春休みが終わり、いよいよ大隊分けの日がやってきた。
ドキドキしながら掲示された紙を見上げると、変わらずの1大隊だった。
「1大隊・・・しかも113小隊って」
思わず口元が緩みそうになっていると背中に衝撃が走った。
「麻琴〜!私も1大隊だよー!」
「みやちゃーん!」
再び知念と同じ大隊・・・すると
「テメェら!大隊分かったら速やかに移動準備始めろ!」
遠くから坂木の声が聞こえ、全員は慌てて「はい!」と返事をし、速やかに部屋割り表を見ると移動に取り掛かった。
新しい部屋には永井が居り、麻琴は再び知念と相部屋。 4学年の部屋長である桜井が1枚の紙を持ち、さて・・・と麻琴と知念を見た。
「さっそくだけど麻琴と宮子ももう2学年。ついに対番を持つようになる訳だけど・・・この子達を連れてきたよ!さ、どっちか選んで」
そう差し出された紙にはシンプルに
岡上 乙女(高知県)
北村 愛(鹿児島)
名前だけ書かれていたため知念と麻琴は固まった。
「えっと・・・顔写真とか・・・」
「無いよ!」
「情報も・・・?」
「名前と出身地だけ!」
なるほど・・・と戸惑いながら頷くと麻琴と知念はうーんと顎に手を置く。
「(乙女ちゃん・・・可愛い名前だなぁ〜)」
「麻琴、決まった?」
「うん!」
「よし、じゃあせーので指さそうか!ダブったらじゃんけんで!」
「いいよ!」
そう言って知念は指を出すと麻琴も頷き
「せーの!」
そんなノリで自分の対番を決めたのだった。
そしていよいよ着校日。
袖に着いた桜のバッジ・・・2学年の証だ。麻琴は服装に不備がないかをチェックして、鏡の前でそわそわと襟章のチェックをしていると
《学生間通達。 岡上さん着校、対番学生玄関まで》
「きっ、きた!」
「麻琴頑張って!」
「うん!」
慌てて玄関へ向かうと、そこには美少女が立っていた。
スラッと背は高く、大きな瞳が麻琴を見つめた。
「えっと、岡上乙女さん・・・?(び、美少女・・・!)」
「はい!岡上乙女です!(こがな小さ人も居るがよ・・・可愛い・・・)」
2人はぼーっとしていたが麻琴はニコッと笑うと
「対番の真壁麻琴です。 よろしくお願いします! 」
麻琴の名前を聞いた途端、乙女はえっと驚いた顔をした。
「岡上さん?」
「す、すみません!なんでもないです!」
「そう? あ、乙女ちゃんって呼んでもいいかな?」
「もちろんです!」
こくこくと頷くと麻琴はありがとう、とにっこり笑う。 周りから花が出てるんじゃないかというオーラに、優しそうな人で良かった・・・と乙女はほっと胸を撫で下ろす。
「ご実家、高知県だよね?遠かったでしょ。荷物持つよ!」
「そ、そんな・・・重いですから・・・!」
「大丈夫大丈夫!こう見えて鍛えてるから!」
そう言うと麻琴はヒョイッとボストンバッグとキャリーバックを手に取る。ここに来るまでの間、乙女はひぃひぃ半泣きでこの荷物を持ってきたのだが麻琴は顔色ひとつ変えず軽い足取りで階段を上がっていく。
「まずは乙女ちゃんの部屋の案内して、ちょっと休憩したら制服合わせに行こっか」
「よろしくお願いします!」
乙女の部屋の部屋長とサブ長に挨拶をさせ休憩をした後指導教官、学生長と学生長付きに挨拶をする。
その後制服を受け取り必要な生活用品を買いに2人はPXに来ていた。
「必要なものは私が奢るから、気軽に言ってね」
そうは言ったものの、乙女は困ったようにオロオロしてしまい入校当初の自分を見ている気分になってしまった。
麻琴は笑うとポケットから折りたたまれた紙を取り出すと
「そんな事もあろうかと、必要なものリストを作っておいたの。これ見ながら買っていこうね」
「あ、ありがとうございます。助かります。」
「あはは。私も入った時は凄く戸惑ったよ。いきなり奢るって言われてもね。 でもその時に他の先輩が「対番を持つようになったら同じ事をしてやれ」って言ってくれたの。だから、乙女ちゃんも2学年になったら同じ事してあげてね」
そう言うと乙女は「はい!」と頷くと2人でリストを見ながら必要な物を籠に詰めて行った。
買い漏らしが無いか、乙女が並んでいる間にPX内を回っていると棚の向こうからやってきた学生とぶつかりかけてしまった。
「わっごめんなさい!」
「す、すみません!」
着校したばかりの男子学生だったようで頭を下げられる。
「おーい近藤学生!ここに居たかぁ〜」
後ろから追いかけてきたのは松平で麻琴を見ると
「よっ、真壁。」
「よっ、松平くん。 ・・・って事は松平くんの対番の子?」
「そう!近藤勇美くんだ!」
少しつり目がちの大きな目が麻琴を見下ろし、麻琴は見上げると
「初めまして。2学年で松平くんと同期の真壁麻琴です」
「こ、近藤勇美です!よろしくお願いします!(こんな小柄な人も居るんだ・・・ギリギリラインの身長じゃないか?)」
近藤は覚えたての敬礼をし、麻琴も敬礼を返すと
「ごめんね。ちょっと失礼するよ」
「へ?わっ」
背伸びをして麻琴は近藤のズレてしまった帽子を整えてやる。
「ちょっと前が見づらいけど、この位置を忘れないでね」
「ありがとうございます!」
麻琴はニコッと笑うと
「あっそうだ。松平くん、変な事教えちゃダメだよ」
「な、なんの事だかな?! そんな事しないって!ってか、お前の対番どこだよ?」
「大変!待たせてるの! じゃあね、2人とも!」
「おーう、後でな。」
「はい!」
そう言うと麻琴はニコニコと手を振って乙女が待つレジへと駆け足で戻って行った。
そんな後ろ姿を近藤は見送る。
「(いい匂いがする人だったな〜)」
麻琴が帽子を直してくれた時、ふわりと柔軟剤のようないい香りがしたのだ。
「近藤学生、真壁みたいな女子はどうだ?」
「ど、どうだと言われましても・・・」
松平は同情するように肩に手を置くと
「しかし残念だな近藤、悪い事は言わない。お前に勝ち目は無いぞ・・・」
「え?」
「何でもないよ。そのうち分かるさ!」
松平は麻琴のバックにいるあの鬼の4学年を思い出すとグッと親指を立てた。