GWも明け、梅雨が近づく。

朝は涼しく昼間は暑いという寒暖差が激しくなってきた・・・この時期は体調を崩さないように〜という中指の緩い朝礼を聞き、各自駆け足で学生舎に戻る。

「へっくし」

麻琴は小さくくしゃみをした。


課業を終えると各自校友会・・・剣道部の武道場でも各自準備をしているが1名足りなかった。

麻琴だ。

「(チッ、あいつ忘れてんじゃねぇだろうな)」

坂木は眉を寄せていると麻琴の同室である柳が4年の部長に何かを話していた。
珍しい来客に、坂木の前を通った柳に頭を下げると声をかけた。

「何かありましたか?」
「ん? あー坂木、アンタの妹風邪で寝込んでるから」
「・・・妹?」
「真壁だろ」

同期がニヤニヤしながらそう言ってきた。
どうやら歓迎会で坂木が言った発言が変な風に広まり麻琴が妹という扱いになってしまったようだ。

相変わらず噂は広まるのが早い・・・と呆れながら眉を寄せると

「妹では無いです・・・」
「まぁまぁ。今は無理やり薬飲ませて大人しくさせてるから。今日は校友会来れないよって連絡」
「了解です」

柳は坂木にだけ聞こえるように

「お見舞いならいつでも来ていいよ」
「・・・行きません」

と言いつつも、GW休暇に行われた剣道部の合宿・・・疲労が抜けず時間差で体調を崩したのだろうか。

「(・・・少し無茶させ過ぎたか)」

と、坂木は顎に手をおいた。




***




「あー・・・う・・・」

頭が痛く、フラフラする。
赤バッジを付けられた麻琴は薬を飲み、今は安静にしている。

防大生活に慣れて気が抜けたのだろうか・・・

「(坂木さん知ったら「気が抜けてんじゃねぇのか!」って怒られそう・・・怖い・・・)」

違う意味での悪寒で身震いすると、麻琴は寝て現実逃避しよう・・・と、意識を手放した。




キィ、とドアが空いて麻琴は目を覚ますとそこには同期の男子と女子が数名顔をのぞかせていた。

シンチャイ、松原、女学の立岩が静かに入ってくると

「真壁〜大丈夫ー?」
「お前でも風邪引くんだな」
「これ、差し入れね。私たちが代表で来たから他からのも混ざってるよ」
「あ、ありがとう・・・」

棚に置かれたのはポカリやゼリー、お菓子がどっさりだ。 男子が女学の寝室に入ると事故扱いになるのだが・・・一応麻琴の部屋長である真下から許可を貰ったそうだ。

「お大事にね」と3人は小さく手を振ると静かにドアを閉め麻琴はまた目を閉じた。



.
.
.



再びドアが開かれて麻琴は目を開けるとそこには坂木が立っていた。

「真壁」
「さかきさん・・・?」

幻覚だろうか。あの鬼が見舞いに来た。
静かにドアを閉めるとこちらに向かってきてしゃがむと小声で

「体調はどうだ?」
「ぼちぼち・・・」
「薬は飲んだか?」
「朝飲みました・・・」
「そうか。 飯は食えるか」

あまり食欲はないな・・・と麻琴は眉を寄せている目を閉じると

「微妙です・・・」
「薬飲むなら何か腹に入れとけ。・・・ちょっと待ってろ」

そう言うと頭をぽん、と優しく撫でられて部屋を出ていく音。

麻琴はぽつりと


「熱が出て幻覚が見え始めた・・・」


と呟いた。

しばらくするとまた坂木がお皿を持って戻ってきた。

「起きれるか」
「はい・・・」

近くの椅子に座った坂木はスプーンを手に取ると

「ほら、食え」

ふわふわする中見えるのは卵が混ざったお粥。
差し出されたスプーンをぱくりと口に入れると

「・・・うまい」
「食えそうか?」

こくこくと頷くとまたスプーンを差し出された。あの鬼の坂木がお粥を作り、あーんまでしてくれている。

「真壁。プリン食うか?」

デザートにプリンまで用意してくれている・・・こくこく頷くとまたあーんをされてプリンをパクリと食べる。正直鼻も詰まっているせいか、うっすらと甘い味がする。


「・・・食欲はあるみてぇだな」


ほっとしたように坂木は笑みを浮かべた。

麻琴は幻覚の坂木は何て優しいのだ・・・渡された薬を飲むと仰向けになり布団を肩まですっぽりと掛けられた。

「ありがとうございます・・・ご馳走様でした」
「治ったらこれ食えよ」

そう言って置かれたのはたべっこすいぞくかん。
麻琴は頷くと額や首筋に手を当てられヒヤリとした手が気持ちよく目を閉じる。


「・・・まだ熱いな。ほら、もう寝ろ」


こくこくと頷くと麻琴は目を閉じた。




眠った麻琴を確認すると、坂木は麻琴の洗濯カゴが目に入った。

まだプレスされていない作業着・・・坂木はそれを手に取るとアイロンをかけ始めた。

.
.
.


麻琴の様子を見に来た真下は部屋の状況に驚いた。坂木は作業を止めると頭を下げて小声で

「ちわっ!」
「お、おう・・・(本当に来たんだ)」

柳から坂木が見舞いに来るかもしれないとは聞いていたが、看病するまでとは聞いてなかった。

あの坂木が麻琴の見舞いをして、しかもプレス作業をしている。もちろん真下達がフォローのために夕食後やろうと思ってたのだが・・・

「坂木、状況報告を・・・」
「真壁が体調を崩したのも剣道の合宿のせいかと思いまして・・・疲れが溜まったのかと。今は食事と薬を飲ませて安静にさせてます。」

チラッとテーブルを見れば食べ終えたお皿とプリン。それと同期が見舞いに来たのかお菓子や飲み物がどっさりと置かれている。

「ありがとう坂木。助かるよ」
「いえ! 真下さんもコイツから移されないようにしてください」
「はは、そうだね。 じゃ、妹の面倒は頼むよ」
「は・・・」

・・・真下はにやにやと笑うと静かにドアを閉めたのだった。



次の日も微熱が続いたが、その日の夜には復活していた。部屋メンバーの真下や柳、知念が麻琴の当番や身の回りの事をやってくれたらしく頭を下げると

「ああ麻琴、坂木にもお礼言っておきなさいよ」
「へ」
「アンタが寝込んだって聞いて合宿で無理させたんじゃないか、って心配してたんだ」
「あの坂木が看病してくれたんだから」

あれは、どうやら夢では無かったらしい・・・チラッと棚を見るとたべっこすいぞくかんが置かれていた。

途端麻琴は顔を赤くさせると3人から

「お、惚れたか」
「内恋禁止だぞ〜」
「あの坂木さんが看病・・・! 麻琴、頑張れ!」
「ちちち・・・違います! ええと、そうだ!坂木さんの部屋に行ってきます!」

麻琴は頭を下げると帽子を掴み、逃げるように部屋を飛び出した。








坂木の部屋の前まで着くと、深呼吸をしてノック。
入れ、と聞こえて挨拶をするとそこには同室の岡田しか居なかった。


「おお、真壁。熱下がったのか」
「はい!もう明日から課業に出れます!」
「すぐに良くなって安心した。・・・で、坂木に用だろ?残念ながらあいつはコレだ」


タバコの仕草をして、麻琴は頷くと


「ありがとうございます! 失礼致します!」


頭を下げると麻琴は喫煙所へと走った。



喫煙所は坂木1人だけ・・・外を眺めながらタバコを吸っているらしく
麻琴はその姿に思わずぼーっと見惚れてしまった。


「(何やってんだ、相手は鬼だ!全集中!!)」


某漫画の台詞を心の中で言いながら頬をパチパチと叩くと深呼吸をして喫煙所の入口のドアを軽くノックする。


「真壁・・・?」


タバコを咥えた坂木が前髪をかき上げるタイミングでノックをしてしてしまい、そのままこちらを見た。

「(ヴッッ!)」

そんな仕草でも麻琴は何故かドキドキしてしまった。

おかげで一瞬入室要領の言葉を忘れかけ、麻琴は頭が混乱してしまうがグッと拳を握ると


「しっ・・・失礼します!あのっ、昨日はありがとうございました!」
「ん?・・・ああ。もう大丈夫そうだな」
「はい! あの、これ・・・つまらない物ですが」

途中で立ち寄った自販機で、坂木が買っていた炭酸飲料。坂木はそれを受け取ると

「先輩の飲み物を覚えてたか。ちったあ成長したみてぇだ」
「ありがとうございます」

坂木は麻琴から顔を背けて煙を吐き出すと

「まあ・・・合宿は無理させ過ぎたからな。時間差で来たんだろ。」

観音崎までのランニングや稽古、みっちりと坂木の相手をしたのだ。

麻琴は首を振ると

「いえ、自分の体調管理の甘さです」
「はっ、真面目かよ」

笑いながら吸殻をポイッと灰皿に捨てると

「病み上がりなんだからこんな空気悪い所来んじゃねぇ。ほら、出るぞ」

背中を押されて一緒に出ると坂木は笑みを浮かべ

「そんだけ元気になったんなら大丈夫だな。明日からまたビシバシ行くからぞ。ガキはもう寝ろ。」

頭をぽん、と撫でると背中を向けて歩き出した。

「(くっ・・・何だこの飴と鞭・・・)」

顔が熱くなった気がして麻琴は拳を握ると坂木の背中を追いかけた。

避雷針に看病



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