「麻琴ー久しぶりー!」
「麻友ー!」

幼稚園の頃からつるんでいる幼なじみの麻友。家も近所で中学まで同じで高校は違ったがそれでも繋がりがあり、切れない腐れ縁だ。

麻琴の家の前で再会の抱擁をすると

「ほら乗った乗った」
「おじゃましまーす!いいなー車!」
「仕事で必須だからね」

車に乗り込みシートベルトを締めると

「麻琴は許可が要るんだっけ」
「そうそう。」
「ねえどうなの、防衛大?・・・っと、ご飯食べながら話すか!」

そう言うと麻友はブレーキを踏むとエンジンのスイッチを押した。





***




「え、それってキープじゃないの?」
「キープ?」

麻友に坂木の事を話すと、パスタをフォークでクルクルとしながら麻琴は聞き慣れないワードに首を傾げた。

「男って本能的にモテたい生き物だからチヤホヤされてモテる気持ちよさを味わわせてくれる人をキープにしやすいの」
「そ、そうなの・・・?」
「そう! だから、他にも女がいて麻琴もその坂木ガールズの1人・・・とか。こんなこと言いたくないけど、心配だよ」

麻友は眉を寄せ唇を尖らせた。

「坂木さんは・・・そんな事しないと思うけど」
「男は分からんもんだよ。 モテないの?その人」

モテる・・・確かにクリダン練習の時に女学から教えてくれと囲まれていたり、一条の件もある。

あの一条ともどうなったのかは分からないし聞く訳にもいかない。

「開校祭の時に連絡先交換してた人なら・・・」
「マジで?どうなったの?」
「一緒に出かけてたよ」
「はぁ?! 確定じゃんそれ!キープだよ!」

フォークを握りしめると麻友はプンプンと怒り、クールダウンしようとお冷を飲むと

「やっぱり開校祭、仕事休んででも行けばよかった・・・!!今年は絶対いくからね!そんでその坂木って奴のツラ拝んでやるんだから!」
「お、落ち着いて麻友・・・」
「もし麻琴をキープしてるんだったらタダじゃおかないわよ!そのおでこの触覚引っこ抜いてやるんだから!」

見てなさいよ!と麻友は麻琴のスマホの待ち受けにされている坂木に向かって宣戦布告するとナポリタンを食べ始めた。

そんな中麻琴はただ無言でクルクルとパスタを回す。

「(よそ見するなって、言ったもん)」

御殿場まで迎えに来てくれた日を思い出す。
大丈夫だ、そう思っても明確な関係性でもないので不安だけが募ってしまった。






1週間の冬季休暇が終わり、麻琴達は突如乙装備のまま外に出るように指示された。そのまま整列をし、走れの合図で全員走り始める。

「テメェら1学年は来年上級生だ!自覚持てよ!」
「はい!」

1学年は困惑し、坂木の怒鳴り声を背中で聞きながら背嚢を背負い走る。 上の学年はふらつかず走り続けるが、まだ体力のない1学年は重たい背嚢を長距離背負い続け足元がふらついてしまっている。

「足元がふらついてるぞ!脚に力入れろ!」

岡田の大きな声に1学年は肩を震わせてはい!と返事をするが、体力の限界で倒れてしまう学生も居る。麻琴の目の前でも松平が倒れてしまい、呼吸を整えながら松平の所へ駆け寄った。

「松平くん!」
「っぐ、悪ぃ真壁!」

松平の腕を肩に回して立ち上がらせようとするが、麻琴だけの力では松平の体重と背嚢の重さは耐えられない。すると隣から岩崎がやって来て松平を支えた。

麻琴は驚いて岩崎を見上げるが岩崎はニコッと笑い

「ほら松平、あと少しだ!」
「はい!」
「あのっ、岩崎さん・・・いきなりこの訓練は何なのでしょうか。ヘルウィークですか?」

事故を起こした学生は居ないはずなのに何故走らされるのか・・・息切れの中麻琴はそう聞くと

「これはカッター訓練前の体力増強訓練だ。2学年に上がってすぐに行われるカッター訓練・・・学年が終わると大隊がまたシャッフルされ別の大隊に行く可能性がある。 どこの大隊に行っても恥ずかしくないように今のうちから体力作りをしているんだよ」

怪我をしない程度にね、と岩崎は付け加えると微笑む。 大隊のシャッフル・・・今の同期達とは別れる可能性もあるのだ。

「(坂木さんとも離れちゃうのかな)」

大隊が変われば会えるのは喫食や校友会、運が良ければ外ですれ違う程度。恐らく要員も違うため顔が見れる頻度は一気に激減してしまう。

「(って、今はそんな事考えてる場合じゃない!ほかの大隊に行って周りの足引っ張ったなんて事があったら、先輩達の顔に泥を塗る事になっちゃう・・・!)」

脚の力が抜けそうだったが何とか踏ん張ると松平をサポートしながらゴールへとたどり着いた。



防衛大の裏門にあるポンド坂、この坂は400段強あると言われ走水海上訓練場と防衛大を結ぶ階段だ。

そこをひたすら往復したり、レンジャー飛び、腕立て伏せなど筋力トレーニングもある。 お陰で身体のあちこちが痛く、1学年は産まれたての子鹿のような歩き方をするのだが先輩たちを見掛けた瞬間ビシッと姿勢を正して挨拶をしなければならない。

麻琴もその1人で抜け殻のように居室の机に突っ伏していた。

「おーい麻琴、大丈夫〜?」

後期になり部屋が替わった。
4学年の宮田がつんつんと麻琴の身体をつつくと

「うっっ、痛いです・・・!」
「あはは。これがしばらく続くからね」
「ヒィ・・・」
「それに、定期試験もあるからそっちも頑張りなよ」

定期試験・・・確か2月にあるはずだ。

「私、2月まで生きてるでしょうか・・・」
「大丈夫大丈夫!何とかなる!」

笑いながら宮田が再び麻琴の背中をバシバシと叩くと麻琴は激痛に呻いたのだった。

避雷針はキープ?



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