「真壁!欠礼!」
「っすみません!」
「何やってんだ!後で部屋に来い!」
「はい!」


あれから1週間・・・空気が冷たくなり、12月にさしかかろうとしている。あの件から坂木と麻琴の会話が一切無くなり全員何事だと首を傾げるが2人揃って何も無いの一点張り・・・

麻琴に関しては出来っ子で呼び出しも少なかったのだが・・・ここ最近は特に酷く小付きの松原と麻琴は呼び出しを食らったあと廊下で麻琴を見つめて腰に手を置く。

「・・・おい真壁、お前どうしたんだよ」
「ごめんね、松原くん・・・」
「何かあったか?その、坂木さんと」

坂木、その名前を聞いた途端麻琴の顔色が変わりふるふると首を振る。

「(いやいや、ぜってー坂木さん絡みだろ・・・最近2人とも大人しいし、喧嘩か?)」

1番麻琴を叱っていた坂木がこんな状況でも麻琴を呼び出さないと言う事は何かあったのだろう。

「まぁとにかく、気をつけろよ」
「はい・・・すみません・・・」

喫食もまともに食べず、睡眠もろくに取れていないのだろう。こんなやつれた麻琴は今まで見た事が無い・・・仕方ない、と松原は麻琴の肩を叩くと

「真壁、今度の休養日1年皆で外出るぞ」
「・・・へ?」




***




「喜志駅周辺なんにもない!」
「喜志駅周辺なんにもない!」
「あべのハルカスめっちゃたかい!」
「あべのハルカスめっちゃたかい!」
「サンプラ行ったら挨拶しよか迷う感じの知り合いがおる!」
「サンプラ行ったら挨拶しよか迷う感じの知り合いがおる!」

松原企画の1年生交流会・・・麻琴達はカラオケに来ていた。

シンチャイはタイキックを草間にお見舞しワイワイする中突然麻琴を見ると

「真壁〜!タイキックー!」
「ぐえっ!」

本気ではないが、軽いキックを食らった麻琴はソファーに顔を突っ込んだ。

「シンチャイくん、痛い!」
「まだまだ本気じゃないよ〜真壁!最近元気ないから気合い入れたんだよ!」
「へ・・・」

顔を上げると、松原、馬越、草間、知念、立岩・・・1年生メンツが麻琴を見つめる。

「お前が立ち直るまでフォローしてやるから、とっとと元気だしやがれ!」
「そうだそうだ!」
「また何かしたら本気でタイキックだからね〜」

そんな励ましの声に麻琴は涙目になると

「皆、ありがとう・・・ごめんね」
「ごめんねは余計だっつの!」

知念は麻琴を抱きしめて頭を撫でる。


すると、誰かが入れたのか失恋バラードを流した瞬間全力で停止ボタンを押しに行ったのだった。




「・・・んで真壁、俺たちで良ければ話聞くけど」
「家庭の問題か?」
「先輩にいびられてるとか?」

曲を止めて静かになった部屋、麻琴は首を振ると

「あの、これ・・・1年だけの秘密にして欲しいんだけど」
「おう、もちろんだ」

松原達はうんうんと頷くが聞いた後、後悔することになる。




「・・・マジかよ」
「うーーーん・・・それは・・・」
「三角関係ってやつか・・・」
「岩崎さん、大胆なことするよな」

これは誰にも言えない事情だ。
麻琴は俯きながら

「私がちゃんとお断りしてれば・・・中途半端な事しちゃったから・・・」
「まあ、先輩だから断りにくいってのもあるよね」
「私も断れないかも」

女性陣はうんうん、と頷く。
重い空気になってしまった、と麻琴は笑うと

「相談する相手いなかったから、凄くスッキリした!ありがとう!もう大丈夫だよ」

そう言うと全員は少しホットした顔をして

「よし、じゃあ肉食いに行こうぜ!」
「真壁、俺たちの奢りだ!」
「ええっ、ありがとう!」

ワイワイしながらカラオケを出て、渋谷のスクランブル交差点を歩いていると

「げ、やばっ」
「ん?」

前方を歩いていたシンチャイがあわあわし始め鬼のポーズを取り始めた。

「何やってんだよシンチャイ」
「UターンUターン!後退!後退!」
「何だよ、焼肉屋はそっち・・・にし、か・・・」

松原も草間も固まると慌てて知念と立岩に小声で

「おい知念、立岩、真壁を連れてUターンだ!」
「えっう、うん!」

背の高い知念は前方に見える相手に顔を青ざめさせると麻琴の肩を掴んでくるりと一回転させる

「ごめーん!麻琴、私カラオケ屋に忘れ物しちゃったみたいで、ついてきて!」
「わっ、大変!いいよ!」

交差点を逆走しようとしていると後ろから「ちわっ!」という声が聞こえ、麻琴は慌てて振り返ったが固まってしまった。



そこには、開校祭で会った一条菫と呼ばれた女性と私服を着た坂木が一緒に歩いていたからだ。

「あ・・・」
「麻琴、建物入るよ!」

知念と立岩は動かなくなってしまった麻琴の腕を引っ張ってカフェへと滑り込む。

麻琴は坂木の姿が目から離せなかった。
スクランブル交差点を2人で談笑しながら歩き、通りがかった自転車から守るように坂木は菫の肩に手を置いている。

そんな紳士な対応に菫も顔を赤くさせて坂木を見つめる。・・・2人はそのまま人混みに紛れて姿が見えなくなってしまった。

知念はスマホを取り出し松原に電話を掛けると



「松原、防大戻るよ」
『あー見ちまったか・・・ 』



知念は撤退命令を出したのだった。






お通夜モードで防大に戻ってきた麻琴。
帰ってきてからというものの、ベッドでぐったりだ。

脳裏にちらつくのは、渋谷で見かけた坂木と菫の姿・・・

「(お似合いだったな・・・)」

清楚なワンピース、手入れされた綺麗な髪の毛。バッチリとされたメイク・・・
それに比べ自分はと言うと日々時間に追われ手入れをする暇もなく、本当に10代かと思わせるような手荒れ具合にスッピンだ。

内恋を否定とする坂木・・・外部ならおそらく良いのだろう。このまま坂木はあの菫とお付き合いをする・・・いやむしろもう付き合ってるのかもしれない。


夏休み前に言った千葉の言葉・・・若干違えど現実になってしまった。



はああぁ・・・と大きなため息をつく麻琴を見た部屋長とサブ長は

「なんか麻琴、調子悪いですよね」
「うん・・・最近呼び出し多いし、メンブレ気味だね」
「1年生が外に連れ出したみたいですが、逆に悪化してるような・・・」
「あ、やっぱり?」

声も掛けずらい状況に、見かねた永井は拳を握ると

「真壁ー!風呂いくぞ風呂!!」

永井は麻琴の首根っこを掴むと帽子を被り「行ってきます!」と気合いを入れると引きずりながら部屋を出た。








「真壁、メンブレか?」

高速で髪の毛を洗いながら永井は麻琴を見つめた。麻琴の肩には、あの時坂木によって出来た痣が少しだが薄くなっている。

「・・・何があったか分からんが、切り替えて気を引き締めろ。」
「すみません、ご心配をお掛けしました。」
「ん。・・・後でジュース奢ってやるよ。元気だせ」
「はい!ごちそうさまです!」

永井なりに、麻琴を心配しての行動だったのだろう。優しい同期、頼もしい先輩に恵まれた麻琴は笑みがこぼれた。







PXで永井と買い物し終わり1大隊へ戻っているとアナウンスが掛かった。

《一大隊 真壁麻琴学生、一大隊真壁麻琴学生。 至急教官室に来るように。 繰り返す・・・》

一大隊・・・自分の名前を呼ばれて麻琴は驚くと永井は眉を寄せて

「おい真壁、何かしたのか?」
「い、いえ何も・・・」
「とにかく急げ!」
「はい!あ、ジュースご馳走様です!」

麻琴は敬礼をすると走って教官室へ向かった。

避雷針のメンブレ



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