前期試験の結果発表・・・1年生で麻琴は4位にくい込むことが出来た。

上位は男子のみで女学の中では1位という結果だ。麻琴は結果表を見てガッツポーズをして、3年生の結果を見る。もちろん、岡田は1位だ。

麻琴はPXでお礼の品を買うと、慌てて岡田の居室へと向かった。



「岡田さん!ありがとうございました!」

最敬礼をして麻琴は岡田にお礼のお菓子や飲み物を差し入れした。

「俺も気になって1学年の順位を見たぞ。凄いじゃないか」
「いえ!岡田さんのおかげです!」
「そんな事はないぞ。元々お前は基礎が出来ていた。1年生は授業を居眠りしがちだが、しっかり授業を聞いていたようだな」
「え、えへへ、へへへ・・・!」
「もし単位を落としていたら、落とした単位を探しに行く事になっていたぞ」
「・・・んん?は、はい!」

一体どう言う意味だ・・・?と麻琴は一瞬首を傾げたが、岡田と同室になった岩崎が無駄な動きをしながら

「真壁は1年の中でも出来っ子だと聞いてるぞ。頑張ったな!(シュシュシュ)」
「ありがとうございます!(すごい動きしてるなこの人)」
「今夜は学生隊懇親会がある、存分に楽しもうじゃないか!」



・・・試験後に学生を労うために行われるイベント。儀仗隊の訓練広場に集まりバーベキューをする。
校内で唯一飲酒ができる行事であり、成人した学生は校内服、未成年は作業着を着用する決まりがある。

同部屋で1年は麻琴のみ、その隣で腕まくりをするのが2年の永井だ。麻琴1人だけでは無理だろうと永井も協力してくれる事になったのだ。


「いいか真壁、この学生隊懇親会における重要なポイントは先輩たちの酒の確保・・・部屋長とサブ長の酒は死ぬ気で奪取してこい。あわよくば私のも頼むぞ」
「はい!」
「あとはバーベキューの肉だ。とにかくどこよりもデカい肉を取ってこい。野菜は後でいい。刺し違えてでも奪い取れ! ・・・最後に一言、死ぬな!」
「(死ぬな?) はい!」

乾杯!の掛け声と同時にパッカーンと蓋が開く合図で永井は行くぞ!と駆け出し麻琴と二手に別れた。
遠くで永井が「2年の邪魔すんじゃねぇー!」と蹴散らしながら酒を奪い取っている。麻琴も負けてはいられない、と升を握りしめると駆け出した。

男も女も関係なくお互いをねじ伏せながらお酒を奪い合う。あっという間に空になり次に開いた酒へと手を突っ込みなんとか部屋長とサブ長、そして永井の分もゲット出来た。


ヘトヘトになりながら麻琴は走っていると永井も戻ってきたらしく

「おお、真壁!無事か!」
「な、なんとか・・・あ、これ永井さんの分です!」

本当に自分の分もあるとは思わなかったのか、永井は目をキラキラさせるとわしわしと頭を撫でくりまわす。

「お前は気が利くな〜!梅原さん、荻野さん、どうぞ!」
「お疲れ様!」
「ありがとね〜!」

すると遠くから肉配りまーすの合図が聞こえ雄叫びを上げる永井に引っ張られながら麻琴は肉の争奪戦へ向かったのだった。




***




「やあ坂木、飲んでるか?」
「岩崎か・・・お前も飲めたんだな」
「ああ。出来のいい部屋っ子たちで助かるよ」

升を持ちながら岩崎は坂木のグループへやって来ていた。岩崎はチラリと女学のグループ・・・麻琴を見ると

「君の妹、随分と優秀だな」
「・・・妹じゃねぇよ」
「ふーん?」

覗き込むように顔を見られ、坂木はなんだよと眉を寄せる。

「随分と可愛がってるからオレはてっきり、と思ってな。妹として見てないなら・・・どうなんだ?」
「あ?内恋は禁止だし、オレは否定派って知ってんだろ」
「もちろん。だが、人間何が起こるか分からない。坂木、気持ちに嘘はついちゃいけないぞ?」

そんな言葉に坂木は無視をして酒に口をつけると

「ちなみにオレは肯定派だな。周囲が気づかなければ構わないと思っている。」
「・・・何が言いてぇ」

岩崎は残ったお酒をグイッと飲み干して坂木に近づくと




「真壁・・・オレが狙ってもいいかな?」
「は・・・?」




突然の発言に坂木は頭が回らなかった。
驚いて持っていた升を落としかけたが、グッと握る。

「なんでオレの許可が要るんだよ」
「“お兄さん”だからね。でもそういう風に彼女を見ていないのなら、先程の発言は坂木に対して宣戦布告になる。・・・君はどっちだい?」
「・・・・・・興味ねぇ」

相変わらずの頑固者だな、と岩崎は苦笑いをすると

「じゃあ、オレは全力を出させてもらうよ。」

そう言い切ると岩崎は自身のグループに戻らず・・・麻琴の所へと混ざり話し始めた。



事の一部始終を後ろで見ていた大久保は坂木にコソッと

「・・・良いんです?」
「あ?聞いてたのかよ」
「聞こえてしまったんですよ。」

岩崎が坂木に対する宣戦布告・・・坂木はグッと升を握り飲み干すと

「好きにすりゃいい。オレには関係ねぇからな」
「(そろそろ素直になっていいと思いますが・・・)」
「チッ・・・ヤニ吸ってくる」

岩崎は楽しそうに麻琴に話しかけ、麻琴もその話に相槌を打っている。


正直・・・見たくない。そう思った坂木は背中を向け、喫煙所へと向かった。




***



「クソ・・・」

ジッポライターで煙草に火をつけると坂木は大きく深呼吸し、煙を吐き出しポケットに手を入れるとクシャ、と音が鳴った。

ポケットに入れられたのは、麻琴が大好きだと言っていたたべっこ水族館。1学年で4位と言う結果だったため、頑張ったな。とご褒美にあげようと思っていたのだ。

今頃麻琴は岩崎と談笑しているに違いない・・・そう思うとまた胸の辺りがモヤモヤとし、タバコを吸って吐いてもそのもやもやとした煙だけは晴れそうにもない・・・。

「あークソッ」

吸い終わった煙草を灰皿に投げ込むと2本目・・・。遠くで聞こえるどんちゃん騒ぎに耳を傾ける。

最初は、妹の乙女と重ねて見てしまっていた所があった。あの真っ直ぐな目つきは妹そっくりだ。だからつい構ってやってしまった。
何も考えてないようで、実はしっかりと物事を考えていたり何事にも全力で挑むからこそ失敗した時はフォローしてやりたくなる。 入る気がなかった剣道も、竹刀を握らせれば強い。団体戦で組めば勝ちは間違えないし、個人戦でも行けるタイプだ。



「・・・柄じゃねぇっつの」


恋愛など、柄ではない。
しかし岩崎に面と向かって麻琴を狙ってもいいか、と宣戦布告をされ焦った自分がいた。

麻琴が岩崎に取られてしまう・・・


「オレは・・・」


柄じゃない、認めたくない。







「あ、ここに居ましたね!」
「っ!」

坂木は驚き、煙草を落としかけた。
振り向けば息を切らした麻琴が立っており目が合うと嬉しそうにニコッと笑った。

それだけで、自分のもやもやしていたものががスっと晴れる。

「・・・懇親会だろ、居なくていいのかよ」
「坂木さんこそ!」
「あ?オレはヤニ吸ってから戻るっつの。・・・お前こそどうしたんだよ」

岩崎と楽しそうに話してたじゃねぇか、と言いかけてしまう。これは完全に嫉妬だ。

麻琴は喫煙所の椅子に座って足をプラプラさせると


「別に、何となく坂木さんが居なかったので・・・」
「ほー・・・」


わざわざ探しに来たのか、口元が緩みそうになり煙を吐いて誤魔化す。

「ほら」

ポケットに入れていたたべっこ水族館を、麻琴に向かって放り投げた。慌てながらもキャッチをし、麻琴はえっ!?と驚く

「・・・試験、頑張ったみてぇじゃねぇか」
「は、はい・・・」
「好きだろ、それ」
「はい・・・好きです」

自分に向かってじゃないのに「好きです」の言葉に反応してしまう。

「坂木さん、ありがとうございます。嬉しいです」
「おう・・・」

そんな顔を真っ赤して喜ばれては、期待してしまう。照れ隠しに坂木は吸いかけだったが煙草を灰皿に投げ込むと

「ほら、もう戻るぞ」
「はーい!」

背中を向けると1歩後ろをスキップでもしそうな勢いでついてくる。


可愛いな


思わずそんな事を口走りそうになり

「ごっふぉん!」
「坂木さん、煙草吸いすぎなんじゃないです?」
「(誰のせいだと思ってんだ・・・)」


そのまま広場に戻り、坂木は真っ直ぐと岩崎の所へ向かった。

「なぁ、岩崎」
「どうした?」
「ちょっとツラ貸せよ」

なんだ何だ?と周りの目があったが岩崎は何かを察するといいぞ、と後ろを着いてくる。

少し離れた所で坂木は岩崎と向き合うと、突然左の手首に付けた腕時計を見せた。何だ?と首を傾げると

「オレと真壁、お揃いの腕時計だ。羨ましいだろ。」
「は?」
「校友会、オレはアイツを背負って観音崎を登ったし、夏季休暇は魚釣りにも連れてってやった。羨ましいだろ」
「あ、ああ・・・」

突然の自慢大会に岩崎も戸惑っていると坂木は岩崎のネクタイをグイッと引き寄せると


「・・・その宣戦布告、受けてやるよ。」


鋭い目付きで岩崎を睨みあげると、スっと離れてネクタイを直してやった。ネクタイを直されながら、岩崎はふっと笑うと

「気持ちに嘘を付くのはやめたのか?」
「まだ分かんねぇ。けど・・・誰にも渡す気はねぇ」
「・・・それはもう、好きって言ってるようなものだけどな」
「うっせ」

こうして静かに戦いの火蓋が切られたのだった。

避雷針と鬼への宣戦布告



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