夏期定期訓練・・・それは7月から全学年行われる訓練の事だ。春にもあるのだが、1年生は座学で本格的な訓練は7月に入ってから・・・
第1週は水泳訓練、射撃訓練、海上自衛隊、航空自衛隊の基地研修、潜水艦研修
第2週は富士登山、陸上自衛隊富士学校研修、護衛艦研修、射撃訓練、水泳訓練
第3週は戦闘訓練、水泳訓練
そして、第4週目はというと
1年生の前期の最難関でもある8kmに渡る海上遠泳が待ち受けている。
もちろんいきなり海にぶち込まれるわけではなく、最初はプールでの練習なのだが・・・
「真壁〜!進んでねぇぞ〜!」
指導教官である吉田がカーッと笑いながらプールに飛び込むと麻琴の脚を見ながら
「脚の開きはこうだ!」
「は、はい!」
麻琴は泳げなくはないが、平泳ぎは苦手だった。
可もなく不可もなく・・・しかし水着の用意が面倒だったため高校はプールの無い学校を選んだ。
はぁ・・・とため息を着くと
「真壁」
顔を上げると、タイからきた留学生・・・シンチャイがニコニコとしながら
「真壁、元気だして!」
「そうだよ麻琴。みんなで教えるから!」
「ありがとう・・・」
励ましてくれて少し心が軽くなったが、8km・・・泳げるだろうかと思うとまた心がずしりと重くなり麻琴は深くため息をついた。
その日の夜、坂木の同室である1年生のシンチャイが岡田に遠泳の話をしていた。
「女学の真壁って子が泳ぎが苦手みたいで・・・」
「真壁か。坂木と同じ校友会だったよな?」
突然岡田に話題を振られて坂木はパソコンから目を離し2人を見るとああ、と頷いた。
「なんだアイツ、泳げねぇのか。(意外だな)」
「いえ・・・平泳ぎが苦手みたいで。クロールはめちゃくちゃ速いんですよ」
「はぁ?」
アイツ大丈夫かよ・・・と坂木は鼻で大きく息を吐くと立ち上がりロッカーへ向かった。
ロック画面は坂木の夢であるF15が待ち受けだが、それを解除してしまえばあの日大久保が撮った麻琴を担いだ坂木の写真だった。
LINEを開いて坂木は
>おい
>遠泳大丈夫なのか
もちろん麻琴が実習中だとすると気づかないが、少しすると既読がついた。
>こんばんは!
>やばいです・・・赤から抜け出せません・・・
赤帽子・・・遠泳は全員帽子の色で意味が違ってくる。
白は平泳ぎで60秒を切れるライン。
黄色帽子は60秒は切れないが50mは泳げるライン。
そして赤帽子は・・・50mを泳ぎきれないラインだ。
これからは実際の海を使っての訓練もある。
坂木ははぁ・・・とこめかみを抑える。
自分も航空要因で、夏季定期訓練は航空団実習が入っている。そのため、7月4日からは小松基地へ向かうため不在となる。
坂木はアプリのカレンダーと睨めっこし、唸る。幸いにもこの時期は校友会は休み・・・またLINEを開くと
>明日、暇か?
既読が付くが返事がない。
どうせ麻琴の事だ、引きこもるに決まっている。
追い討ちをかけるようにまたフリック操作をすると
>どうせ暇なんだろ
>はい
>特訓だ
するとまた既読がついても一向に返事が来ないので坂木は舌打ちをすると思わず通話ボタンを押した。
「おい!」
『うひゃあ!び、びっくりした!』
「返事!」
『分かりました!!お願いします!』
その返事だけ聞くと坂木は通話を切りここから離れたスポーツジムを探すことにした。