カシャ、カシャ

「大きくなったなぁ、麻琴」
「なに今更・・・」

夏休み1日目・・・兄の琢磨を連れ、結局千葉と麻琴は御殿場のアウトレットへ来ていた。
フードコートでタピオカをすすりながら麻琴は首をかしげ、そんな麻琴も可愛いとまた千葉はスマホのカメラでシャッターを切る。

初めて会った小学生の頃、あれから千葉にも懐き・・・帰る頃には目に涙を溜めて「帰っちゃいや」と止められここに住んじゃおっかなと考えた事があるほどだ。

1度任務で海に出ることがあり、夏休み来れなかった時はめちゃくちゃに怒られた。それから千葉は連絡を取ったり長期の休みがあれば顔を出すようにしている。
世界一周航海をした時は泣きながら見送られ泣きながら出迎えられるほど、麻琴は千葉に懐いているのだ。


お互い恋愛感情などはなく実の兄、妹のように千葉と麻琴は仲良しだ。


「おい周、後で送れ」
「了解」
「ちょっと、人の写真シェアしないで!」
「いいだろ別に減るもんじゃないし」
「俺も琢磨もシェアハピになれるんだぞ」
「「ねー」」
「この人たち・・・」


千葉は唇を尖らせて拗ねると口笛を吹きながら、兄の琢磨へ写真を送る。
言っても無駄だ・・・彼らのスマホには麻琴専用フォルダがありスマホ容量の大半がそれを占めている。麻琴専用グループLINEがありそこでシェアハピして先程の写真は長男にも届くのだろう。

消そうにも、「iCloudにまだ残っている。何度でも甦るさ」と捨て台詞を吐くほどバックアップまで用意周到だ。

麻琴はため息を着くとテーブルの下にある大量のブランド紙袋を見て頬をかく。


「・・・ねぇ周くん、服買ってくれるのは嬉しいけど1年は私服禁止だよ・・・」
「ん?2年になったら私服解禁だろ?そん時着りゃいい」

俺様のセンス良いだろ、とニヤニヤする第3の兄を見て麻琴はまたため息をついた。
この男たち、溺愛にもほどがある・・・麻琴ももう成人間近なのだからちょっとは大人の対応をして欲しいものだ。

「そういや麻琴、要員決めたのか?」

琢磨が真剣な顔でそう聞くと、麻琴はうっ、と眉を寄せると

「・・・まだ」
「えー海要員にしようぜ」
「いや陸だろここは」

2人が言い争うのを眺めながら麻琴はタピオカをすする。本当は心に決めている要員があるのだが2人には内緒だ。

「2人はどうやって決めたの?」
「俺は元々海一択だったからな」
「んー俺も、やりたい事が陸にあったし・・・船の中で生活とか無理」
「あ?喧嘩売ってるのか?」
「いえいえ」

とにかく、と琢磨は麻琴を見ると

「前期が終わったら音を上げると思ってたけど、このまま続けるんだな?」
「うん」
「もっと厳しくなるぞ」
「大丈夫!」

麻琴の真剣な目を見て琢磨と千葉は顔を見合わせて笑うと納得したのか小さく頷くと

「・・・分かった、兄ちゃんもお前を応援するよ。」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「1学年は模倣実践の一年と呼ばれている。分からないことは対番や周りの先輩を頼れ。」
「はい!」
「まあまずは、2年のカッターを乗り越えるんだな。そしたら1人前だ」

千葉はタピオカをすすりながら相変わらず麻琴の写真を撮る。

そして顔を上げてニヤニヤすると

「・・・ま、お前のバックには心強い奴も居るみたいだし?大丈夫だろ」
「?なんの事?」
「バックってなんだよ」
「んー何でも?」


千葉は再び坂木龍也をタップすると


いごっそう、内恋してないよな?


思わず送ってしまった。




***




一方高知県では、母方の家に顔を出した坂木がリビングであぐらをかいている。その膝の上には猫がゴロゴロと喉を鳴らしており、坂木の視線の先には目がくりっとした可憐な少女が真剣な顔でその少女も坂木を睨みつけている。

「・・・で、そがに行きたいのか?」
「はい!」

1度決めたら意思の固い妹だと言うのは分かっている。麻琴の言葉が脳裏を過ぎり、坂木はため息を着くと

「別に構わんが、防衛大内では赤の他人・・・それが条件だ。贔屓してると思われたくないやろ?」
「もちろん!」
「まずは前期や。前期を乗り越えてみろ。その後またお前の意思を聞く・・・分かったな、乙女」

乙女と呼ばれた少女は背筋を伸ばすとこくりと頷いた。








「ふぅ・・・」


ベランダで夜風に当りながら煙草を吸い、大きく息を吐いた。

煙はもくもくと風に流されすぐに消えていく。夏季休暇1日目・・・あまり長居するつもりは無いので地元の同級生に顔を出したり飲み会にも呼ばれているのである程度付き合ったら早めに神奈川へ帰り残りは下宿でのんびりするつもりだ。

来年は4年生でいよいよ卒業・・・そうなるとこうして実家には顔を出せず、下宿で卒論の準備をする事になるだろう。


「・・・あいつもどうせゴロゴロしてんだろうな」

ふいに浮かんできた麻琴の顔。
きっと今頃御殿場の実家でゴロゴロしているに違いない。

何故麻琴の顔が浮かんだのかは分からない。しかし、麻琴の顔が見たくなり坂木はポケットに入れたままのスマホを取り出した。

ロックを外せば試胆会で撮ったあの写真・・・のはずだが何件かメッセージが来ていた。

「・・・またかよ」

グループのメッセージの中に紛れ込んでいる千葉周一・・・一体、今更何なんだとタップして開くと



いごっそう、内恋してねぇよな?



「っはぁ?」


何言ってんだコイツ・・・坂木は煙草を咥えると


坂木龍也
俺は反対派です


内恋なんて風紀を乱すだけ・・・遊びに来てるんじゃない。いつものように素っ気ない返事をすると、すぐにピコンと返事が来た。

千葉周一
ふーん

坂木龍也
何が言いたいんすか

千葉周一
別に。 可愛い子入ったか?


「チッ、なんだよこいつ・・・」


坂木龍也
興味ありません


千葉周一
お前は相変わらずいごっそう≠セな



久しぶり連絡してきてこの人は一体何なんだ・・・坂木は眉間の皺がどんどん深くなっていく。


千葉周一
あ、背は伸びたか?



「うっせ!!」


不毛なやりとりに坂木は痺れを切らし、そのまま既読スルーを決め込んだ。

避雷針と鬼の夏休み



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