麻琴が静岡県に戻ってから2日・・・火曜日になった。

坂木はロッカーに仕舞われたスマホを取り出すと電源を入れる。もちろん、麻琴からの着信はない。

「(当然だな)」

電源を落とし、スマホを戻そうとすると

「坂木」

振り向くと腕を組んでこちらを睨みつける岩崎が立っていた。

「何だよ」
「真壁から連絡は来たか?」
「ねぇよそんなもん。お前にいくんじゃねぇのか」
「オレは真壁と連絡先を交換していない。」

悔しそうに岩崎は組んだ腕に力を込めた。
そしてあの日坂木がやったように、岩崎は坂木のネクタイを掴むと

「坂木、真壁に連絡してやれ!」
「何でオレが・・・」
「オレじゃ役不足だ。あの日、お前真壁の顔を見たか?」

グッとネクタイを握りしめると

「あの日、お前に突き放されてから・・・真壁は泣いていた。」
「っ・・・」
「あの時お前は聞く耳持たなかったが、オレが一方的に真壁を誘った。真壁は悪くない。・・・オレに好意があるのなら、棒倒しの時真っ先にお前のところに行って怪我の治療なんてしないだろ」


そう言うと力なく手が離され、岩崎は悲しそうに笑うと


「真壁は、あの時お前しか見てなかったよ。」
「なん・・・」
「だから言っただろ、素直になれと。」

岩崎はいつものように変なポーズをとると

「しかし、オレは真壁を諦めた訳じゃない!隙があへばすぐにお前の邪魔をしてやるし、クリダンも真壁を誘う。 もちろん、お前も参加だ!」

通常運転に戻った岩崎を見て坂木は舌打ちをすると

「・・・分かったよ」

そう言うと、スマホを取り出した。







兄である琢己が集中治療室に入ってから何時間、何日経っただろうか・・・緊急事態としてやってきた次男の琢磨もやつれた麻琴の頭を撫でると

「麻琴、ちっと寝ろ」
「やだ・・・もし寝てる間に・・・お兄ちゃんが・・・」
「そんなヤワじゃねえって、こんな事故何回もあったろ。それを覚悟してアイツもこの仕事を選んだんだ」
「でも、集中治療室に入るなんて無かった・・・」
「あー・・・言われてみりゃそうだな」

すると、ブーッブーッと振動の音が聞こえ琢磨は麻琴の傍らに置かれた携帯を見つめて目を見開いた。


坂木 龍也


見覚えのある名前に琢磨は驚くと


「・・・麻琴、携帯鳴ってるぞ」
「ん・・・えっ」


麻琴は驚いてスマホを取り出すが、出ようとしない。様子のおかしい妹に琢磨は首を傾げると

「出なくていいのか?」
「・・・うーん・・・・・・」
「何だ、その男に付きまとわれてるのか?(アイツに10式をぶち込むしか無いな)」

ドスの効いた声を出すと麻琴は慌てて首を振る。
琢磨は顎に手をやると

「(でも何で坂木が・・・? 周ならなんか知ってるか?)」

妹のプライベートは、実は千葉が詳しかったりするが俺と麻琴とのトップシークレットだと言って麻琴の事は話してくれない。

尋問してみるか・・・と立ち上がると

「オレは職場に電話掛ける。お前も、先輩の電話無視すんなよ!」
「はい・・・」

やれやれ、とため息を着くと琢磨はその場を離れた。








麻琴は休憩室に向かい、出れなかった着信履歴を見ているとまた坂木から電話が掛かってきた。

意を決して、麻琴は通話ボタンを押した。



「・・・・・・もしもし」

力なくそう答えると、受話器越しに息を吸う音が聞こえた。

『・・・おう』
「こんばんは・・・」

お互い何も喋らず、少し沈黙があった後坂木は普段とは違う麻琴に戸惑いながらも言葉を探す。

『・・・・・・大丈夫か』
「・・・大丈夫じゃない、です」
『だよな・・・容態は?』
「まだ、集中治療室から出てきません」

涙声の麻琴に坂木はなんと声をかけてやれば・・・また戸惑ってしまう。

『真壁・・・実はお前のお兄さんには1度会ったことがある』
「へ?」
『お前が1度静岡に帰った時、荷物を届けに来たお兄さんを案内したのがオレでな』
「そう、なんですか・・・ありがとうございました」
『根拠はねえが、お前のお兄さんもその道のプロだ。オレたちとは違うが、命を守る仕事。 理不尽なんかに負けはしねぇ。・・・だからお前もそれを信じて待つんだ。』
「はい・・・」
『お兄さんが強いのは、お前が1番分かってんだろうが 』
「っはい・・・」
『馬鹿。泣くんじゃねぇよ 』


落ち着いた低い声・・・久しぶりに聴きたかった声に麻琴は涙が止まらなくなった。


「坂木さん、ごめんなさい・・・」
『あ?何で謝んだよ 』
「怒らせ、ちゃった、からっ・・・それに、私の面倒見るの、もう懲り懲りって・・・」

ひっく、と嗚咽混じりにそう言うと坂木はハァ・・・とため息をついた。

『・・・あれは完全にオレが悪いだろ』
「そんな事ない、です。私が、はっきり断っておけば・・・」
『お前の事だ、断らねぇわな。・・・んで、肩大丈夫かよ』

あの時、強めに当ててしまった肩。痛みに顔を歪めた麻琴を思い出して坂木の胸はチクリと痛む。

鼻をすすりながら麻琴は

「めちゃくちゃ痛かったです。痣出来てたし」
『・・・悪ぃ』
「お嫁に行けません」
『ぐ・・・』

ここで普通なら「オレが貰ってやる」くらいの言葉を言えばいいのだがまだ坂木にはそれを言える勇気がない。

坂木は反応に困っていると

「坂木さんは、一条さんとデートしてましたね」
『あ?・・・なんでお前知ってんだよ』
「見てましたから」
『あー・・・』

正直、あの時の坂木はヤケになっていた。
誘われても断り続ければ諦めてくれると思っていたのだが、あの時は大人気なく麻琴がそうならオレも・・・と断るはずの誘いを受けてしまったのだ。返す言葉がない。

岩崎の素直になれ、という言葉を思い出して坂木は少し唸ると

『断るつもりだった』
「え」
『・・・お前のせいだ』
「ええ、なんで?!」
『うっせ!』

きっと坂木は今頃面倒くさそうに髪の毛をガシガシかいているに違いない・・・そう思うと麻琴はクスクスと笑っていた。

久しぶり麻琴の笑い声を聞いた坂木も少しほっとすると

「ありがとうございます、ちょっと元気になりました」
『はっ、そうかよ。・・・んでお前、ちゃんと寝てるか?』
「いえ・・・」
『だろうな。ほら、1回寝ろ。』
「・・・電話、切っちゃうんです?」
『・・・あぁ?』

か細い声になった麻琴に坂木は思わず変な声が出てしまった。

「すみません・・・自習時間でしたよね!ありがとうございました。」


正直、もう少し声が聞いていたいと思った。
坂木はロッカー室の壁に寄り掛かると

『しょうがねぇな。 寝るまで電話しててやる』
「へっ?」
『2度は言わねぇ。ほら、とっとと横になりやがれ』

そう言われると麻琴はベンチで横になった。
坂木の声を聞き横になった途端、瞼が重くなり睡魔が襲ってきた。

「羊でも数えてくれるんです?」
『はっ、数えるかよ。・・・今1人か?』
「いえ、兄が居ます。今は電話で席を外してますが」

眠いのか、ろれつが回らなくなっている。
あと少しで寝るな・・・と坂木は話題を探す。


そういえば、あと少しでクリダンの時期だ。

『帰ってきたらクリダンの練習だからな』
「はい・・・」
『お前踊れんのか?』
「はい・・・」

相当眠いのだろう、麻琴の返答が適当になってきて坂木は深呼吸すると

『・・・じゃあ、オレと踊るか』
「はい・・・」

そこは目を覚ませよ、と思わず笑ってしまう。

「坂木さん、ダンス下手?」
『何で下手前提なんだよ。人並みに踊れるっつの』
「じゃあ、帰ってきたら・・・教えてください」
『了解した』
「へへ・・・んふふ・・・」
『気持ちわりぃ笑い方すんな』

そう言うと、受話器越しから規則正しい寝息が聞こえてきた。

「(寝たか・・・)」

どうせ兄が心配でろくに寝れてなかったのだろう。安心した坂木は




『・・・おやすみ、麻琴』




坂木は少し照れくさかったが名前で呼び、そう言い残すと静かに通話終了のボタンをタップした。

避雷針と電話



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