※某夢の国ネタが出てきます!


卒業式の次の日から10日間春季休暇に入り・・・さすがに兄や千葉は仕事、幼なじみの麻友も当然仕事なので麻琴は一人の時間を過ごすことが多い。

休み3日目のある日の事・・・電話が鳴り相手を見ると


坂木


画面に表示された名前を2度見すると、慌てて麻琴は電話を取った。

「もしもし!」
『真壁、悪いな。今いいか』
「もちろんです!」

しかし坂木は黙り込んでしまい、麻琴は首を傾げる。電波障害か?麻琴は恐る恐る「もしもーし」と声を掛けると

「12月のクリダン、オレたちが優勝して景品を貰ったのは覚えてるか」
「はい。色々貰いましたね」

坂木はまた少し黙り込むと

「・・・梅原さんが内緒にしていてくれたんだが、まだ景品があったみたいでな」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。 ・・・オカピーのペアチケットだ」

今度は麻琴が黙り込む番で少しすると

「オカピー!?あのオカピーランドのチケットですか?」
「おう。春季休暇だから防大生は少ないはずだ・・・どっか暇してる日があれば、行きたいか?」
「行きたいです!えっ、坂木さんも?」
「あぁ?! 1人で行けってのかよ・・・お前も頑張ったんだから、打ち上げだ、打ち上げ。」

デートとは言わずそう言うと麻琴は大喜びし、飛び跳ねると

「いつでもいいです!明日でも!」
『そうか? 時間は・・・』
「開園は0900、閉園は2200です!」
『(詳しいな・・・)分かった、じゃあ現地集合な。』
「はい!」

そう言うと電話を切り坂木は「誘えた・・・」と一息し、麻琴はオカピーランドに行けると大はしゃぎして明日の準備をするのだった。





***




《次はー 舞浜、舞浜》

舞浜駅に到着した坂木。
もう改札を出た瞬間から普通の駅とは違い、夢の国オーラが出まくったデザインだ。

右手には専門ショップ、左にはコンビニ、目の前を真っ直ぐ行くとモノレール乗り場と奥にはショッピングモールがある。


時刻は8:20分、自身は春休みは帰らなかったため下宿先で泊まったのだが麻琴は実家から来る。早起き出来ただろうか・・・と駅を見渡すと

「あ、坂木さーん!」

聞き慣れた声がして振り向くと、麻琴が手をブンブン振ってコンビニから出てきた。
襟つきのトップスの上から春らしいサーモンピンクのトレーナーと細身のスキニーパンツを履いた麻琴が駆け寄ってきた。

私服の麻琴は初めてなので一瞬誰か分からず固まったが「おう」と手を挙げた。

「早かったな」
「楽しみすぎて早めに来ちゃいました。 はい、飲み物です」

そう言うとボディバッグからミネラルウォーターを取り出し坂木に手渡した。





移動するモノレールの中、麻琴と坂木は座らず吊革を掴んだまま談笑する。

「坂木さん、こういう所来ます?」
「小さい頃に妹が行きたがって1度家族で行った以来だな・・・もう10年くらい前だ。それに、遠かったしな。」
「高知ですもんね」
「お前は好きそうだな」

そう言うと麻琴は鼻息を荒くすると

「はい!兄や兄の友達(千葉)に連れてって貰ったり去年は卒業旅行で友達と行きました!」
「じゃあお前の方が詳しいな」
「任せてください、マップは頭に入っています!」

到着すると平日で春休みも突入しているので若者がごった返している。俗に言う卒業旅行というもので周囲はお揃いの服を着たり制服を着た若者とよくすれ違う。

麻琴はキョロキョロとしながら

「さすがに防衛大の人達居ませんよね・・・」
「居ないとは言いきれないな」

入り口からお城まで続くアーケードを歩いていると坂木はふと立ち止まり

「真壁、ちょっと来い」
「え?はいっ」

入ったお店はカチューシャなどを取り扱っているお店で坂木は麻琴を見るとニッと笑い

「変装するってのはどうだ」

変装、麻琴も釣られて笑うと「いいですね!」と隣に並ぶと商品を眺め始めた。

「前髪下ろしたらオレって分かりにくいだろ」

そう言っていつものように前髪を上げていたがワシワシと前髪を下ろすと目の前にあったオカピーの耳をズボッとはめ、麻琴を見下ろした。

「(坂木さん、実はノリいいんだな・・・)」

前髪を下ろすと印象が変わり、オールバックの坂木を見慣れた防大生なら気づきにくいだろう。麻琴は新鮮な坂木にこくこくと頷くと

「お前はこれだな」

坂木は隣にあったリボンがついたオカピーカチューシャを取り出すと麻琴の頭にさした。





結果的にオカピーの耳をつけてサングラスを掛けた坂木と麻琴が出来上がり、2人の手にはチュロスと飲み物、途中で麻琴に買ってやったキャラクターのポップコーンバケットを首から提げ・・・2人はベンチに座ってチュロスを食べていた。

「完璧だ」
「これならバレません」

普段の防衛大生活が身についているため2人とも背筋をピンと伸ばしながら真顔でチュロスを食べるというのは異様な雰囲気だ。

麻琴はマップを広げると

「坂木さん、次何乗りたいです?」
「沢山ありすぎて迷うな・・・」
「あ、じゃあ射撃とかやります?」
「射撃か、いいな」

2人は歩き食いをせずチュロスを食べ切ると射撃の出来るアトラクションへと向かった。


酒場もモチーフとしたアトラクションで、赤く光った所を狙う。点数が良ければ保安官バッジを貰えるというシステムだ。オープン当初からある人気アトラクションで、年齢制限関係なく子供でも楽しめる。

「坂木さん凄いですね、10発連続!」
「岡田だったらもうちょっとスムーズに狙ってたかもな・・・ってそういうお前もちゃっかりバッジ取ってんじゃねぇか」

秋季訓練では実弾射撃などあったが可もなく不可もなくな成績だった。が、距離も近いため撃ちやすかったのだ。 射撃をしている姿の坂木を見るのはもちろん初めてで内心「かっこいい」とドキドキしてしまったり、周りに居た女子も坂木が全弾当てていく姿を見て見とれていたり、一緒に来ていたカップルも彼氏そっちのけで坂木を見ていたのは少し妬けてしまった。

見えづらい・・・と掛けていたおふざけのサングラスも今はおでこの位置に上げられており麻琴は某お笑い芸人のように「惚れてまうやろ〜!」と叫びたくなってしまった。


次の場所へいこうか、としていた所・・・坂木は通りすがりに苦戦していた小学生6年生ほどの男の子と小さな女の子が目に付いた。

まだ身体が小さいため、重い銃を持つ手が震えている。

「・・・真壁、ちょっと待ってろ」
「?はい」

坂木は男の子に近づくと何かを話し始めて男の子に銃の持ち方を教えてやっていた。

「ここのストックに頬を当てるんだ、そう。あとは脇を締めて肘を台に置くんだ。あの近くの的を狙ってごらん」

男の子は言われた通りに構えると引き金を引く。すると赤いライトが点滅したのでパッと顔を明るくさせた。

「すげぇ!当たった!」
「すげぇな、上手だ」
「お兄ちゃんありがとう!」

飲み込みが早く、2回目の挑戦では坂木の補助もあり全弾当てる事が出来た。

「すごいね!おめでとう!」

スタッフにも褒められ、受け取った金の保安官バッジを男の子は嬉しそうに受け取ると袋から取り出して妹の服に付けてやった。

「妹が欲しがってたので、取れてよかったです!」

ありがとうございました!と頭を下げると手を繋いで人混みの中へと消えてしまった。
それを見送る坂木の目は穏やかで、麻琴も兄妹のやりとりにほっこりしてしまった。

「悪ぃな真壁、待たせた」
「いえ! あの子たちも取れて良かったです」
「あの兄妹を見た時に思い出したんだが、昔ここに来て妹と遊んだ記憶があってな。 つい助けたくなっちまった。」

昔の自分を重ねてしまったらしく懐かしそうに目を細める坂木。

「あの子たちも、今日の事は思い出に残ると思います。」
「そうか?」
「はい! もしかしたらこれをきっかけに防衛大や自衛官を目指してくれるかもしれません!」
「はっ、ぶっ飛びすぎだろ。・・・まあ、そうなってくれたら嬉しいがな」

拳を握って力説すると坂木は吹き出し、次のエリアへ移動した。




橋を歩いていると掛け声が聞こえてきて坂木はふと下を見ると、カヌーを漕いでいる光景が目に飛び込んできた。

「すげぇな、あんなのもあるのか」
「あ、カヌーですね。 お兄ちゃん達あれ好きでいつも乗ってます。 ちなみに、ここオカピーランドでもスタッフの部署ごとで別れてカヌー大会があるみたいなんですよ」
「すげぇストイックだな」
「ここは1年に180回防災訓練をしていて、3.11の震災時も「想定の範囲内」だったそうです。当時今日みたいな卒業旅行の子達が多く、7万人のお客さんに対してスタッフは1万人で対応してたとか」

スタッフはマニュアルに沿いお客を守るため売り物のの人形を配り、不安になるお客を楽しませようと声をかけ続けていたそうだ。

すると突然、目の前を歩いていた4人組の高校生のうち1人が座り込んでしまった。そのまましばらくすると地面に倒れ込んでしまい慌てて声をかけ続けている。

「真壁」
「はい!」

2人は高校生に駆け寄ると声を掛けた。

「どうしたの?」
「友達が突然目眩がするって・・・」

坂木は顔色が悪くなった高校生に声を掛けるとゆっくりと仰向けに寝かせた。

「失礼するよ」

下まぶたをチェックすると「貧血だな」と呟く。傍らに座っていた麻琴は立ち上がると

「私スタッフさん呼んできます!」
「頼む」

不安そうに見つめる3人に麻琴は落ち着かせるように肩に手を置くと

「すぐにスタッフさん呼んでくるから、お友達は一緒に居てあげてね」
「はい!」
「ありがとうございます!」

麻琴は近くにいたスタッフに事情を説明すると、無線で何かを伝ると「案内して頂けますか?」とすぐに現場へ向かった。

その後は四方八方から水を持ったスタッフ、エチケット袋を持ったスタッフ、車椅子を持ったスタッフが駆け寄ってきて坂木から状況を聞くと速やかに対応された。

それを見守っていた坂木は麻琴に

「病院に連れてくのか?」
「どうでしょう・・・酷ければ病院ですが、救護室が至る所にあるのでそこで対応されるかもしれません」
「すげぇな」

さすがは震災時でも動じなかった企業。連絡が行き渡り全員の呼吸が合っている。

女子高生達はそのまま救護室へ向かい、残ったスタッフは麻琴達に笑顔で駆け寄ってくると

「お兄さんとお姉さんの対応で助かりました!ありがとうございます!」
「とんでもありません、大したことは・・・それより皆さんの連携にとても驚きました。 我々も見習いたいと思います。・・・あ」

坂木と麻琴は顔を合わせて苦笑いすると

「私達、防衛大の学生でして・・・」

そう言うとスタッフはああ!と納得すると笑顔になり

「ありがとうございます。 お2人の連携も素晴らしかったです。ご協力ありがとうございました! 」

そう言ってピッと敬礼したので坂木と麻琴はカチューシャも着帽にはいるのだろうか?と考えたが反射的に敬礼を返したのだった。




***



あっという間に夕方になり、辺りは柔らかい電灯に包まれる。夜になるとまた雰囲気が変わり、街並みを見ながら歩いていた。

坂木はふと腕時計を見ると

「真壁、電車は大丈夫か??」
「えへへ、実は張り切ってホテル予約しておいたので閉園までOKです!」
「楽しむ気満々だな」
「坂木さんは大丈夫です?」
「オレは実家帰らずに下宿先に泊まってるからな。閉園までOKだ」
「じゃあ、もうちょっと一緒に居られますね!」

そう言った後、麻琴は顔を赤くさせて慌てると坂木もゴホン!と咳払いして顔が熱くなってしまう。

「くそ、あちぃな」
「・・・夕方でも暑いですね」

2人で晩御飯を食べ、その後もアトラクションに乗ったりお土産を見る。 坂木も下宿先の岡田達に何か買っていってやろうと眺めていると隣にいた麻琴が消えたためキョロキョロと辺りを見渡した。

麻琴はガラス細工のコーナーに移動していたらしく奥のショーケースをじっと見つめている。何かあるのか?と首を傾げるとそっと近づいてみた。

見ていたのはシンデレラのガラスの靴らしく、奥では職人が手作りで作っている。

「すげぇな、手作りか」
「わっ、ビックリした! 」

相当真剣に見ていたらしく、麻琴は驚いて坂木を見上げた。

「シンデレラのガラスの靴です」
「ああ・・・昔妹と見たな」
「私も小さい頃ずっと見てました。 ガラスの靴可愛いですよね。女子の憧れです」

まだDVDの扱いが分からない乙女が観たいとせがみ何度も見せてあげた映画だ。おかげで坂木もストーリーは覚えている。

チラッと展示されている靴を見るとピンからキリまで、坂木はそれを見ていると

「すみません、お待たせしました! お土産買えました?」
「ああ。 もういいのか」
「はい!」

店の外に出ると夜のパレードが始まっていたらしく、全員が立ち止まって見ている。麻琴も可愛いですね〜と眺めていると

「あ、真壁」
「はい!」
「買い忘れたのがあった。すぐ戻ってくる」
「わかりました!ここで待ってますね!」

坂木は頷くと来た道を戻り、先程の店へ入っていった。


ショーが終わると家路に着く客も多い。少し人口の減ったパーク内を歩くと麻琴はお城を見上げて

「綺麗ですね〜」
「だな」

立ち止まり、2人でお城の写真を撮っていると

「あの〜すみません」
「はい」

振り向くと20代後半のカップルが声をかけてきてスマホを持ちながら

「写真お願いしてもいいですか?」
「もちろん」

坂木はスマホを受け取るとお城をバックにカップルの写真を何枚か撮る。 撮れた写真を見て2人は笑顔になると坂木と麻琴を見て

「お2人もよろしければお撮りしますよ!」
「へっ」
「ありがとうございます。お願いします」

坂木は笑顔で男性にスマホ渡すと、麻琴の手を取ってお城の前に立った。坂木に手を握られ、麻琴は緊張でガチガチになってしまいそれを見たカップルは付き合いたてなのかな〜と初々しい気持ちになると

「おふたりとも、もっとくっついていいですよ〜!」
「はい」

坂木は麻琴の肩にピッタリとくっつくとシャッターを切られた。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」

握った手を離さないまま坂木はスマホを受け取ると2人で頭を下げてカップルと別れる。
お城が見えるベンチに移動し、送られた写真を麻琴は眺めていると

「・・・これやるよ」
「えっ?」

差し出されたオカピー柄の袋。麻琴は驚いて受け取ると中は硬い箱だった。

「・・・見てもいいですか?」
「おう。落とすなよ」

麻琴は頷いてそっと箱を開けると、箱の中にはガラスの靴が入っていた。

「こ、これ、さっきの・・・」
「案内してくれた礼と、防衛大に1年間生き残れたご褒美だ」

高いものは選べなかったが、手のひらサイズに収まるガラスの靴。麻琴はそっと持ち上げるとライトアップされた光に反射してガラスがキラキラと輝く。

「わぁ、綺麗・・・!坂木さん、ありがとうございます。嬉しいです。」

顔を真っ赤にさせた麻琴はニッコリわらうと、お城をバックに花火が打ち上がり空を見上げる。

しばらくお互い何も言わず花火を見上げていると

「悔しいなぁ・・・」
「? 何がだ?」
「私は坂木さんに何も出来なくて、いっつも助けられてばかりです。」

坂木は麻琴を見つめると

「そんな事ねぇよ。オレだってお前に助けられたり気付かされる時は沢山あったさ」
「ほんとです?」
「ああ、真壁。・・・1年、よく頑張ったな」

その言葉に麻琴は目を見開いてこくりと頷く。

「オレもあと1年すれば卒業だ」
「そう、ですね・・・」

来年になれば坂木達も卒業して、奈良の幹部候補生学校へ向かいそこも卒業すれば夢だったパイロットにも1歩前進だ。

「道のりは遠いが、負ける気はねぇ」
「坂木さんならイーグル乗れそうな気がします。」
「はっ、門は狭いけどな・・・やれる所までやってやるさ。お前も、めげずに頑張れよ」
「はい!」

そう拳を突き出すと、麻琴は頷いて坂木の拳にコツンとぶつける。

「あと、」

坂木は麻琴をまっすぐ見つめると

「卒業式、お前に伝えたいことがあるんだ」
「は、い・・・」
「・・・待っててくれるか」

心臓がドキドキと速く鳴り、貰ったガラスの靴を抱きしめる。

「坂木さん、私・・・待ってていいんですか?」
「ああ。むしろ、待たせて悪いって言うか・・・振り回してばっかりだな」
「大丈夫です。 分かってますから。」

正直に言うとこの2文字を今にでも伝えたい、申し訳なさそうにする坂木に麻琴は全力で首を振ると、坂木を見上げてニッと歯を見せて笑う。

「坂木さん、私待ってます」

泣きそうになるくらい嬉しく、幸せな気分だ。坂木も頷くと2人で花火を見上げる。

「・・・ありがとな、今日は楽しかった」
「私も凄く楽しかったです。 ありがとうございます」


この1年、目まぐるしかったが思い返せば大変だったけど楽しかった・・・そんな思い出ばかりだ。

防衛大学校1年の最後、坂木と一緒に過ごせたこの思い出・・・麻琴は打ち上がる花火とお城の景色を一生忘れないでおこう、と目に焼き付けた。


避雷針の春休み



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