前期解散日・・・
講堂に集められ、教官たちの話を聞いた後官品のチェックをしてあとは離校アナウンスを待つだけだ。

中期の部屋長に挨拶をした麻琴は廊下を走っていると坂木と鉢合わせしたため敬礼をした。

「おう、中期の部屋長に挨拶したか?」
「はい!」
「そうか。 真壁」

今までとは違い真剣な表情の坂木に麻琴は背筋を伸ばす。

「まあ、お前は前期色々あったな。ここはシャバとのギャップで参っちまう奴が多い。・・・正直オレは、お前がすぐに弱音を吐くと思ってた。まあ、そんな事はオレの杞憂だったがな」

坂木は腕を組みながら麻琴を見て笑うと

「今日までよく頑張ったな。だが、まだこれは通過点に過ぎねぇ。中期でもビシバシ行くからな、覚悟してろ。」
「坂木さん・・・!!ありがとうございます!」
「あと校友会忘れんなよ」
「はい!」

元気よく返事をすると坂木も頷いてじゃあなと手を振ると自身の部屋へと戻って行った。







「2人とも、よく頑張ったね!最初は心配だったけど、2人がめげずに前期を乗り越えてくれたこと、心から嬉しく思うよ」

麻琴の部屋長である真下の話を聞き、麻琴と知念は涙を溜めながらこくこくと頷く。

「中期でも頑張ってね。」
「「はい!!お世話になりました!!」」


«学生隊同時放送、現在より離校が許可された。

総員、解散!»


その掛け声と同時に真下と柳は鞄を持つと


「ほら麻琴、宮子!走るよ!」
「急げ急げー!」
「え、はい!」


麻琴も知念も慌てて荷物を持つと廊下を走り回る学生達。1年生たちは何事だと呆然としていたが麻琴の目の前に対番の渥美がやってくると

「ほらほら麻琴ちゃん、ダッシュダッシュ!!」
「は、はい!」

渥美と肩を並べながら走っていると

「前期お疲れ! 頑張ったね〜!」
「はい!」


入校して早数ヶ月・・・鬼との出会い、同期の脱柵、風邪で寝込む、地獄の遠泳・・・今日までがむしゃらに走り続け・・・正直時間の流れが早かった。


そのどんな時間にも坂木が居り、思わず腕時計を見て口元が緩んだ。

「(坂木さんは、どんな夏休みを過ごすんだろう)」


実家の高知へ帰るのだろうか?
この人混みでは坂木は見つけられない。少し寂しい気もしたがまたしばらくすれば校友会で会える。


すると背中をバシン!と強く叩かれ麻琴はグエッと声を出した。

一体誰だ・・・と振り向くと、坂木だった。

「さ、坂木さんっ!?」
「真壁、転ぶんじゃねぇぞ!あと、ぐーたらした夏休み過ごすなよ!」
「えっ、はい! 」


そう言うと帽子が落ちないようにつばを掴むと走る速度を上げて同郷の岡田と一緒に人混みに紛れて行った。





***





「おせぇ」


馬堀海岸駅から少し離れた場所・・・千葉周一はスマホを睨みつけイライラしていた。
某青と白の丸いマークが目印のメーカーであるバイクに跨り、この猛暑の中フルフェイスヘルメットを被りなが腕を組む。

暑い、フルフェイスヘルメットのシールドを上げれば風が入り幾分か呼吸がしやすくなる。その鋭い目はピカールでもしたのかと言うほど輝いている。

190cmの長身、長い脚がスラリと伸びるプロポーション。道行く女性達がヘルメットごしからでも分かる整った顔を見ては頬を赤くさせ、振り向いてヒソヒソと千葉を見つめる。

そんな事は慣れっこだ、と言うように千葉はスルーをしてスマホを取り出すと



>麻琴、まだ?

>もう着く!今タクシー!



やはり防衛大まで迎えに行くべきだったか・・・?離校時は学生で溢れ返り、バスやタクシーがすしずめ状態なるのだ。だいぶ時間が掛かるだろう。

・・・暫くして馬堀海岸駅の前に数台のタクシーがやってくると一際小さい少女が周りの学生と笑顔で挨拶をして解散すると周りをキョロキョロし始めた。

千葉はスマホを取り出すと


>うしろ


そう送ると麻琴はこちらを向いて手を振りながらこちらへ駆け寄ってきた。


「周くん!」
「麻琴」


駆け寄ってきた麻琴の頭を撫でると

「似合ってるな」
「えへへ、ありがとう!」
「前期お疲れ。・・・で、辞めたくなったか?」
「ううん!楽しかった!」

楽しかった・・・?予想外の答えに千葉は驚いたが麻琴らしい、と笑うとヘルメットをポイッと投げた。

「ほら、早く乗れ」
「はーい」

麻琴は予備のヘルメットを手馴れた様子でスポッと被ると千葉の腰に腕を回す。

「周くんごめんね、迎え来てもらっちゃって」
「気にすんな。ほら掴まってろよ」
「はーい」

エンジンを掛け、クラッチレバーを握りチェンジペダルを押し下げてギアをかえる。
そのままクラッチレバーを離してアクセルを捻れば、千葉と麻琴を乗せたバイクはあっという間に馬堀海岸駅を離れた。







麻琴と千葉周一の出会いは、数年前にまで遡る。当時1年だった千葉は夏休み実家に顔を出すのを面倒くさがったため同期の真壁琢磨が

「じゃあ、うちの実家来るか?」

そんな誘いを受け彼の故郷である静岡の御殿場市へとついて行った。

さすが父親が警察官・・・割と大きな家で、塀には手入れされた花が咲き乱れている。そしてまだ子犬(と言ってもでかい)のセントバーナードであるサスケが出迎え、続いて玄関にやってきたのは小学生の女の子だった。

「おにーちゃん!おかえり!」
「麻琴、ただいま〜!いい子にしてたか?」
「うん!」

琢磨はデレデレとした顔で麻琴と呼ばれた少女を抱っこして高い高いをする。そんな光景を千葉は呆然と眺めていると可愛らしい顔と目が合った。

「お兄ちゃん、どちら様?」
「ん、ああ。俺の同期で千葉だよ」
「千葉周一です・・・よろしく」

190cmの長身に140cm程しかない身長の麻琴・・・

麻琴はニコッと笑うと

「妹の麻琴です!お兄ちゃんがお世話になってます!」
「・・・・・・おい琢磨、お前の妹可愛い」
「だろ?」


それから千葉は麻琴を妹のように可愛がり休暇の時期は琢磨と一緒に御殿場へ帰ってきていた。 卒業後もそれは変わらず、陸へ行った琢磨とお互いの近況報告がてら夏季休暇は顔を出すようにしていた。

そしてその小さかった麻琴も兄と同じく防衛大に行くと聞き正直心配ではあったが・・・まあ楽しそうで何よりだ。



途中のサービスエリアでご飯を食べながら千葉は意地悪そうに笑うと

「なあ麻琴、海行くか?」
「い、行かない!周くん1年生の前期分かってるでしょ!?」
「ぷっ、あれキツかっただろ?」
「もうほんとキツかった・・・私赤帽子だったんだから!」
「は?マジで?!」
「先輩が指導してくれたから最終的には白になれたし、泳ぎきれたよ」

それを聞いてホッとした千葉は楽しそうにニヤニヤ笑うと

「にしてもいい先輩が居るもんだな。美人か?」
「ん?男の先輩だよ」
「・・・っはぁ?!」

どう言う事だ、千葉は思わず立ち上がりそうになってしまった。麻琴は手をブンブンと振り回すと

「さ、さすがに防衛大のプールじゃなくて、都心部のジムで現地集合だよ!」
「そうか・・・じゃない。お前、少しは警戒心を持て」
「え?」
「下心丸出しだろ、そいつ」

ムスッと頬杖をついて千葉はそう呟いた。
水着で男女がマンツーマンレッスン?触りたい放題じゃないか。

可愛い妹のような存在が欲にまみれた防衛大男に手を出されて汚された日には戦艦で沈めてしまうか短艇のオールで全力フルスイングでケツをぶっ叩ける自信がある。

麻琴は首を振ると

「そんな事ないよ、航空要員の訓練で忙しいスケジュールの中時間作ってくれたんだから!」
「ほう、航空要員か。」
「う、うん航空要員。・・・それに、坂木さんは内恋否定派だから心配しなくても大丈夫!」
「・・・・・・は?」

坂木?久しぶりに聞いた名前に千葉は箸を落としかけた。

「坂木龍也さん。3学年だよ。めちゃくちゃ怖いの!あれは鬼だよ! でも優しい時もあるから、いい先輩だけどね。 これね、遠泳のご褒美って時計まで買ってくれたの」

頬を染めて嬉しそうに時計を見せてくる麻琴。それはまるで恋する乙女のようだ。
千葉は震える手でコップを持つと落ち着けと水をグイッと飲むと

「・・・味がしねぇ」
「え、そりゃ水だから味しないよ」
「あ、そうか・・・」
「ねえ大丈夫? あ、でも周くんが言ってたいごっそう≠ウん、どこにもいなかったなぁ・・・別の大隊かも」

そいつだよ!と千葉は叫びたくなったがかもな、と笑いながらスマホを取り出すとアドレス帳を開き、震える指でタップしながら«坂木龍也»へとメッセージを送った。


「麻琴、御殿場のアウトレット行くぞ」
「何で?」
「俺がもっといい時計買ってやる」
「え、いいよ。」


ストレートに断られ、千葉は肩を落とした。






***







一方


ピロン


「ん?」


坂木はポケットのスマホを取り出すと


「・・・げっ」



千葉周一



形上連絡先を交換していたが、連絡が来るのはほぼ初めてに近い。一体何の用だ?と恐る恐る開くと



しまかぜでお前を撃ち落とす



「いや、意味わかんねぇ・・・」


誤爆LINEだろうか、はたまた時間差で来たイジりだろうか?または海自ジョーク?・・・しかも、しまかぜはとうの昔にオルモック湾で撃沈されているはずだ。


・・・一体何なんだ、坂木は千葉のLINEを無視をすると飛行機の搭乗口へと向かった。



麻琴たちの夏休みは始まったばかりだ。

避雷針と解散日



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