誰も居ない談話室・・・電話を切った麻琴はふぅ、とスマホの画面を見下ろした。


「やっぱここに居たか」


振り向くとあの時同様、風呂上がりの坂木が立っていた。麻琴は慌てて立ち上がると

「こんばんはっ」
「おう。 要員どうだった」

聞いていたが、あえて知らないフリをして坂木は麻琴の隣に座った。

「海上でした」
「そうか・・・その感じだと第1希望の要員じゃ無かったみたいだな」

射抜くように見つめられる視線に麻琴は苦笑いするとこくりと頷いた。

「バレましたか。本当は陸希望でした」
「そうか・・・」
「兄は夜間訓練らしくて通じなかったのでラインに連絡を入れて、海上自衛官の知人には電話で報告しました」
「なんて言ってた?」
「やっぱりな、って。・・・私海っぽいですかね?」

首を傾げると坂木はんーと顎に手を置いて

「まあ・・・っぽいよな」
「あはは、そうなんですね。でも決まった以上はやるっきゃないです!」

麻琴の知人とやらと話して納得が行ったのだろう、坂木の言葉より現場の人間の意見の方がためになるため自分からは何も言わないでおこう・・・と目を伏せる。

「要員が別れちまったから、お互い顔を見せる機会は格段に減るな」
「? そうですね」
「んで、大隊がシャッフルされればもっと激減する」
「・・・はい」

坂木は少し麻琴に近づくと、手を伸ばして自身の小指と麻琴の小指を絡ませた。驚いた麻琴は坂木を見上げるが、本人は顔を逸らしてこちらを見ようとしない。

「・・・チョコありがとな」
「はっ、はい・・・」
「美味かった」
「へへ、良かったです」

麻琴は嬉しくなり、口元を緩ませると小指に力を込める。・・・すると遠くから話し声が聞こえ、お互いパッと手を引くと居室へ戻る事にした。




別れ道に辿り着き、麻琴は頭を下げると

「おやすみなさい」
「おう、おやすみ」

麻琴は背中を向けて歩き始る。
坂木はそんな麻琴の背中を見つめ、グッと拳を握り息を吸うと

「真壁!!」
「はいぃ!!」

誰も居ない廊下・・・突然大声で呼ばれ坂木の声が廊下に響く。 麻琴は身体が飛び上がるくらい驚きバッと急いで振り向いた。

すると

「へぶっ!」

バチーン!と顔に何かが当たり痛くはないが鼻がツーンとする。当たった何かはそのままポロリと床に落ちかけるので慌ててそれをキャッチすると、飛んできたものは水色の長細い箱だった。

何だこれは・・・と麻琴は呆気に取られていると

「・・・お返しだ!」

そう言うと坂木はぷいっと背中を向けて猛ダッシュで去ってしまった。 そして取り残された麻琴は坂木の背中と箱を交互に見ると嬉しさに飛び上がり、自分も自習室へと帰って行く。

「麻琴ーまたなんかしたのー?」
「坂木の怒鳴り声ダダ漏れだっだよ〜」

同室の先輩たちが笑いながら茶化してきたので麻琴は笑って誤魔化すと席に着き箱をシャツの下に隠すと「ベッドメイクしてきます!」とお辞儀をして寝室へ向かった。



***



部屋の隅に隠れると、箱を見て思わずぎゅっと抱きしめて頬ずりをしてしまう。箱の中はマカロンで、うさぎや猫、くま、犬など可愛らしい動物が並んでいる。

「うわああぁ〜!めちゃくちゃかわいい・・・!写真写真・・・」

そう言って麻琴はカシャっと写真を撮り、にまーっと笑うと

「でも可愛すぎて食べれない・・・」
「食べてあげよーか?」

へ?と振り向くと、そこには知念が覗き込むように立っていた。

驚いた麻琴は声にならない悲鳴を上げて口をあんぐりと開けると知念はしゃがみこんで麻琴の肩に腕を回すと

「ちょっと麻琴、誰から貰ったの?!」
「そ、そそそそれは・・・」
「もしかして内恋?誰!シンチャイ?松原!?」
「・・・ち、違う〜!な、内緒にできる?」
「もちろん!前期部屋っ子同士でしょ!」

知念はグッと親指を立てると麻琴はこそっと耳元で囁くと

「えええええっ!?ささささかきさn」
「ぎぃああああああ!!」

かき消すように麻琴は叫ぶと、麻琴の部屋長である宮田が何事かとドアを開いた。

「ちょっと、どうしたの?」
「あ、いや虫が飛んできてあっははは・・・」
「外に追い出したので大丈夫です!」

すると宮田はなるほど、と納得するとよろしくね〜とドアを閉め切るのを確認すると2人ははぁ・・・と息をついた。

「ちょっと麻琴、次の休養日外出るよ!詳しく聞かせて!」
「う、うん・・・」

そう頷くと知念はじゃ!と手を上げて部屋を出ていった。静かになった部屋で、麻琴はまたマカロンを見てにたーっと笑うが慌ててベッドメイクをし始めたのだった。



***



「うんなふらーな!あぬっちゅーうんなくとぅするっちゅやあらんのー麻琴だってぃ知っちょーんやし?!(そんな馬鹿な!あの人はそんなことする人じゃないのは麻琴だって知ってるでしょ?!)」
「・・・みやちゃん、何喋ってんのか分かんないよ」
「ああ、ごめん・・・取り乱してつい」

麻琴と知念は休養日を使ってカフェへやって来ていた。周りに私服を着た防大生が居るのを危惧し、名前を伏せて説明すると、知念は突然沖縄弁で怒り狂い始めたのだ。

「あの人、見た目怖いし怒ると怖いし、絵に描いたような鬼だけど的を得た指導をして周りからも信頼されてるじゃん。 そんなキープなんてしないって。ってか静岡でそこまでやって、よそ見するな、よそ見しないでって言い合ってんだから確定だよ、確定!」
「でも、一条さんって人とはどうなったかはわかんないし・・・」
「一条さん?そんな女は噛ませだよ!」
「あはは、噛ませって・・・」

失笑しながらアイスのホワイトモカをすすると知念は拳を握り

「しかもホワイトデーにマカロンでしょ?もう好きじゃん!相思相愛じゃん!」
「???マカロンで?」
「ググりな!」

麻琴はスマホを取り出すとホワイトデーのお返しの意味を調べる。

「へぇ〜色んな意味があるんだね。 飴、クッキー、マカロ・・・・・・」

そう言いかけて麻琴は固まると、ボンッと顔を赤くさせそんな姿を知念は楽しそうに見つめる。

「分かった?」
「うん・・・」
「それで、キープだと思う?」

麻琴は全力で首を振ると

「確かに言葉にはまだ出来ないけど、あの人はあの人なりに愛情表現してるんだよ! ね、自信もちな。」
「うん・・・」

マカロンの意味は「特別な人」。

もうすぐ4年が卒業し、麻琴達はそれぞれの夢に向かって各要員の訓練に取り組む。坂木とは離れてしまうかもしれないが、待っていていいのだと確信できた。

そして、もうすぐ新たな新入生が入校してくる。


避雷針とマカロン



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