年末の真壁家と千葉。
家の大掃除や庭で餅つきをしたりお節の手伝いをしていたらあっという間に大晦日になった。

やや酒の入った琢磨と千葉は麻琴を見ると

「んで、要員どうしたよ?」

中期の間に決めた要員・・・ここから2年生になればその要員ごとの訓練に明け暮れる日々になる。

麻琴は飲んでいたホットカルピスをテーブルに置くと

「要員は陸にしたよ」

最初は無理だと思った。
しかし民間人と触れ合う機会の多い陸上・・・災害時の時現地へ赴く兄の姿を見て自分も力になりたい。 兄のようになりたい、というのは口には出さなかったが要員決めの紙には迷わず陸上を第1希望にした。

「ええぇ〜!陸ぅー?!」
「嘘だろぉ!?」

「そうか、なれるといいな」という快い返答を期待していたのだが2人から出てきた感想は想定外のものだった。

麻琴はえ?え?と2人を交互に見ると

「2人とも反応悪くない?」
「んんーお前は陸っつーか・・・」
「海っぽい・・・(セーラー似合いそうだな。着れないけど)」
「わかる、空でもないよな(セーラー似合うはすだ。着れないけど)」

見た目の問題・・・?麻琴は呆れたように息を吐くと

「ま、俺たちはお前の防衛大生活を知らないからな。適正かどうかは教官の判断に委ねられる。 仮に陸上要員になれなかったとしても、全力で取り組め」

琢磨のその言葉に麻琴は背筋を伸ばすとはい!と頷いた。




***




午前0時・・・除夜の鐘が鳴り響き、神社にいた琢磨と千葉と麻琴は今年もよろしくお願いします。と頭を下げ合う。

するとポケットに仕舞っていたスマホが一気に通知が来て何事か、と驚いてスマホを開くと高校時代の友人、1年女学のグループ、部屋のグループ、校友会のグループから一気にあけおめLINEが送られてきた。

個別LINEも来ており、シンチャイはタイの風景写真が送られてきて思わず笑みがこぼれる。
麻琴も「今年もよろしくお願いします!」と送信すると参拝の順番が回ってきたため作法に則り手を合わせる。

「(今年も健康でいい年になりますように)」

混んできたので早く帰ろう、と家に着くとピコン!と通知が鳴る。スマホを開けば「坂木」というメッセージが上に表示され、麻琴は部屋に駆け込むと慌てて開いた。


> あけましておめでとう


シンプルな一言・・・それでも麻琴はスマホを両手で包むように持つと口元をニヤけさせて

>あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。

そう打つと送信ボタンを押す。

「・・・もう少し可愛げのある絵文字・・・いや、絵文字は失礼かな・・・素っ気なかったかな」

ベッドでゴロゴロし、少しするとまたピコン!と電子音が鳴り慌ててスマホを見ると

>おう! よろしく。
正月だからってハメ外すなよ。

その一言が返ってきて麻琴はホッと息を吐くとそのまま携帯を抱きしめたまま寝落ちしてしまった。



***



1月2日・・・麻琴は兄と千葉と買い物をした1日を過ごし、ピコン!と鳴ったスマホ画面を見やると


《明日は坂木さんの誕生日です》


「・・・・・・」

ラインの誕生日通知を読むと麻琴はそのまま固まり


「えええっ明日ァ?!」


と叫んだ。


***


時は流れ、時刻は深夜の23:50・・・麻琴はクッションから立ち上がり自室を挙動不審にウロウロ歩き始め、一緒にいた飼い犬のサスケも遊んでくれると思ったのか尻尾を振りながら麻琴の後ろをのっそのっそとついてくる。

「0時になったらライン送る。0時になったら・・・あ、でも夜中だし迷惑じゃ・・・いや、ここは0時の方がいい・・・!」

麻琴はクッションの上に座ると坂木のトーク画面を開くと「お誕生日おめでとうございます!」と事前に打ち込んだ。 こうすれば0時ジャストに送信できる。

あとは待つだけ・・・と、スマホと睨めっこをする麻琴。サスケも麻琴の隣にお座りしてそれを見守っていると0時に切り変わった瞬間送信ボタンを押した。

画面を睨めっこするが、既読が付かない。

「・・・さすがに寝てるよね」

日付が変わったと同時に送れただけでも充分、とスマホをテーブルの上に置いて寝ているサスケを撫で添い寝をするように隣に寝転ぶと張り詰めた緊張が解け、自然と瞼が落ちていった。


***


「チッ、夜更かしすんなよ・・・」


同期から送られてきた一斉誕生日おめでとうメッセージの上、帰省しなかった組から掛かってきたビデオ通話の対応をしていたら深夜の0時をとっくに周っていた。 ようやく開放された坂木はトーク画面に戻ると通知の中にセントバーナードのアイコンがあるのに気づいた。

真壁 麻琴

「・・・あいつに誕生日言ったっけか?」

首を傾げたがライン本家の通知に「お誕生日おめでとうございます」とメッセージが来たので、そういえば誕生日の設定をしたので麻琴にも通知が来たのだろう・・・と納得する。

送信された時刻を見ると0:00丁度に送ってくれていたらしく坂木ははっ、と笑うと

「お前も夜更かしすんなよ」

坂木は口元を緩ませると、ふと声が聞きたくなり通話ボタンをタップした。






ヴーッ ヴーッ


「んあ・・・?」


サスケと添い寝していると、ヴーッとスマホの振動する音が机から響き起き上がる。


寝ぼけながら画面を見ると坂木からの着信だった。

「なっん、で!電話!!?」

あわあわしながら慌てて通話ボタンを押すと

「もひもし!」
『おう、同期に捕まって遅くなった。ありがとな』
「いえ!!おめでとうございます!」

目を擦りながらそう言うと

『・・・お前、寝てたろ』
「・・・はい」
『悪ィ、起こしちまったな』
「いえ!うたた寝でしたので、ちょうど起きようとしていました!」

時刻を見れば深夜の1時・・・1時間近くほど眠りこけていたらしく、麻琴は思わず立ち上がりベッドの上で正座をすると坂木は「あー・・・」と言葉を濁し

『いや特に用は無かったんだけどな』
「えっ」
『なんとなく、だ』

その言葉を聞いて麻琴は頬が熱くなるとはい、とか細い声で返事をした。その後はお互いの部屋会の話や他愛の無い話になる。

『もう初詣行ったか?』
「はい。元旦の日に兄達と一緒に。坂木さんは?」
『俺も元旦の日に妹と行ってきた』
「仲良しさんですね」
『そっちも大概だろうが』
「あはは!・・・あ、妹さんのクリスマスプレゼントどうなりましたか?」

毎年贈っている妹へのクリスマスプレゼント。坂木は笑い混じりにああ、と言うと

『アイツ、元旦が誕生日だから倍にしろって』
「お誕生日だったんですね!おめでとうございます。えっと、私の1つ下でしたよね?」
『ああ。 受験生だ』
「進学組なんですね」
『・・・まあ、受かるかどうかはアイツ次第だな』
「受験かあ〜懐かしい響きですね」
『はっ、お前は去年の話だろうが』

坂木のツッコミにおもわず笑ってしまう。
夏休み同様、坂木とこうして話せるのが嬉しくなってしまい会話が止まらない。

すると

『おにーちゃーんお風呂出たきね〜』
『ばっ、シーッ!』
『わっ、ごめーん!』

受話器越しから可愛らしい声が聞こえてきて麻琴は思わずクスクスと笑ってしまう。

「噂をすればですね。」
『ったく・・・』
「私もお風呂入らな・・・」

ガチャ

すると今度は麻琴の部屋のドアがノックもせずに開き、顔を上げると千葉だった。

頬を赤くしながら電話をしている麻琴の姿を見て、千葉は何かを察しニヤッと笑うと

「麻琴〜一緒に風呂入ろうぜーーー」
「ちょ、ちょっと!」

麻琴は近場にあったクッションを投げると千葉は簡単にキャッチし、ケラケラと笑うと

「風呂、先に入れってさ」
「はーい」

そう言うと千葉はウインクをしてドアを閉めた。

『・・・今の兄貴か?』
「兄の友人です・・・」
『ああ、前に言ってた』

若干坂木の声のトーンが低くなったのには気づかず麻琴はあはは、と笑うと

「いつもああやって冗談言ってくるんです」
『そうか・・・(じゃなかったらヤバい男だぞ)』
「坂木さんもお風呂入らなきゃですよね。」
『おう。お前もちゃんと布団で寝ろよ』
「はい! じゃあ、また・・・」
『ああ。おやすみ』

名残惜しいが通話を切ると麻琴はぼすん、とベッドにうつ伏せになり

「おめでとう言えた!電話できた!」

そう叫びながらバタバタとひと暴れしたあとむくりと立ち上がるとルンルン気分で風呂場へと向かった。








「麻琴まだ降りてこねぇの?」


琢磨は電子タバコをふかせながら麻琴の部屋へ行ってきた千葉を見た。


「なんか電話してた」
「電話ぁ?こんな時間にか?」
「年頃の女の子なら長電話くらいするだろ。 なんとなく男っぽかったけど」


そう言うと普段穏やかな琢磨が一変、「あ?」と眉を寄せた。男の影・・・そういえば琢己が事故に逢い病院で待っている時にかつての部屋っ子である坂木から電話が来ていた。

「・・・周、お前なんか知ってるだろ」

妹のプライベートは千葉が詳しい。
千葉を睨みつければなんの事だ?と首を傾げ口笛を吹きながらコップにお茶を注いでいる。

「坂木か」
「ん?知ってんのか」
「なんも知らんが病院で電話掛かってきてた」

千葉はなるほどね、と頷くと

「いごっそう≠ノ春が来たって感じだな」

意味深にニヤッと笑うと、持っていたお茶を一気に飲んだ。

避雷針のお正月



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