結局・・・もやもやとしたまま1日目が終わり2日目・・・棒倒しの日がやってきた。
「真壁」
「はい!」
声を掛けられ振り向くと赤色のユニフォームを着た岩崎が立っていた。
「今日頑張るから、応援頼むよ」
優勝をしたら・・・麻琴はこくこくと頷くとそれじゃ!と岩崎は舎前へと向かっていった。
沢山の観客の中始まった棒倒し、1大隊と4大隊との戦い・・・上から落ちてしまった坂木を見て麻琴は思わず「あっ!」と声を出したがギリギリの所で勝てたらしい。
「今年は優勝出来るかもしれないよ!」
「いい線行ってるね!」
「一大隊は校友会で参加禁止のメンツが多いからね・・・今年は頑張ってるよ!」
学生舎から見守る麻琴たち女学もキャッキャと喜んでいる。
麻琴はちょっとトイレ、と言い外に出ると擦り傷や顔を蹴られて鼻血を出したりビリビリに破れたユニフォームを着た学生が居る中、坂木も砂埃まみれになり、腕に擦り傷を作っていた。
「坂木さんっ」
「・・・真壁」
「あの、怪我は?」
腕には砂に混じり、血が出てしまっている。
「こんなんかすり傷だろ。大丈夫だ」
「だ、だめです!化膿したら大変です!」
麻琴はポケットからハンカチを取り出すと坂木の腕にぐるぐると巻き、引っ張られないように結び目を内側に隠した。
呆気に取られて坂木は麻琴を見ると麻琴は耳を赤くしたまま背中を向けて
「・・・こ、これ以上の怪我はっ、だだだ・・・駄目ですからね!」
どもりながらそう言い残すと、学生舎の中へと逃げるように戻って行った。
置いていかれた坂木は麻琴の背中を見つめ、腕に巻かれた可愛らしいピンクのハンカチを見つめるとまたまた口元が緩みかけたがグッと堪えると下級生に向かって「テメェら立ちやがれェ!」と声を張り上げた。
「次は決勝だ!今年こそ勝つぞ!」
「うらぁー!」
「掴もう頂点!」
「圧倒撃滅!他大隊!」
「「「一大隊いただきます!!」」」
行くぞー!の掛け声で雄叫びを上げながら走っていく1大隊・・・麻琴は上から坂木の背中を見つめる事しか出来なかった。
・・・しかし結果は残念ながら2大隊の勝利となり、1大隊は優勝をを逃してしまった。涙を零す4年の総長に頭を下げる。
坂木も腕に巻かれたハンカチを見つめて申し訳なさが込み上げたのだった。
***
開校祭が終わり、学生達も普段通りの生活に戻る。坂木は洗濯物の中から麻琴が巻いてくれたハンカチを丁寧にプレスすると顔を合わせた時に渡そう、とスボンのポケットに入れた。
PXに寄り、麻琴に礼の物を買ってやろうかと歩いていると岩崎と麻琴が話し込んでいるのが見えてしまい思わず隠れてしまった。
「棒倒しお疲れ様でした」
「・・・あはは、真壁にはかっこ悪い所を見せてしまったね」
「いえ!皆さん凄かったです!」
「来年こそは優勝を目指すよ」
他愛もない会話・・・坂木は何故かほっと息を吐く。
「真壁とデートが出来ないのは、とても残念だよ」
「へっ!? あ、その・・・は、ははは!」
デート?何の話だ。
坂木の中に黒いものが込み上げ、眉を寄せると2人の前に足を踏み出した。
「・・・おい」
自分でも声が低くなっているのが分かる。
岩崎と麻琴は驚いて坂木を見ると、麻琴は慌てて敬礼をする。
「何の話だ」
「坂木さん、その・・・」
「ああ、開校祭の棒倒しで優勝できたらオレとお茶をして欲しいと真壁に頼んでいたんだ。残念ながら逃してしまったけどね」
「い、岩崎さんっ」
「へー」
坂木の顔は心底不機嫌で、岩崎はそんな坂木の反応を見て楽しんでいる。
「・・・そうか、そりゃ残念だったな。オレが不甲斐ないばっかりに」
「そんな、坂木さんはっ」
言い切る前に坂木はポケットからハンカチを取り出すと、そのままドンッと麻琴の肩に叩きつけるように返した。
「いっ・・・」
強い肩の痛みに麻琴は顔を歪め、岩崎は「坂木!」と窘めるように声を荒らげ腕を掴むが、びくともしない。
麻琴が坂木を応援したのは、岩崎とデートがしたかったからか。
自惚れていた自分が馬鹿らしくなる。
「・・・丁度いい。オレも・・・・・・お前の面倒を見るのはこりごりだと思ってた」
「坂木、さん・・・?」
坂木の事だから舌打ちで終わると思っていたのだが、想定外のほど怒る坂木に流石の岩崎も慌てる。
「おい、待て坂木。違うぞ、オレが・・・」
「あぁ? いいじゃねえか、ただしバレねぇようにするんだな。・・・2人きりのところ邪魔したな」
坂木は俯いたままこちらを見ない麻琴を一瞥すると、背中を向けて出て行った。
残された岩崎は坂木の背中を見送り、俯いたままの麻琴の顔を覗き込んで息を呑んだ。
「真壁・・・すまない。オレのせいだ。頼む、泣かないでくれ。」
「っ・・・すみませんっ!岩崎さんのせいではっ・・・うっ・・・」
麻琴の大きな目には涙が溜まり、ぼたぼたと大粒の涙が床に落ちる。
・・・それから、坂木は麻琴を避けるようになり会話も一切無くなった。