防大の1年間は、掃除で始まり掃除で終わる。

「いいかお前らァ!今日も徹底的にお掃除だ!」
「1大隊気合い入れて行けェ!!」
「うらぁー!!!!」

全員掃除道具を持って拳を突き上げる。

12月・・・それは大掃除、この大掃除は全学年一斉で取り組み学校長点検という高いハードルを越えてから晴れて冬休みなのだ。

12月をほぼ1ヶ月を使用した大規模な大掃除。学内を革靴で移動するため1年使い続ければ廊下が靴墨で汚れてしまう。それをタワシやマ〇ックリンで落としたあと、さらに洗剤を撒いてポリッシャーという機械で掛け最後にワックスをかけてピカピカに仕上げる。

だいたい学校長点検日のギリギリには終わるのでその時期は廊下に新聞紙が敷かれて汚れないように保護されている。

「これやるともう年末って感じだね」
「ですね」

4年の梅原と3年の荻野がそう呟いた。

床を激〇ちくんで擦りながら、麻琴や同部屋の先輩たちと清掃をしている最中だ。

「麻琴、あっという間だったでしょ」

梅原はそう聞くと、夢中で激〇ちくんを擦らせていた麻琴は顔を上げる。

「はい・・・気づいたらもう12月で、正直何したか覚えてないくらいで」
「あはは!分かる、1学年の頃ってがむしゃら過ぎて正直覚えてないんだよね」

うんうん、と先輩たちは頷くと永井はフッと笑い

「後期は30秒と言うほど目まぐるしいぞ。」
「そうそう。1年の後期はカッターの準備もあるしね」
「30秒後には私もついに卒業だよ・・・はあぁ・・・」

梅原はあと30秒後には開放される・・・と苦笑いすると寂しくなってしまいしんみりとする。

「まあ、先ずはこの大掃除をして学校長に合格を貰わないとね!」
「はい!」
「部屋会をモチベーションにして1発合格!」
「がんばろー!」

おー!と拳を突き上げるとその後は黙々と床と睨めっこをし始めた。



***



《学生隊同時放送 現在より離校が許可された。 総員解散!》


離校許可のアナウンスが響き、麻琴達は廊下を走る。

「真壁〜よいお年をー!」

隣にやって来たのはシンチャイ、麻琴も挨拶をすると

「シンチャイくんはタイに帰るの?」
「そうだよ! あ、お土産買ってくるから楽しみにしててね〜!」

そう言われ引きずられていくシンチャイを見送る。


麻琴も永井が使っている下宿先へ行き着替えを借りてから部屋会である箱根へと向かった。



***



部屋会の場所は箱根・芦ノ湖を一望できる老舗旅館だった。

「はああ・・・」
「いい景色だね〜」

案内された部屋からも芦ノ湖が望める。荷物を置いた梅原は袖をまくると

「よし!風呂だ!」
「「「はい!」」」

入浴セットを持ち、全員は駆け足で浴場へと向かいながら

「ここの温泉は肌に良いって聞いたからね!」
「私は6種類のサウナに行きたいです!」
「いいね、行こう行こう!」

全員高速で身体を洗うと「ほああ〜」と声を上げながらまずは大浴場で湯船に浸かる。

「麻琴はこうやってお風呂に浸かるの久しぶりじゃない?」
「はい。最高です・・・」

時間に追われた1学年は、湯船の温かさを実感する前に高速で上がり、最悪湯船に浸からない場合もある。歯を磨く時間さえ惜しいと液体ハミガキを使うほど。分刻みの行動が要求される。

「2年に上がれば楽になるぞ〜」
「麻琴も来年はついに対番学生か」
「入校した時は坂木とタイマン張った1年って凄いネタにされてたよね〜」
「あはは!ありましたね!」
「そんな大事になってたんですね・・・」

本人は必死だったため自覚は無かったが周りからは好奇な目で見られていたそうだ。 確か岩崎もそんな事を話していたな・・・と麻琴は恥ずかしさにぶくぶくと風呂に沈んでいったのだった。




ここからは各自露天風呂やサウナに行くなど自由行動になり、麻琴は外の露天風呂に浸かっていた。ぼーっと芦ノ湖を眺めているとペタペタと足音が聞こえ、振り向くと梅原が立っていた。

「梅原さん」
「失礼するよーってか、寒っ!」

梅原は小走りで温泉に脚を突っ込み、麻琴の隣に浸かるとふぅ、と息を吐く。

2人きりの空間でお互い何も語らず芦ノ湖の景色を眺めていると

「・・・ね、坂木とはどう?」
「えっ」

麻琴は梅原を見るとニヤニヤとしていた。坂木に司令外出をしたり色々手を回してくれたのも梅原だ。

「ぼ、ぼちぼち・・・?です」
「付き合えたんだね」
「え?!」

その反応に梅原は違うの?と首を傾げると

「ありゃ?私はてっきり、あの時ついに坂木が告白したのかと」
「い、いえ!その・・・お互い我慢しようと話になりました」
「はぁ?!」

梅原は声を荒らげたが呆れたようにため息を着くと

「・・・アイツ、入校してからほんとライナー(中帽)並に頭固いなぁ」
「岩崎さんには、私を守るためだと言われました」

そう言うと察したのか梅原は頷くと空を仰ぎ

「実は私、内恋してんだよね」

突然のカミングアウトに麻琴は驚いて梅原を見上げた。梅原は縁に腕を乗せると

「相手は3大隊の人だよ。アカシア会のメンバーで私の相方」
「あの背の高い方ですか!」

開校祭であったアカシア会のダンス、そこで梅原は踊っていたのだがその相手が梅原の恋人らしい。
社交ダンスの大会でも優勝するほどのペア・・・とてもお似合いだと思っていたがまさか恋人同士ということに驚いたが、納得がいった。

「口には出てないけどまあ皆言わないだけでバレてるかもね。入校した1学年の頃同じ大隊で、挫折しかけてた私を励ましてくれて・・・そこから校友会も被ってペア組んで、気づけば好きになってたかな。 アンタと坂木が私達と重なって、ちょっかい出したくなったの」
「そうだったんですね・・・あの、ありがとうございました。」

頭を下げるといいのよ、と梅原は微笑む。

「付き合えたものの、大変なのはここからだよ。あっちは空で私は海でお互い要員も違うから時間合わないし、卒業したらお互い幹候で遠距離になるしそこから全国どこかの駐屯地に着任してまた遠距離! 沖縄と北海道とかも有り得るからね!?」

3箇所の要員ごとの幹部候補生学校の後、全国のどこかの駐屯地に着任する・・・気の遠くなるほどの茨の道だ。

防衛大生活からは開放されるが、ここを出てからが正念場なのだ。うおおお!と梅原は頭を掻きむしるが

「・・・ま、お互い夢のためだから仕方ないんだけど。」

梅原はあははは、と笑い真面目な顔になると

「防大生活も、2年生から自由度は上がるけどその分訓練も厳しくなる。 もし挫けそうになったその時は同期、荻野や永井・・・坂木に遠慮なく頼りなさい。必ず助けてくれるから」
「・・・はい!」
「麻琴、ここまでよく頑張ったね。残りは後期、体感は30秒だけど気は抜かないように!」
「はい!」

梅原はへらっと緩く笑うと

「よし、じゃあサウナ行くよ!」
「行きましょう!」

ザパーン!と男らしく2人は全裸で立ち上がると寒い寒いと身体を縮こまらせながら中へと入っていった。







1泊2日の部屋会が終わり、箱根湯本駅にて解散となり各自実家への帰路につく。

ここから御殿場まで電車で1時間ほど・・・麻琴はルートを検索すると改札を通った。







「そろそろか」

千葉周一は腕時計を眺めながらそう呟く。

今度は御殿場駅で腕を組んで車の中にいた。 自身も冬季の休暇に入り、部屋会から帰ってくる麻琴を迎えに来たのだ。

車内は麻琴がすぐに暖をとれるように暖房をフル稼働させており、受け入れ態勢は万全だ。

ピコン、とスマホの音がなりバッと画面見ると

>ついた!

暫くしてチラッとバックミラーを見ると荷物を持って歩いてくる小柄な人影。千葉はシートベルトを外すと素早く車から降り、麻琴の前に立つとバッ両手を広げた。

「・・・え、何?」
「何って、寒いだろ?」

ハグしてやるよ、両手を広げたはずなのだが麻琴は持っていた手提げのボストンバッグを広げた腕に引っ掛けた。

「昔はすぐに抱きついてくれたのに・・・」

キラキラした目をさらに潤ませ、残念そうに鞄を抱きしめる千葉に麻琴はため息をつくとぽすん、と千葉の胸に額をぶつけると

「・・・ただいま」

それから頭をグリグリと胸に押し付けると千葉はニマニマと嬉しそうに口元を緩ませ

「おう、おかえり!」

麻琴の頭をワシワシと撫で、助手席の扉を開いた。


避雷針と部屋会



prev | next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -