた。・・・真壁、お前が艇指揮だ」
「はい!」
「レギュラーに選ばれなかった奴らも気を抜くなよ!本番中に選手交代もある!決勝戦で漕ぎ手にもなるんだ、変わらず血反吐吐きながら訓練しやがれ!」

その言葉に全員ははい!と頷くと西脇による陸トレが始まった。



***



レギュラーが決まり初めての海・・・離れた所では4学年が見守り麻琴は「前へ!」と声を掛けると掛け声に合わせて櫂を回し始める。

それを遠目に見ていた4学年は腕を組みながら

「真壁と松原はまだ慣れていないな・・・リズムが一定じゃない」
「儀仗隊だったらこういうのは得意なんだけどな」

岩崎と坂木の会話に大久保はふふふ、と笑うと

「私にいい考えがあります。」

その考えを話すと坂木は頷き、拡声器のスイッチを入れると

『全員陸に上がれ! ミーティングだ!』
「はい!」
『急げ!チンタラすんな!』

陸に戻ろうと方向転換し進んでいく。しかし今日の波は高く、スピードも相まってカッターは波に叩かれ大きく揺れ麻琴もバランスが崩れそうだな、と脚に力を入れる。


すると、ふわりと身体が浮き上がった。

「うわっ」
「真壁ー!!」
「うわああああ!!!」
「飛んだー!」
「大丈夫かー!!」

突然騒ぎ始める2学年の艇。4学年は撤収準備をしていたため見ていなかったが坂木は舌打ちをすると拡声器を取り出し

『おいテメェら!騒いでねぇでとっとと・・・おい!真壁どこいった!』
「真壁飛びました!」
『・・・あぁ?!』

全員が海を指さす。
意味がわからない、坂木は声を荒らげると海から麻琴が出てきた。

それを見た大久保は苦笑いすると

「カッターは揺れますし、浮き上がりますからね・・・」
「真壁が軽すぎて飛んで行ったって事か・・・ははは!漫画みたいだな!!」

岩崎は大笑いすると坂木は頭を抑えて

「前途多難だな・・・」

と呟いた。



***



ずぶ濡れになった麻琴をまずは風呂にぶち込み、その間に改善提案を出し合う。
お待たせしました、と麻琴は着替えて会議室へ入ってくると

「真壁、あなたはこっちですよ」

大久保や他の4学年に呼ばれ麻琴は首を傾げると


「艇指揮は掛け声で皆の動きを合わせるのが仕事です。漕ぎ手は自分の櫂を見ているため周りとは視覚で合わせられません。それは真壁も漕いでいて分かりましたよね?」
「はい!」

返事をすると大久保は笑顔で「よろしい」と頷くと岩崎がヘッドホンを持ってくると

「真壁、はいこれ」
「ヘッドホン?」

ヘッドホンを掛けると大久保はパソコンを操作しはじめた。聞こえてきたのはメトロノームの音で麻琴は何事だと目をぱちぱちさせると

「真壁、今からこのリズムを徹底的に叩き込んでもらいます」

隣の先では松原が既に犠牲になっているようで白目を剥いている。 満面な笑顔で迫ってくる大久保に麻琴は悲鳴をあげた。

避雷針と呪い



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