「整列!」


少しの休憩後、全員が吉田の前に並ぶと


「真壁!」
「はい!」
「前でろ!」


いきなりなんだろう・・・麻琴はビクビクしながら吉田の前に立つと突然麻琴の頭を掴み黄色帽子をポイッと外すと違うものをかぶせた。

「カーッ!お前も今日から白帽だ!よく泳ぎきった! お前らもよくやったな!」

え?え?と麻琴は頭を抑えて混乱して全員を見るとうんうん、と嬉しそうに頷き拍手が沸き上がる。

念願の白帽子を手に入れた麻琴は上に戻った坂木をチラッと見つめると、坂木も嬉しそうに麻琴を見下ろして拍手を送る。



・・・こうして、麻琴の難関であった8キロ遠泳は無事に終わったのだった。










遠泳を終えたあと、点呼まで寝てていいと言われ麻琴と知念は大爆睡した。


ふと目が覚め、今は何時だろう・・・麻琴は腕時計を見ると


「・・・・・・あれ?」


腕時計の秒針が動かない。
部屋の時計を見ると21:00前・・・まだPXはやっているはずだ。急いで着替えると同室の真下は

「あれ、麻琴。もういいの?」
「は、はい! あの、時計が壊れちゃって・・・お風呂行ったついでに時計買いに行ってきます!」
「はーい、行ってらっしゃい」

麻琴はお風呂セットを持ち部屋を出ると急いでPXへと向かった。





「うーーーん」


風呂から出た後、麻琴は時計売り場で唸っていた。値段は気にしないのだが、種類があって迷っていた。


「大きすぎると袖に引っかかるしなぁ・・・」
「何してんだ」
「うおっ!!」


突然声を掛けられて麻琴は振り向いて急いで頭を下げた。坂木も風呂上がりなのか、タオルで髪の毛を拭きながら立っている。


未だにバクバク鳴っている心臓を整えながら麻琴は

「時計が壊れちゃって・・・買い直そうかなって思ってたんです」
「なるほどな」

すると、坂木も隣に並んで時計を一緒に眺め・・・麻琴は自分の買い物はいいのだろうか?と横目でチラチラ見ていた。

「迷ってるのがあるのか?」
「はい、これと、あれで・・・」

そう指を指すと坂木はじーっと眺めて

「こっちが良いだろ」

アナログのGショックを指さし、麻琴は笑うと

「じゃあ、坂木さんのチョイスって事でこれにします!」

すみませーんと店員を呼ぶと、店員がはーいと返事をしてにこにことこちらにやってきた。

この時計・・・と言いかけた途端坂木は手で制すると

「すみません、この時計2つ」
「かしこまりました」
「えっ、坂木さんも買うんですか?」

驚いて見上げると坂木は目線を逸らし

「・・・まあ、俺も丁度買い換えようと思ってたからな。」
「そう、なんですね・・・」

店員が在庫確認をして履けていく中お互い黙り込んでしまう。

同じ時計・・・それはつまり

「じゃあ、坂木さんとお揃いの時計ですね」
「・・・は?」
「え?」

坂木は口を半開きにして固まってしまった。

「(・・・おい、なんで俺、コイツと同じ時計買ってんだ)」

無意識に同じ時計を頼んでしまい顔が熱くなる。
様子がおかしい坂木に麻琴は首をかしげると

「坂木さん、顔が赤いですが・・・」
「・・・そりゃあ、お前・・・風呂出たからだろ」
「あ、ですよね・・・」

そう言う麻琴も頬が赤い。
パタパタと手で仰ぎお互い目線を逸らすと

「私も・・・お風呂出たばかりなんで・・・あ、暑いですね」
「ああ、暑いな・・・夏だからな」
「はい。夏ですもんね・・・」


店員早く来い!とお互い心の中で叫ぶとお待たせしましたーとニコニコと店員が箱を持ってきた。
麻琴は財布からお金を取り出そうとするとそれもまた坂木が制し、万札を店員に手渡している。

麻琴は慌てて坂木のTシャツをくいくいと引っ張ると

「さ、坂木さんっお金っ!」
「あ?先輩の奢りだろここは」
「いやいや、そんな・・・!」

お釣りを貰い、坂木はお礼を言って財布に入れ箱を受け取るとずいっと麻琴の目の前に突きつけると

「8キロ遠泳の褒美だ!」

受け取れ!と箱を麻琴の頬にぐりぐりと押し付けると麻琴は慌てて受け取る。顔を上げた頃には、坂木は大股で廊下を歩き始めていた。


下ろされた髪の毛からチラリと見えた坂木の耳は真っ赤になっている。

坂木がやってきた時とは違う心臓の鳴り方・・・麻琴は渡された箱を見つめて、坂木の背中を見つめる。

「(坂木さん・・・)」
「おい、点呼間に合わなくなるぞ!」
「は、はい!」

慌てて坂木の隣に並ぶと

「あのっ、坂木さん!」
「何だ」
「時計・・・ありがとうございます!一生大事にします!」

キラキラとした目で箱を抱きしめると坂木は苦笑いして

「相変わらず大袈裟だな。」
「へへ・・・!へへ・・・!」
「気持ち悪ぃ笑い方すんじゃねぇよ」


坂木は逃げるように走り出すと、麻琴も坂木を追いかけた。



避雷針へのご褒美



prev | next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -