後期も終盤にさしかかり、ICC(国際士官候補生会議)も無事に終えた。

・・・そしてついに麻琴達の要員決めの日がやって来た。


1年生は自分がどの要員になるか朝からそわそわしており、そんな姿をみた坂木は白飯をかきこみながらチラッと遠くにいる麻琴を見た。

「(結局アイツは要員教えてくれなかったな)」

麻琴も緊張しているのか、その顔は強ばっていた。






《伝達、1学年は中央ロビーに集合》

「麻琴、行こっ」
「う、うん・・・」

知念の後に続き、1年生はロビーに集められた。

集められた1学年の後ろの影から2年生、3年生が聞き耳を立ててそれを見守っている。 一緒にいた大久保は坂木をチラッと見ると小声で

「坂木、真壁の要員はどこか聞いてますか?」
「いや・・・アイツは内緒だって教えてくれなかったな」
「そうなんですね。」

そんな中次々と要員が決められていき、希望が通った者や通らずに涙を流す後輩にすぐ上級生が駆け寄り声をかける。

「知念宮子!」
「はい!」
「海上要員!頑張るように!」

そう言われると知念はパッと顔を明るくさせて「はい!」と返事をすると麻琴を見てピースをした。

「真壁麻琴!」
「はい!」

名前を呼ばれ、麻琴はドキッと心臓が大きく跳ねて返事をする。 坂木も固唾を呑んでそれを見守っていると久坂教官はボードを見て、麻琴を見下ろすと



「海上要員!!頑張るように!!」



麻琴の希望は陸上要員・・・それを知っていた仲のいいメンバーは顔色を変えて麻琴を見つめる。

第1希望の陸上ではなく、海上・・・麻琴は言葉を詰まらせたが

「っ・・・はい!」

決まってしまった以上、返事をしなければならない。

それを見守っていた大久保と坂木は


「おや、真壁は海上なんですね」
「だな・・・でも浮かない顔してるって事は、第1希望の要員じゃ無かったのか」
「(そうは見えませんが・・・)」


大久保から見れば麻琴は至って通常運転、海上要員の知念や上級生の永井達に囲まれて話をしている。

「坂木」
「なんだよ」
「真壁の事、よく見てるんですね」

そう茶化すと坂木は「うるせぇ」と大久保を軽く肘で小突くと用は済んだ、とその場を去った。



***



夜・・・千葉周一は自身が住んでいる官舎に着いてさっそくベランダに出るとタバコを取り出し、火をつけて肺に取り込むとふぅ・・・と今日の疲れやストレス吐き出すかのように、煙を空に向かって吹かせた。

「麻琴元気かな〜」

するとバッグに入れていた携帯から着信音が響き、千葉は持っていたタバコを咥え「はいはい」と返事をしながら取り出すと

「麻琴?」

普段ならLINEやメールでのやり取りなので電話は珍しい・・・緊急だろうか?と緑色の通話ボタンをタップすると

「もしもし、麻琴?」
『あっ周くん、電波の届く範囲に居るんだね』
「おう、まだ海にでてないぞ。・・・どうした?」

優しく問いかけると麻琴は少し沈黙の後

『要員、海上だった』

それを聞いて千葉は目を見開き、咥えていたタバコを落としかけたが手に持つと

「・・・やっぱりな」
『びっくりして電話掛けちゃった』
「ははは、もしかしたら同じ船で働けるかもしれねーぞ?良かったな」
『うん・・・』

まだ整理が出来てないのか、いつもの元気がない。
千葉はローテーブルに置いてある灰皿にタバコを押し付けるとよいしょと床に胡座をかく。そしてスマホを持ち直すと

「いいか麻琴、例えどの要員になっても国民と国土を守るという気持ちは変わらない。それはお前も分かってるな? 」
「うん。」
「・・・『海に肩書きは通用しない』という言葉がある。海上は24時間一緒に艦艇の中で生活をし、お互いの命を預け合うんだ。そこには上下関係など関係なく為人を判断し力を合わせる。 「階級」ではなく、「人」を見るんだ。 」
「為人・・・」
「麻琴、前期の時に同期の脱柵に巻き込まれただろ? 辞めてしまったとはいえお前は同期を見捨てなかった。 まぁ、あとは・・・」

千葉は少し黙り込み、プッと吹き出すと

「お前ちっこいからな。艦艇内は狭いからお前みたいな小柄な奴には持ってこいのいい環境だ。」
『もー!身長気にしてるのに!』
「あ?気にしてんのかよ、いいじゃん小さくて可愛いぞ」
『可愛くないし・・・』

不貞腐れてる麻琴の顔を思い浮かべると千葉はフッと笑い

「納得したか?」
『うん・・・』
「陸上は民間人と触れ合う機会は確かに多いが、海上も多いからな。色々な所を周り、地元の人と交流して俺たちの振る舞いが海上自衛隊の広報活動にもなる」
『船の中にずっと引きこもってたりしない?』
「まあ移動中とか訓練中はそうだが、外には出れるぞ」
『船酔いしない?』
「ん?するよ。俺は楽勝だったけどな。」
『うう・・・』

呻き声が聞こえ、千葉はまた笑うと慣れるさとフォローする。

『あ、もう行かなきゃ』
「おう。また何かあったら電話していいからな。海出てる以外は出てやっから」
『ありがとう、周くん』
「ん、じゃあな」
『おやすみ』
「おやすみ」

通話が切れると千葉はふぅ、とスマホをテーブルに置きタバコをもう一本吹かせると「頑張れよ〜」と呟いた。


避雷針の要員



prev | next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -